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58、首都攻防戦


「此処らが最適かな」

 都の外れにある広い空き地。

本来は毎年秋に行われる弓の大会用の場所をぐるりと見回す。


都からは距離があるし、世界樹の根も末端しか届いて無い。

此処で大立ち回りをしてもそう大きな被害を受けることは無いだろうと神官長さんのお墨付きだ。


「それで具体的にはどうするのだ?」

 立会人として同行して来たミアーハさんが聞いてきた。

その背後には完全武装した弓隊と魔法部隊を率いたキリカさんが控えている。


聞いたらキリカさんはミアーハさんの副官をする前は守備隊の部隊長だったとか。

その経歴もあって今回の討伐の司令官を任されたのだそうだ。


事態を重く見た元老会により、どちらの部隊もレジェンド級の猛者を揃えたとか。

ぜひ頑張っていただきたい。


「敵の狙いは神気です。なので世界樹よりも多くの神気を用意すれば此処にやって来るかと、それを皆さんに倒してもらいます」

 今回の計画を話すとミアーハさんが呆気に取られた顔をする。


「だ、だが世界樹様以上の神気などどうやって」

「こうやってですが」

 言いながら2m四方の透明な箱状の結界を展開する。


次に収納から大量のペットボトル…こんなこともあろうかとコピー袋で地道に増やしておいた物を取り出して地に並べた。


「それはいったい…」

 ペットボトルなんて初めて見ただろうミアーハさんが訝し気な眼差しを向ける。


「まあ、見てもらった方が早いですね。みんなお願い」

「うん、任せて」

 意気込むリシュー君が風魔法ですべてのペットボトルを結界の上空へと浮かべる。


「やるぜぇっ」

「行くぞっ」

 続いてエルデ君とターリク君が剣と刃付きブーメランで次々と真っ二つに両断する。


たちまち中身が結界の中へと落ちて行き、弾ける水飛沫が陽の光を反射して小さな虹を作るさまは凄く綺麗だ。


「うん、計画通りっと」

 空になったペットボトルを収納してから改めて結界箱をみやると、物凄い神気が溢れ出ているのが私でも分かる。


「こ、これは…」

 立ち昇る神気の量に思い切りドン引きしながらミアーハさんがこっちを見る。

 

「大量の『超神聖水』ですが、何か?」

「はあぁっ!?」

 おお、普段はポーカーフェイスなミアーハさんの貴重な絶叫顔いただきました。


でもさすがはエルフ。

ムンクの叫びにはならず、ちゃんと美人のままだった。


「な、何故そのようなものを」

 びっくり目でこっちを見ているので、しれっと言い返す。


「そこは企業秘密で」

 ニッと笑って見せたら…どうした訳か此処にいるエルフ全員が思いっきり怯え顔になった。


『来るわよっ』

 そんな遣り取りをしていたらメネが気合の入った様子で此方に飛んで来た。


それからすぐに辺りに響く地鳴りと振動。


「あれはっ!?」

 魔法部隊の一人が指さす先の地面が大きく割れた。


「出たなっ!」

 キリカさんが叫ぶ中、その割れた隙間から出て来たのは…黒くて長い2本の触覚だった。


次いで赤褐色の頭と黒色の胴体に無数に蠢くオレンジ色の足が現れた。


「き、気持ち悪い」

 リシュー君の意見には私も全面同意。


その姿は地球のムカデによく似ていた。


実家の裏庭や押し入れの隅に現れては虫嫌いの兄がよく悲鳴を上げていたなーと思い出す。

出る度に私が割り箸で摘まんで処理したものだ。


そもそもムカデは日本神話の大国主神が根の国に行った話にも出てきたりと結構馴染み深い虫なんだが、さすがに体長20mを越すと嫌悪しか生まれない。


「あれで間違いねぇか?」

 ムカデを指さして確認してきたエルデ君に向かい大きく頷く。


「鑑定したら『創造神眷属の使徒』ってある。それと『クレイフィギュリン』も」

 

土偶(クレイフィギュリン)…つまりあれはクソ邪神によって造られた物。

生き物でない以上、いつもの私の結界に閉じ込めて酸素を抜く攻撃は使えない。



「弓隊、前へっ」

 大ムカデの出現に一瞬は動揺したが、そこは精鋭の守備隊。

キリカさんの声にすぐに戦闘態勢を整えて攻撃に入る。


「放てっ!」

 キリカさんが振り上げた手に合わせて数多くの矢が大ムカデに撃ち込まれて行く。


しかし…。


「弾き返すだとっ!?」

 どうやら黒光りする体には攻撃耐性があるらしく、すべての矢が刺さることなく地に落ちて行く。


「ならばっ、魔法部隊っ!」

 弓隊が下がり、代わって杖を構えた魔法師たちが前に来る。


杖を手に声を合わせて詠唱し、次にはその頭上に多くの火球や水球、竜巻に土の槍を出現させると一斉に大ムカデに向けて放つ。


凄まじい爆音がした後は周囲は黒い煙に包まれて何も見えない。


「やったかっ?」

 禁断の言葉を吐いたエルデ君にリシュー君が焦った顔を向ける。


「それってフラグだよ」

 ため息混じりにリシュー君が呟くと慌てて口を塞いだエルデ君だったが、時すでに遅し。


徐々に煙が晴れて行き、そこに現れたのは…。


「くっ、これも効かぬかっ」

 悔し気に大ムカデを睨みつけるキリカさん。


悠然と頭を高く上げる大ムカデにまったく変化は見られない。

どうやら攻撃耐性だけでなくアンチマジックのスキルもあるようだ。


「これは地道に攻撃して行くしかないね」

 トカラダンジョンにいたワーム系の魔物と同じだ。

ちまちまと体力を削って倒すしかない。


ため息を吐いた私の方へ猛然と大ムカデが迫って来た。

私の傍らにある大量の『超神聖水』を狙ってのことだ。


「お預けっ」

 言うなり結界ごと『超神聖水』を収納する。

これ以上、クソ邪神に力を付けさせる気は無いからね。


突然消えてしまった獲物に大ムカデがチキチキと歯ぎしりのような怒りの声を上げる。


が、すぐに反転して地中に戻ろうとする。


「させるかっ」

 その周りごと黒色の強力結界で囲んで拘束した。

檻状にして隙間から此方の攻撃が通るようにしておく。


「これで逃げられないよ。後はよろしく」

「おう、任せておけっ」

 楽し気に片手を上げるとエルデ君が魔剣を掲げて大ムカデに向かって行く。


「俺らも行くぞ」

「うんっ」

 ターリク君と共にリシュー君もその後に続く。


「弓隊は一点集中にし、魔法部隊は風魔法で助力せよっ」

 キリカさんの指示に各部隊がすぐさま行動に移る。


総力戦ならば私も参加しないとね。


「メネ、ちょっと重いけど大丈夫?」

 言いながら持ち出し袋にあったボトル型のコーヒー缶を取り出す。


『もちろんよ、中精霊に成ったからパワーアップしてるのよぉ』

 嬉々としてそれを受け取ってから大ムカデに顔を向ける。


『いつものようにやればいいのね』

「そういう事、よろしく」

『まっかせなさーいっ』

 バチンとウィンクすると大ムカデの方へとかっ飛んで行く。


『行くわよぉ、えいっ』

 手慣れた様子でメネがその口の中へ手にしたボトルを投げ込む。

そしてしばしの後…。


ボンっという音の後で口から白煙が上がり、途端に苦しみ出す大ムカデ。


『毎度のことだけどカナエちゃんの殺虫剤は効くわねぇ』

 感心するメネに、いやっと首を振る。


「今回の相手は生き物じゃないからね。別のにしたよ」

『…いったい何を使ったの?』

 恐る恐る聞いてきたメネに、しれっと答える。


「塩素系洗浄剤だよ。アルミ缶に入れておくと化学変化を起こして爆発するんだ」


洗剤に含まれる水酸化ナトリウムがアルミと反応し、アルミが溶けて水素ガスが発生して爆発…前にそんな事故のニュースを見たことがあったので真似をしてみた。


アンの進化の影響で缶の強度も洗浄剤の効力も千倍になっているので、思った通りにその威力はバツグンだったようだ。


『な、なるほどねぇ。さすがカナエちゃんだわ。遣る事がエグイ…』

「はい?」

 (すがめ)で聞き返したら、すぐにメネは沈黙を友とした。


「今だっ、顔面に攻撃を集中させろっ」

 キリカさんの声に弓隊が一斉に攻撃を仕掛ける。

魔法部隊は放たれた矢に風魔法を纏わせ、さらに威力を上げて行く。


「俺らは胴体の方だっ」

 言うなりエルデ君が大ムカデの腹に切りつける。


「接合部分を狙えっ」

「分かったっ」 

 続くターリク君が装甲の隙間に刃を突き立てると、それに倣ってリシュー君も精霊剣で同じ場所を攻撃する。


そんな感じで徐々に大ムカデの動きが鈍って来た。


だが敵もさるもの引っ搔くもの。

このままでは終わらないとばかりに大きく身を捩ったかと思ったら、口に生えた鋭い牙から勢い良く緑色の液体を噴射する。


「退避っ!」

 焦った様子でキリカさんが部隊を後方に下がらせた。


すると今まで彼らがいた地面がジュワッと煙を上げて解け崩れる。


「溶解液か、厄介だね」

 その破壊力は凄まじく、たちまち周囲に幾つもの大穴が開いた。


「え?」

「自爆する気か?」

 驚くリシュー君の隣でターリク君が訝し気な視線を向ける中、大ムカデが溶解液を自らの身に掛け出した。


見る間に溶解液だらけになるその身体。

誰もが唖然とその様子を見ていたが、そこで奴の真意に気付く。


「溶解液を鎧代わりにしたのか。あれだとどんな武器もその身に届く前に溶かされてしまうから」

 私の言に周囲に絶望が広がって行く。


「あのクソがっ」

 最初からそうしていれば無駄なダメージを負うことは無かった。

なのにどうして今になってその手を使ったのか。


勝てるかもという希望を与えてから、倒すことは出来ないという事実を突きつけて此方の心を折る為だ。

如何にもあのクソが考えそうなことだ。


『アハハ、今までやって来たことが全部無駄になっちゃったねぇ。残念~っ』

 そう言って腹を抱えて笑うクソ邪神の姿が思い浮かぶ。


「ぶざけんなっ!お前の思い通りになってたまるかっ」

 叫ぶなり大ムカデを囲っている結界の強度を最高値にする。


「か、カナエ!?」

「何を…」

「思い切りブチ切れてるな」

 初めてみるであろう怒り狂っている私の姿にキョドるリシュー君にエルデ君、焦るターリク君。


『ちょっとぉ、落ち着きなさい』

 わたわたとメネが私の周りを飛び回るが完全シカトして両手を空に向けて広げ、次いで力一杯握り締め振り下ろす。


「縮小っ!」

 声と共に檻が小さくなって行き、ミシミシと音を立てて大ムカデが異様な形にひしゃげて行く。


だが奴も簡単に倒される気は無いらしい。


「このっ!」

 渾身の力で結界を壊そうと暴れ始めた。

それを抑え込むべくさらに魔力を放出するが…。


ポタリ…。

滴り落ちる雫と鼻の奥に広がる錆びた鉄の匂い。


「カナエっ!」

 悲鳴のようなリシュー君の声。


思わず拭った手に着いた赤い汚れ。


「鼻血か…カッコ悪い」

 イイ年して鼻血を出す様は不様(ぶざま)以外の何物でもないな。

ぼんやりそんなことを思うが、周囲はそれどころじゃないようだ。


『一気に魔力を使い過ぎよぉぉ』

「不味い、このままだと死ぬぞっ」

 メネに続き真っ青な顔でミアーハさんがそんなことを言う。


「も、もう止めとけっ」

「そうだっ。お前に此処で死なれちゃセドに泣かれるっ」

 テンパって右往左往するエルデ君とターリク君。


「カナエっ」

 リシュー君が決死の形相で此方に駆けて来て私の身体を支えるように抱きしめた。

こんなことしか出来ない自分を責めるように噛み締める唇から血が流れる。


せっかく形の良い口なのに傷付けたらもったいない…暢気にそんなことを考えていたら。



「そこまでだ」

 不意に聞こえた声に空を見上げると。

何か…黒い影が陽の光を背にしてこっちに物凄いスピードで降下してきた。


「あれは…」

 誰もが見つめる中、それが宣言する。


「後は我に任せよっ」

 言うなり腰にあった剣を抜き放つ。


「みんなっ、私の側にっ!」

 メチャクチャ嫌な予感に背を押され、思い切り叫ぶ。


その叫びに慌てた様子でミアーハさんにキリカさんと各部隊、エルデ君たちが集まって来た。


「結界っ!」

 すぐさま周囲に新たな結界を張り、大ムカデの方を解除する。


「斬っ!」

 大きく弧を描いて放たれた閃光。

それは一瞬で大ムカデを縦に真っ二つにした。


「わっ!」

『ぎゃあっ』

 続いて周囲を襲う物凄い剣圧…とういうか衝撃波。


「ふむ、久しぶりに全力で戦える相手と思い少しばかり遣り過ぎたか」

 言葉とは裏腹に楽し気な声が辺りに響いた。


「…ホントに遣り過ぎだぜ」

 唖然と呟くエルデ君の眼前にはメネが作った倍の規模のクレーターが出来上がっている。


当然のことながら大ムカデの姿は何処にもない。

動きが停まった途端、元の土くれに戻ったからね。


「…何で此処にいるんですか。魔王様」

 収納から出したエリクサー(痛み止め)飲み干してから問いかけると。


「ラーメンを食しに来た」

「はい?」

「エルフの都には数多くの店があると聞いたのでな」

「…耳の早いことで」

 チラリとターリク君を見やると申し訳なさそうに俯いている。


まあ、彼の所属は隠密班だし定期報告は必須だから仕方ない。

それに今回の場合はお手柄と言うべきだろう。


こうしてラーメンのおかげで壊滅を免れたシュスワルの都だった。



誤字報告、評価&ブックマークをありがとうございます。

次回「59話 癒しの泉」は火曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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