表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/40

第25話 世知辛くたって働きたくないでござる

 さて、エメラルダさんと婚約し、トモちゃんと再会した私は今日から本格的に生活の拠点を王都に移すことになった。

 これには様々ところで様々な人たちの思惑があったようだけど、私はよく知らない。

 当然パパは用事が済んだと言わんばかりに、領地の運営……もとい、ママといちゃいちゃするためにロルス領へと帰っていった。

 正直帰る直前のパパは目がギラギラしてて本当に気持ちが悪かった……。

 もしかしなくても三人目が産まれる日も近いのかもしれない……。


 そしてパパと入れ違いでやってきたのがメイドのメアリである。

 ママ専属のメイドだったメアリはいつの間にやら私専属のメイドさんになっていた。

 それはいいんだけど、うちの家なんかに振り回されて家族と離れ離れにしちゃってごめんね。というと……。


「私は元々孤児だったところを大旦那様に拾っていただきました。ですから私が家族と思っているのは僭越ながら大旦那様とロザリー様、そしてルナ様とソル様だけでございます」


 お祖父様!顔は大魔王なのに中身はお人好しなおじいちゃんだったんですね!


「ってあれ?パパは?」

「……………………」


 メアリが辛そうに顔を伏せる。


「え?あれ?」


 戸惑っている私にメアリは真剣な表情で刻々と語った。


「ルナ様。よく覚えておいてください。いくらご恩のあるお方のご子息であろうと、ながきにわたるストーカー行為等の変態的行動をの当たりにしていると枯れてしまうのです。心が」


 そう言って涙を滲ませながら「うぅ、大旦那様、申し訳ございません」と呟くメアリの姿がいつまでも目に焼き付いて離れなかった。

 トラウマである。


 うん、私はパパを反面教師にして強く働かず生きていこう。と心より誓うのであった。


 そしてそれから半年が過ぎ、私は王都にて遂に小学校への入学を果たした。


 それも王侯貴族の王侯貴族による王侯貴族のための小学校。

 教員から庭師まで一般市民は一人たりとも存在しない完全に隔離された世界。

 そもそもこの世界では一般市民には教育があまり重視されていない。

 計算ができて文字が書ければいいっていうレベル。

 これだけ聞くと、この世界の子供たちうらやまっ!って思うかもしれないけどとんでもない!

 なんとこの世界の一般市民は若くして労働を強いられるのだ!

 成人やら何やらなんてのは全然関係がない。

 ある程度身体が出来てきて、親がそろそろこの作業は手伝わせられるなって思った時点から労働が開始される。

 これはまさに壮絶の一言に尽きる……。

 現代日本では最短でも義務教育を卒業する十五歳。でもほとんどの人は大学を高校・大学を卒業する十八歳から二十二歳くらいで働き始めるのが一般的な認識だ。

 それがこの世界では僅か六歳くらいから手伝いが始まり、十二歳になる頃にはもう労働者一人分として数えられるのだ。

 もしこの世界で十五歳を超えても仕事に就いていない者がいたとしたら、その人は完全に遊び人のぷーたろう、いや、生涯ニートの烙印を押されてしまうことだろう。

 つまりこの世界で働かないということは、現代日本で働かないよりも遥かに難度が高いのだ。


 そしてこの国は実力主義がかなり色濃く出ている社会体制である。

 安定なんてない。

 できる人が認められ、できない人はいくら良い職場に採用されたとしてもクビを切られる。

 それは現代日本の公務員に当たる官職でも同じ。

 いや、むしろ普通の職よりも熾烈であるとさえ言える。

 官職は当然一般的な職種に比べると給料が高く、社会的地位もあるため、下級貴族を含む一般市民にとって憧れの的なのだ。

 つまりいくらでも優秀な人材は集まってくるし、労働者のクビ切りに関する法律はないからクビなんて切りたい放題。


 しかしその分、労働者の活力が全然違う。よく言われるお役所仕事なんてのは存在しない。

 個人レベルで仕事が堰きどめられることはまずないらしい。

 だってそんなことがあったら無能の烙印を押されてせっかく手に入れた職を失うことになるんだから。

 言い訳なんてのは誰も聞いてくれない。

 仕事の責任は新人であろうと熟練であろうと全部その個人に掛かってくる。


 しかしそれすらも覆すのが貴族たち……と思うかもしれないが、実はこの国の貴族の社会はもっと厳しい。

 貴族たちは常に自分がのし上がることを考え、自らの能力を誇りつつも、常に上位者を引き摺り下ろすチャンスを狙っている。役職にしろ貴族階級にしろ、その数の上限は決まっている。つまり上位者が落ちてくるか引退するようなことがなければ自分の出世が望めないのだ。そう、貴族というものは持てる地位、財力、能力、人脈の全てを駆使して戦わなければならないのだ。

 もし出来の悪い子が嫡男だったとしよう。

 そういう子はもちろん一族にとって足手まといであり、弱点になってしまう。

 そうするとどうなるか。

 なんといなかったことにされるのだ。


 さすがに実の子を殺したりなんかはしないだろう。でも家名を名乗ることを許されずに家から放逐されたり家から一歩も出してもらえなくなったりするらしい。


 この話を聞いたとき、これだ!ってにんまりと笑った。

 ソルは天使だから放逐はされないだろうし、引きこもって好きなことばかりしながら働かずに生きていくことができる。

 そう、お金持ちの家の子に産まれ、天使フィルターを持つソルという弟が産まれた時点で私の人生はイージーモード、いや、ビギナーモードになるはずだったんだ!

 しかし私の計画は狸じじぃの所為で完全に狂ってしまった……。うぅ、作戦を練り直さねば。

 って何の話をしてたんだっけ?


 そうそう。かなり脱線しちゃったけど小学校の話だったね。

 つまり貴族学校も安全を犠牲にしてまで一般市民を入れる必要性がなく、一般市民も貴族の学校に通う学費がないため、問題なく今の運営状態が続いている。

 そしてその中では貴族社会同様、地位と財力と能力と人脈をフル活用して熾烈な権力抗争が行われているらしい。

 なんて嫌な学校なんだろう……。

 心底通いたくないよ……。

 できれば平穏に過ごしたいんだけどなぁ。うーん、ここは一緒に入学するトモちゃんの取り巻きにでもなるか。

 ひかえおろうひかえおろう!このお方をどなたと心得る!恐れ多くもわが国の王女様!私より年増のトモカ様なるぞ!図が高い!ひかえおろう!なんてね。

 さすがに王族に手を出す人はいないでしょ。

 というわけで私とトモちゃんは王立貴族小学校に入学を果たすのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ