第五章 セカンドハーフ Ⅸ
「すまない」
ルーオンは力なく、悔しそうに、眼に涙を浮かべて仲間に詫び。ジェザたちは無駄口は叩かず、肩をたたいて労をねぎらった。
最後は龍介のキック次第。これで得点すれば、どちらかがしくじり、どちらかが得点して決着がつくまで続くサドンデス。
龍介は迷いを強引に封印し、意を決して、シュートを放った。
「ああ――」
思わず声が出た。
ボールは上方向に飛んで、あろうことか、バーに直撃。
跳ね返ったボールは無情にゴールの上の宙を舞い、ガッツポーズをするゴールキーパーの足元に落ちた。
そこから記憶がなくなった。
龍介はぶっ倒れてしまったのだ。
会場はざわめいていた。地鳴りが轟くように、喚声が轟き、言葉にできない熱量がコロッセオを包んだ。
チームメイトや、担架を担いだ救護係が急いで龍介のもとに駆け付けるが。いつの間にか、瞬間移動の魔法を使い、ガルドネもそばまで来て。かがみこんで龍介の様子を見る。
「案ずるでない。気絶しておるだけだ」
その言葉が伝えられて、安堵が広がる。
「慣れぬ異世界で健闘したのだが、それだけに、全てが終わった間際で糸が切れたのじゃろうな」
ガルドネの言葉に選手たちは頷き。
「龍介はよく頑張った」
バジョカ大王はシェラーンにねぎらうように言うと、立ち上がって窓際の人々に見える位置に立った。
「諸君、両雄の健闘はもちろん、この勇者の健闘を讃えようではないか!」
そう言葉を発すると、自ら拍手をし、続いてシェラーンも、ヴァゼッラも拍手をし。観客席の観客やサポーターたちまでが立ち上がって拍手をし始めた。
ザフォロをはじめとするヴァゼッラの選手たちとフォソン監督も、シェラネマーレの選手たちとともに担架で運ばれる龍介のそばにいて、親指を立てたり拍手をしたりして健闘を称えた。
試合はヴァゼッラの勝利であった。が、雰囲気はシェラネマーレ、いや、龍介が勝者であるかのようだった。
龍介はそのまま担架で医務室に運ばれて、ベッドに移されて安静にされた。
他の選手たちは試合後の握手をしたあと、手を振ったり拍手をしたりしながら観客席を回った。
バジョカ大王も立って拍手をし続けている。ヴァゼッラは早々に拍手をやめたが、それでもしかめっ面は控えて静かにして。
シェラーンは目に涙があふれ、召使いの女性からハンカチを差し出されて、それで涙をぬぐった。




