表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊さがし  作者: 梨鳥 
13/13

幽霊さがし

 でも、あまり覚えていないの。

 どうゆう風だった?

 あやふやな、家の中を窓を開けて進む。あったかなぁ、こんな窓。あったかなぁ、こんな部屋。あったかなぁ、こんな柱……。なんだか階段がグネグネ動いている様な……。

 二階へ上がると、畳、畳と思っていたせいか、大きな畳の部屋があった。

 ドアも無い。仕切りも。二階全体が、大きな畳の部屋。

 こんなのじゃなかった。

 両肩に違和感がぬるっと手を掛けて来た様な、そんな竦み上がりそうな気分。 

 窓―――いや、出なくては―――ここを―――。

 でも、目が開かない。引き剥がれない。

 畳広間の片隅に、まるで誘う様に私の部屋を少しだけ再現(・・)したスペースがあった。机の上で、日記が風も無いのにパラパラ捲れている。

 日記―――持って行かなくちゃ。

 恐る恐る畳に足を乗せ、ととと、と駆けて日記を手に取る。

 姿見が、私の姿を歪ませて映しているのを気にしながら、日記に目を落とす。

文字が『何を見に来た?』と真っ白なページに浮かび上がった。

「真実を……」

 私は思わず声を出して日記の文字に問いかけた。

「日記の最後の言葉は本当?」

返答が滲む様に浮き出した。

『本当。本当。嘘。本当』

「?」

 キャキャキャ、と甲高い笑い声が響いた。

 驚いて振り返ると、私がいた。

 私が嗤っていた。

 私は唖然として立ち尽くした。

 向かい合った私が言った。

「い・い・こ・で・い・た・い・だ・け」

 日記にも文字が流れた。真愛ちゃんの、怒ってる時の文字。

『最後まで着飾ってたんだよ』

「本当! 本当! 本当の嘘!!」

 私は黙って首を振る。

 日記の文字が、字面を変えた。別人の字面だ。

『何を見に来た』

「だれ?」

『我々を探し続ける限り、我々もお前を見返し続けるぞ』

「イヤ……」

『怯え続けたいのだな』

「違う!」

 私は日記を引き裂いた。怒りに任せて、ビリビリに引き裂いた。

 キャキャキャ、と私が嗤ってそれを見ている。

「……このっ!」

 私は私に飛び掛かり、手を上げた。暴力は好きじゃ無いけれど、自分なら構わない。

 頬をぶたれた私は嗤って、「怒ったー! 図星で怒ったー!」とかき鳴り声を上げている。

「違う!」

「私が怖いでしょ?」

「怖くない!」

「きゃーっ! こうやって私が大暴れしないか、ミチルはいつも怖がってるーっ!」

「黙って!!」

「ミチルは良い子なコトばっか言ってる。真愛ちゃんと一緒! 同類のニオイを嗅ぎつけて探してるーっ! 死んだ子なんか、探してるーっ! 幽霊探してるーっ!」

 私は顔が火照るのを感じながら、喚く『私』の首を絞めた。

「あんたなんか大嫌い……!!」

 首を絞められた私が、顎を上向かせ、涙を湛えた黒目を私へ向けた。

「苦しい……」

「いなくなれ、いなくなれ……アンタなんか……っ!」

「……要らない?」

「要らないよ」

「か・な・し・い……」

「今更泣かないで!」

「真愛ちゃんなら、受け入れて、くれるのに……」

「……っ!!」

 私は『私』の首からパッと手を放す。

二人の私が、同時に畳の上へ膝を突いた。

『私』が「えんえん」泣いている。

 私は……私は、しょうがないので「えんえん」泣いてる『私』をそっと、抱きしめたんだ。

 真愛ちゃん、ああ、真愛ちゃん……。



 行こう、と私は『私』に声を掛けて二階を後にした。

 『私』が私に「一緒に行って良いの?」と涙目で聞いたので、「良いよ」と手を繋いで階段を降りた。

 降りた筈なのに、辿り着いたのは普段の家の二階だった。両親の部屋も弟の部屋もドアが閉まっている。私の部屋だけ、招く様にドアが開いて、きいきい揺れていた。

「こわい」と『私』が言った。

「怖くない」と私は言い返した。

「どうしても怖い時は?」

「こうするの」

 私は大きく息を吸い込んで

「真愛ちゃん! 出て来てよ!! 私、真愛ちゃんを疑ってるの! だって、日記の最後の言葉、余りにも綺麗で、素敵だったから! そんな馬鹿なって思うの!! でも、凄くわかるの! 私もそうだから! そうだったから、真愛ちゃんと同じことしそうになってた!!」

 本当に何もかも厭になっちゃってた。今手を繋いでいる私が、真愛ちゃんの死を知った後で良かった。そうじゃなければきっと私……。

「不思議だね!? どうしてなんだろうね!? 自分の心のどっかが「それは偽善」とか「良い子ぶって」って言うの! そうなると私、本当の気持ちがどこにあるのかわからなくなる! でもこの気持ちを疑いたくないよ! だから、真愛ちゃん! 私に答えを教えて!! 『だから』命を絶ったのか!!」

「やだやだ! 間違ってたらどうするの!?」

 『私』が首を振っている。

 私は『私』の手を握る手に力を籠めた。

「それでも私はあなたと手を繋いでるよ」

「……本当?」

「うん」

 いつの間にか、『私』は消えて、私はとても綺麗な女の子と手を繋いでいた。私は『私』に自然と入れ替わり、その子に言った。まるでさっきの『私』みたいに。

「嗤われたの。幽霊(さっきのわたし)に……「本当に?」って……」

「うん」

 声も、綺麗。涙ぐんでしまう程。

「大丈夫よ。私もね、色々な感情があったものだけど、時間が経って残ったのはこれだけ」

 その子は私の勉強机の上にある日記を手に取って、最後のページを開いた。


『皆、大好き』


「これだけが今、私に残っているの」

 その子は私の両手をとって揺すった。私達は踊っているみたいだった。

「誰が嗤ったって、平気。残ったのは、これだけ」

 私はその子に微笑んで、「日記、読んでごめんね」と謝った。

 その子は微笑んで

「行きなさい! 百年も一緒に居る様な事は、この世にはないんだからね」

「え!」

 あなたって、そんな悪戯っ子だったの?

 酷いよ、見てたの? 私の秘密の名シーン。

「だから、大事なんだね」

「……うん」

「目を開けて。幽霊(わたし)じゃ無くて、目の前の人を見て」

「……うん……」

「さよなら」

「さよなら」



 目を開けると、いつもの私の部屋。

 窓が開いている。風が吹き込んで日記がパラパラ捲れ……そうして、最後のページまで捲れると、ふっと消えてしまった。



 幽霊さん、鍵は、開けておきますね。

 玄関は、いつでも開けておくよ……。


鍵を閉めたところで、幽霊だから入ってきちゃうんですけどね。

おつきあい、ありがとうございました。

文学フリマに参加しております。

応援よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ