第二章 クラブチーム・シェラネマーレ Ⅹ
「わあ……」
龍介は中に入り、貴族の屋敷らしい豪華さに圧倒される。石造りのごつい感じではあるが。廊下の壁に掛けられる燭台の数とか天井からぶら下がる大きなシャンデリアとか、ところどころに置かれた大きな壺や石像などの調度品とか。
貴族の豪奢な暮らしの中に放り込まれて、きょろきょろしないようにするのがやっとだった。
従者に「どうぞ」と案内されてある部屋に行けば、ベッドがあり、そこに横たわってマッサージを受ける。そのマッサージ師はアラフォーの大人な感じの美女なので、なんだか照れ臭かったが。身体もほぐれた感じになって。
次に案内されたのは大きな浴場だったが、そこをひとり占め状態でゆったりつかった。
「はあ」
思わず大きな吐息を漏らす。
至れり尽くせりだ。
地域リーグの地域クラブは環境がよくない。
決まった練習場がなく地域の施設を転々とし。しかも芝のあるピッチでの練習は少なく、土のグラウンドや野球場の外野芝で練習することもあり。練習が終わってすぐに体のケアができるクラブハウスなんていう贅沢なものもない。これは負傷リスクが高いことでもある。
下手すればJクラブでも、同じようにJ2J3の中には環境が整っていないクラブもあるから、今の状況は本当に贅沢だった。
しかし、試合で結果を出さなければ、どうなるのか。なんだかんだで昔の世界である。人権という概念もどこまで浸透しているか。
自分の世界でも乱暴な奴はいて、それらはフーリガンと呼ばれて問題視されている。この世界ではなおさらかもしれない。
「まあ、困ったことがあったらガルドネさんに相談したらいいのか」
「私でもいいのよ」
「……え!?」
浴場の入り口で、シェラーンが背を向けて立っていた。
「いや、あの、オレ入ってる最中だけど」
「わかっているわ、だから背を向けているんじゃない」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「どんな感じかちょっと様子を見ただけよ。出るの?」
「うん」
「じゃあ私は行くわ。召使いがいるから、案内に従ってね」
「はい……」
シェラーンはとことこと行ってしまった。それを見届けると風呂から上がり、身体をタオルでぬぐい、服を着れば。「どうぞ」と召使いの人に案内されれば「ぐう」と腹が鳴った。
朝食はとっていたが、練習で身体を動かしたので腹が減ったのだ。
やがて大広間に案内されて「わあ……」と声が出てしまう。
円卓が置かれて、椅子が二つ向かい合うように置かれている。そのひとつにシェラーンが腰掛けている。
円卓の上にはステーキが置かれていた。それを見て口内に唾がにじみ出るのを禁じ得なかった。
「掛けて」
そう言われて椅子に腰掛ける。
「あなたのために腕のいい料理人に作らせたわ。食べて」
「う、うん」
大きなステーキだ。稼ぎの少ない地域リーガーだから、こんな大きな肉の塊なんてめったに見れなかった。
第二章終わり 次章に続く




