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第36話 働かないことを決断する勇気!

「ということで、私は主婦クラスに進学したいと思います!」


 私は家族|(パパを除く)が集まる中宣言した。


「ル、ルナ様!それは……」


 メアリが慌てて心配そうな目でお祖父様の方を伺った。

 しかしお祖父様は目を閉じたまま黙して何も言わない。


「おかあさま。しゅふクラスってなにですか?」

「うーん、立派なお嫁さんになるところ?」


 と、ママが困ったように首を傾げた。

 惜しい!お嫁さんじゃなくて家庭戦士です!


「ぼくもおにいさまのようになりたいです!」


 うん、ソルなら可愛いお嫁さんになれると思うよ。でもきっと主婦クラスに行く事は許されないんじゃないかな。もちろん私も反対されると思う。それでも…………。


「ソルは私と同じ道を進むことはできないんだよ。私かソル。どちらかが家に残らないといけないんだから」

「ど、どうして?」

「私もソルもいなくなったらみんなが困るからね。お祖父様も、パパも、ママも、メアリも、領地のみんなも」

「だったらどうしておにいさまはでていくの?」

「それは…………」


 この状況で働きたくないからなんて言えない!絶対に言えない!


「それが私の使命であり、自ら見出した道だから」


 などとちょっと格好良い言葉で言い換えてみる。


「おにいさま、かっこいい……」


 そ、そんな尊敬の目で見るのはやめて!将来真実に気づいたときの落差に耐えられないから!

 そんなことを考えているとお祖父様の目がカッと開き、私の方をじろりと見た。

 ひぃ!寿命換算で二年の恐怖が私に襲いかかる、

 お祖父様!お願いですから加減というもの少しは覚えてください!慣れない人だったら心臓止まってるから!


「ルナ、すまない」


 そう言ってお祖父様は突然私に向かって頭を下げた。

 ええ!?

 なんで!?一体何が起こってるの!?


「お、お祖父様!頭を上げてください!」

「ローザレイン殿との婚約を決める時点でこうなる可能性も考えなかったわけではない。しかし二人を見たときに思ったのだ。二人に任せておけばより良い未来を選び取ってくれるのではないかと」


 ああ、なるほど!私に跡を継がせられなかったことを謝ってくれてるんですね。

 ということは認めてくれるってこと?私にとっては願ったり叶ったりなんだけど。


「心配しないでください。私は何も嫌々主婦クラスへ進学するのではありません。私が主婦クラスへ進学すること、それこそが私のためであり、エメラルダさんのためであり、如いてはこの国のためになると考えているのです」


 なんちゃって!なんちゃって!

 内心では小躍りしながらそれらしいことを言う。


「そうか。そうまで言うならばもう何も言うまい。ロルス家当主としてルナの決断を認めよう……」


 キタコレ!!!

 最大の難関だと思ったお祖父様が簡単に許してくれたよ!


「し、しかし大旦那様!それではルナ様があまりに!」

「メアリ」

「ル、ルナ様……」

「私のことを思って言ってくれているのは分かってる。でもメアリは私が私のためにした選択を不憫だと言うの?」

「そ、そのようなことはありません!しかし!」

「しかしもカカシもない!私はここに断言する!私にとってあまりにも不憫なのはこの顔だけであると!」


 ふっ、決まった。


「あらあらまぁまぁ」

「おにいさま、ふびんなの?」

「ルナ様…………」

「メアリよ。ルナとは何も家族の縁を切るわけではない。これからもルナが私たちの家族であることは何も変わらないのだ」

「そう…………で、ございますね」


 メアリもしぶしぶながら納得してくれたようだ。

 ここまで育ててもらっておいて突然の主夫宣言。うーん、ちょっと段階を飛ばしすぎちゃったかな。


「でも男の子って主婦クラスに入れたのかしら?」

「「「あ」」」





 次の日国中を震撼する情報が瞬く間に駆け巡った。


 ロルス家嫡男であり、魔王と呼ばれ恐れられているルナ・ロルスが貴族中学校において主婦クラスに入学する、と。

 そしてそれに伴い、主婦クラスは男女共学へと改正されることになる、と。


 ロルス家の嫡男というだけでも大事件なのに、それがさらに私だって言うんでそれはもうみんな大仰天。

 うん、私も思うよ。ソルならある意味似合そうだけど、私である時点でその顔で主婦かよ!みたいな反応だよね。きっと。


 そしてその噂を聞いてしまったあの人がさっそくロルス家のお屋敷へと訪ねてきた。訪ねてきたというか強襲してきた?


「私は……私は反対です!私などのためにルナ君の未来を潰すなどあってはなりません!!!」


 エメラルダさんである。

 偶然その噂を耳にしてしまったらしいエメラルダさんがたぬき爺を連れて飛んできた。

 これが本当に飛んできたんだよね。魔法で。


 そして怒りを顕にしてさっそくお祖父様に訴えかけている。

 怒りのあまりその身体から溢れる魔力が尋常じゃない。今の私はまさに戦場の最前線に放り出された新兵の気分だ。


「しかしこれはルナが自ら考え決断したことだ」

「ルナ君は必ずや大成なされるお方です!ゆくゆくはこの国を背負って立たれるほど器の大きなお方なのです!」


 えええええええ!?なんですかその過剰な評価は!!!

 ほんと勘弁してください。私一般人ですよ?パパには泣かされるわ、たぬきには騙されるわのその辺りにいる普通の一般人の器ですよ!?


「エメラルダよ。少しは落ち着くのじゃ」


 たぬき爺が諌めるもエメラルダさんは全く意に介さない。


「お父様もお父様です!なぜ主婦クラスを男女共学にするなどいう暴挙を止めなかったのですか!」

「いやいや。儂外交官じゃし」

「国内で圧力を掛けることなど造作もないでしょう!」

「な、なぜ矛先が儂に……というか小僧もついにお前との結婚を決意したんじゃからもっと素直に喜ばぬか」

「私はこんなことをされても嬉しくはない!!!」


 エメラルダさんは目にいっぱいの涙をためてそう言った。

 私はどうやら思い違いをしていたらしい。

 私との結婚話が前に進むような今回のような話はエメラルダさんも賛成してくれると安易に考えていた。

 しかしエメラルダさんは私が思っている以上に私のことを考えてくれるみたいだ。

 ただちょっとその期待というのが重すぎるけど…………。

 しかし思い違いをしているのはエメラルダさんも一緒だ。

 それは当然私が今まで自分の想いを語らなかったのが原因だけど、エメラルダさんの本気に対して今回だけは誤魔化しで応えるわけにはいかない。


「エメラルダさん」

「…………」


 エメラルダさんは涙を溜めたまま私から顔を背けた。

 むぅ、私の話を聞かないつもりか。

 それならば……。


「自惚れるのも大概にしろ!!!」


 私は語気を強めて言った。


「私がエメラルダのために主婦クラスへの進学を希望したと誰から聞いた!」

「そ、それは…………」

「きっとエメラルダはこう考えているのだろう?私がエメラルダのために当主の座、いや、本来手にすべきもの全てを諦め主婦クラスに行こうとしているのだと」

「……違って言うの?」

「ああ、違う。全く違うね。一体今まで私の何を見てきたんだ!私が自分の夢を諦めて他人に縋って生きていく人間に見えるのかッ!!!」

「!?」


 見えないよね?だって過剰な期待をしていたくらいなんだから。


「怒鳴ったりしてごめんなさい。でも私は私のために主婦クラスへ行くんです。誤解しないでください。エメラルダさんには申し訳ない話ですが、私は決してエメラルダさんのために進学を決めたわけではありません。特務部隊がエメラルダさんにとっての戦場であるように、主婦クラスが私にとっての戦場となるんです」

「ほう?小僧。お主は主婦クラスで一体何と戦うつもりなんじゃ?」


 何と戦うかって?ふふっ、愚問だね!そりゃあやっぱり……。


「社会と、でしょ!」


 だって私は『絶対に働きたくないでござるSNS』の会長なのだから!

 私は家庭を守るため苦難と戦い、エメラルダさんを守るために社会とも戦う家庭戦士!

 心の師匠は言っていた。自分が何を成したいかのか良く考えろと。

 世界が変わっても私の戦いは変わらない!

 この国の社会と戦うための力を得ることも主婦クラスに行く目的の一つなのだ!

 私は家庭を守るため苦難と戦い、エメラルダさんを守るために社会とも戦う家庭戦士になってみせる!


「面白いことを抜かしよる。ならば儂もデュークもお主の敵ということになるのか」

「私が成人する頃まで現役だったら、ね?」

「…………それは無理だな」

「さすがに無理じゃのう」


 そりゃそうでしょ。時間の流れも計算のうち!

 手ごわい相手とあえて戦う必要なんてないからね!


「というわけでエメラルダさん!」

「は、はいっ!」

「成人したらきちんと私を嫁に貰ってくださいね!強い味方は多い方が心強いですから!」

「も、もちろんです!……え?ルナ君をお嫁に?」


 こうして無事私の進路は決定したのである。

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