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12 エオンの街


「あの子のことありがとうね。おかげで助けられたよ」

 ムルカ村を出てすぐにリシュー君にお礼を言う。


彼の魔法がなければあの子は存在してなかったし、新たな幸せを掴む機会も生まれなかったろう。


「ううん、僕に出来たのは『再生』だけだし。それよりカナエの方が凄いよ。里親をみつけてお金まで用意してあげたじゃない」

 リシュー君も出したがったが…魔の森から出たことのない彼は一文無し状態だったので出来なかったのだ。


「僕はこの世界のことを何も知らない。何もできない。…こんなんじゃ足手纏いにしかならない」

 キュッと唇を噛むリシュー君の背を軽く叩いてやる。


「そんなこと無いよ。分からないなら学べばいい、私も知る限りのことは教えるし」

「あ、ありがとう。最初に出会えたのがカナエで良かった」

 だからそんなキラキラした目でこっち見んな。


赤子を救ったように彼の魔法は利用価値が高いから連れ歩くだけだ。

なのでそんな風に全幅の信頼を寄せられるとさすがに心が痛む。


「それでこれからどうするの?」

「まずはリシュー君のステータスカードを作ろう」

「ステータスカード?」

 小首を傾げるリシュー君にカードについて教える。


「カードがないと大きな街には入れないし、まともな職にもつけないからね」

「そっか、身分証明と就労ビザが合わさったものなんだ」

 うんうんと納得しているリシュー君だが、就労ビザという言葉がするりと出てくる辺りやはりフランス人なんだなと思う。


因みにリシュー君のステータスはこんな感じだ。



〈 リュシアン・オクレール 〉

 

 25歳(13歳)


 Lv. 48


 HP 3950/3950

 МP 4600/4600

 攻撃力 5100

 防御力 6300


〈スキル〉

『四大魔法』『治癒魔法』『魔力増強』

 

〈称号〉

『異世界人』『才豊なる魔法師』『愉快な失敗者』『悪食』


〈ギフト〉

 『魔杖リオンサート』『極盾ロイヤ』『破槍アトラル』『水神の宝珠』『天鳥の羽帽子』『時間停止付きマジック袋』



 四大魔法とは火、水、風、土の魔法のことを指す。


『異世界常識』によると普通は使える属性は2つか多くても3つ。

エルフや魔族といった魔法に長けた種族特性があるにしても4つ、そのうえ治癒魔法も使えるとなるとかなり異質だ。


しかもギフトの『魔杖リオンサート』これがまた凄い。

鑑定したら持ち主の魔法を完全サポート、得ていない属性の魔法も使えて、さらに独自改変も付与されてる。


あの『再生』の魔法も治癒魔法を杖の力で改変して作り上げたものだ。

それを本人は無意識で行っているというのだから…『才豊なる魔法師』の称号通り天才としか言いようがない。


他にもいろいろなギフトがあるが、これらは探した訳ではなく魔の森を彷徨っていた時にたまたま見つけた物だそうだ。

どうやら元々運の良い子だったようだ。


称号については魔の森での彼の苦労が偲ばれるものもあるが…他はノーコメントで。


「取り敢えず、はいこれ」

 昨夜、寝る前に『何でもコピー袋』で複製しておいた腕輪を渡す。


「エルフの里で貰った隠蔽の魔道具だよ。ステータスにある称号の異世界人やギフトは隠した方がいいからね」

 私の言葉にリシュー君が不思議そうな顔をする。


「ギフトも?」

「そう、それ鑑定をかけたらマジック袋以外は全部盗品だったよ」

「ええっ!?」

 驚きの声を上げるリシュー君に『妖弓シルフィン』にまつわる話を教えた。


「じゃあこれも」

 手にしている『魔杖リオンサート』を怯えた目で見つめる。


「本来は魔王の部下である四天王の持ち物だった奴だね」

 『異世界常識』だと魔国が今も探して回っているお宝だ。

持っていることが知られたらトラブルは必至だろう。


余談ながら魔王と言っても魔族の王と言うだけで、ゲームに出て来るようなラスボスでは無いし『世界を我が手に』とか言い出したりはしないごく普通の国家元首だ。


「ど、どうしたら」

 他のギフトが入っているマジック袋をガクブルしながら腰から外すさまに、だったらと声をかける。


「一旦、私の収納に入れておこう。此処に入れたものはステータスには反映されないから安心だよ」

 私の言葉にホッとした顔で『魔杖リオンサート』も入れたマジック袋を渡してくる。


「でも手ぶらってのも却って怪しまれるね。…確か」

 盗品ではないマジック袋を返し、収納した中からお目当ての物を引っ張り出す。


「この前、ダンジョンで見つけた奴なんだけど」

「ダンジョンっ!」

 おお、思い切り喰いついたね。


「カナエはダンジョンに行ったことあるの?」

「結界があればまず無敵だからね。今度一緒に行こうか」

「うん、約束だよっ」

 すっかり元気になったリシュー君に青い魔石が嵌った杖を渡す。


「これは?」

「まあ『魔杖リオンサート』の足元にも及ばないけど、そこそこ良い杖だよ」

 その言葉にリシュー君は手にした杖を軽く振って感触を確かめる。


「凄く手に馴染むし使いやすそう」

「なら良かった。それでその腕輪なんだけど、隠したいものや変えたいところを思い浮かべながら嵌めるとステータスが変わるよ」

「分かった」

 大きく頷くとリシュー君は自らの左手首に隠蔽の腕輪を着けた。


「それじゃあ『鑑定』っと」

 改めて見てみればちゃんと称号がすべて消えている。


「高レベルなのは魔族だからってことで大丈夫だろうし、このままエオンの街へ行こう」

「その街でステータスカードを作るんだね」

「魔の森から一番近い所にある冒険者の街だからね。魔族のリシュー君が申請しても怪しまれないはずだから」

 私の話にリシュー君の瞳が輝き出す。


「冒険者っ!だったらギルドもあるよね」

 どうやらゲーム等で馴染みがあるので楽しみなようだ。


「じゃあ出発するよ」

 その言葉にリシュー君がしっかり私の腕を掴んだのを確認してから羅針盤を起動させた。




「…凄い、本当にゲームみたいだ」

 街の様子や通り過ぎる人たちの姿にリシュー君の目が見開かれっ放しだ。

冒険者の街と言われるだけあって道行く人のほとんどが革や金属の鎧を身に付け腰や手に武器を携えているさまは確かに圧巻だ。


「門兵さんは上手く誤魔化せたから良かったけど」

 うきうきと周囲を見回しているリシュー君に笑みを向けながらさっきの遣り取りを思い返す。


「其方の分はどうした?」

 私が提出したカードを確認してから後ろにいるリシュー君へと目をやる門兵。


「すみません、ご主人様は此処に来る前に魔の森での戦いでカードを無くしてしまいました。人族で力のない私を庇ったりしなければそんな後れを取ることも無かったのですが」

 辛そうに言葉を綴ると、そうかと門兵は難しい顔で考え込む。


「ギルドに行けば再発行していただけると思うのですが」


初回は神殿や役場で発行されるが再発行は冒険者ギルドでも可能だ。

冒険者は魔物との交戦でカードを紛失することがままあるので、ギルドで再発行してもらった方が利便性が高いのだ。

発行の記録は残るが、それを世界規模で共有しているわけでは無いのでリシュー君が申請しても大丈夫だろう。


「冒険者だという証は立てられるか?」

 その問いに、はいと頷いて収納からフォレストベアの毛皮を出して見せる。


「こ、これはA級魔物の」

「ええ、ご主人様お一人で倒したものです」

 自信たっぷりに言っているが…大嘘である。

これは私が魔の森にいた時に結界に閉じ込めて倒した魔物のドロップ品だ。


リシュー君も倒してはいたが、その時は食料確保が第一目的だったので食べられない物は全部捨てていたのだそう。

勿体ないお化けが喜んで出そうな話だ。


「ギルドでのドロップ品売買書は此方に」

 モルナの街の冒険者ギルドで私が交わした書類を見て門兵は大きく頷いた。


「確認した。通って良いぞ」

 そう言って仮の通行証を手渡してくれた。


「ありがとうございます。カードの再発行が叶いましたらお返しに上がります」

「いや、その必要はない。そのまま冒険者ギルドに出せば此方に戻って来るからな」

 笑顔の門兵に深々と頭を下げ、私とリシュー君は無事にエオンの街へと入ることが出来た。


先に出したベアの毛皮のインパクトが大きかったので後の書類確認が杜撰(ずさん)になってくれて助かった。


ここまでは計画通りだが、しかし次の冒険者ギルドでこの方法が通じるかは…五分五分と言ったところだろう。

そんな私の心配を他所にリシュー君は実に元気だ。


「ねぇカナエ、あそこで串焼き売ってるよ。それに向こうの煮込みも凄く美味しそう」

 キラキラした目で道沿いに出ている屋台を指さしている。


「はいはい、両方とも買ってあげるから落ち着いて」

 腹が減っては戦は出来ぬというし、ギルドに行く前に早めの昼食を取ることにする。


「…凄い量になったね」

 見つけた広場のベンチに並んだ料理に思わずため息が出た。

あれもこれもと物珍しさから多種類の料理を買い込んだ結果がこれだ。


しかし食べきれるかとの不安はリシュー君が綺麗に解消してくれた。

街に入る前にカップ麵3つを食べたのに…あの細い体のどこにこれだけの料理が入るのか謎だ。


「ふー、美味しかった」

 満足げにお腹を擦るリシュー君とこれからのことを打ち合わせる。


「じゃあ、不機嫌そうに『早くしろ』って言ってみて」

「えっと…『早くしろ』こんな感じ?」

 言われた通りにやって見せるリシュー君に私は大きく頷く。


「そうそう、それを言う時以外は無表情で」

「うん、後はずっと黙っていればいいんだよね」

 互いに頷き合うと冒険者ギルドへと向かう。



門のすぐ近く、真っすぐに伸びる大通りの一角に目指す冒険者ギルドはあった。

無骨な扉の上には剣と槍と弓が重なったレリーフが飾られている。


扉を開けるとそれほど人は多くなかったがリシュー君の姿を見た者たちが一斉にざわつく。


『異世界常識』だと魔族の評価基準は『強さ』で自分より強い者であれば敬い、弱い者は無視する。

竜人と並ぶ強者であるので人族などは路肩の石くらいにしか思っていない。

プライドも高く無礼を働く者には容赦がないと言われている。


そんな魔族が現れたので誰もが驚きと怯えが混ざった視線を向けている。


まあ、こうなることを予想して門以外では着ているローブについてるフードを深く被らせておいて正解だった。


「あの…」

「は、はいっ」

 リシュー君に見惚れていた受付の女性に声をかけると派手にキョドって此方へ顔を向ける。

黙っていれば本当に美形だからそれも無理はないけど。


「ご主人様が倒した魔物の買取をお願いします」

 ステータスカードを差し出すと受付嬢は私の後ろに立つリシュー君に視線を向けながら頷いた。


「少し量が多いのですが」

「では此方に置いて下さい」

 示された台の上に爪、牙、毛皮など魔物のドロップ品を収納から取り出しては並べてゆく。

そのどれもがSやA級の物だったので出す度に周囲からどよめきが起こる。


「これで全部です」

 しかし受付嬢からの返事はない。

あまりのことに声を失い、茫然とドロップ品の山を見つめている。


「それとご主人様のステータスカードの再発行をお願いします」

「さ、再発行ですか」

 確認してきたので頷くと困り顔で口を開いた。


「再発行には保証人となる者が必要なのですが」

「私では駄目なのですか?」

 その問いに受付嬢は緩く首を振った。


「保証人資格はギルドに2年在籍、もしくはDランク以上となっています。其方様はどちらも満たしていないので」

 確かに私の登録は最近で、ランクもEだ。

その説明に困惑した様子で後ろを振り返ると。


「…早くしろ」

 綺麗な曲線を描く眉を顰め、リシュー君が不機嫌そのものと言った声を上げて受付嬢を睨む。


「で、ですが」

 その迫力に縮み上がるが、さすがは冒険者ギルドの受付嬢。

簡単には頷かない。


「ではこうしましょう。何方か保証人になっていただける方はおられませんか?もちろん相応のお礼はいたします」

 言いながらカウンターの上に金貨10枚を並べる。


「この後すぐにご主人様はこの街をお出になりますので、ご迷惑をおかけしないと約束いたします」

 重ねてそう言うとギルド内に居た冒険者の一人が素早く手を上げた。


「おう、だったら俺がなってやるぜ。これでもDランクだ」

 下卑た笑いを浮かべる男に鑑定をかけると称号に『怠け者』『借金持ち』があった。


こんな時間にギルドで(たむろ)っているくらいだから称号通りに働きもせず、しかもかなり金に困っているようだ。

利用するには丁度いい。


「おい、ガロイ」

「俺に代われよっ」

「へっ嫌なこった。早い者勝ちだぜっ」

 周囲の声にそう言い返すと男は揉み手するように近付いてきた。


「ではお願いいたします」

 軽く頭を下げると受付嬢は渋い顔をしながらも再発行の手続きを始めた。


「では此方にサインを」

 差し出された書類に金貨を受け取った男が自分の名を書き入れる。


続いて私が必要事項を記入してリシュー君が役所で見たのと同じ機械の上に手を置く。

一瞬強く光ってから発行機から薄い名刺サイズの金属板が出て来た。


「此方が貴方のステータスカードになります。再発行の場合、本来ですとFランクからのスタートですが納品額が高くギルドへの貢献も大きいのでDランクでの登録とします。再発行費用は30エルンです」

 頷きながらカウンターに金貨30枚を置きカードを受け取る。


「提出されたドロップ品の査定にはしばらくかかりますが」

「ではその頃にまた伺います」

 預かり書を出してもらい、礼を言ってリシュー君と共にギルドを後にした。




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