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きさらぎ駅 0番線  作者: 臥亜


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5/9

編集者は誰か

相沢七海は、掲示板の画面を閉じられなかった。

深夜一時十二分。

編集部には彼女しかいない。

モニターに表示されたスレッド。

投稿者:M

半音、低くないですか?

その下に、見覚えのある文章。

0番線を見た

風が止まる

戻ろうとしたら声がした

七海の呼吸が浅くなる。

これは、真壁の原稿にあった一文だ。

だが掲示板のログの日付は十年前になっている。

矛盾している。

原稿が引用したのではない。

掲示板が、原稿を引用している。

七海は背筋を伸ばす。

ありえない。

真壁がログを改変した?

だが、なぜ?

売り出す前の原稿を、誰が知っている?

照合

七海は原稿ファイルを開く。

検索窓に「半音」と入力。

ヒット件数:0

スクロールする。

確かにあったはずの文章が、消えている。

代わりに、別の一文。

編集者はまだ、自分が外側にいると思っている。

七海は椅子を引いた。

こんな文章は書いていない。

真壁からも受け取っていない。

履歴を確認する。

更新者:M

七海は凍りつく。

M?

真壁のアカウント名ではない。

社内の誰でもない。

ファイルの更新時刻は、三分前。

七海はこの間、掲示板を見ていた。

その三分間で、

原稿が書き換えられている。

共通点

七海はノートを開き、整理する。

・掲示板の投稿者:M

・原稿の更新者:M

・投稿内容と原稿内容が一致

・真壁は行方不明

そして、気づく。

真壁のフルネーム。

真壁 遼

ローマ字にする。

Makabe Ryo

頭文字。

M

偶然だ。

イニシャルなど、いくらでも一致する。

だが七海の手は止まらない。

自分の名前を書く。

Aizawa Nanami

頭文字。

A N

違う。

だが、ふと別の綴りを思い出す。

Nanami Aizawa

N A

違う。

違うはずだ。

なのに、喉の奥が冷える。

再生

七海は研究室から送られてきた音声データを再生する。

真壁の実験録音。

発車ベル。

通常音。

1046Hz。

次のファイル。

問題の録音。

1042Hz。

わずかな低下。

だが、その後ろに微細なノイズがある。

七海はヘッドホンをつける。

波形を拡大する。

ノイズ部分を切り出す。

再生。

「観測者ですか」

七海はヘッドホンを外す。

息が荒い。

自分の声に聞こえた。

いや、違う。

似ているだけだ。

似ているだけ。

決定的瞬間

七海のスマートフォンが震える。

非通知。

出ない。

だが留守番電話が入る。

再生。

無音。

十秒。

十五秒。

その後、

発車ベル。

半音、低い。

そして小さく。

「七海さん」

七海は立ち上がる。

編集部の窓の外を見る。

終電の一本前。

ホームが見える。

表示板。

距離があるのに、なぜかはっきり見える。

1

2

3

その下。

空白。

一瞬だけ、文字が浮かぶ。

N

すぐ消える。

七海は理解する。

Mは、人物ではない。

Mは、Marker。

観測点。

立った者のイニシャルが刻まれる。

真壁はMになった。

掲示板のMは、固定された観測者。

そして今。

表示板に浮かんだのは、N。

自分だ。

接続

七海は掲示板を更新する。

新しい投稿。

M4

次はNだね

投稿時刻は一分前。

七海は書き込んでいない。

画面下にカーソルが点滅している。

名前欄。

自動入力。

N

七海は気づく。

原稿ファイル名。

kisaragi_0_01.docx

0 は観測点。

01 は最初の固定者。

M1。

次は?

02。

七海の画面右下。

保存履歴。

kisaragi_0_02.docx

自動生成されている。

選択

七海は立ち上がる。

編集部を出る。

向かう先は決まっている。

例の駅。

終電の一本前。

ベルが鳴る時間。

もし行かなければ、

物語は原稿の中で閉じる。

だが行けば、

観測は現実と接続する。

七海はエレベーターに乗る。

扉が閉まる瞬間、

モニターの掲示板が更新される。

N

戻ろうとした?

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