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61、闇賭博場


「うぉぉっ!」

「また勝ったぞっ」

「おい、あの赤毛にメダル30枚を賭けるっ」

「俺は50枚だっ」


階下からの歓声が凄いな。


エルデ君は順調に勝ち上がっていて、しかも今まですべての相手を一撃でKОしている。

おかげで彼の人気はうなぎ登りだ。


「お、おい。どうなってんだ」

「百発百中じゃねぇか」

 こっちの騒ぎはリシュー君。


ダーツを動く的に当てるという賭けだが、感知されないくらいの微力で風魔法を使いエルデ君同様に無双している。

その緻密な魔法操作はさすがの一言だ。


最近は暇さえあればエルデ君と魔法剣の特訓をしているからね。

リシュー君の前に積み上げられたメダルの山がその成果を現わしているな。


そして私はと言うと…。


『風の9と土の5よぉ』

 メネの言葉に目線で応えると手にしたカードをオープンさせる。


「またあの娘の勝ちだ」

「幸運のスキル持ちなんじゃねぇか?」

「なあ、俺と組まねぇか」

 背後からそんな声が聞こえるが、サクッとスルーしてテーブルの上に置いた倍の数のメダルをもらう。


私がやっているのは『HIGH&LОW』だ。

ルールは至ってシンプル、配られた2枚の足した数字がディーラー役のカードより大きければ勝ち。

下だと判断したらパスすればいい。


此方にもトランプのようなカードがあり、絵柄は『火』『水』『風』『土』で四大魔法を現わしている。

数字は1から12まで、こっちも一年が12ヶ月なのでそれに倣ったのだろう。


ディーラーと数が同じな場合、絵柄の強い方が勝ちとなる。

つまり『火』は『水』に弱く、『水』は『風』に『風』は『土』、『土』は『火』にとジャンケンのように勝てない相手がいるという設定だ。


メネがこっそりディーラーのカードの内容を教えてくれるおかげで今のところ負け無しだ。


「何とも羨ましい限りですな」

 そう声をかけて来たのは私の隣に座っている、如何にも毎日イイ物をたっぷり食べてますと言った体形の商人風の男だ。


「たまたまです。私よりそちらの方が儲けは大きいのでは」

 ちまちまと10枚単位で賭けている私と違い、あちらは常に百枚以上をテーブルに乗せている。


負けたらすべて持って行かれてしまうが、勝てば倍の数のメダルが積み上がって行く様は壮観だ。


だがこっそりかけた鑑定で、彼はこの賭博場に雇われた『サクラ』だということが判明している。


負けても次に勝てば元を取り戻すだけでなく大儲けできる。

それを体現することで他の客たちに希望を持たせ、さらなる勝負に向かわせる役だ。


その効果は覿面で、男の豪快な勝負に煽られ誰もが熱に浮かされたようにテーブルの上にメダルを積み上げて行く。


『完全に正常な判断が出来なくなっているわねぇ』

 メネが呆れ顔で勝負に目の色を変えている客たちを見回す。


「…集団心理ってのは怖いね」

 その様を見ながら私も小さく呟く。


バーゲン会場で周囲が我先に品物を手に取るので、その勢いに押されてつい必要のない物まで買ってしまうというヤツだ。

頭が冷えた後で物凄く後悔するのも一緒だな。


「さて、そろそろ大一番と行きますか」

 しばらく勝負を続けて頃合い良しと判断して手持ちのメダルすべてを台の上に置く。

その数は約5百枚…これには周囲の誰もが驚愕し、ディーラーも思いっきり顔色を変えた。


「何をしているのです?早く始めて下さい」

 固まってしまったディーラーにそう声をかけると、ぎくしゃくした動きで頷くが。


「これほどの大金を賭けて後悔しませんか?今ならまだ間に合いますよ」

 隣にいた商人風の男…サクラが親切ごかしにそう言いながら勝負を止めさせようとする。


しかし私の答えは一つだ。


「構いません、始めて下さい」

 毅然と言葉を綴れば、ディーラーが大量の汗を搔きながらカードに手を乗せる。


『こっそりカードを交換してるわ』

 ディーラーの後にいるメネが呆れ顔でそんなことを言う。


まあ、胴元にしたら此処は絶対に負けられないからね。

イカサマを仕掛けてくるのは想定内だ。


「オープン」

 声と共にテーブルにいるお客全員が手持ちのカードを裏返す。


「ば、馬鹿なっ」

 驚きに目を見開くディーラーの前には水の12と11のカード。


対する彼の手元にあるのは…火の12と11。


この場合、数は同じだが火は水に消されるので私の方が強い。

つまり私の勝ちだ。


「おおぉっ!」

「凄げぇぞっ」

「あの娘がまた勝ったっ」

 一瞬の沈黙の後、私の周りで怒号に近い歓声が上がる。


「どうしました?早くメダルを下さい」

 私の声に完全に色を失くしたディーラーはカクカクと首を縦に振るが。


「しばしお待ちを」

 初老の男性が痩せた顔に幾筋もの汗を流しながら割って入って来た。

この賭博場の支配人だそうだ。


「これだけ大量ですと御用意できるまで時間がかかります。少しの間ラウンジでお休みいただけますか」

「分かりました」

 素直に頷くとテーブルの上にあった自分の分のメダルを収納して席を立つ。


「…収納のスキル持ちか」

 小さく呟いた支配人の眼は完全に獲物を見るものになっている。

どうせ奴隷として売り出す時の付加価値が増えたと皮算用でもしているのだろう。



「もう終わり?」

「は、はい。次の的が設置されるまでお待ちください」

 似たような会話をしているのはリシュー君。

勝ち続けた所為で私同様ストップがかかったようだ。


「カナエっ」

 私の姿に気付いて笑顔で此方に走り寄って来る。


「そっちも大勝ちみたいね」

「うん、全部の的を落とせたよ」

 そう言ってから小声で言葉を継ぐ。


「当たる寸前で的が上下に動く仕掛けがあったけど、構わずに当ててたら凄く焦ってた」

「やっぱり此処ではまともな勝負は望めないね」

 軽く肩を竦める私に、だったらと少し心配そうにリシュー君は階下に目を向ける。


「エルデ…大丈夫かな」

『心配ないわよ。今のあの子に剣無しで勝てるのは魔王さまくらいだもの』

 そう言って笑うとメネは先に立って階下へ通じる階段へと飛んで行く。


「確かにね。ってことで見に行ってみようか」

「うん」

 リシュー君と連れ立って下に降りると、闘技場ではちょうど最終試合が始まるところだった。


「いけーっ、お前には全財産を賭けてんだっ」

「おう、俺もだっ」

「何が何でも勝てーっ」

 欲にまみれた声援が凄いな。


高さ1m直径7m程の円状の台にエルデ君が姿を現わすと声援がさらに激しくなる。


「期待の新人『エル』の登場だぁ。その戦いは一撃必殺、どんな相手も一瞬で倒して来た強者、彼が勝てば掛け金は3倍になるぅぅ」

 リングアナウンサーらしき人がエルデ君を紹介してゆく。

特に掛け金のことを口にしたら闘技場全体を揺るがす大歓声が沸き起こった。


「そんな彼に対するは…」

 ゆらりと反対側の登場口からフード付きローブを羽織った巨大な人影が現れた。


「歴代チャンプの中でも最強と謳われた『不敗のブルーム』だぁ」

 バサっと音を立ててローブが投げ捨てられる。

その下から現れたのは…筋骨隆々の青い髪の男だった。


首にある黒い『支配の輪』が彼が奴隷であることを示している。

どうやら此処の賭博場お抱えの相手のようだ。


「…そういうことか」

『何よぉ?』

「どうかした」

 小さく嗤う私に気付いたメネとリシュー君が此方を覗き込む。


「鑑定をかけてみたら相手の種族が『竜人』になってた」

『はい?』

「な、なんで?」

 驚く2人に種明かしをする。


「腕に着けてるリング。あれって『変わり身の金環』と似たような効果がある魔道具だよ。もちろん性能はエルデ君の方がずっと良いけど。それで姿を人族に変えてる」

『…つまりこっちもイカサマってことね』

 呆れるメネに肩を竦めながら頷く。


「どんなに強くとも人族や獣人族が竜人に勝てる訳は無いからね。絶対に胴元が損をしないようになってるってことだよ。ま、それはこっちもだけど」

 二ッと笑うとメネとリシュー君も苦笑を浮かべた。


『確かにそうだわね』

「同じ竜人でもエルデの方が強いよね。毎日あれだけ魔王様に鍛えてもらってるんだもの」

 鍛えるというか…あれは立派な虐待だとは思うが、当人が満足しているので余計な口出しは無用だろう。


観衆が見守る中、赤髪のエルデ君と青髪のブルームとやらが対峙する。


どちらも相手に鋭い視線を向け合うさまは喧嘩上等のヤンキーそのものだ。


「悪いがアンタの不敗伝説は今日で終いにさせてもらうぜ」

 ハッと鼻で嗤うエルデ君に相手は何も返さない。

表情を変えることなくエルデ君を見下ろしている。


口を利く価値もないと完全に格下扱いのようだ。


さて、その余裕の表情がいつまで続くか見ものだな。


「それでは…始めっ!」

 リングアナウンサーの声と共にすぐさま互いに拳を握って構えを取る。


最初に仕掛けたのはエルデ君。

素早いパンチが相手の顔面に向かうが、いとも簡単に躱されてしまう。


「こなくそっ」

 そのまま連打して行くが全く当たらない。


エルデ君は相手が竜人ということを知らないからな。

人族と思って手加減してるんだろう。


「チッ」

 小さく舌打ちをすると態勢を立て直すために一旦後ろに下がる。


「どうした?もう終わりか」

 せせら笑うと漸くにして相手が動く。


「なっ、早ぇっ!」

 まさしく目にも止まらぬ速さでエルデ君の側に移動すると、その腹を目掛けて拳が打ち付けられた。


「グォっ」

 ズドンと物凄く重い音と同時にエルデ君の身体が吹っ飛ぶ。


そのまま場外に落ちるかと思われたが、既のところで踏み止まった。


「ふん、落ちれば楽になったのにな」

 小馬鹿にしたように言葉を綴った相手だったが、その瞳が驚きに見開かれる。


「お返しだぜっ」

 床を蹴るなり凄いスピードで相手に迫り。


「ガハッ」

 その腹に同じように重い拳を叩き込む。

次にはその巨体が後方へと吹き飛んで行った。


「くっ…」

 両手をついて勢いを殺し何とか落下を阻止するが、その身に受けたダメージは甚大だ。


「落ちたら楽になったのによ」

 お返しとばかりに同じセリフを口にするとニヤリとエルデ君が不敵に笑う。

どうやら彼も相手の正体に気付いたようだ。


それを見てブルームは怒りの表情を浮かべて立ち上がると拳を固めた。


「…もう手加減は無しだ。死んでも俺を恨むなよ」

「ケッ、その言葉はそっくりテメェに返すぜ」

 睨み合う両者。


だがすぐにお互い猛然と拳を振るい始めた。


絶え間なく拳が両者の顔や腹に命中し、メチャクチャ痛そうな打撃音が周囲に響き渡る。

しかしどちらの足も微動だにせず殴り合いを続けている。


「す、凄いね」

 その迫力にリシュー君から感嘆の声が漏れた。


『まさに漢の戦いね』

 感心したようにその様を眺めるメネ。


それは周りを囲む観客も同じでさっきまでの大声援は消え去り、今は声を出すことなく目の前で繰り広げられる勝負に見入っている。


そしてついにその戦いに終止符が打たれる時が来た。


「これでラストだぁっ!」

「ぬぉぉっ」


軽いステップで少し離れて距離を取ったかと思ったら、2人して構えを取り激突する。


ゴギンィンっ。

大きな音の後で両者の動きが停まる。


ブルームの拳はエルデ君の蟀谷(こめかみ)のすぐ横に、エルデ君の拳は相手の左頬を捕らえていた。


次の瞬間、スローモーションのようにブルームの身体が床に倒れ込む。

その勢いのままエルデ君がその腹を軽く蹴ることでブルームを闘技台の下へと落とし込んだ。


水を打ったように静まり返る場内。

その沈黙を破ってエルデ君が口を開く。


「おい、俺の勝ちでいいんだな」

 その声に我に返ったようにリングアナウンサーが慌てて片手を高々と上げた。


「し、勝者はエルっ」

 その宣言を掻き消すように周囲から大歓声が沸き起こる。


大穴扱いだったエルデ君が勝ったので、彼に賭けた者たちが躍り上がって歓喜している。


彼らに渡す配当額はとんでもないものになっただろう。

私やリシュー君よりずっと組織壊滅に貢献してるな。


「い、イカサマだっ」

 そんなことを考えていたらさっきの支配人が出て来て声高に叫んだ。


「よってこの勝負は無効だっ!」

「はぁ、何言ってやがるっ」

「ふざけんなっ」

 怒った客が怒り心頭といった様子で支配人に詰めよるが、屈強な男たちに阻まれてしまう。


だがそれが余計に客たちの怒りを増大させたようだ。

口々に不満を叫びながら支配人の方へと向かって行く。

このままだと暴動になるな。


しかしそれは杞憂に終わる。


「…静かにしろ」

 たった一言。

あれだけ騒いでいた誰もが口を閉ざして固まった。


威厳に満ちた佇まいの赤茶色の髪をした男が闘技台の上に姿を現わした。


「あ、あんたは…」

 問いかけたエルデ君の声が震えている。


それほど目の前の男から放たれる威圧は凄まじい。

魔王様と同等…いや、もしかしたらそれ以上かも。


そんな彼が徐に口を開く。


「俺か?ただのしがない雇われディーラーだ」


いや、しがないとかその言葉がこれほど合わない者はいないだろ。

そう心の中でツッコミつつ私たちは事の成り行きを見守ることにした。



読んでいただきありがとうございます。

次回「62話 謎のディラー」は金曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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