第27話 デビューに失敗しても働らかない勇気!
さて、こういったことは最初が肝心である。
入学式を終えた私たちは先生に先導され、自分たちの教室へと向かった。
「ささ、トモカ様。どうぞお入りください」
そう言って私はうやうやしくお辞儀をして手を差し出した。
「なに、その下手に出た態度は……」
トモちゃんが訝しげに私を見つつも私の手を取る。
「段差がありますゆえ、お気をつけください」
「確かにあるわね。五ミリくらいの段差が」
私はトモちゃんの冷ややかな視線を受け流しながらも手を引き、トモちゃんが五ミリの段差を乗り越えたのを確認するとそっと手を離した。気分はお姫様を守る騎士だ。
そしてトモちゃんに向かって「少しお待ちを」を礼儀正しくお辞儀をして、クラスメイトを見渡して大声で喚いた。
「おうおうおうおう!この方をどなたと心得る!恐れ多くもわが国の王女様!プリンセストモカなるぞ!図が高い!ひかえおろう!」
取り巻きと言えばやっぱりこれでしょ!
「は、ははぁー」
クラスメイトたちが一斉に平伏した。
あら素直な子達。お姉さん素直な子は好きよ?
しかし気持ちいいねこれ。
基本的に小者である私はこういったベタな小者プレイが結構好きだったりする。
「これ一見私に平伏してるように見えるけど、ツッキーの魔王顔に平伏してるから」
「え、なっ!?」
私は驚愕に満ちた表情を浮かべるが、みんなは恐怖に満ちた表情を浮かべる。
素直な子供の反応に心が痛い。
し、失敗だ……。トモちゃんを思いっきり矢面に立たせることで平穏な小物ライフを送るという徹夜で考えたマーベラスな作戦がいきなり失敗している!
「あの、あ、うん、えっと、こ、これから一年間仲良くしてくださいね」
こ、こうなってしまえば方向転換するしかない。
日本で最近まで流行りだった融和路線。
できるだけ親しみやすい言葉遣いで、何とか笑顔を浮かべて言ってみた。
しかし所詮は作られた笑顔。
私の笑顔に震え上がるクラスメイトたち。
わ、忘れてた!私の笑顔は立派な凶器だったんだ!
「ヤ○ザの『今後も仲良くしよう』は脅迫罪として扱われても仕方がないと思うわ」
「ヤ○ザじゃないし!」
「そうね。インテリヤ○ザならぬインテリ魔王ってところかしら」
「イ、インテリ魔王……」
なんかメガネを掛けたお行儀の良い魔王を相乗しちゃったじゃないか。
…………メガネ。いいかもしれない。
とは言えこのままでは非常にまずい。悪い意味で小学校デビューに成功してしまう!
そうなってしまえば平穏な学校生活は期待できないだろう。
もしかすると生意気だと言う理由で上級生に呼ばれたり、問題児として先生に睨まれてしまうかもしれない。
だから私は保身のためだけに言ってやったよ。
「よし!じゃあこのクラスは今日から全員トモカ様の手下だ!文句ないな!」
「「「「は、はい!」」」」
うん、なぜか先生も返事しちゃってるけど気にしない。
「私を、巻き込むな」
スパンッ!
ツッコミとともにトモちゃんがどこからともなく取り出したハリセンが私の頭に炸裂した。
そんなでかいもの一体どこに持ってたのよ……。




