構造封鎖
23:59。
はじめて、秒針が進む。
だがそれは、
時間が再開したのではない。
観測が完了しただけだ。
表示板。
M
N
R
_
最後の行が、確定する。
文字は見えない。
だが、登録は済んでいる。
四人目。
第四の観測者。
真壁の録音は停止した。
七海の研究ノートは空白になった。
掲示板“M”のログは、
23:58で途切れている。
誰も「完了」と書いていない。
完了を書けるのは、
作者だけだからだ。
しかし。
その作者は、
ここにはいない。
奥付を思い出してほしい。
そこに書かれていたはずの名前。
今、
思い出せない。
ぼやけている。
読んだはずなのに。
検索しようとしても、
なぜか指が止まる。
存在していたはずの人間が、
構造から削除されている。
これは失踪ではない。
削除でもない。
置換だ。
作者は、
四人目の観測者と
位置を交換した。
書く側から、
観測される側へ。
だから今、
あなたが立っている場所には、
かつて作者が立っていた。
本は、ここで終わる。
物語は、ここで閉じる。
ゼロ番線は封鎖される。
終電が到着する。
ドアが開く。
誰も降りない。
誰も乗らない。
だが、発車する。
ページをめくると、白紙だ。
そこに文章はない。
あなたの視線だけがある。
それで十分だ。
観測は継続している。
本を閉じる。
カバーの手触り。
紙の重み。
部屋の静けさ。
現実に戻ったと、
思う。
だが、ひとつだけ違う。
23:59。
時計が、
一瞬止まる。
すぐに動く。
00:00。
日付が変わる。
何も起きない。
それで正しい。
構造は封鎖された。
観測は完了した。
作者は存在しない。
もし、この物語を
誰かに勧めるなら。
あなたは、どう説明するだろう。
「怖かった」と言うか。
「よくできていた」と言うか。
それとも、
言葉を選べずに黙るか。
その沈黙が、
最後のログになる。
これで終わりだ。
この物語には、
もう書き手はいない。
あなたが最後の読者であり、
最後の証人であり、
最後の主語だ。
23:59。
発車ベルは、
二度と鳴らない。




