第13話 竜がいたって働きたくないでござる
「そうだ。まだ言ってなかったか?」
「聞いてませんよ……」
「そうだったか。てっきり言っているものとばかり思っていたのだが……」
「しかしローザレイン殿ですか」
「パパ知ってるの?」
「ああ。所属する部隊ゆえか色々と噂の絶えない人だからな」
「う、噂?」
「まぁ噂は所詮噂だ。会って自分で判断するといい」
気になる!そのすっごく気になるんだけど!
「あの……一応確認しておきますけど私の許嫁の話ですよね?私五歳ですよ?」
私がそう言うとお祖父ちゃんは不思議そうな顔をして言った。
「ルナは年下の方が好きなのか?」
いや、この精神年齢で年下に興味持ってたらヤバイでしょ。まぁそのことをパパたちには秘密なんだけど。
「特に拘りはないですけど、その人は何歳なんですか?幾らなんでも年の差が開きすぎていませんか?」
「確か今年で……二十八だったはずだが」
「え、それって私が十六歳で成人を迎えたときには四十手前ですよね?私が言うのもなんですけど、子供とか作らなくていいんですか?」
この世界にしてはかなりの高齢出産になるだろうし、そんな年まで独身でいてもらうなんて向こうも迷惑でしょ。
「それならば心配ない」
心配ないって……もしかして子供は二人目の奥さんをもらって作ればいいとかそういう話?いくらなんでもそんなことはできないよ。
「特務魔導部隊はその半数がドラゴンスレイヤーで結成されている。当然ローザレインもそのうちの一人だ。」
「え、ドラゴンスレイヤー?」
「その名のとおり、ドラゴンを討伐したことのある者に与えられる称号だ」
「ドラゴン!?ドラゴンって実在の生物だったんですか!?」
ママの読んでくれた絵本にも悪役としてかなりの頻度で登場していたけど、あれは絵本の中だけの存在だと思ってた。
「ああ。しかしドラゴンは物語で語られるように一人の英雄によって倒されるような生き物ではない。あれは災害と同じようなものだ。実際の討伐は選りすぐられた数百人の精鋭たちによって行われている。儂が生まれてからこの国ではドラゴンの討伐が二度にわたって行われているが、いずれも悲惨なものであった。そしてそのうちの一つが五年前にあった『ブラックドラゴン討伐』だ」
五年前って……。
「もしかして私の産まれたときに?」
「ああ、その討伐隊には私とクロードも討伐に参加していた」
「それじゃあ、お祖父ちゃんとパパもドラゴンスレイヤーなの?」
そう聞くと二人ともが頷いて答えた。
「あの討伐は五百人の精鋭によって行われたが、最後まで生き残っていたのは儂らを含む百二十一名だけだ」
「あの戦いで多くの仲間たちを失った」
そう答えた二人の表情は深刻なものであった。
その様子に私は息を飲みこんだ。
それって討伐隊に選ばれた時点でほとんど生きて帰れる可能性がないってことじゃない!
「そして討伐隊は特務魔導部隊を中心結成される。特務魔導部隊とは元々ドラゴン討伐のために組織された部隊なのだ」
「そんな……」
「五年前の討伐で半数以下にまで減ってしまったが、少しずつ補充が行われ、現在では八十六名まで増員されている」
「その人たちはまたドラゴンが出たら討伐に駆り出されることになるんですか?」
「そうだ。当然そのことを納得した者しか入隊することはできない」
命の保障がない……なんてブラック企業どころの話じゃない。
「そして五年前の討伐で前任の隊長を失い、その跡を継いだのがお前の許嫁であるローザレインだ」
ちょっとまって!そんなもの凄い部隊を率いている人が何で私みたいな子供と!?
「それで元の話に戻るわけなのだが、ドラゴンの生き血を浴びた者は寿命が延びる」
「寿命が!?」
「ああ、五十年ほどな」
五十年も!?
「じゃあもしかしてお祖父ちゃんもパパも寿命が延びてるの?」
もしそうだったとしたらパパって私より長生きしちゃうんじゃ……。
「いや、儂らは違う。理由は分かっていないが、血はドラゴンが生きておらねば効果がない。そしてドラゴンが生きているときに血を浴びるほど至近距離で戦えるは特務魔導部隊だけなのだ。最も危険な場所で戦い、最も生還率が高い。それほどに特務魔導部隊に所属する者たちは隔絶した実力を持っている」
「じゃあそのローザレインさんって……」
「次にドラゴンが現れなければルナよりも長生きするかもしれないな」
あの、いきなり話が物凄く重いんですけど!
これって確か許嫁の話でしたよね!?
「特務魔導部隊は平時には対ドラゴン用の訓練を行い、戦争においてもその力を発揮する。今はちょうど任務もなく、訓練を行っている時期だったはずだ。せっかくルナが来てくれたのだからさっそく連絡を入れて会う日取りを決めるとしよう」
ひえええええええええええええ!!!キャリアウーマンじゃなくて軍人みたいな人が来たらどうしよう!「働かない奴は豚だ!働く奴はよく訓練された豚だ!」なんてしごきぬかれることになってしまったら私は生きていく自信がないんだけど!
そして次の日すぐに返答があったらしく、私たちの初対面の日取りはあっさりと決定してしまった。
予定は四日後の夕刻。無事に生還できることを祈るばかりである。




