第20話 お披露目したって働きたくないでござる
その現実離れした光景に驚いているうちにエメラルダさんは私の腕に手を絡ませてきた。
「国王陛下がお待ちのようね」
見るとレッドカーペットのどこかで見覚えのある男の人と女の人が立っていた。
一体どこで…………あっ!
教科書だ!教科書で一瞬だけ見た覚えがある!
すぐに角生やしたり垂れ目にしたり青いぶつぶつの髭の剃り跡みたいなのを加えたり色々ととても本人には言えないような改造していったからあんまり覚えてないけど、確かに王様と王妃様だった気がする!
「大丈夫?」
エメラルダさんが心配そうに尋ねてきた。
「だ、大丈夫です」
とは答えたものの、やっばいよこれ。
物凄い勢いで視線が突き刺さってくる。
というか、普通私みたいな子供はパパと一緒に紹介されに回ったりするものじゃないの!?
辺りを見渡すと、突き刺さっていた視線が一気に外れていく。
なにこれ面白い。
私から目を逸らしていないのは国王陛下とお祖父様とパパとたぬきと数名の貴族たちそして……私と同じ年くらいの女の子が一人。
あー、あの子可哀想に。驚きのあまり完全に固まってるよ。
トラウマにならなきゃいいけど。
お祖父様とパパは今まで国王陛下と話でもしていたのだろう。陛下のすぐ傍にいる。
この空気。やっぱり行くしかないんだろうなぁ。
そう思いながら私は国王陛下の下へ向かって歩き始めた。
それに合わせてエメラルダさんも付いてくる。
陛下の下へ行くが会場は完全に沈黙が支配している。
陛下は40歳くらいのまるで騎士のような体格をしたごついおっさんだった。
そして私が陛下の下へ行っても、お祖父様とパパは何も言わない。
なに?紹介とかしてくれないの?
うぅ、これは自分で自己紹介しろってことなんだろうか。
私が陛下に向かって膝を就くとエメラルダさんも私に続いて膝を就いた。
「お初にお目にかかります、国王陛下。ロルス侯爵家クロードの第一子、ルナ・ロルスです。そして既に存じ上げているかと思いますが、後ろに控えている者が私の婚約者エメラルダ・ローザレイン殿です」
エメラルダさんが傍にいる以上紹介しないわけにはいかない……よね……。
くっ!これ全部たぬきの陰謀か!
私が紹介を終えると国王陛下は固まった顔を綻ばせて答えてくれた。
「おぉ、今日は良く来てくれた。儂がこの国の国王ジョセフ・シルヴァニアだ。顔を上げよ」
か、顔を上げる!?
い、いいの?この顔を上げて傷害罪ならびに国家反逆罪として極刑になったりしない?
私は恐る恐る顔を上げると、国王がガシガシと私の肩を叩いた。
ちょ!?力強い!いたっ!いたいから!
「今日の主役はお主だ。堅苦しいものは抜きでよかろう。それではこれより晩餐会を開始ものとする!」
国王陛下の発言に合わせて楽団の演奏が始まり遂にパーティーの幕が開けた。
そして私はこの後エンドレスに「ハジメマシテ」と「ヨロシクオネガイシマス」を繰り返すからくり人形と化してしまった……。
もう凄いよ。何百人いるの?
正直まだそこまで北欧系の人の顔って区別付かないんだよね。
つまり名前を覚えたところで名前と顔が一致しない。
しかもお祖父様もパパも私の挨拶地獄に巻き込まれないよう避難してるし……。というか子供をこんなところに放置しないでよ!
笑ってるだけでいいとか完全に嘘だし!
そして悪戦苦闘している私の下へ再び国王陛下がやってきた。
「今しがたクロードから聞いたのだが、そなたはその歳で既に魔法が使えるのか?」
「え?はい」
そりゃあ使えますけど……。
「では一つこの場で使ってみせよ」
「え!?」
ここで!?
めっちゃ注目されてるこの中で!?
いや、まぁもうどうにでもなれだから別にいいんだけど、私が使える魔法って凄く限られてるんだよね。
メタルメアリは地面が土か金属がないと使えないし、エンジェルフィルターなんて使っても分かりにくいし、ファントムフェイスは外行き用に秘密にしておきたいし、となるとエンジェルウィングになるんだけど……。
「なんだ。使えぬのか?」
国王陛下が私を見て笑った。
ぐわ!悔しい!!!
もうおこだよ!激おこぷんぷん丸だよ!(注:激おこぷんぷん丸とはフィクションであり、実在する人物の名称とは関係ありません)
「エメラルダさん、私の手を握って」
「……?はい」
エメラルダさんは不思議そうな顔をして私の手をぎゅっと握った。
「『エンジェルウィング!オトモモード!』」




