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第6話 魔王がいても働きたくないでござる

 …………………………………………あれ、来ない。


 ……ん……ちゅ……。


 耳元でする濡れた音。

 こ、これってまさか!?

 思わず目を見開くとそこには信じられない光景があった。

 そう、天使と悪魔のキスシーンである。


「逢いたかったわ。あなた」

「すまない」


 バックに花でも咲きそうな笑顔で一筋の涙を流すママ。

 どこの名女優ですかあなた。

 もうその立ち姿だけで歴史に残る絵画が産まれるよ。


 そしてやさしそ…………ゴホゴホッ!!!

 ちょ!えっ!?あ、悪魔だ!悪魔がいるうううううううううううう!!!

 言葉は凄く優しかったのに顔が完全に悪魔だ!いや、魔王だ!

 私と同じ黒髪黒目だけど、世界を滅ぼしてしまいそうなくらいに邪悪な顔。

 美形過ぎて怖い。

 ママも大概人外の美貌だけど、この人はそれをさらに超える美貌だ!

 それも悪い方に!

 ママの美貌を癒しとすれば、パパの美貌は毒。それもトリカブト。万物に対して致死量。

 これじゃあママの遺伝子が残らないのも納得するしかない。

 勝てないよ。

 魔王の遺伝子に勝てる存在なんてこの世にはいないよ!

 もしかして私は将来コレになるの?

 それ何てムリゲー?跡を継ぐ以外の道がガラガラと崩れ去っていってるんですけど……。


 そんなことを考えながらパパの顔を見ていると、目が合った。


「ルナもただいま」

「あ……ぅ……」

「まぁ!ルナが返事をしたわ!」


 ごめんなさい。今のは悲鳴が漏れた音です。

 だって怖すぎるよ!眼光鋭過ぎるよ!笑顔が邪悪だよ!もうこれは何かを企んでるようなレベルの邪悪さどころじゃなくて、世界が滅ぶことを確信したときの魔王の笑み!

 何でママは平気なの!?

 メイドたちみんな真っ青になってるじゃん!

 あ、メアリは普通なのね。


「ずっと立っていて疲れただろう」

「ううん、こんなのなんともないわ。私もルナもあなたが帰ってくることをどれほど待ち望んでいたか」


 ごめん!全然待ってなかった!

 もう一生王都に行ってて欲しいとさえ思ってた!いや、現在進行形で思ってる!


「そう言ってくれるのは嬉しいが、万が一ということもある。さぁ目を閉じて」

「はい」


 ママは返事をするとそっと目を閉じた。

 え、なにこれ?私も閉じたほうがいいの?

 戸惑っている間に私の目元をママの手が覆った。

 魔王がママに向かって手を掲げ、言葉を紡ぐ。


「『ヒールオール』」


 魔王のアルトボイスを受けて魔法が発動した。

 それも今までに見たことのない規模の。

 蒼く強い光がまるで屋敷を包みこむかのように広がっていく。

 眩しい!ママの手があっても眩しすぎる!

 しかし私はそんな眩しい中、ママの指の隙間から見てはいけないものを見てしまった。


 なんと天使の口の中に魔王の舌が入り込んでいたのだ!!!


 なんばしょっとおおおおおおおおおおお!!!

 魔法で目くらまししてまでディープキスとかどんだけよ!

 後で寝室に入ってからゆっくり二人だけでやってよ!

 てか子供に見せるなーーーーーー!


「ただの疲労に最上級の治癒魔法……しかもそれを目くらましにキスとか……変態がッ……!」


 これは……メアリの声!?

 声のした方へと振り返るとメアリが魔王のことをまるでゴミでも見るかのような目で見ていた。

 あんたは勇者か!

 というか魔王が最上級の治癒魔法ってそれもうバグじゃん!ワンターンキルできないと詰みでしょ!


「治癒魔法はロザリーのためだけに覚えたのだから別におかしいことではない」


 そう言ってパパの鋭い視線がメアリに突き刺さった。

 あ、これが私に向いてたら意識失ってるわ。

 というか自分に向いてなくても怖すぎてちびりそうです。


「そうですか。それは無駄な努力お疲れ様でございました」


 魔王の殺人的な視線をものともしないメアリ。

 マジで惚れそう。でも作戦名は命を大事にだよ!


「真面目な顔をしたクロードも素敵ね」


 天使が不思議な言葉を放った。

 私は混乱した。

 はっ!?そういえばママには天使フィルターがかかってるんだった!

 天使フィルターを通したら殺意が真面目に変換されるらしい。


 ってそれどころじゃなかった!今はとにかくメアリの命を守らないと!

 私は必死になってメアリに手を伸ばした。


「あーーーうーーーー(早まらないでえええええ)」


 その様子に魔王が声を荒げた。


「なっ!?ま、まさかルナは私よりもメアリに懐いているというのか!」


 こ、こわっ!そんなに睨まないでよ!


 ビクッとする私をママの腕からするりと抜き取ると、メアリは胸元で抱きかかえた。


「そんなに大きな声を上げて……ルナ様が怖がっているではありませんか」


 そう言って私をあやしてくれるメアリ。

 どうやら私は魔王の攻撃範囲に入ってしまったようです。

 さようなら。現世さん。そして再びこんにちは。来世さん。

 幸運にも私はまた働く前にこの世を去ることになりそうです。


 来世ではどんな形でもいいから友ちゃんと会いたいな。

 それで二人でまた『絶対に働きたくないでござるSNS』を立ち上げよう。

 そう言うとともちゃんはいつもみたいに『仕方ないな』って困ったような笑みを浮かべながら、きっとどこまでもついてきてくれるんだろうね。


 全てを諦め、目を閉じて現世に別れを告げるが、なかなか終わりがやって来ない。

 もしかして目を開けた瞬間に絶望とともに殺すつもりなんだろうか。

 それは嫌だなぁ。でもどうなってるか気になる。


 恐る恐る目を開けると、そこに魔王の姿はなかった。メアリの顔を見上げると、視線が下を向いている。まるで地面を見ているかのようだ。

 メアリの視線を追って私も地面を見ると、そこには大きな黒い塊があった。


 あまりにも衝撃的な映像に脳が正しく認識してくれない。

 コレハ、モシカシテ、マオウ、ガ、ツップシテイル?

 見方によってはショックを受けているようにも見えなくもない。

 なんだろう。顔が見えないと普通の人だね。

 もしかして顔が怖いだけの子供好きだったりするのかな?

 いや、それはないか。魔法で目くらまししてみんなの前で天使にベロチューするくらいだし。

 顔が怖くてエロい子供好き?

 …………………………………………ってそれ変質者じゃん!?


「大丈夫よ、あなた。きっとルナもすぐにあなたに懐いてくれるわ」

「そうかな……」


 魔王を慰める天使。私たちは今歴史的瞬間に立ち会っているのかもしれない。


「ルナ……」


 そう言って見上げてくる魔王。

 あ、これはやばい。


「ふ、ふ、ふ、ふわあああああああああああああああああああん!!!」


 油断してたところでちびりそうになるほどの眼光とそれに伴う威圧感。

 これは転生前の私でも泣いてる自信がある。


「よしよし。怖くはないですよ、ルナ様。あれはただの変態ですからね」


 メアリ!それ何の慰めにもならないから!


 こうして私と魔王のファーストコンタクトは失敗に終わった。

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