表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

拝啓許嫁より

 ある日、久しぶりに顔を合わることができた父と夕食を取っていると突拍子もなくおかしなことを言い出しました。


「そういえばお主お見合いすることになったからの」


 まるで「明日はパンがいいのう」くらいの気軽さです。


「そうですか……………………………………………………………………え!!!???」


 OMIAI?


「そ、それはもしかして今度採用されることになった新しい兵科訓練の別称でしょうか?」

「そんなわけあるかい」

「で、では我が部隊と他の部隊との模擬戦闘がそのように呼ばれているとか……」

「あんなもんそう頻繁にやったら退役者が続出するわい。いい加減に現実を見い。お前に結婚話を持ってきたんじゃ」

「父上……………………」


 私は目に涙を溜めて父を見た。

 この人は本当に……。


「まだ諦めてなかったんですね……」

「お前は諦めとったんかい」

「はい、当の昔に」


 実はこうして父がお見合い話を持ってきたのは初めてではありません。

 父は仕事柄顔が広く、何かあるごとにこうしてお見合い話を持ってきてくれていました。

 しかし知ってのとおり私は未だに独身。

 私のお見合いはことごとく失敗に終わっていきます。

 まず国内ではお見合い相手に会えた試しがありません。

 父上と相手の両親でお見合い話がまとめられるのですが、お見合い当日になると決まって相手の方が病気になるのです。

 つまりはそういった口実で会うことすらできていない状況です。

 そしてお見合いの場へと来た相手のご両親は決まってこういいます。


「まことに申し訳ありません。実は息子には好いた者がおったらしく……、本来であれば息子本人を連れて謝罪にあがるところなのですが、今息子は病で床に臥せっているところでありまして……」と。


 余程私に会いたくないらしい……。きっと釣書の写真を見て拒否されたのでしょう。

 そして私は立場上、国外の方と結婚することができません。


 それが続くこと二年…………遂に父上のツテも尽き、とうとうお見合い話も来なくなってしまいました。

 やはり女の身としては、女の幸せに、そして母としての幸せに憧れを抱いていましたが、どうやら私のような醜女には無理らしいということを最近悟りました。だから既に一生独身で終わる覚悟が出来ているのです。


「なに、心配するな。今度は絶対に大丈夫じゃ」


 父上が気楽そうに笑っている。

 一体そのような自信がどこから……。


「父上、どうか現実を直視してください」

「お主に言われとうないわい」

「ですが現実問題として…………」

「大丈夫じゃ。大丈夫。何と言っても今回は儂の大親友に話を持って行ったからのお」

「父上の大親友、と申しますと、もしかしてロルス元帥閣下……ですか?」

「そうじゃ」


 私の上官にして軍の最高責任者であるロルス元帥閣下…………。誰もが尊敬し、誰もが畏怖する厳格かつ公正な人格者であり、本当にあの方が話を受けたというのであれば、これまでのように約束を反故されることはないでしょう。しかし……。


「ロルス元帥閣下のご子息はたった一人……、それに確かご子息は既に結婚されていたはずでは……」


 もしかして父上は、私にはもう本妻は無理だから愛人になれとでも言うのでしょうか。

 しかしいくら私でもそれだけは我慢できません。

 贅沢は望みませんが、愛のない結婚生活だけは耐えられないのです。

 旦那様となる方には私を……そして私の子供だけを見ていて欲しい……と思う。


「何を勘違いしておる。なぜ儂が最愛の一人娘を既婚者なんぞに差し出さねばならんのだ」

「では……」

「相手はその息子じゃ」

「そうですか。それはあんし…………え!?」


 ということはロルス元帥閣下のお孫さん?


「あ、あの、父上…………ロルス元帥閣下に年頃になるお孫さんがいるという話は聞いたことがないのですが…………」


 そもそもご子息に子供がいるという話すら聞いたことがありません。


「そりゃそうじゃ。何しろ相手は五歳じゃからの」

「ご、五歳…………」


 それはいくらなんでも若すぎるのでは…………。

 歳を経た男が若い娘を嫁に貰うという話は稀に聞く話ですが、その逆は聞いたことがありません。


「じゃからまだおおやけの場にも出ておらんし、産まれたのは竜が出た年じゃ。その後王都は何かとバタバタしておったから、あえて調べようとした者しか知らんことじゃろう」

「し、しかし私のような行き遅れはそのように未来のあるお方には相応しくないかと……」

「何を言っておる。お主は50年間寿命が止まっておるのじゃから相手が十六歳になってもお主は二十三歳。相手が三十歳になってもお主は二十三歳。あまつさえ相手が五十歳になってもお主は二十三歳ではないか」

「それは外見の老化が停止しているだけで、実際の年齢はとんでもないことになって…………」

「大丈夫大丈夫!男なんて見た目さえ若けりゃそれでいいんじゃ。その点お主はその辺の娘には絶対に負けはせん」

「それはお父様だけでは……」


 私は知っている。お父様が良く仕事で高級キャバクラへ行っていることを。

 確かにそういうお店が好きな人はそうなんだろうなとは思います。

 しかしあの厳格なロルス元帥閣下のお孫さんがそういった俗な男に育つのはところなど全く想像が付きません。

 きっとロルス元帥閣下を若くしたような、厳格公正かつ情の篤い人格者へと育つことでしょう。

 そう考えると、私などにはとてもではないほどに勿体無いお方だ。

 しかも私はいつ死んだとしてもおかしくはない身。

 そのような未来のある方の妻になるなどできるはずがありません。



 しかしそれから数日後、私は一人の少年によってお見合いをする勇気をもらうことになったのです。



 話は戻ってあくる日、私は不安を抱えたまま仕事へと向かった

 朝の会議に出席し、ロルス元帥閣下を見る。

 軍部の中で尊敬できる唯一のお方。そしてその血を継いでいるであろうまだ幼いお孫さんに、こんな行き遅れのお見合い話を持っていってしまったことに対して申し訳なさでいっぱいになる。

 いっそのこと恥知らずと罵り、お見合い話を蹴ってくだされば良いのに……。

 会議の間中、合わす顔なく俯いている私に向かってロルス元帥閣下が微笑まれたいたことを、このときの私は知らなかった。


 訓練場へと戻ると、そこでは攻撃魔法が激しく飛び交っていた。

 魔導特務部隊は対ドラゴンに特化した部隊。ゆえにその威力は他の部隊の追随を許さない。

 それが訓練と言う名目で同じ部隊の人間に向かって放たれている。


 思わず頭を抱えてしまう。


 私が目を離すとすぐこれだ……。


「『ショックウェーブ』」


 魔法で衝撃波を発生させ、隊員全八十五名に向けて放った。

 衝撃波を受けた隊員たちが吹き飛び、起き上がって一斉にこちらを向いた。


「た、隊長……」


 前回の討伐から補充された新規隊員たちの目に恐怖が宿る。

 それを見て私はため息をついた。

 どうやらまだまだ先は長そうだ。

 それでも私はこの者たちを生き残らせなければならない。

 だから私は隊員たちを睨みつけ、怒号を張り上げた。


「何を遊んでいる!そんなことでは竜のクソになるだけだ!お前たちは時間稼ぎもできないクソか!」

「「「さ、サー、ノー、サー!」」」

「ふざけるな!聞こえんぞ!!!」

「「「サー、ノー、サー!!!」」」


 隊員たちが一斉に返事をする。

 私は一人の新規隊員へと歩み寄り、腰から抜いた杖を隊員の顔に突きつけた。


「お前の敵はなんだ?」

「竜であります。サー!」

「今戦っていたのは?」

「人間であります。サー!」

「人間は竜のように強いのか?」

「サー、ノー、サー!」

「死にたいのか?」

「サー、ノー、サー!」

「竜に殺される前に私にぶっ殺されたいのか?」

「サー、ノー、サー!」

「ならば二度と忘れるな!我々の敵は竜だ!仮想敵は竜以外にない!!!」


 私は全隊員に聞こえるように声を張り上げた。


「「「サー、イエス、サー!」」」

「『休憩』は終わりだ!これより『訓練』に移る!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「一番隊は仮想的『竜』を想定して三十秒で迎撃準備!二番隊から十七番隊までは私と共に仮想敵『竜』を勤めあげろ!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「一番隊は仮想敵『竜』を相手に交戦状態を三時間以上維持しろ!二番隊から十七番隊は死にたくなければ次の言葉を頭に叩き込め!手加減したクソはその場で処刑する!!!」

「「「サー、イエス、サー!」」」

「それではこれより『訓練』を開始する!一番隊、小手調べにまずは私の攻撃を受け切って見せろ!」


 魔法を発動させ、空中に魔力を生成し、別の魔法を使って魔力の持つエネルギーを無理やり増幅させる。


「『砲撃型竜滅魔法!ディス・インテグレート!!!』」


 そしてそれをさらに別の魔法を使って前方に撃ちだした。

 三種類の魔法による複合魔法。それが私の最も得意とする攻撃魔法『ディスインテグレート』だ。

 一番隊に目掛けて私の杖の先から放たれた極太の光の柱が突き抜けていく。


「「「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」」」


 隊員たちの悲鳴が聞こえてくるが、もちろん私は手加減などしない。するはずがない。なぜなら竜の咆哮もっと強いのだから。

 一班五人。その五人に対して全部隊が容赦のない攻撃を開始する。

 無茶をいているのは分かっている。しかしこの程度しのげるようにならなければあの災厄を前に生き残ることはできない。

 隊長……、今度こそ絶対に誰も犠牲にはさせません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ