第14話 ホームシックになっても働きたくないでござる
とは言え許嫁との顔合わせにはまだまだ時間がある。
こっちに来てから魔王も大魔王も仕事で忙しいみたいで、暇を持て余した心私は心配しないようにと置手紙をしたため、屋敷から脱出を図った。
当然普通に出たのでは騎士の人に止められてしまう。
ならばどうするか。
普通に出られないなら魔法で出ればいいじゃない!
ということでまたまた魔法を使ってみました。
屋敷を抜け出してでも私は絶対に働きたくないでござる!
「『エンジェルウィング』」
ああ。自由って素晴らしい。働かないって素晴らしいね!
そんなことを考えながら私は屋敷を見下ろしている。
さっき屋敷を脱出するためだけに覚えたオリジナル魔法エンジェルウィング。その効果は私の体重を軽くするとともに背中に天使の羽を生やし、パタパタと羽を羽ばたかせて飛ぶことができるという凄いのか原始的なのか良く分からない魔法。
もしこれを使ってるときに台風でも来たら知らない場所まで飛ばされそうな気がするけど細かいことはどうでもいいね。
私は鳥になるんだ!
でも虫は食べたくないんだよ!
この二つの望みを叶えてしまった強欲魔法を発動して私は見事に屋敷から脱出した。
しかしここまま飛んでいると目立って仕方がない。
いくら魔法のある世界だからって街中を飛んで移動してる人とかいなかったしね!
だから私は屋敷から外へ出ると人目がないのを確認してすぐに地上へ降り立った。
本当はもっと空を飛んでいたかったんだけど、それはまた帰ってからでいいや。
さて、それじゃあ次の魔法を使わないと。
顔を偽ってでも私は絶対に働きたくないでござる!
「『ファントムフェイス』」
これは私の顔が別人の顔に見えるようになる魔法。
だって私が普通に顔を晒したりなんかしたら通報されると思うんだ。
それは顔が怖いからとかじゃなくて、遺伝子で親が特定できてしまうから。
お祖父ちゃんとパパの顔が有名であることは疑いようのない事実だろうしね!
それから私は一人で街中を徘徊した。
今まで屋敷から外に出たことがなかった私からするとそこはまるで観光地みたいだった。
ヨーロッパのようなレンガ造りの家。
中世風の服装を着て行き交う人々。
いや、これはもう観光というよりも夢の世界に迷い込んだ女の子だよね。版権とか怖いから名前は出せないけど!
すごいすごい!
私はテンションが上がって、両手をいっぱいに広げてぐるぐると踊るように回り続けた。
今まであんまり深く考えたことなかったけど、これって紛う事無きファンタジーの世界だよ!
魔法もあるし、剣なんて持ってる人もいる。
もうそれだけでこの世界が夢に満ち溢れているような錯覚を覚える。
そして私は笑いながら道の端でパタンと仰向けになって寝転がった。
空を見上げると雲ひとつない青天が広がっている。
空の色は地球と同じなんだ。
友ちゃん、元気でやってるかな?
弟くんのことで申し訳ないことになっちゃったけど、できれば気にしないで生きて欲しい。
そうだ!ここから魔法を使ってみよう!もしかするとこの世界からでも魔法は届くかもしれない!
私は両手を天に掲げ、心から願った。
地球のみんな。私は今幸せだから、どうかみんなも幸せになってください!
みんなが私のことを忘れてしまっても、私は絶対に働きたくないでござる!
「『ロストメモリー』」
魔法を発動すると私の身体から強い光が立ち昇り、身体から急激に力が抜けていった。
今まで何度も魔法を使ってきたけど、今までの魔法とは魔力の消費量が桁違いに大きい。これは成功かな?
でもすごい眩暈がする……。これは寝たまま発動して正解だったかも……。
この魔法でみんなが幸せになれるとは限らない……。
でも、上手くいってるといいな…………。
私との思い出が……悲しいものであって欲しくない……。
ああ、もうだめだ、意識が……たもて……な……い…………。
「……ん…………」
うーん、なんだろう。なんだかいい匂いがする。それに何だか頭に柔らかい感触があって気持ちいい。この感触には覚えがある。友ちゃんだ。友ちゃんの膝枕だ。
重いまぶたをゆっくりと上げるとそこには想像通りの人影があった。
「友ちゃん……」
友ちゃんだ。本当は会いたかった。異世界に来てもずっと会いたかったんだよ。
涙が滲み出てくる。
本当は心細かったんだ。いくら転生したからと言っても、私からすれば知らないところに一人で来て五年が経過しただけ。心細くないはずがない。
異世界に来るなら友ちゃんと一緒が良かった。一緒が良かったんだよ。
「大丈夫?」
その声を聞いた瞬間に私の意識は急速に覚醒した。
友ちゃんじゃない!?




