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14、『家』紹介


「はい、これがリシュー君の取り分」

 渡された袋に困惑しきった顔でリシュー君が口を開く。


「貰えないよ、だってギルドに渡したのは全部カナエが狩った物だし」

「これは名義料だからいいの。魔族のリシュー君だからギルドも簡単に買取りしてくれたんだもの」

 カード上はアイテムボックス持ちではあるが非力な人族としての数値しかない私が、SやA級魔物のドロップ品を持ち込んだら大騒ぎになっていただろう。


そうなったら面倒な輩に目を付けられること請け合いだ。

それが回避できたお礼も兼ねているのだからと言えば、納得行かない顔をしながらも受け取ってくれた。


「お金は大事だよ、遣りたいことがあってもまず先立つものはお金だからね。ところでリシュー君は何かしたいことは?」

 私の問いに困ったように考え込んでからリシュー君が口を開く。


「こっちに来てからは無我夢中で…だってカナエに会ってからまだ2日だし」

 確かに彼にとって目まぐるしい時間だったなと反省する。


魔の森では生きるか死ぬかの厳しい日々だったし、この2日はロザリーちゃんを助けたり街に来たりで、これではゆっくり何かを考えることなど出来なかっただろう。


「ごめん、この質問はリシュー君には早すぎたね。しばらくのんびりしよう」

 謝ってから羅針盤を取り出す。


「これ以上の厄介事は面倒だから街を出て魔の森近くに行こう。あの辺りなら誰も寄って来ないから」

「うん、そうだね」

 頷くリシュー君の手を取ると羅針盤を操作した。



「でもカナエは凄いね」

 『家』を出す適当な場所を探していたら感心したようにリシュー君が言ってきた。


「はい?」

 いきなり何のことかと首を傾げるとリシュー君が言葉を継ぐ。


「さっきのギルドでのことだよ。良くあんな風に立ち回れたね」

「ああ、前に似たようなことがあったから」

「前?」

 不思議そうな顔をするリシュー君にバイト先であったことを教える。


バイトしていたスーパーにゲス上司がいた。

若いパートやバイトを倉庫に呼び出してクドクドとどうでも良いことを(あげつら)っては『馬鹿』だの『能無し』だの『生きているだけで迷惑』と罵声を浴びせるのだ。

どうやら面白くないことがあると、その解消のため立場の弱い者をサンドバッグにしていたようだ。


かく言う私も商品のことを質問したら答えられず、挙句に『どうでもいいことを俺に聞くなっ。このブスがっ』と怒鳴られ、それからずっと目の敵にされたものだ。

  

しかも人格すら否定する言葉の暴力だけでは飽き足らず、中には身体を触られたり終業後にホテルに誘われたりした者もいて退職者が後を絶たなかった。

それすらも『最近の若い奴は根性が無い』と(うそぶ)いて、自分は無関係ですと言った態度を取っていた。


奴の行状を訴えた者もいたが、どうやら上層部にコネが有り野放し状態だった。


「それでどうしたの?」

 ワクワクしている様子を隠しもせずリシュー君が続きを聞いてくる。


「パートやバイト仲間と協力して奴の罵詈雑言をレコーダーに集めて、溜まったところで店内放送で流してやったよ。これなら隠蔽することは出来ないし、会社側も重い腰を上げるだろって」

 実際この後の会社の動きは早かった。


すぐに調査が入りパワハラとセクハラが認められ当人は解雇、被害者の訴えに対処しなかった関係者も異動や減給になった。


「その後で被害にあった数人から慰謝料請求されて借金漬けになったって」

「やっぱり悪が栄えることは無いんだね」

 うんうんと頷いているリシュー君にアラフォーのおばさんからお節介な忠告を。


「店とかギルドとかその狭い世界がすべてと思ってはダメってことだよ。そうなると周囲が見えなくなって自分が一番偉いって勘違いして他人を見下すようになってしまうから」

「そうだね」

 素直に頷くリシュー君にもう一言。


「被害者の立場になった時も同じだよ。狭い世界から飛び出して、さっきのように第三者を巻き込んで協力者を募るんだ。そうなれば力になってくれる人が現れる」

「分かった」

 君は本当にいい子だね、このまま真っすぐに育っておくれ。


「この辺でいいかな」

 周囲を見渡す私にリシュー君が聞いてきた。


「何をするの?」

「私のギフトを出すんだよ」

「ギフト?」

 ハテナマークをいっぱい飛ばしているリシュー君の前に『家』を取り出す。


「なっ、なっ、何っこれ」

 突然現れた四角い箱に驚く彼に笑いかけながら玄関のドアを開ける。


「どうぞ、私の『家』へ」

「い、家?」

 恐る恐る中を覗き込むリシュー君を手招く。


「そ、狭いながらも楽しい我が家ってね。お客さんだよ」

『おかえりなさいませ。…来客を確認しました、入室許可を出します』

 そうだった、許可がないと此処には私以外入れない仕様になっている。


「だ、誰かいるの?」

「いや、『家』がしゃべってるだけ」

「しゃべるって…」

 それきり無言になってしまったリシュー君の手を引いて『家』へと入る。


「こ、これって…」

 どう見ても地球の1DKの間取りと設備にリシュー君がポカンと口を開ける。


私たちが入ると部屋の照明が点いて『家』が聞いてきた。

『室温はどうなさいますか?」


「春とは言え夜になると冷えるからいつもより少し高めで」

『承知いたしました』

 声と共にエアコンが動き出して温かな微風を送ってくれる。

 

「好きなところに座って…って言っても椅子は2つしかないけど」

 キッチン横の椅子を勧め、その間に湯を沸かしてお茶の準備をする。


「そうだ。忘れないうちに…はい、お土産」

 昨日、手に入れたハイゴブリンキングとキラーオーガの魔石を壁にあるタブレットに貢ぐ。


『ありがとうございます。構築魔法のレベルが上がりました…部屋数を増やします』


その言葉が終わるなり玄関横の壁が光って階段が現れる。

登ってみたら2階が出来ていて、間取りはキッチンが無いだけでほぼ同じ。


リシュー君を泊めるのにちょうど良いタイミングだったと壁を撫でながらお礼を言う。


「ありがとう、助かったよ」

『ご主人様のお役に立てて光栄です』

 心なしか声が嬉しそうで思わず笑みが浮かぶ。


「おっと」

 火にかけていたケトルが鳴いて湯が沸いたことを知らせてきたので慌てて下へと降りると。


「…何してるの?」

 椅子の上で器用に膝を抱えてブツブツと何事かを呟いてるリシュー君がいた。


「有り得ないよ…水道が通っててガスも電気も来てるなんて」

 どうやら理解の範疇を超えてしまい軽くパニックになっているようだ。


「生前の家と同じものをってお願いしたからね」

 エルフの里で購入したレン茶を淹れながら答えるとリシュー君が目を剝く。


「何それっ!?」

 身を乗り出して聞いてきたので末尾にあった『その他』のことを教える。


「気が付かなかった。早く『特殊スキル』を取らないとって焦ってたし」

 悔し気に呟くリシュー君。


「それがクソ邪神の思惑通り…と言うか罠だったんだろうね」

 小さく息をついてから手にしたカップに口をつける。


「まあ、ゆっくりして。寝る前に拾った『何でもコピー袋』で2階にベッドを出すから」

 そのアイテム名にリシュー君が驚きの声を上げた。 


「それってあいつが初回に言った死んだ人が持ってたアイテムだよね。カナエが手に入れてたんだ」

「たまたまだけどね。トーランドさんの供養になるかと思って使わせてもらってる」

 

この『何でもコピー袋』だが、よくよく鑑定したらこれはもう断絶した貴族の宝で持ち主不明なためギリ盗品扱いにはなってはいない。

しかし便利すぎるアイテムなので大っぴらに使えば物騒な輩を呼び寄せることは間違いない。

なのでこれも門外不出が決定している。


「ちょっと早いけど夕飯にしよう。何が食べたい?」

 物珍し気に家の中を見回した後、タブレットに話しかけて簡単な会話をしているリシュー君が私の呼びかけに振り向いた。


「うーん、日本食も食べたいけど…故郷の料理も」

 腕を組んで考え込んでいたが、どうやら決まったようで顔をあげた。


「アッシ・パルマンティエとコック・オゥ・ヴァンが食べたい…出来る?」

 私より背が高いのに上目遣いはやめい。


アッシ・パルマンティエは炒めた玉ねぎと挽き肉をマッシュポテトで覆って焼く料理で。

コック・オゥ・ヴァンとは硬くて食べにくい雄鶏などを赤ワインでほろっと柔らかく煮込んだものだ。

どちらもフランスの家庭料理として有名だ。


「任せなさい。研究員として大抵の料理なら作れるようにしていたから」

「ほんとっ、ありがとう。カナエ」

 嬉しそうなリシュー君に頷き返すと私はエプロンを手に取った。


肉はドロップ品が冷蔵庫にたくさんあるし、ワインはエルフの里で買ったのが残ってる。

美味しいので寝酒にちょいちょい嗜んでいたんだけど、全部飲んでしまわなくて良かったよ。

調味料もばっちりだし、野菜のストックもOK。


「ここはガルドさんに作ってもらったミンサーの出番だね」

 デボン武具店では武器や防具だけでなく、包丁や調理器具の修繕も請け負っていたので特別に頼み込んで製作してもらった。


これが有れば挽肉を作り放題だし、その便利さを知ったドーラさんにも好評で近々本格的に売り出そうかという話も出ていた。

それについては異世界知識なので私の正体バレに繋がると不味いから保留にさせてもらっているが。


「はい、どうぞ」

 出来上がった料理に焼いたパンの実とサラダを添えてリシュー君の前に並べる。


「材料や調味料はこっちのものだから多少は味が違うと思うけど」

 そう断りを入れるとリシュー君は大きく首を振った。


「こうして食べられるだけでも嬉しいよ。いただきます」

 さすが日本オタク、食前の挨拶も完璧だ。


まずはアッシ・パルマンティエにスプーンを入れ、熱々なことに注意しながら口にする。


「美味しいっ、ポテトに掛ってる粉チーズが凄く効いてるし塩加減もちょうどいいよ」

 感想を言ってくれてから嬉々として次を口に運ぶさまに思わず笑みが零れる。


「気に入ってくれたんなら良かった」

 そう言ったら…。

「どうしたのっ?何か変だったっ?」

 急に動かなくなったと思ったらボロボロと泣き出したのだ。


「…ママン」

 小さな呟きに此方も切なくなる。


そうだった、彼は見かけは成人でも本来はまだ13歳。

親が恋しくて当然だ。

故郷の料理はもう会えない家族のことを思い出させてしまったのだろう。


どう慰めていいか分からず…少し迷ったがうな垂れている頭をそっと撫でてやる。


「…ごめん」

 小さく頭を下げるとリシュー君はゴシゴシと手で顔を拭う。


「せっかく作ってくれたのに」

「いいんだよ、泣きたい時にちゃんと泣いておかないと後まで引き摺るからね。それに我慢せず思いっきり泣いた方が心にも体にも良いんだって」

 私の言葉にコクリと頷くとリシュー君は食事を再開すべくスプーンを持ち直す。


「何だかカナエには格好の悪いところばっか見せてるな」

 恥ずかしいのと悔しいのが混ざった顔で口を尖らせる。

そんなところは年相応だなと笑みが浮かぶ。


『お風呂が沸きました。給湯温度を42度に変更します』

 そうこうしていたら『家』の声が聞こえた。

本当に至れり尽くせりで助かっている。


「ところでさ」

「何?」

「この家の名前はなんていうの?」

「え?」

 問われて初めて気づいた。

言われてみれば考えたことが無かった。


「話すからアレ〇サとか」

「いや、それは不味いんじゃ」

「だったらシ〇とかク〇ーバー」

「そこから離れようよ」

「じゃあシンプルにハウスで」

「…カナエに名付けセンスが無いのはよく分かった」


いろいろ話し合った結果、安心できる場所と言うことで名前は『アン』に決まった。


リシュー君は安直すぎると渋い顔をしていたけど、呼びやすいからいいんです。


「これからもよろしくね、アン」

『はい、ご主人様』

 間違いなく嬉しそうなアンの声を聞いて笑みを浮かべる私だった。



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