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第29話 被りものをしてでも働かない勇気!

「…………鉄仮面?」

「そうとも言うわね」

「そうとしか言わないと思うよ!?」


 それはどこからどう見ても紛うことなき鉄仮面だった。

 物凄く防御力が高そうだ。

 そしてもちろん大人サイズ。


「これなら目元も影に隠れて見えないし、将来は大物になれると思うわ。正体不明の男的な」

「これ以上無駄に想像力を欠き立てるような設定いらないんだけど!?しかもそういうキャラって最後負けるよね……。あ、そうだ。ちょっとそれ貸して」

「はい」


 トモちゃんから鉄仮面を受け取ると私は魔法を発動した。


「『デザイン魔法・キャド』」


 私が呪文を唱えると、目の前に魔力で出来上がったパソコンが現れた。

 画面には既に馴染みあるソフトが立ち上がっている。

 私はマウスを手に取り、モニター画面を見ながらソレを巧みに操作していく。

 なんと魔力とはいえマウスとキーボードは触れるのだ!

 一心不乱にテキパキと作業していくと、それに合わせてモニター画面では線が次々と引かれていく。


 カチッ。カチカチッ。カチカチカチッ。カチッカチッカチッ。


 そしていくつもの線が繋がり合い、面となり、面が繋がりやがて形を成していく。


「相変わらず異常な光景ね。プロの実況ニコ動を倍速で見ているみたいだわ……」


 トモちゃんが何か言っていたが、集中している私の頭には入ってこなかった。


 カチカチカチッ。カチカチッ。カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ。


 そして時間にしておよそ十分。遂にそれは完成した。


 カチッ!ターンッ!


「『トランスフォーム』」


 呪文と共にエンターキーを押すと目の前にあった鉄仮面の形がうにょうにょとまるで生き物が蠢くかのように変化していった。


「できた!」


 私は出来上がったものを手で掴み、さっそく頭に被ってみる。

 うん、重くないし被り心地も悪くない。


「もしかしてそれって…………ツッキー?」


 そう。鉄仮面を魔法で変形させて作ったのは前世の私の顔。顔と言うか首から上。

 それを若干?若返らせたデザインとなっている。

 もちろん厚みを薄くして軽量化を図っているのでそこまで首に負担はかからない。

 我ながら完璧な出来である。


「正解したトモちゃんには私の友情をあげよう」

「等価交換ね」

「……………………え?」

「え?」

「ま、まさかトモちゃん、私の友情とさっきの変な鉄仮面が等価なんて言うつもりじゃ……」

「あれ、一応美術品だったんだけど」

「…………あっ!」


 そ、そうだった!どう見ても悪趣味なガラクタにしか見えなかったけど一応は歴史あるかもしれない美術品みたいなものだったんだ!


「ど、どうしよう……」

「ま、別にいいんだけどね」


 そう言ってトモちゃんは苦笑した。

 よし、私も笑って誤魔化そう。あは、あはは……。


 さっき私が使った魔法を私はデザイン魔法と呼んでいる。

 ようするに物体の形を変えるだけの魔法。デザイン魔法は体系化されていないので、私が勝手に命名したわけだ。

 このデザイン魔法。実はサモンゴーレム改め、クリエイトゴーレムの魔法を一工程に特化させたものなのだ。

 メアリが言うにはあの魔法は全然召喚していなかったので、サモンとは言わないらしい。

 だからあれはサモンゴーレムじゃなくてクリエイトゴーレムに分類されるとかなんとか。

 そして正確にはその創造過程の設計と施工の部分がデザイン魔法である。

 クリエイトゴーレムではメタルメアリを創る事が出来たが、実はあれのモデリングはそれほど精度が高くない。

 私の脳内イメージをもとにしているので恐らく細部の寸法はミリ単位で誤差が発生している。

 設計の世界ではミリ単位の誤差などとても許容できるものではない。


 しかしそれを補正するのがこのデザイン魔法『キャド』である。


 『キャド』は発動すると、まず目の前に魔力で出来上がったパソコンが『CADシステム』が立ち上がった状態で現れる。この『CADシステム』とは簡単に言うと設計ソフトである。

 このソフトを使うことで理論上ではどこまでも精度を高められるようになっている上、実際に視覚化して図面を描くことにより、より良いデザインを描くことができるというわけだ。

 だから当然今造った鉄仮面も被りやすく、内側も私の顔にすごぶるフィットするように設計している。


 私がこのデザイン魔法を得意としているのにはもちろん理由があった。


 理由は簡単。前世からの影響だ。


 前世の私は工学部の中でも機械工学科の出身で、趣味は設計という理系女子だったのだ。

 設計を趣味にしているだけあって、大学に入る以前からCADを愛用していた。もちろんお高いソフトだったので、一年にも及ぶ長いバイト生活を強いられたけど、初めてCADを触ったときの感動は今でも覚えている。

 とは言え、前世の私に出来たのは設計だけ。実際の施工は全て工場で行われる事となるため、個人ではとても手が出せなかった。

 だがしかし!この世界ではそれも魔法が全て解決してくれるのだ!


 魔力を使うだけで設計したものが造れるなんてまさに私得!

 実際に出来上がったのが見れるというのは達成感がぱない。

 ちなみに、言葉のイメージとしてはデザイン魔法というより設計魔法だけど、デザイン魔法の方がオサレなので異論は認めない。


 というわけで私の魔法は『ロストメモリー』を除く全てにデザイン魔法が使われていた。

 ファントムフェイスの顔の造形。エンジェルウィングの翼の造形。メタルメアリの造形。そしてエンジェルフィルターはなんとフルオートで随時『目に映るものの造形が補正される』というものなのだ!もちろん目に映る映像の中だけで、実際に物体に影響を与えてはないけどね。

 得意分野に傾倒してしまうのが私らしいと言えば私らしい。


 ちなみにこの仮面、目の部分は影になるように設計しているので、外から私の目を見て心臓を止める者はいない。


 完璧だ。私はなんと言う恐ろしいものを造ってしまったんだろう……。


 そしてその日から、私が強大な魔力を暴走させないための封印として平凡な顔をした仮面を付けはじめたという噂がまことしやかにささやかれる事となったらしい。


 うぅ……平凡で悪かったわね!

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