第24話 倒したちゃっても働きたくないでござる
本当に懐かしいなぁ。
でもまさかあの友ちゃんが転生してお姫様になってるなんて……ぷぷ。ちょっと笑えるかも。
「何よその顔は」
「いやぁ。似合わないなぁって思って」
何とか笑いを堪えようとするものの、思わず頬が緩んでしまう。
「自分でも思ってはいるわよ……」
そう言って友ちゃんはため息をついた。
何を隠そう友ちゃんは自他共に認める世話焼きさんだ。それが現世では世話を焼かれる立場になってるとは。
「まぁそういうわけで、別にお姉さんから婚約者さんを取ったりなんかしないから安心してください」
「そ、それは…………ありがとうございます。本当に」
「というかエメラルダさん。今までの私たちのやり取りを見ててその反応はおかしくない?」
心底ほっとした表情を見せるエメラルダさんに聞いてみた。
再開してからの私たちの行動って私が蹴られてうめぼしされて罵られただけ。
これだけ見て友ちゃんと恋人同士になりたいなんて言い出したら完全にドエムだよ。
え!?ちょっと待って!もしかしてエメラルダさんって私のことをドエムだと思ってる!?
「やっぱりルナ君も同じ歳くらいの若い子がいいのかなって」
エメラルダさんが不安そうな表情をして言った。
そっちか!?
「いやいや、パパじゃあるまいし!」
その言葉に貴族たちの何人かがびくっと反応した。
この国の行く末が不安で仕方がない…………。
「むか。私だってこんなお子様に興味があると思われるのは不快よ」
そこでまさか友ちゃんが頬を膨らませて反論してきた。
「お、お子様!?」
ちょっとまって。それってもしかして私のことか!?
「なによ。お子様じゃない」
お子様とは心外な!
「ぐっ、偉そうなこと言っておきながらそう言う友ちゃんは何歳なのさ!?」
「五歳だけど?」
「わ、私も五歳…………でもまだ負けてない!何月産まれ!?」
ちなみに私は八月生まれ。くっくっく。先に転生した私が友ちゃんに負けるはずがない。
しかし友ちゃんは私の言葉を聞いて鼻で笑った。
この余裕……ま、まさか……!?
「四月だけどなにか問題でも?」
なん……だと……!?
おかしい。これはどう考えたっておかしいじゃない!
何で私の方が先に死んだのに友ちゃんの方が先に転生してるの!?
「良かったらルナ君の誕生日も教えてくれる?だってほら、もし私より早く産まれてたとしたら敬わなきゃいけないでしょ?人として」
「ぐ……う……」
「どうしたの?ねぇ?クスッ、良かったらこれから私のことをお姉様って呼んでも構わないのよ?」
友ちゃんが余裕の笑みを浮かべて私を追い詰めてくる。
う……うぅ……。
「トモカ……お、お、おお………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おばさん」
グサリ。
どこからともなく刃が深く深く突き刺さる音が聞こえてきた。
音のした方へと振り返ると……。
「ハ、ハハハ……そうよね。トモカ様がおばさんなら、ルナ君からすれば私なんてお婆ちゃんもいいところよね。うん、分かってた。分かってたんだけどね。ハハ」
エメラルダさんが虚ろな目で乾いた笑い声を響かせている。
胸を押さえて本当に苦しそうだ……って違うほうにダメージが入った!?
「ち、違うんです!今のはそういう意味で言ったんじゃなくて!」
「相変わらず碌なことを言わないわね。ツッキー……」
「ちょ、今のは友ちゃんの所為でしょ!」
「責任転嫁しないでよ」
「いいんです。最近なんだか身体も疲れやすくなってきたし、心なしか肌のハリも衰えてきたような気がするし、きっとそのうち化粧ののりも悪くなってくるだろうし、皺だって…………、きっとルナ君が成人する頃には私なんて行き後れを通り越して干乾びて干物に……」
エメラルダさんが遥か遠くを見つめていた。
「だ、大丈夫ですから!ほら、果物だって腐りかけが美味しいって……」
「く、腐りかけ……」
エメラルダさんが頭を押さえたままふらついて私の方へと倒れこんできた。
ちょ!?おもっ!さすがに大人の身体は支えきれないから!
私はエメラルダさんに押しつぶされてしまう。
むぎゅー。
見るとエメラルダさんは完全に気を失ってしまっていた。
よほどショックだったのかもしれない…………。
「ツッキー……」
友ちゃんが残念な子を見るような目で私のことを見てくる。
「ごめんなさい……」
私には素直に謝ることしかできなかった……。
そして次の日からロルス家の嫡男は王国最強にして自らの許嫁でもある『特務魔導部隊百人長ローザレイン』を打ち倒した容赦ない男、などという不名誉な噂が飛び交うこととなってしまった。
はぁ…………死にたい。




