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第33話 罪悪感を乗り越えても働かない勇気!

 私たちはついに小学校の最上級生になった。

 つまりは六年生。

 来年は貴族中学へ通うことになるんだけど、この世界では中学校に入る時点である程度進路が決まってしまう。

 騎士や軍人になるなら武官クラス。役人とかになるなら文官クラス。商人になるなら商人クラス。などなど。

 もちろん既に進路が決定している人もいるけど、長男でなければ実家を継ぐ必要がないので、そういう人は結構自由に選べたりもする。

 そして進路相談として学校側が様々な職場へと職場見学をする機会を設けてくれることになる。

 とはいえ、私が行きたいクラスはもう決まってるんだけどね。

 しかしそこはそれ。職場見学は六年生全員で行く事になっている。

 そして今日はなんと軍隊見学に行く事になっていたのだった。




 場所は王国軍の訓練施設。

 軍人さんたちが軍事訓練をしている横で先生が王国軍の説明していく。


「王国軍は皆さんも知ってのとおり、ロルス様のお祖父様であらせられるデューク・ロルス元帥閣下が統括されているところです」


 それにしてもこの先生のメロンはいつまで経ってもたれないよね。魔法だろうか?

 ほら、若い軍人さんたちなんかメロンが視界をちらついて訓練に集中できてないじゃないか。

 ちなみに私は未だに性欲がない。あのおっきいメロンを見ても苛立ちしか沸かないし、かといってイケメンを見てもウホッな気分にはならない。うーむ……。


「軍人さんたちの頑張りのおかげで、シルヴァニア王国は周辺各国に比べて非常に軍事力が高く、私たちがこうやって平和に過ごせているのも軍人さんたちのおかげです。ちなみにぶっちゃけた話をすると軍人になると仕事が厳しく危険な分、給料が高く、頼りがいのあるイメージを持たれているので男の子はとってもモテます」


 ぶっちゃけ過ぎだ!

 軍人の人たちもウンウンと頷いている。


「しかし同時に男ばかりの職場ですから出会いの場がほとんどなくて、そういった機会に恵まれない人は、女の人と縁のない人生を送る事となります」


 軍人の人たちもウンウンと頷いている。涙を流しながら。

 分かります。ないんですね、出会い。

 実際日本でも社会に出たら男女平等なんてほとんどないみたいだったしね。基本的に男は男ばっかりの職場。女は女ばっかりの職場にいくことになるから、そりゃあ既婚率も下がるし、少子化も進むよ。

 私?私は社会に出ることがなかったから、トモちゃんと働きたくないでござるSNS以外に知り合いはいませんでしたけどなにか?


「しかしロルス様の非常に優秀な成績を鑑みれば、将来元帥閣下の跡を継ぐことは明白です。つまりこの国も軍部もあと半世紀以上は安泰でしょう」

「「「おぉー!!」」」


 「さすが魔王様!」なんて声が生徒たちの間から聞こえてくるけどほんと止めて!私は跡を継ぐ気もなければ、そんな命がけの超絶ブラック企業に入る気なんてさらさらないから!


 それから私たちは軍人の人たちに剣や鎧を触らせてもらったり、実際に剣の指導をしてもらったりとてもよくしてもらった。

 男の子たちなんかはもう目の輝きが全然違う。

 やっぱりいつの時代も剣とか戦いっていうのは男の子たちを魅了するもんなんだね。

 ちなみに女の子たちも男の子たちとは別の意味で目の輝きが違った。

 そう、その鋭い視線はまるで獲物を見定める鷹のようだ。

 ちょっと待って。男の子たちより気迫が凄いんですけど!?


 ちなみに私は剣なんて全然使えない。

 持ち方すら知らない。

 見ていて面白そうだとは思うけど、手に取ったら将来を無理やり決められてしまいそうで怖いから未だに触ったこともない。

 だから私は楽しそうに軍人さんたちに指導されるみんなを遠目で見ていた。


「ツッキーは行かなくていいの?」

「うん。私の未来はここにはないから」


 私はさわやかな笑顔でもって答えた。


「変な顔」


 失敬な!

 誰に何を言われようが私の進路は既に決まっているのだ。

 そう。軍隊なんてブラック企業は見学に来るまでもなくアウトオブ眼中なのである!

 しかしそんな私のところへ一人の若い兵士がやってきた。

 金髪ショートヘアのなかなかのイケメンである。

 しかもガッシリとした筋肉。

 日本人じゃありえない。映画俳優になれるよこの人。


「ルナ・ロルス様。無礼を承知で願いを聞いていただけないでしょうか」


 イケメンが私にお願い?一体なんだろう。


「なんでしょうか?」

「経験のため、ロルス様の使役する鋼鉄の戦乙女と戦わせていただきたいのです」


 へ?


「鋼鉄の戦乙女?」


 なにそれ?鋼鉄の処女ならここにいますけど?

 前世も含めて鉄壁すぎて過ぎて完全に錆びついて開かなくなってますけど?


「そういえばツッキーのゴーレムがそう呼ばれているみたいよ」

「初耳なんですけど!?」


 確かに鋼鉄っていうか鉄だけど!でも戦乙女じゃなくてメイドだし!


「いいじゃない。私もアレがどのくらい戦えるのか見てみたいわ」

「というか鉄の塊だよ!?エメラルダさんでもなければ行動不能にすることなんて不可能だよ!?」


 そりゃあ鉄を断ち切れるほどの達人がいるなら別だろうけど、普通に考えれば分厚い鉄の塊相手に剣振るってどっちが勝つかなんて考えるまでもないでしょうよ!


「お願いします!」


 熱いイケメンである。

 しかし残念ながら私はイケメンが嫌いだ。

 ふむ、どうしたものか。

 よし、コテンパンにやってしまえ!


 そう、私の中で既に答えは出ていたのだ。

 相手がイケメンであれば全力で潰すのみ!


「分かりました。それではゴーレムを生成するので少しお待ちください」


 それにしても鋼鉄の戦乙女かぁ。うーん、それならいっそのこと…………。


「『クリエイトゴーレム・メアリ・ヴァルキュリア』」


 私のクリエイトゴーレムにはいくつかステップを踏む。

 まず第一に砂鉄の抽出。

 第二に鉄の練成。

 そして新たにここで練成された鉄に炭素を加えることで鋼を練成。

 最後にデザイン魔法で形を作って出来上がりである。


 地中より練成した鋼が私のイメージどおりに姿を変えていく。

 そして姿を現したのは天使のように翼の生えたメアリなのであった。

 右手にトイレのすっぽん(大サイズ)。左手にバケツ。当然水も入っている。

 さて、私ができるのはここまで。

 もちろんこのままでは動かない。

 ではこのゴーレムにどうやって命を吹き込のか。

 答えは簡単。

 なんと精霊が勝手に入って動き回るのだ!


 ゴーレムとは言わば精霊のおもちゃなのである。

 もちろん精霊は見えない。だけど確かに存在する……らしい。

 さすが異世界だよね!

 もちろん精霊が入るには条件がある。それは精霊がそのゴーレムを気に入る事。

 精霊がゴーレムを気に入ってくれれば、勝手に入って遊びはじめる。そしてそのついでに製作者に感謝してある程度言う事を聞いてくれたりするらしいのだ。


 らしいと言うのは、そう言われているだけで実際にそれを証明した人がいないから。

 だって精霊が見える人なんていないからね!

 ちなみにゴーレムの動きはモデルによって大きく変わることになる。

 精霊が動かしやすければ精密な動きができて、逆に動かしにくかったら大雑把な動きしかできない。

 というわけで私はメタルメアリのモデルを限りなく人間に近づけてみたというわけである。

 ほら、人体って動かしやすそうじゃない?人間って器用だし。

 そしてメタルメアリが一瞬輝くとついに動き始め……。


「わぁ!面白ーーーーい!」

「しゃ、しゃべった!?」


 一瞬にして周囲から注目を集めるメタルメアリ。

 試しに体内に声帯を作ってみたら本当にしゃべった!精霊って凄い!?


「なにこれ!こんなのはじめて!」


 そう言って嬉しそうにクルクル回るメタルメアリ。その姿はまるで無垢で天真爛漫な少女のようである。しかしモデルの年を考えるととても痛々しい。

 メアリの姿でこんなことをさせてしまっていることに罪悪感しか沸いてこない。とてもじゃないけど本人には見せられない……。ごめん、メアリ!

 周りを見ると軍人さんたちが赤くなってポーっとして口々に語り始めた。


「な、なんだこの気持ちは……」

「あんなにしっかりとしてそうな女性が……、こ、これは犯罪ではないのか……」

「まさかこれが……」


 軍人さんたちがきもすぎる。

 そして戸惑う軍人さんたちの気持ちをトモちゃんがピシャリと言い当てた。


「そう、これが『ギャップ萌え』です」

「「「「!!!!!!」」」」」


 軍人さんたちがまるで神様にでも遭遇したかのように驚きをあらわにする。

 しかしそんな中でもメタルメアリはマイペースであった。


「ええっと、まいすたー。ボクはなにをしたらいいの?」


 メタルメアリが小首を傾げて私に聞いてくる。

 しかも人差し指で唇を指しながら。

 あ、あざとすぎる!やめてあげて!メアリの姿でそんな可愛い仕草をするのはやめてあげて!


「ボクっこ!?」

「ボクっこだ!」

「まさかボクっことは……」


 再び軍人さんたちが沸き上がる。

 この人たちがモテないのは出会いがないからじゃなくて、性格の所為な気がしてきたんだけど……。

 ってこのままじゃ収拾がつかなそうだし、早いところ役目を果たしてもらって消えてもらおう。


「ええっと、そこのイケメン兵士さんが戦って欲しいそうです」

「うん!わかった!」


 そう言って両手両足を大きく広げて飛び跳ね、まるで子供のように全身を使って「分かった」を表現する。

 うぅ、もう私の罪悪感ゲージが振り切れそうです……。


「よ、よろしくお願いします」


 はっと我に帰ったイケメン兵士が剣と盾を構えた。


「それなら私が審判をするわ」


 そしていつものようにトモちゃんが仕切りはじめる。


「二人とも準備は良いですか?」

「はい」

「うん!」

「それではいざ尋常に…………はじめっ!!!」


 先に動き出したのはイケメンだった。

 一気に距離を詰めたイケメンが剣を袈裟懸けに振り下ろすと、何の防御も取らないメタルメアリの肩口に突き刺さ……。


「かっきーーーーーーーーん!!!」


 るはずもなく、メタルメアリの元気の良い掛け声とともにぺきょりとへし折れた。

 デスヨネー。


「こんどはこっちのばんだよ!とうっ!」


 そう言って高く飛び上がると左手に持ったバケツを大きく振りかぶった。


「どっかーーーーーーーーん!!!」


 そして着地する瞬間にバケツを振り下ろすのが見えた。

 次の瞬間激しい爆発音とともに激しく土埃が舞い上がった。

 大地が震え、爆発音で耳がキーンとする。

 そして土埃が晴れると人を埋められるほどの大きなクレーターができているのが見えてきた。

 しかも鋼鉄で出来たバケツはぐちゃぐちゃに潰れている。


「や、やりすぎ……」

「…………てへっ!」


 メタルメアリは砂埃の舞う中てへぺろをしていた。

 しかしさすがに精霊も直撃は不味いと分かっていたのだろう。

 バケツはイケメンの手前で振り下ろされていた。

 もし直撃していたら私たちの年に軍人に志願する者はいなくなったことだろう。

 そしてみんなのトラウマになっていたに違いない。

 うん、もうメタルメアリを戦わせるのはよそう。


「勝者!鋼鉄の戦乙女メアリ!」

「ぶいぶいっ!」


 満面の笑みでダブルピースをするメタルメアリをみんな驚愕の表情で見ている。

 しかしそんな中冷静な男が一人だけいた。


「さすがは魔王様です。あれほどの素体であれば精霊があのように喜ぶのも無理はありません。あぁ、むしろ僕があのゴーレムと合体したい……」


 うん、そうだよね。君はそういう子だったよね。ランバート君。でもその危ない目はやめようね。うっかり通報しちゃいそうになるから。


 そしてこの日から私のゴーレムは鋼鉄の戦乙女改め、鋼鉄の処刑人と呼ばれるようになったのでした。

 翼まで付けたのに……。

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