第30話 魔王と呼ばれても働かない勇気!
というわけで仮面生活になった私は、以前にように恐怖を振りまくだけの存在ではなくなっていた。
関係ないけど仮面生活と仮面夫婦って似てるよね。
「それじゃあ、そのページの一行目からロルス様、よろしくお願い致します」
「はい」
私は手を上げて席を立ち、教科書を読み上げていく。
仮面生活って思っていたよりもずっと良いものだった。
なんと言うか病み付きになるのだ。
仮面をしていると自分の顔とか気にならないし、こっちから向こうの目が見えても向こうから私の目は見えないからはっきり言ってしまえば気が楽なのだ。
しかも仮面のおかげで他人との間に距離感があるように感じるから、こうやって手をあげて「はい」って返事をするのも案外恥ずかしくない。
そして口元が着脱式になっているのでご飯を食べるときも問題ない。
まさに致せり尽くせりである。
だから私はこの羞恥ミッションを難なくクリアすることができるわけだ。
「…………に世界で初めて竜が発見され、世界に大きな災いがもたらされることとなった」
「はい、完璧でございます。皆さんもロルス様を良い手本とし、勉学に励みましょう」
「「「はい!」」」
「ハイ、ロルス様に拍手!」
ぱちぱちぱちぱち。
そう言って先生と一丸になってぱちぱちと拍手をするクラスメイトたち。
ちょっとやめて!本気で恥ずかしいから!
いくら仮面を付けて耐性ができたからって晒し者にしていいわけじゃないから!
そこ!笑いを噛み殺せてないよ!トモちゃん!
そしてお昼休みの時間にさらなる悲劇が訪れた。
私が昼食を食べようと準備をされていると、一人の少年が私の下へとやってきたのだ。
今までトモちゃん以外の生徒が自主的に近づいてくることなんてなかったから私は酷く驚いて目を見開いた。鉄管面の中で良く見えないだろうけどね。
確か彼の名前はランバート・グラッセン君。クラスメイトだからよく知っている。
メアリと同じ茶色のサラサラストレートヘアーだけど、育ちが良さそうなお坊ちゃんで素朴さは感じられない。容姿的には可愛いことは可愛いけど、うちの天使ちゃんに比べたらやっぱり男の子って感じがするね。
うちの天使ちゃんは男の子か女の子か本気で分からないからな……。
ランバート君はメガネを掛けている所為か、ちょっと頭良さげにも見える男の子だ。
というか実際授業中にも彼の口から「分かりません」という言葉が出たことはないので頭がいいのだろう。
将来的には知的なメガネ男子になりそうだ。
なぜだろう。こういう子を見ていると前世の私が『爆発しろ!』と呪詛を吐く。
正直イケメンには嫌悪感しか沸かないんだよね。こういう奴に限って将来大人になって勘違いしたあげく分不相応にもトモちゃんと付き合おうとして傷つけるんだ。
きっと日ごろからまわりの女の子たちにちやほやされて勘違いするようになるんだろうね。ケッ!
トモちゃんには受身じゃなくて是非自発的に恋をして欲しい。
とはいえあのトモちゃんが恋愛に夢中になってる姿はちょっと想像できないんだけどね……。
前世でトモちゃんにどんな男の子がタイプか聞いてみたことがある。
すると、うーん……とひとしきり悩んだ末、私を見て「あっ」と息を漏らして言った。
「ダメな子?」
失敬!失敬ですよ!私はダメな子なんかじゃない!ちょっと生活能力がなくて働きたくないってだけだよ!
確かにダメな子ほど可愛いっていう言葉はあるけどさ。現実問題としてダメ男はダメだと思うんだよね。トモちゃんのスペックなら仕事と家事を完璧にこなしながらヒモ男にお小遣いをあげることだって簡単にこなしちゃいそうだからなおさら。むしろダメ男製造機の素質あり?
うぅ、将来トモちゃんがだめんずうぃ~か~にならないかお母さんは心配です……。
というわけで私はこのトモちゃんの好みとは対極に育ち、将来トモちゃんを傷つける系男子に成長するであろうランバート君に向かって身構えた。
すると男の子は笑みを浮かべて理解不能な言葉を放って私を攻撃してきた。
「まおうさまー」




