第7話 魔王が敗れても働きたくないでござる
魔王とのファーストコンタクトが失敗に終わって以来、魔王は何かと私にちょっかいをかけてくるようになった。
とはいえ実際は顔が怖いだけで、ドン引きするくらいママのことを愛してやまない愛妻家だっていうことも分かったんだけどね。
でもそれが分かったところでどうしようもない。全力で逃げるし全力で避ける。
自分でも酷いことをしてるっていう自覚はあるんだよ。
でもね。そうしないと縮むんだ。
私の寿命が。
魔王遺伝子の怖さは理屈じゃないんだよ!
もう本能にダイレクトに訴えてくるの!
どれだけ理論武装で固めたところであの恐怖の前では何の意味も為さなかったんだよ!
そんな中、魔王対策として一番効果を上げているのがママの専属メイドであるメアリの存在。
何でもママと魔王とメアリは元々幼馴染だったらしい。
それにしても女二人に男一人ってバランス悪いよね。まるで漫画かドラマのキャストみたい。
だから実はメアリも魔王のことが好きなツンデレなのかなって探りを入れたこともあったけど、全然、全く、一ミリたりともそんなことはなかった。
あの目は本気で魔王を蔑んでる目だよ……。
ママのことは好きだけど、魔王とは腐れ縁って感じなのかな?
それで魔王がしつこいくらい私に構ってきてもメアリに助けを求めたらなんとかしてくれるんだよね。
でもそうしたら魔王はその癒しをママに求め始めてもう大変!
この二人はいわゆるバカップルを地でいってるから、私に素っ気無くされたことでさえイチャつく口実にして燃え上がる。
しかも私の目の前で。
キスする瞬間に私の目を塞いで、冷静に二人を追い出すメアリ。
それが最近のお決まりパターン。
だからパパが屋敷にいるときはメアリがママの代わりみたいなことをしてくれている。
育児放棄しているようにも見えるけど、それだけメアリのことを信頼してるってことなのかな?
メアリには本当にいくら感謝してもし足りないよ。
このご恩はいつか返さねば!もちろん働く以外の方法でね!
さて、魔王とママがイチャイチャしている間にもう三年が経過しました。
え、早いって?
だってほんと、他に書くことないからね!
そして四歳になった私の顔は日々魔王へと近づいていく。
魔王遺伝子恐るべし……。
少しくらいママに似てるところがあっても良いと思うんだけどなぁ……。
喉の筋肉が発達してきたことで、ようやくしゃべれるようになった私はそのことについて一度だけメアリに言ったことがある。
「顔がまお……パパに似ても嫌いにならないでね」
そう言うとメアリは。
「うぅ……ルナ様。ご心中お察し申し上げます……」
え!?それってどういう意味!?
ハンカチで目元を拭ってるし!その濡れた跡はマジモンの涙ですか!
もしかしなくても私物凄く憐れまれてる!?
「しかし心配なさらなくとも、きっとルナ様であれば外見で判断しない大切な方が出来るはずです。中身がアレのクロードでさえできたのですから」
いやいや!天使フィルターの持ち主なんて世界中探したってママしかいないから!
結局メアリは私の質問に答えてくれることはなく、ただただ私を憐れむだけで終わってしまった。
そして私はその年、生命の神秘を知ることとなる。
歴史に残るだろう世紀の大事件の勃発。
魔王の敗北。
否、魔王遺伝子の敗北である。
ありえないことにママから天使が生まれちゃったのだ!
パーマもかけてないのに綺麗にウェーブがかったクセのある金髪。その手触りは最高級のシルクのようで、宝石のように綺麗な碧眼まで受け継いでる。
何より目つきが鋭くない。まさに癒し。まさに天使。
これは身内贔屓で言ってるわけじゃなく、客観的にも主観的にも天使にしか見えない。
つまり私とは対極の顔。
私が求めてやまない働かないために最も適した顔。
そんな羨ましい顔を持って産まれたのが私の弟『ソル』だ。
そして恐らく私には継承されなかったママの『天使フィルター』も継承している。
だって私の顔を見ても泣かないんだよ!魔王の顔を見ても泣かないんだよ!
これはもうどう考えても確定でしょ!
もう可愛すぎてやばい。
そんなソルに家族中がメロメロ。
そして私はソルが生まれたことで一つの計画を立案した。
それは『私の私による私が働かないための当主のザ・押し付け作戦!』である。
母音が後に来るからザじゃなくてジじゃないかって?
それだとダジャレになんないからね。
というわけで以下これを『ザ・押し付け作戦』とする。
働かないための手段は多ければ多いほど良い。
だからその一つとして立案したのがこの『ザ・押し付け作戦』である。
計画の内容は至って簡単。弟が跡継ぎになれるよう立派に育て上げるだけ。
そしてこの計画がうまくいけば、なんとこの可愛い弟に養ってもらえる可能性すら出てくるのだ!
ふっふっふ。きっと侯爵家の財政状況からすれば人を一人養うことなど造作もないことはず!
そのためにも今後弟に恩を売り付けつつ立派な跡継ぎになれるよう育て上げなきゃね!




