第12話 恋バナしても働きたくないでござる
中へ入ると巨大なテーブルには既に焼き菓子が置かれており、今まさにメイドさんによって紅茶が準備されているところであった。
そして私とパパはデューお祖父様と向かい合って座ると、お祖父様が私に向かって頭を下げた。
「長い間会いに行くことすらできなくて、すまなかった」
「あ、頭を上げてください!大丈夫です!デューお祖父様が忙しいことは分かっていましたから」
そう、お祖父様はめちゃくちゃ忙しい。なぜならお祖父様はこの国の元帥。侯爵として領地の管理を任されているだけではなく、軍の最高責任者として国の軍事をまるっと任されているのだ!
実質領地の管理はパパがやっているけど、元帥が有事以外に王都を離れられるはずがない。
まさに多忙の極み。今日のこの時間だって簡単には作れなかったんじゃないかな。
そしてこのままいけば将来パパが元帥になって私が領地の管理、そしてまた私の子供が育てば私が元帥になると思われている。当然それだけの能力がなければ元帥なんて無理だろうけど、パパは顔が魔王だから確定されたようなものでしょ。
というかこの国もよくこんな世界を侵略し尽くしてしまいそうな顔の一族に軍の管理を任せようなんて思ったよね!いくらなんでも英断すぎるでしょ!
とにかく私は領地の管理なんてしたくないし、軍の掌握なんてもっと嫌!馬車馬の如く働かされるのなんて嫌でござる!
「そうか、そう言ってくれると助かる。」
そう言ってお祖父様は申し訳なさそうに顔を伏せた。
いや、だって。こんなに働いてる人を責められないでしょ。
「そ、それよりも今回の婚約の話です!」
「おお、喜んでくれるのか」
私がさっそく今回の本題に入ると、お祖父様は顔を綻ばせた。
え、なんでそうなるの!?
「父上。ルナは今回の婚約話、あまり前向きではないそうです」
あまりどころかどう見ても後ろ向きです!
完全に後ろしか見えていませんよ!
「そうなのか?」
お祖父様の視線が私に突き刺さる。
しかし私はお祖父様の目を見てしっかりと答えた。
「はい。自分の結婚相手くらい自分で選びたいんです」
はい出ましたこの言葉。これを前世で何回言っていたことか。
実家からお見合い話を持ってくる母を全てこの言葉で撃退。結婚相手くらい自分で選ぶから、と。しかしこれを言うと母から反撃が来る。あなたが選んでも相手から選ばれなきゃ意味ないでしょ、と。
はいその通りです。
あれ、もしかして撃退できてない?
「まさか既に好いた者でもいるのか?」
いやいや。まだ五歳ですから!
「今はいませんけど……」
「そうか。ならば問おう、ルナはどういった者が好みなのだ?」
え、何?恋バナ?お祖父様と初対面にして一時間もしないうちに恋バナなの?
「ええっと、私の好みは……」
私の代わりに仕事をしてくれる人だから……。
「ついつい人の仕事を奪ってまでやってしまうバリバリのキャリアウーマンのような人?所謂出来る女と呼ばれるような人です」
そんな人との結婚なら有かもしれない。
家庭は私に任せて是非私の代わって働いて欲しい!
「ふむ。クロードとは逆なのだな。もしルナもクロードのようにロザリーのような女子が良いと言うのであれば断ることになるかもしれぬとも思っていたが、今回の話はまさに天命であったのやもしれぬな」
「え、それってどういう……」
「ルナの許嫁となった女性はまさしくルナの好みに当てはまっているのだ」
「え!?」
そうなの!?ちょっとこの展開は予想外過ぎるんだけど!
「ああ。その相手の女性というのが私の部下に当たるのだが」
お祖父様の部下!?
「きっと将来お前の隣に立ち、共に戦場を駆け抜けてくれることだろう」
ちょ、ちょっと待って!どこからツッコめばいいの!?ツッコミどころがありすぎて分からない!どこからツッコめばいいのか分からないよ!
「優秀過ぎるがゆえに、他の部隊に指示するはずだった任務を自らこなしてしまうところは女として玉に瑕であるかとも思ったが、まさかルナの好みと一致しているとは儂も思わなかった」
私もだよ!
え?もしかして選択肢間違えた?ママみたいな人がいいって言っておけば今回の話は流れてたの!?
というか確かに私はさっきそう言ったけど、軍事関連の話に置き換えられた途端に何かが違う気がするのは気のせいだろうか……。
「その所為か嫁の貰い手もなく」
よく嫁の貰い手のない人を自分の孫の嫁にしようと思ったね!
「その者の父からどこかに良い者はいないか相談があったのだ」
「それは……もしかしてルナの許嫁というのは特務魔導部隊百人長ローザレイン殿のことですか?」




