第31話 呪詛を吐いても働かない勇気!
…………は!?
「ま、魔王ってもしかしてありえない話かもしれないけど、万に一の可能性を捨てきれず一応は聞いてはみるけど…………私のこと?」
私は真実を突き詰められるのが恐ろしくて、物凄く遠まわしに尋ねてみた。
しかしそれを直球で返してくるのが子供というものである。
「あ、はい。ひめさまが、まおうさまのことはまおうさまってよびなさいって」
「は!?」
トモちゃんの方を振り返ると、親指を立てて満面の笑みでドヤ顔をしていた。
いい仕事をしたぜ!みたいな。
犯人は お 前 か !
「まおうさまのかめんちかくでみてもいいですか?」
え?仮面?この仮面に興味があるの?なんだそういうことか。ふふっ、キミはいい奴だな!
「そういうことなら存分に見るといい」
気を良くした私はランバート君にそう言った。
するとランバート君は超至近距離で私に顔を近づけて興奮したように言った。
「す、すごいです!こんなきれいなかめんみたことないです!」
そういって恐る恐る触ろうとしてその手を止める。
な、なんていい奴なのこの少年は!ま、まさか私の前世のリアルフェイスをここまで褒めてくれる人がいるなんて……。
異世界人の感性も捨てたものじゃないね!ビバッ!転生!
もう前世で君と会ってたら結婚しても良かったよ!毎日私の料理を食べられる特点付きでね!
それに引き換え前世で私の周りにいた男たちの不甲斐なさと言ったらもう……。
天然ものの私と油絵のように塗りたぐった「自称モテない女」を比較してあろうことか私が女に見えないなどと抜かしおってからに。
女も女でなーにが「こう見えて全然モテないんですよぅ」だ!馬鹿やろう!こちとら本気でモテないんだよ!
しかも油絵女がそう言うと馬鹿男どもは「えーなんでなんでー。全然そんな風には見えないー!」とか言ってあからさまに嬉しそうにするのに、私モナーって続くと「あー超分かるwww」とかネタキャラ扱いしてくるの!ほんとムカつく!!!
というかモテないとか言ってるそこの女、私が知ってるだけでも三股しててお前は四人目にされようとしてるんだぞ!全然見えないという自分の目を少しは信じてやれ!!!
はぁ……はぁ……ついつい興奮してしまったけど、ランバート君、君には見る目というものがある。
イケメンなのにいい奴だ!
「こんなにつるつるな鉄見たことない!」
デスヨネー。分かってた。分かっていましたとも。
モデルが綺麗で驚いてるんじゃなくて、仮面の加工技術に驚いてるなんてことはじめから分かっていましたとも。
もしこのモデルが綺麗に見える人がいたら、私でも病院にいくことをお勧めするよ、ぐすん。
でもさ。少しくらい夢を見させてくれたっていいじゃない。
「愛嬌がある」とか「親しみやすい」なんてのは嘘を口にしたくない自称誠実男の常套句なんだよ!嘘を付きたくないけど、周りに好印象を持たれたいとかほんとどれだけナルシストなんだよ!直球で言われるよりそっちの方がよっぽど性質悪いわ!
私だって可愛いとか美人とか言われてみたかったんだ!!!
「ま、まおうさまからまりょくがもれてる!?」
違うよランバート君。これは魔力じゃなくて怨念って言うんだよ。
こつんっ。
「こらこら、子供に対して何黒い感情を発露させてるの」
そう言ってトモちゃんに頭を軽く叩かれた。
そのしゅんかんしゅるしゅると私の怨念はどこかへ飛んで行ってしまった。
「だって……」
「だってじゃないでしょう。せっかく私がツッキーの同志になれそうな子を見繕ってあげたのに」
「でもこの子イケメンだし……」
「将来ね。でもツッキー。ここは異世界なのよ。異世界には元の世界のようにちやほやされたイケメンだけじゃなくて残念美人っていうのがいるものなのよ」
はっ!?た、確かに!
エメラルダさんとかあんなに美人さんなのに全然嫌味じゃなくてしかもどこか抜けているし!
「じゃあこの子はもしかして……」
「そう!この子は言ってみれば異性よりも無機物に興味のある残念なイケメンよ!」
トモちゃんがババーンと言い放つ。
「…………ってそれってイケメンの意味あるの?」
「『ただしイケメンに限る』っていう言葉があるくらいなんだから意味はあるんじゃない?周りの女の子にとってはだけど」
「あー、目の保養にはなるかもね。あっ、そういえばこの世界だとトモちゃんは何系残念美人になるの?」
「…………ツッキーも大概失礼よね」
私が思うに『悪い男に引っかかる系残念美人』だと思うんだけど。
いや、それだと単なる幸薄な美人か?
「あの、このかめんはどこにあったんですか」
おっと、ランバート君を置いてけぼりにしてたね。
というか仮面の私と美少女トモちゃんが目の前で異世界とかなんとか言ってるのに仮面にしか興味を示さないなんて…………なんて残念な子!
君は一生このままでいてください。
「なんとこれは私が造ったのでした!」
「す、すごいですまおうさま!」
日本の工業技術は世界一!なんてね!
「ぼくをまおうさまのでしにしてください!」
と、この日からランバート君は私の弟子となるのであった。
なんとこのランバート君。実は伯爵家のご子息で、領地は工業都市となっているらしい。その所為かすっかり工業製品に魅了されてしまった模様。
うーん。子供が働くくるまが好きになるみたいなものなのかな?
ちなみにこのときから私は『魔王様」と呼ばれ、ランバート君は使徒と呼ばれるようになった。第一の使途『鋼鉄のランバート』。なにそれかっこいい!
そしてそんな私たちを見て先生が一言。
「私のクラスでいじめはありません」
言い切っちゃったよこのおっぱい!




