第8話 魔法が使えても働きたくないでござる
五歳になって私は初めて魔法の勉強を始めることになった。
先生はメアリ。
正直ワクテカ!
だって魔法だよ?!ファンタジーだよ?!超能力や手品が種もなしに使えるんだよ!トキメかない方がおかしいって!
何でもメアリ先生によると、魔法っていうのは体内に宿る魔力を使って想いを具現化するものらしい。
つまり想いの力がそのまんま魔法の力となる。
まるで夢物語みたいだよね!
じゃあ想いが全くなかったら魔法は使えないのかといえば、そうでもないらしい。
例えば魔王はママ以外の相手にも最上級の治癒魔法を使うことができる。
なぜなら魔法というものは一度使うことで、その魔力を放出するプロセスを身体で覚えるものらしい。
つまり強い想いによって一度発動したことのある魔法は何度でも使えるようになるってこと。
もちろん魔力が続く限り、だけどね。
というわけで私も強い想いを込めて魔法を発動してみた。
そう!私の矜持!私が前世から変わらず持ち続けている強い想いを込めて!
魔法を使ってでも働きたくないでござる!
「『サモンゴーレム!』」
私の想いはただ一つ。働きたくないということ。
自分の身体から何かの力が抜けていくのを感じる。
もしかして……成功!?
ゴゴゴゴゴという音を立てながら土の中から何かが這い上がってきた。
そう、黒っぽい何かが。
うわ……気持ち悪い!
そう思って見ているとその黒い塊が何かの形を成そうと蠢き始めた。
無理無理無理無理!グロすぎるよ!何このクリーチャー!?
ってこれ良く見たらまさか…………人!?お、女の人だ!
そしてその生理的に気持ちの悪かった物体は遂に完成した。完成してしまった……。
「これはもしかして、私……ですか?」
そう、出来上がったのは随分と精巧なメタリックメアリ。
黒い塊はどうやら砂鉄の塊だったらしい。
それがよく分からないけど地面から分離して魔法でくっついてメタルメアリの完成である。
凄い!ダメージが1しか通らなそう!でもめっちゃ逃げそう!
しかしメタルメアリの性能はそんな私の想像を遥かに上回っていた。
「こっ、これは!?」
「掃除してくれてる!!!」
メアリも私も目を丸くして驚いた。
なんとメタルメアリが箒を持って庭を掃きだしたのだ。
それも物凄く丁寧に、精密な動きで。
「凄いですね……。このように精巧なゴーレムは見たことがありません。いえ、そもそも金属で出来たゴーレムというもの自体聞いたことがありません」
「そ、そうなの?」
「はい、普通の人の魔力であれば土を切り出すだけで精一杯なのです。ですので、ゴーレムを作ろうと思ったら、一日目にまず形を作り、二日目に稼働させる。そういう手順を踏むものなのです」
「そうなんだ……」
てことは私の魔力は結構高いのかな?まぁ魔王と天使の子供だから別段不思議じゃないけどね。
だって私の顔ってば物凄い魔力を秘めてそうなくらいに邪悪だし。
これで魔力が低かったら名前負けならぬ、顔負けだよ。
ってそれじゃあ別の意味になっちゃうか。
「さらに言えば、普通のゴーレムは技術を必要とするような精密な動きはできません。精々重いものを運んだりできるくらいです。しかしこの箒捌き……まるでベテランメイドのようですね。モデルが良かったというのは当然あるかと思いますが、これだけのことを一度に成し遂げてしまう想いの強さ……並のものではございません。さすがはルナ様です」
しれっと自分を持ち上げるあたりメアリは本当に可愛い。
大人なのに可愛いってずるいよね。
ほんとその可愛さの十分の一でもいいから私に分けて欲しいよ。
そしたら私も顔は超怖いけどかわい…………おえ。
想像したら嘔吐が込み上げてきた。
うん、却下で。
「でもメアリ。子供って気持ちが強いものじゃないの?」
欲求が真っ直ぐというか、我慢するのとか苦手だし。
「いえ、それは逆です。本能では魔法を使うことができません。本能とは言ってみれば生物が元々持っている生きるための反応でしかありません。お腹が空いたから食べ物を得たい。つらいから逃げたい。そんなもので発動するほど魔法は容易いものではないのです」
「へー、そういうものなんだ」
「はい、ですから魔法を使うためには自らの意志を以って強い想いを湧き出させなければなりません」
まぁ本能の赴くままに魔法が発動してたらそこら辺中、めちゃくちゃになってるよね。
よし!このまま調子に乗って色んな魔法を覚えちゃうぞ!
と、意気込んだものの世の中そんなに甘くはなかった。
後に行った攻撃魔法と治癒魔法に関しては全く発動する予兆すら感じられなかった。
どうやら私は働かないためにしか魔法が使えないらしい……。
まぁいっか!きっとそのうち他の魔法を使って働かずに済む方法を思いついたら使えるようになるだろうしね!
今は万能メイドを召還できるだけでも……ってこれじゃあ私が怠け者みたいじゃない!
違う!違うの!これだけは勘違いしないで欲しい!
私は決して怠けたいわけじゃない!働きたくないだけなんだ!!!




