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57、シュスワルの都


「久しぶり…と言う程でもないが、よく来た」

 笑顔で出迎えられたが、その目は油断なく此方を見ている。


どうやら今回の訪問の目的がのっぴきならない事態だと感じ取っているようだ。


まずはと初見のエルデ君とターリク君を紹介してから本筋へと入る。


「此処を立ってからコルルナ山に向かったのですが…」

 其処に深淵の水晶が無かったことに始まり、精霊王からの依頼、そしてガネッサ平原で襲って来た怪物の話をする。


黙って私の話を聞いていたミアーハさんだったが、次第にその顔色が悪くなって行く。


「つまりその怪物が神気を求めて都にやって来る可能性があるという訳か」

「はい、何も無ければいいですが心しておいた方が良いかと」

「…確かにな」

 大きく頷くとミアーハさんは部屋の隅に控えているキリカさんへと顔を向ける。


「今の話を元老会に伝えてくれ。エイトの悲劇が再び起こるやもしれぬと」

「はい、急いでお伝えします」

 言うなりキリカさんは風のように部屋の外へと出て行った。


「それで都に何か異変は?」

 私の問いにミアーハさんは緩く首を振った。


「今のところこれと言った事件は起こっておらぬ」

 そう言いながらもその顔は強張ったままだ。


「何か気になることでも?」

 さらに問いかければ、少し迷った素振りをしてから徐に口を開く。


「私の気の所為だとは思うが…この2日ほど御神木から放たれる気が乱れているように感じる」

 エルフ族にとって重大問題を口にするとミアーハさんは深く息を吐いた。


「此方も調べてみるが、其方たちも秘かに動いてくれぬか?」

 確かに世界樹に異変ありとなったら都中の者が不安に駆られて大騒動になるだろう。


それほどあの樹はエルフに取って心の拠りどころだから。


「分かりました。私たちも独自に調査してみます」

 懇願の眼差しが安堵に変わったミアーハさんが私たちの前で深く頭を下げる。


「よろしく頼む。対価と言っては何だが我が屋敷を宿として提供しよう。自分の家だと思って寛いでくれ」

「はい、ありがとうございます」

 礼を言って私たちは案内された部屋へと向かった。

ミアーハさんはこの後、各所への連絡や会議で忙しいだろうからね。


「さてっと」

 部屋の一角にアンに続くドアを出現させると、それに合わせたようにリシュー君たちがこっそり窓から入って来た。


アンのことは極秘なのでこうするのが最良な為、少しばかり行儀が悪いのは仕方がない。


「ただいま、アン」

『お帰りなさいませ』

 嬉し気な声に笑みを返す私の隣でターリク君がぼやく。


「此処の快適さを知ると、もう他では暮らせないな。…魔国に帰るのが憂鬱になって来た」

「あー、そいつは俺もだ」

 ため息混じりに同意するエルデ君。


『この家はカナエちゃんだけのギフトだもの。諦めなさい』

 メネの言葉に頷きつつも、でもよとエルデ君が言葉を継ぐ。


「遊びに来るのはいいだろ。リンにも此処の風呂を使わせてやりたい」

「ああ、俺もセドやアレクセイたちに教えてやりたいんだが」

 懇願の眼差しで此方を見るので、いいよと笑みを返す。


「セド君はしばらくアンの下で暮らしていたし、アレクセイ君やリンさんも知ったら来てみたいだろうから。ただし他言無用で、これをしっかり守ってくれるなら招待するよ」

 私の返事に、やったぜと2人して飛び上がらんばかりに喜ぶ。


『そんな簡単に許して大丈夫?他人の口に戸は立てられないわよ』

 こそっとそんなことを言って心配してくれるメネに軽く肩を竦めて口を開く。


「都合が悪くなったらさっさと逃げ出すよ。いざとなったらアンのところに引き籠ってほとぼりが冷めるのを待つって手もあるしね」

 時間停止が付いた無限収納冷蔵庫のおかげで2、3年は食べて行けるだけの食料はあるし、生活必需品も同じくらいある。

それに少なくなったらコピー袋で増やすことが出来るのでどうにでもなる。

 

『確かにそうねぇ。カナエちゃんには無用の心配だったわね』

 苦笑を浮かべるメネに、でもと言葉を継ぐ。


「本気で心配してくれたことは有り難いと思ってるよ。今までそんな相手はいなかったからね」


『カナエはしっかりしてるから』

 幼い時から親兄弟や友人が私を評す言葉はそれだった。


その所為かいつも私は後回しにされた。

私より手のかかる兄や他の友人が優先され、私には思い出したように最後に声が掛けられたり手が差し出されたものだ。


それについて特に不満があった訳じゃない。

何でもそつなくこなす私は心配ないと放置され、出来ない者の面倒が優先されるのは仕方のないことだと早くから納得…というか諦めていたから。


だからだろうか。

私は人とはあまり深く関わろうとはしなかった。

他に手をかけねばならない相手が現れたら、私のことは後回しにされると分かっていたから。


実の親ですらそうだったのだから誰も私を一番に見たり思いやったりしない。

そう思うと上辺だけの付き合いで十分と達観してしまっていた。


けどこの世界に来て、それが間違いだったと考えるようになった。

そうやって諦めて深く関わろうとしなかったから、他の者も私から距離を置いてしまっていたのだと。


相変わらずの自己中で面倒臭がりなところはあまり変わってないけど、少しだけ自分以外の者との関りを深くしようと思い、それを実行してみた。


おかげでリシュー君やメネ、他にもたくさんの友人や知り合いが出来た。


それに気付けたことに関してだけはこの世界に来て良かったと思う。




「それじゃあ世界樹を中心に調べを進めようか」

 翌朝、そう声をかけるとすぐに元気の良い声が返って来た。


「うん」

「分かった」

「了解だ」

『任せてー』


全員が揃って手を上げると、昨夜決めた担当エリアへ向かって走り出す。


『アタシたちも行くわよぉ』

「はいはい」

 張り切るメネに先導されるように私は街の東側へと歩いて行く。


街中を調べる前にまずはと世界樹の下へ向かう。


「近くに来るとその大きさに圧倒されるね」

 見上げる大樹はその先が本当に天に届いているような錯覚さえ覚える。


幹の太さは軽く5mを超えていて、横に大きく枝を伸ばす姿は某CMを思い出す。


「まさに『この木なんの木♪』だな」

『何よ、それ?』

 思わず口遊むとメネが不思議そうに聞いてきた。


「いや、昔を思い出してね。それより何か不穏なところは?」

 その周囲は結界が付与された石造りの柵で囲まれ、簡単に近づけないようにはなってはいるが…。


『特に無いわね。でも何となくだけど…イイ感じはしないわ』

 眉間に皺を寄せてメネが呟く。


「…あれは」

 柵から少し離れたところに神聖な雰囲気を醸し出す白い石で出来た小さな建物があった。

良く見ればその前に祭壇があり貢物と思われる生花や酒瓶が供えられている。


「ミアーハさんが言っていた初代の神殿か」


此処にエルフがやって来たばかりの頃に作られたもので、後に人口の増加に伴い西側に大きな本神殿が建設されたと教えられた。


「取り敢えず行ってみようか」

『そうねぇ』

 詣でる者は誰もが本神殿に行くからかその周りに人影はない。


建物を守るように作られた石の囲いにある小さな門を潜ると…ふわっと空気が変わった。


「そっか、この門から先は聖域なのか」

 前にトカラダンジョン内に作った即席聖域と同じものを感じて立ち止まる。


「それなのに嫌な感覚が消えないって」

 神聖な感じはしているのに、それに混じって違和感というか…嫌悪に似たものが周囲に漂っている。


『どうする?』

 不安そうに聞いてくるメネに小さく息を吐いてから言葉を返す。


「行くしかないね。何か手掛かりが掴めるかもだし」

『そう願いたいわね』

 結界を強めに張り、私の肩に腰を下ろしたメネと共に中へと進んで行く。


小屋の中は祭壇と祈るために膝をつく石組があるだけのシンプルなものだった。

祭壇のある壁には緋色の地に金糸で世界樹の姿が刺繍された大きな布が下げられている。


「どうかした?」

 小屋に入った途端、落ち着きなく周囲を見回すメネに問いかけると。


『此処に来たら嫌な感じが増したのよ』

 言うなりメネは目を瞑り、必死にその原因を探る。


どうやら聖域に入ったおかげで街中よりも強く嫌悪の根源を感じ取れるようになったらしい。


『分かったわっ。足の下よっ』

 しばしの後、いきなりメネが下を指さして叫ぶ。


「はい?」

 訳が分からず首を傾げる私に焦れたようにメネが言葉を継ぐ。


『地面…いえ、違うわね。もっと奥の…地の中から嫌な感じがしてるんだわ』

「地中から?…まさか」

 メネの話にある考えが頭の中に浮かぶ。


クソ邪神の手下たちは神気を集め、それを奴の下に届けているという私たちの予想が正しいなら…。


ちまちまと精霊を喰らったり神格の高い人間から神気を奪うよりもっと効率が良いやり方がある。

それは世界樹から直接神気を奪う方法だ。


『そんなっ、そんなことしたら…』

 私が考えたことを教えるとメネが悲痛な顔で此方を見る。


「たぶん寄生虫のように根から神気を奪っているんだと思う。このままだと最悪、世界樹は枯れてしまうかも」

『た、大変じゃないのぉっ』

 わたわたと慌てるメネを落ち着かせつつ、私は言葉を継ぐ。


「とにかく一旦ミアーハさんにこのことを伝えよう。倒すにしても相手は地の中だからね」

『そ、そうね。急ぎましょう!』

 叫ぶなり、早くっと私を急かすメネと共に初代神殿を後にする。


そのまま街を目指して走っていたら。


「カナエ殿っ」

 前方からキリカさんが此方に向かって来た。


「何かありました?」

 必死な様子からそう問いかけるとキリカさんが大きく頷く。


「大巫女さまが御神託を受けたのです。その中にカナエ殿の名が」

 そのため急いで私を迎えに来たのだそうだ。


しかし何故に私がと首を傾げていたら、お早くとキリカさんが声をかける。

どうやらかなりの緊急事態のようだ。


キリカさんに先導されるまま本神殿へ向かうと、そこには多くの神官や巫女の先頭にミアーハさんが立っていた。


「急がせてすまぬな。大婆さまがお待ちだ」

 聞いたら最年長の大巫女さまはミアーハさんの曾祖母に当たる人だとか。


それって…いったい幾つなんだろう。

などと考えながら神殿の奥宮へと歩を進める。


「其方がカナエ殿か?」

 祭壇を背に此方を見ているのは50代くらいの品の良い御婦人。

薄い金の髪に澄んだ青い瞳が印象的で、顔つきはミアーハさんに似ている。


「はい、お初にお目にかかります」

 頷いて深く頭を下げる私に、いやと笑んだまま軽く手を振って来た。


「そう(かしこ)まらずとも良い。早速で悪いが先ほど神託があった」

「どのような?」

 その問いに大きく息を吐いてから大巫女さんは徐に口を開いた。


「世界樹さまからのお言葉はこうだ『我が身に摂りつきし害悪を消し去ってくれ。その術はカナエという者に聞くと良い』と」

 縋るように此方を見る大巫女さんとミアーハさんを始めとした神官さんや巫女さんたち。


だが何でわざわざ余所者の人族である私を指名?

しかも退治方法まで此方に丸投げ。


『出来そうなの?』

 不安げに私を見るメネに、大巫女さんに負けないくらい深く息を吐いてから頷く。


「こうなったらやらない訳にはいかないよね」

「受けてくれるかっ」

 身を乗り出す大巫女さんに、はいと返事をする。


「ですがかなりの難問ですね。精霊のメネによると相手は地の中。しかも下手に攻撃すると取りつかれている世界樹にも被害が及びますし」


「そうじゃの、何よりこの都は恐れ多くも世界樹様の根の上に作られておる。もし何か大きな力が使われれば壊滅は免れまい」


たぶんそれが世界樹自身が敵を倒せない要因なのだろう。

その力を使ったら都は無事では済まないので私に依頼して来たということか。


その後、神官さんや巫女さんたちに聞き取り調査をしたところ異変を感じたのはだいたい2日前から。


奪われている神気の所為で世界樹がすぐにどうこうなることは無いようだが、それでもメネに言わせると日に小精霊30~50名くらいの量が消えているらしい。


「カナエっ」

 そうこうしているうちにキリカさんから神託のことを聞いたリシュー君たちが戻って来た。


「何か大変なことになったみてぇだな」

「それで?手はあるのか」

 エルデ君とターリク君が心配そうに聞いてきた。


「あることはあるんだけどね」

 ふうと息を吐く私に誰もが不安に満ちた目を向ける。


『気を付けなさい。カナエちゃんがああ言う時はとんでもないことを起こす前兆よ』

 何気に酷いことを言って来るメネに、うんとリシュー君が頷く。


まあ、いいけどね。

確かにいろいろやらかした自覚はあるから。


さて、では害虫退治を始めますか。 

 


読んでいただきありがとうございます。

次回「58話 首都攻防戦」は金曜日に投稿予定です。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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