第23話 想いを馳せたって働きたくないでござる
「まさかトモカがルナ殿と知り合いであったとはな」
「はい、私もルナ殿を見たときには大変驚きました」
実はお互いこっそり物見山で街に降りているときに知り合ったなどという設定をでっち上げ、あの混沌とした状況を収めてしまった友ちゃん。
さすがです。
なんと驚いた事に友ちゃんは王女様だったのだ!
それも王様の三番目の奥さんの一人娘。
何でもトモカという名前は三番目の奥さんの国で付けられている名前らしい。
あれかな。よくファンタジーものとかに出てくる擬似ジパング的な東の国とかいうやつなのかな。
というか友ちゃん、ちゃんと女の子に転生してたんだね。
私なんてちんこついてるっていうのに。
正直このちんこという存在には戸惑っている。
何でもないときに自己主張してきたかと思えば、むふふな妄想をしているときは冷静ぶったりなんかして本当によく分からない。
そのうち人格ができて勝手に歩き出したりしないだろうか……と少し心配になってくる。
「しかしいきなり足蹴にするのは失礼ではないか?」
そうだそうだ!王様!もっと言ってやれ!
「申し訳ありません、お父様。私も少し舞い上がっていたようです」
舞い上がってた!?あれが!?その設定はさすがに無理があるんじゃ……。
「トモカが舞い上がるとは珍しいこともあるものだな」
そう言って国王陛下は顔を綻ばせた。
ダメだこの人、親馬鹿だ!目が節穴過ぎる!本当にこの国大丈夫なの!?
「はい。あのときはお互いに身分を名乗っていませんでしたから、また会えるなんて思っていなくて」
しかも友ちゃんの口から私の知らない過去が次々と捏造されていく。
冷や汗が止まらない。
そしてこの場で冷や汗が止まらない人物がもう一人いた。
エメラルダさんだ。
それに気づいた友ちゃんがくすりと笑ってエメラルダさんに言った。
「心配しなくとも大丈夫ですよ。はっきり言ってしまえば私はルナ殿が好みではありません。だから安心してください」
確かにそう言い切った満面の笑みで。
「「え?!」」
私とエメラルダさんの声が重なり合う。
何それ!地味にショックなんだけど!
そりゃあ確かに私たちの間に恋愛感情なんてものはなかったけど…………。
「顔は怖いし」
「ぐはっ!」
「生活能力なさそうだし」
「へぶっ!」
「仕事もしなさそう」
「もう止めて!私のヒットポイントはゼロだよ!」
私はがっくりとうな垂れ、力尽きてしまった。
否定できない……全然否定できないよ……。さすがは友ちゃん。私のことを親よりもよく知っている。
でも思えばこういうのも懐かしいかもしれない。確か前世でも同じように振られたっけ。
そう、あれは私たちがまだ女子大生などをやっていたときの話だ。
「ツッキー、たまにはまともなものを食べなさい」
そう言って友ちゃんはわざわざ私が一人暮らしをしていたアパートまで来てパスタを作ってくれた。しかもミートソースまで手作りして。
友ちゃんは本当に凄い。料理もできるし、勉強も卒なくこなすし、美人だし、クールだし、女子力が高いし、友達の私から見たって完璧超人だ。
対して私は勉強に関しては専門分野以外からっきしだし、料理の腕は絶望的だし、料理以外の家事も苦手だし、可愛げはないし、色気なんて……………………お察しだし。
ちなみに私は未だに恋愛経験値ゼロだけど、友ちゃんはそこそこ男の子と付き合ったりしている模様。
でもすぐに別れる。
今までの最長記録がなんとたったの二週間。
さすがに恋愛経験値ゼロの私でもそれは短すぎると思う。
で、理由を聞いてみると、「私といると息が詰まるんだって」って答えが返ってきた。本当に意味不明。友ちゃんほど一緒にいてくつろげる子は他にいないと思うんだけどな。きっと今まで付き合った男たちは見る目がなかったんだろう。
私が思ったとおり口にすると、「そんなことを言ってくれるのはツッキーだけだよ」ってちょっと寂しそうに笑ってたっけ。男たちマジ許さん。思い出してたらなんだか腹が立ってきた。
それにしても友ちゃんの料理する姿は本当に様になるなぁ。
私がやってたら料理じゃなくて錬金術みたいになっちゃうしね。
そんな私でも作れるものが三つある。
一つ目はカップ麺。これには適量のお湯を注ぐという高等技術を必要とする。
二つ目はインスタント麺。水の量をカップで計量し、湯で上がり時間を精確に計測するという細やかな作業を必要とする。もしここでそれを怠って感覚に頼ると、生ゴミが錬金される。
そして三つ目は冷凍食品。冷凍食品の袋に書かれた電子レンジのワット数と解凍時間から、自宅の電子レンジのワット数に対する解答時間を算出して入力する。もしこれを怠ると、しゃりしゃりの肉まんが出来上がったり、しおしおになったからあげが出来上がったりする。
でも電子レンジを使ってるといつも思うんだよね。
お願いだからワット数を統一してよ!なんで電子レンジによって微妙に誤差があるのよ!面倒なのよ!
そんなことを考えているうちにいつの間にやら料理が出来上がっていた。
ミートソースのパスタと付け合わせのサラダが綺麗に盛り付けられ、私の大好きなホットミルクまでもが横に添えられている。
もう友ちゃんは私の嫁でいいよね?
私は友ちゃんに向かって『ありがたや~ありがたや~』と拝むと、いいから早く食べなさいと怒られてしまった。これ以上続けると後が怖いのでいただきますをして私は料理を口にした。
舌が…………しびれる!!!
美味しい!美味しすぎるよ!友ちゃん!
友ちゃんの料理は空腹に対して効果はばつぐんだ。どのくらいばつぐんかというと、『嫁タイプ』の友ちゃんが『得意料理』というもちものをもって、『嫁タイプの料理』を使って『空腹タイプ』と『麺好きタイプ』を持つ私の『胃袋にあたった』くらいにばつぐんだ。
もう自分でも何を言ってるのか理解不能なくらいに美味しすぎる!
思えば何日ぶりの食事だろう…………。
私はこんなに幸せで良いんだろうか。
感極まって勢いのまま友ちゃんを抱き締めた。
「友ちゃんこれ美味い。美味しすぎるよ!もう今すぐ結婚しよう!」
「嫌よ」
「え!?なんで!?」
私は驚愕した。
もちろん本気で言ったわけじゃない。でもまさか嫌って言われるとは思ってもいなかった。
せめて『はいはい、来世でね』とか流されるくらいだと思っていたのに……。
「むしろそこで驚かれる意味が分からないんだけど……。そもそもツッキー働かないんでしょ?どうやって私を養っていくつもりなの?」
うぐっ!痛いところを突いてくる。
そう、友ちゃんは昔から現実的なところがあった。
しかし私は……。
「それはほら、ゆ、夢とか希望とかで……」
「夢や希望でお腹が満たされないのは今実証されたばかりでしょうに……。そもそもあなた一体いつから食べてないのよ?」
ええっと、確か……。
「み、三日くらい前から水だけ……だったりして……テヘッ!」
「は!?三日!?」
一瞬にして友ちゃんの目つきが変わった。こ、怖い!
「い、いや、それがその、ちょっと今は手が離せなくて……」
私は目を逸らしてしどろもどろになりながら説明をした。
「はぁ……その集中力を就活に向ければ就職できるでしょうに……」
「もうそれはいいの!私は会社とか組織とかには入らないから!」
「それで今度は一体何を作っていたのよ」
「そうそう!聞いて!今作ってるのはね……」




