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第15話 出会いがあっても働きたくないでござる

 私はびっくりしてとびあがった。

 そして私の顔を覗き込んでいただろう人物と思いっきり頭が衝突してしまった。

 いったーーーーいっ!

 星!!!星が見えるよ!!!


「うぅ……」


 あまりの痛みにうずくまってしまった私の頭に手が添えられた。


「『ヒール』」


 青い光が私の頭に流れ込み。痛みが引いていく。

 治癒魔法だ……。

 痛みが引いていくと共に申し訳なさがこみ上げてきた。


「ごめんなさい!それとありがとうございます!」


 私は必死に頭を下げた。

 まさか見知らぬ人に膝枕をしてもらった恩を頭突きで返して治癒魔法までかけてもらうことになるなんて……。


「いいのよ」


 顔を上げると、そこにはなんと残念美人がいた。

 現代日本ではありえない深緑の髪を後ろでぱぱっと括り、キリっとした瞳をした大人な女の人。だけどなんていうか服装が残念すぎる。どぎつい赤の上着に、淡い緑色のズボン。

 文化がどうこう言う以前に、誰が見ても明らかにおかしい。

 もしこれの中身が前世の私であるならば「何か変な子がいるな」で終わる話だけど、顔が美人さんな分だけ、余計に浮いて見える。

 どのくらい浮いているかというと、パパがソルを抱いている姿くらい浮いている。

 あの姿はもう子供を誘拐してきた魔王にしか見えなかったからね。

 あれ?それはそれで浮いていないのか。うぅ、自分の表現力の無さが恨めしい。

 それにしてもこの人、せっかく美人さんなのに……。大人の女なのに……。

 と、迷惑をかけてしまった私が思わず心配してしまうくらいには残念であった。


「じゃあ、せめて何かお詫びを……」


 私はそう言ってポケットに手を入れるが、生憎今は何も持っていなかった。

 手ぶらな自分が憎い!

 今度から飴ちゃんくらいは持ち歩くようにしないと。


「本当に気にしなく……」

「何か私に出来ることはありませんか!」


 迷惑を掛けっぱなしで立ち去るなんて私の矜持に反する。


「荷物持ちだろうが太鼓持ちだろうが、何でもしますよ!」


 そう言うとおねーさんは私を見て笑った。


「あなたみたいな若い子が太鼓持ちなんてしたらダメじゃない。そうね。それじゃあ一つお願いしようかしら……」





 というわけでやってまいりました呉服屋さん!

 何でもこのおねーさん。エメラルダさんっていうらしいんだけど、今度お見合いをすることになったらしい。

 もうその時点で凄く共感してしまった!

 尤も私の場合は婚約に関して全然乗り気じゃないけど、エメラルダさんは今度のお見合いにかなり意気込んでいるらしい。

 というのも今まで仕事しかして来なかったということもあり、男っ気が全く、恋愛経験は皆無。だから今回が最初で最後のチャンスだと思っているみたいだ。

 仕事しかして来なかったなんて…………想像しただけで死んでしまいそう。

 でもこれだけ美人なら探せばいくらでもいると思うけどなぁ。

 やっぱりファッションセンスが壊滅的に絶望的な所為だろうか?

 確かにこの姿を見れば百年の恋も氷河期を迎えてしまうことは否定できない事実として認識するべきかもしれない。

 というわけでお見合いに着ていく服を買いに来たそうな。

 でもって男受けの良い服装と言われても、どういうものが良いのか全然分からずに困っていたところ、道端で寝ている私を見つけて膝枕してくれることに。

 いくら私が子供だからって人が良すぎるよね。

 とにかくそういったことらしいので、私もあんまりファッションセンスには自信ないけど、前世の記憶をフルに駆使してエメラルダさんを全力で支援することに決めた。

 ミッションの成功条件は最強のモテコーディネートで男のハートをパイルバンカーすること!

 今までお金を使うことがなく、しっかり溜め込んでいるから予算はいくら掛かっても良いらしい。これだけでもうエメラルダさんがどれだけ意気込んでるのか分かるよ!


 とりあえず私はこっちの世界の常識があまりない。だから分からないことは店員さんにどんどん聞いてみた。


「貴族の人とのお見合いってやっぱりドレスなんですか?」


 エメラルダさんによるとお相手はお貴族様らしい。


「そうですね~。そのへんはやっぱり会う場所によるでしょうか~」

「お見合いは相手の家に行くことになっているわ」

「その場合ですと相手の方によりますね~。格式を重んじる方でしたらドレスが良いでしょうし、普段からあまり形式などを気になさらない方であればビシッっとしたドレスは逆に引かれてしまいますね~」

「格式や形式を気になされるような方ではないわね。私のような一般市民にも分け隔てなく接してくださる方だから」

「それですと少しカジュアルなものにした方がいいかもしれませんね~。こちらなどはどうでしょう~?これですとそれほど重い印象も感じさせませんし、お貴族様のドレスコードには抵触しませんよ~」


 そう言って店員さんが取り出したのは白いワンピース型のドレスだった。

 うーん、無難だ。

 確かに白いドレスは清楚に見えるだろう。育ちの良い貴族のボンボンにはかなり効果的かもしれない。

 でもせっかくエメラルダさんには綺麗な深緑の髪があるんだからそれを活かさない手はないと思うんだよね。


「これなんかどうかな?」


 対して私が手に取ったのは、緑色の生地に黒のシースルーレースが施されたショートラインのドレス。ショートラインと言っても、後ろは下に着くほど長くはない。

 うん、これならインパクトはあるし、大人の魅力もたっぷり含まれているし、下品でもない。


「お客様。攻めますねぇ~」

「相手が貴族なら綺麗な人をいっぱい見てきてると思うんだよね。だったら少しでも印象に残るようにしないと」

「なるほど~」

「それにエメラルダさんの魅力はやっぱりその大人っぽさでしょ?ならそれを前面に押し出して、この人抱いてみたい!って思わせられることはきっと武器になると思うんだ。その後の夫婦生活を円満にするためにもね!」

「そういうものなの?」

「うん!たぶん!」


 私は経験がないから知らないけど、男の人って常日頃からエロいことばっかり考えてるって言うし。


「あらあら、お客様はおませさんですね~」

「エメラルダさんは性格も優しいから、きっかけさえ掴めれば後は入れ食いですよ!」

「そんなことはないわ。私は職場でも男の人たちから敬遠されているし……」

「それはきっと周りの男どもが見る目ないだけですよ!大丈夫です!自信を持ってください!エメラルダさんは素敵です!なんだったら私が保証人になっても良いくらいです!」


 恋愛保証人ルナ!なんちゃって。


「ありがとう。そこまで言ってくれるのなら、これでお願いしようかしら」

「畏まりました~。ありがとうございます~」


 それからエメラルダさんはサイズ合わせのための採寸をして、後日取りに来ることとなった。

 お店から外へ出るとエメラルダさんから改めてお礼を言われた。


「今日は本当にありがとう。凄く助かったわ」

「少しお役に立てたのなら良かったです。お見合いが成功するように願ってますね!」

「あなたももう道端で寝ないようにね。いくら治安が良いと言っても危ないから」

「うん、それじゃあ頑張ってくださいね!さようなら!」


 私はエメラルダさんにお別れを告げると手を振って走り出した。


「あっ…………あの子、道は分かっているのかしら」


 そして案の定迷子になって、私の捜索に出ていた騎士たちに保護される結果となってしまった。

 心配かけないように、「都合により屋敷を出ます。どうか探さないでください」って手紙置いて来たのにこの信用の無さ。

 でも探してくれてほんっとーーーーに助かりました。例え後でパパから嵐の如くこってりと叱られてしまったとしても……。

 みんな迷惑を掛けて本当にごめんなさい!

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