第32話 弟に押し付けても働かない勇気!
それから私は家来を引っさげ、お姫様の威を借りて、平穏な学園生活を送ることができた。
そう、ソルが来るまでは。
私が五年生になったとき、なんとソルがわざわざこっちの小学校へと入学してきたのだった!
「にいさま。どうしてかめんをしているの?」
「それはね。おめんを外すとみんなが泣くからだよ」
「にいさま。どうしておめんしないとみんななくの?」
「それはね。私の顔が怖いからだよ」
「にいさま。どうしておにいさまのおかおはこわいの?」
「それはね。父さんに似ちゃったからなんだよーーーーーー!!!」
屋敷に狼ならぬ私の悲痛な叫びが木霊した。
そしてその原因であるパパはここにはいない。
「あの人一人で大丈夫かしら」
と心配そうにしているママ。
そう、ママはソルと一緒に王都までやってきたのである。
もちろんパパは領地の統治があるので王都には来れない。
つまりるところ今の私の心境は……。
ザマァ!!!
である。
うん、得にパパに対して恨みがあるわけじゃないんだけどね。
半分育児放棄みたいになってたのがパパの所為だったとか少ししか思ってないからね。
「ところで何でソルまでこっちの学校に入学することになったの?」
領地にだって学校はあるし、家庭教師を雇えば学力面では不足がないはずなんだけど。
「ルナと同じ学校に通いたいんですって」
「そうなの?」
「うん!」
元気いっぱい返事をして満面の笑みを浮かべる天使。
う、眩しい!浄化されそうだ!この子は本当に私の弟だろうか……。
前に会ったときより神々しさが増している気さえする。
私なんて日々禍々しさが増していると言うのに……。
「そ、そっか……。私も久々にソルと会えて嬉しいよ」
そう言って頭を撫でるとますます光が増した気がした。
あの、同じ種族とは思えないんですけど……。
しかし、これはこれでいいのかもしれない。
ソルに侯爵家を継がせるなら、貴族学校に通って貴族同士の交友関係を深めてもらうのは非常に望ましい展開だろう。
幸か不幸か私はトモちゃんとランバート以外に交友関係ないしね!…………ぐすん。
つまりソルの転校は私にとっても喜ばしいことだ。
よし。ここは私からも祝ってあげよう。
「せっかくだから、私からソルに入学祝いを用意してあげるね。ちょっと待ってて」
そう言って私は自分の部屋からプラチナのネックレスを取ってきた。
権力に媚びへつらう貴族からときどき貴金属をもらうことがあったので、こういうものは割と持っていたりする。
「にいさま。それは?」
「これはネックレスだよ。こういうものをママが付けてるのを見たことがあるでしょ?」
「うん!ママきれい!」
「そうだね。綺麗だね」
ソルの言うとおり確かにママは綺麗だ。
どのくらい綺麗かというと、私を産んだときから全く変わっていない。
なんと二児の母だというのに前世の私よりも明らかに若く見えるのだ!
東洋人の顔は若く見えるって言うのにそれよりもなんて……。
ここでママ不老疑惑と、パパロリコン疑惑が浮上してくる。
もしかしてママが老化しないのってパパ掛けた呪いなのでは……。
あ、ありえる!あの男ならやりかねない!
た、大変だ!家族に変態がいるよ!
私はソルの手をぎゅっと掴んで持ちうる顔の筋肉を最大限に活用して優しく見えるように微笑んだ。
「強く生きていこうね」
「…………?うん!」
ソルが不思議そうに首を傾げたあと元気いっぱいに返事をした。
なんていい子なんだろう!
私の笑顔を見ても泣かないなんて!って仮面してるんだったね。さすがに家族といるときくらい外そうよ私。
そうそう、とりあえずパパのことは置いておいて、今はプレゼントだった。
私は手のひらにネックレスを乗せたまま魔法を発動した。
「『デザイン魔法発動・アルケミスト!この魔法が金属に対して発動するとき金属はその配合を変質させることができる!』」
ネックレスが淡い光を放つと、うにょうにょとその形を変形させていった。
ソルが不思議そうな顔で見ている。
巨大な黒い砂鉄がうにょうにょするのはとてつもなく気持ち悪いが、小さいプラチナがうにょうにょするのはちょっと可愛い。
そして私は私の持つの脳内イメージをそのまま転写した。
「まほう!」
「まだまだ、私のターン!デザイン魔法発動・トランスフォーム!この魔法が金属に対して発動するとき、金属の形状を私のイメージ通りに書き換えることができるのだ!」
私の魔法はデザイン魔法。
だからこういうこともできるってわけ。
そしてそれは完成する。
「付けてあげるね」
私はネックレスだったものを手にとってソルの服へと付けてあげた。
「わぁ。にいさま。ありがとう!」
ソルの名前にちなんで太陽を模したブローチなんてものを造ってみた。プラチナ95%に対して強度を持たせるためにパラジウムを5%配合。現代日本で一般的に扱われるプラチナのそれである。ふふっ、トモちゃんの誕生日プレゼントを買うために調べまくったブランドのデザインがまさか役に立つ日が来ることになろうとは!
「どういたしまして」
嬉しそうに、そして大切そうにブローチを眺めるソル。可愛いなぁもう!
と、ここまでは良かった。ここまでは良かったんだ。
ソルの不幸?はお姫様…………そう、トモちゃんが私の弟の入学祝を開いてくれた日に始まった。
ちなみに入学祝と言ってもパーティーじゃなくて、内輪だけでするお茶会みたいなもの。
出席者は私とソルとママ。あとランバート君とトモちゃんとなんとトモちゃんのお母さん!第三王妃様だよ!あの親馬鹿の三番目の奥さん!名前はサクラさんって言うらしい。
うん、めっちゃ和名だよね。バラ科サクラ属ソメイヨシノ的な感じ。
トモちゃんもそのお母さんもうちの天使ちゃんを見て凄く驚いていた。
分かる!分かるよ!可愛いもんね!
「はじめまして、あなたのお兄様のお友達のトモカです」
「はじめまして、ろるすこうしゃくけだいにし、ソル・ロルスです。おにいさまがいつもおせわになっています」
そう言ってソルはトモちゃんにぺこりと頭を下げた。
なんて出来る子なの!うちのソルは!
「…………可愛い」
「…………え?」
あ、あれ?なんかトモちゃんの目がおかし…………い?
「あ、あの、ト、トモちゃん?」
「何でしょうか?お兄様」
そう言ってトモちゃんはまるで花が咲いたように笑った。しかしどう見ても目がおかしい。
「お、お兄様!?いやいや、どうしたのトモちゃん!ちょっと目がいっちゃってるよ!?」
「でもどうしましょう?私まだ花嫁衣裳も仕立ててもらっていないのに」
「ちょっと待って!話が飛びすぎてもう何を言ってるのか分からないから!」
「お母様、トモカは幸せになります!」
「正気に戻りなさい」
次の瞬間トモママがトモちゃんの頭を扇子でスパーン!とはたいた。
しかもソルからは見えない絶妙な位置から。
ト、トモちゃんの鋭いツッコミは母親譲りだったのかーーーー!
「失礼しました。少し気が早ってしまっていたようです。まずは既成事じ……」
スパーンッ!
「失礼しました。後日お父様に掛け合って正式に婚約の打診をすることにします。国家権力万歳です」
「よろしい」
「いいんだ!?」
というかそもそもあの親馬鹿様がトモちゃんの婚約を許してくれるとは思えないんだけど…………。
やだやだ儂が結婚するのー!とか言って駄々をこねるところが想像できてしまうのが本当に気持ち悪い。
「トモカ様、ソル様にすっかり一目ぼれしてしまったようですね」
「そうみたいね。でも分かるわ。恋って止められないもの」
「僕も分かります。僕も魔王様の仮面と出会ったときには全身に稲妻が駆け巡ったかと思いました」
「あらあらまぁまぁ」
などとのん気に話すうちのママとランバート。
というかランバート。あんたの無機物に対する想いが恋愛感情だったんかい!
うーん。要約すると、とどのつまりトモちゃんはうちのソルに一目ぼれしたってこと?
まぁあの子は天使だからその気持ちも分からなくはないけどね。
そしてその日一日、トモちゃんは本当に甲斐甲斐しくソルの世話を焼いていた。
うちのパパもママに対してこんな感じだったのかと思うと、非常に複雑な思いである。
でもまぁ、トモちゃんならまかり間違っても、世話をすべき対象をほっぽりだして燃え滾る欲望を天使にぶつけるようなことはしないだろう。うん、あれはパパだからだよね!
ソルには悪いけど私はトモちゃんに協力するよ!
だって、ソルみたいな天使にトモちゃんみたいな才女で王女が嫁いじゃったらもうそれは次期当主確定でしょ!
それにトモちゃんをお嫁さんに出来るなんてきっと世界一の幸せものだしね!散々世話を焼かれてた私が言うんだから間違いない!
後日、当然予想できてた事だけどあの親馬鹿な国王様が婚約を許すはずもなかった。さすがです親馬鹿様。
しかしどうやらトモちゃんはあらゆる方面(もちろんソルを含む)に働きかけて外堀も内堀も埋めに埋めまくって完全に退路を断つつもりのようだ。
ちなみにトモちゃんになぜソルに一目ぼれしたのか聴いてみたところ「前世を含めてあれほど庇護欲の沸く人間はツッキー以外にいなかった」という話らしい。
ソル……どうやら君ってば異世界一脆弱認定されてるみたいだよ!
試験勉強もあるのに100k文字とか無理でござる




