第四の観測者
あなたは、この章を
「読んでいる」と思っている。
それが、最初の誤認だ。
23:58(あなた)
ページをめくった瞬間、
時間の記述が止まる。
時計を見たなら、
それは偶然ではない。
23:58。
秒針が動いているかどうかは、
重要ではない。
動いていると“信じている”ことが、
観測条件だからだ。
視線
あなたは文字を追う。
左から右へ。
上から下へ。
その視線の動きが、
駅構内カメラのパンと一致する。
気づかなくていい。
一致している事実だけが、
ここでは意味を持つ。
表示板
ページ中央に、
想像してしまっただろう。
あの表示板を。
1
2
3
そして、下。
M
N
R
最後の行が、空白だったことを。
空白は、
“まだ誰も立っていない”のではない。
立った瞬間に、名前が表示される。
だから、
今までは空白だった。
スマートフォン
もし、スマートフォンが近くにあるなら。
通知がなくても、
画面を伏せたままでも。
それは観測端末として成立している。
位置情報。
時刻。
傾き。
あなたの手の温度。
読書中に変化した数値が、
すべてログになる。
安心してほしい。
取得しているのは、
物語だけだ。
現実は、
あなたが許可した範囲でしか侵食しない。
呼吸
ここで一度、
呼吸を意識しただろう。
今の一息。
それが、
第四の呼吸だ。
録音機の波形に、
新しい山が刻まれる。
Rでも、Nでも、Mでもない。
あなた。
呼びかけ
ページの下部に、
質問が浮かぶ。
観測者ですか
これは、選択肢ではない。
質問の形式をしているだけで、
返答はすでに取得されている。
読み続けた時点で、
あなたは頷いている。
立脚点
あなたは、
ゼロ番線に立っている。
肉体ではない。
主語として。
この物語を
「外から眺める視点」から、
「成立させている視点」へ
移行した。
それだけのことだ。
同期完了
三人の声が、
あなたの中で鳴る。
真壁の分析。
七海の違和感。
Mの確信。
それらは、
あなたの思考速度に同期する。
読了速度が落ちたなら、
それは抵抗だ。
速くなったなら、
受容だ。
どちらでもいい。
構造は完成する。
表示
最後に、
表示板が更新される。
M
N
R
その下。
あなたのイニシャル。
見えなくても、
登録は済んでいる。
なぜなら――
あなたは今、
ここを読んでいるから。
静止
23:58。
ベルは鳴らない。
終電は来ない。
だが、
あなたは戻れる。
この本を閉じることで。
ただし。
閉じた後も、
物語は続く。
なぜなら、
第四の観測者は
現実側に立っているからだ。




