表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/146

第六十六話 大河内城陥落

今回も少し長くなってしまいました。



「放てぇ!!」


元亀三年・師走。大河内城への総攻めは織田の陣から発せられた号砲から始まった。


此処で再び時系列を巻き戻し…

◇伊勢国 大河内城 北畠具教


「敵の挑発に乗り一騎打ちを受けながら敵を倒すことなく、敗れたにも拘らず生き恥を晒す仕儀となりましたこと誠に申し訳ござりませぬ。」


広間には城に籠る諸将が集う中、昼間城の門の前で行われた織田上総介の臣を名乗った朱染めの鎧武者と一騎打ちを行って敗れ、兜を奪われた大河内左少将が額を床板に擦り付ける様にして平伏し謝罪の言葉を口にした。

だが、この場に集う者たちの中には左少将に向かって非難の言葉を浴びせる者はおらず、ただただ沈痛な面持ちで平伏する左少将に目を向けるのみであった。


「止めよ。勝負は時の運、勝ち負けは兵家の常じゃ。織田の者は明日にも総攻めを行うと申したものであろう、ならば今日の負けを明日の勝ちで贖えばよいだけの事。左少将の働き、期待しておるぞ!」


「ご、御隠居様…分かり申した。大河内左少将具良、この一命を賭して織田の者共に目にもの見せてやりましょうぞ!」


儂の言葉に力強く応える左少将だったが、その姿は張り詰めた弓の如く危うきものに感じられた。だが、それは左少将に限った事ではない。

 これまで六角と織田の軍勢に城を囲まれて十日余り、我ら北畠の者たちは堅城と名高い大河内城の守りに対し、六角と織田は手詰まりとなっているとばかり思っていた。しかし、左少将と一騎打ちに及んだ朱染めの鎧武者の言によれば、これまでは城攻めの準備が整っていなかったために本格的に攻勢に出ていなかっただけで、準備が整ったため明日にも総攻めを行うとの事であった。

あの者の言など嘘偽りであると切って捨てることは容易い。されど、左少将を退けた朱染めの鎧武者に一騎打ちの終わりしなに奇襲を掛けた北畠の騎兵四騎を槍の一突き、大身の朱槍の一閃にて打ち倒した者らの力量を見せつけられては、嘘偽りだと断じる訳にも行かなくなっていた。

その認識を共有しているがゆえに広間には重苦しい空気が立ち込めていたのだ。


「御隠居様。今宵は兵たちに鱈腹飯を食わせてやり、明日の戦に備えたいと思われまするが御許可いただけますでしょうか!」


そう申し出て来たのは鳥屋尾石見守だった。石見守の問いに何と答えたものかと思案していると、その場にいた一人が声を荒げた。


「石見守殿!今はそのような事に気を掛けている時ではありますまい、明日から六角と織田の軍勢が総攻めをしてくると言うのに…」


「だからにござります!我らは御隠居様の下知の元、左近衛中将(木造具政)様が公方様を動かし織田・六角との和睦が成るまで大河内城にて籠城し時を稼ぐと腹を括った筈。遅かれ早かれ六角と織田による総攻めは始まると分かっていた事にござりましょう。それが『明日に』と予告されたからといって今さらジタバタしても仕方ありますまい。

それならば、兵たちの腹ごしらえをしっかりとし明日の戦に備えた方がよろしくはござりませぬか。」


石見守の言葉にそれまで沈んだ表情で俯いていた者たちも苦笑いを浮かべながら顔を上に上げ、


「確かに石見守殿の申される通りじゃ。我らは覚悟して大河内城に入ったのを忘れておった。」


「そうよ!御隠居様と共に城を枕に討ち死にしようと、後の事は右近大夫将監(具房)様と左近衛中将様が何とかしてくだされよう。それにまだ兵糧に余裕があるうちに総攻めをしてくれると言うのであれば願ってもない事よ。六角と織田を相手に存分に力を振るえるからのぉ、兵糧が尽き飢えてからでは満足に戦働きも出来ぬからな。」


「おおよ!今宵は存分に腹を満たし明日の総攻めとやらに備えよぅぞ!!」


と、気勢を上げる者が次々と現れ、広間を覆っていた重苦しい空気は何処かへ消えていた。儂はこの空気をより確実なものにするためにもう一声掛けた。


「皆の者!今宵は多少の酒も許そう、しっかりと腹を満たし酒で英気を養うが良い。

ただし、明日の総攻めに際し酒で不覚を取る程飲むではないぞ。」


儂の言葉に笑いが起こった。その空気は広間から飲酒の許可と食事の配給によって城中に広がり三倍以上の敵からの総攻めを前にしても城内にはそれを恐れ悲観する空気は消え去っていった。


広間での軍議を終えた後、儂は石見守を褒めようと声を掛けた。


「石見守。良き所での進言であった流石は石見守よな!」


しかし石見守は眉間に皺を寄せ、


「…御隠居様、ありがとうござりまする。」


と何やら考え込んでいる様であった。


「如何した石見守。其方の一言によって皆、明日の総攻めに対する身構えが整ったのだぞ。」


「その事にござりまするが、何故に津田戯之介殿はわざわざ明日総攻めをするなどと申されたのでござりましょう。本来、総攻めの日時は最も秘すべき事のはず。一騎打ちでの口上を聞く限りその事を解しておられぬ御仁だとは思えぬのですが…」


石見守の言葉に、それまで高揚していた心が冷えて行くのが分かった。しかし、それを表には出せぬと努めてにこやかな表情を作り、


「あの者も左少将との一騎打ちに気持ちが高揚し分別がつかなくなっておったのではないか?遠目ではあったがまだ若輩者のように見えたからのぉ。」


と気休めにもならない言葉を口にした儂に対し、石見守は益々眉間に皺を寄せた。


「確かに御隠居様の申される通りやもしれませぬ。ですが、某はあの者が名乗った『津田戯之介』という名が如何にも気になるのでござりまする。

津田姓は織田家の傍流に名乗らせることがある姓にござりまする。となるとあの者は織田家の縁者の可能性がありまする。

そして、あの『戯之介』という名。人を食ったような何とも可笑しな名ではござりますが、織田上総介殿に“たわけ”と称された御方がいたことを思い出しました。

織田三介信顕殿。今、大河内城を囲む織田勢の大将を勤められる御方にござります!」


儂はその言葉に心の臓を握られた様な感覚に陥った。

織田三介信顕。長野家との緒戦・鈴鹿川での戦いで長野勢を退け、安濃津城救援のために差し向けた北畠の軍を打ち破り左少将を敗走させ、伊賀の忍び百地丹波守と千賀地浄閑入道の心を捕らえ今大河内城を囲む織田勢の指揮を取る者。

その様な者が、僅かな供を従えて城門の間近に迫り一騎打ちを所望するなど考えられぬ事であった。

だが、もし彼の朱染めの鎧武者が三介信顕その人であったなら…


◇伊勢国 マムシ谷・大河内城 織田信顕


「清兵衛砲。放てぇ~!!」


大河内城への総攻めは熱田から取り寄せた木砲『清兵衛砲』の砲撃を命じる俺の号令により始まった。

 用意させた清兵衛砲は予備まで含め十門。その内の三門を大河内城の城門に向けて一斉射させた。

清兵衛砲は俺の号令に従い城門に向けて砲弾を撃ちだすと、周囲には黒色火薬独特の煙が立ち込め視界を遮ってしまう。

一斉射の結果をすぐに確認することは出来ず、俺はその僅かな時をジリジリとしながら待った。煙が晴れて大河内城の城門が清兵衛砲によって打ち破られている事を確認した時は、思わず歓喜の声を上げてしまいそうになったが、奥歯を強く噛み締めてグッと我慢し、


「次弾の装填を急げ!第二班、砲撃用意~ぃ。放てぇ~!!」


と第二射を命じ、第一射で打ち破られた城門の瓦礫を吹き飛ばして兵を突撃させるための道を作らせると、傍らで待機していた半兵衛に軍配を預け木砲や鉄砲、弓隊への指揮権を譲渡し背後に並ぶ慶次郎旗下の騎馬・千騎と父から預けられた母衣衆・毛利新左衛門、佐脇藤八郎、長谷川右近、山口飛騨守、加藤弥三郎らが指揮する歩兵・二千五百へ振り返り手に持った長巻を高々と振り上げた。


「城門は開かれた!これより一気に城を落とす。織田の力を見せるのは今ぞ。我に続けぇ~!!」


大音声で突撃の命を下すや、俺は誰よりも早く馬を走らせ清兵衛砲によって打ち崩された城門へ一騎駆けに駆け出した。

そんな俺に寛太郎と五右衛門は当たり前のように追随してきたが、他の者はまさか俺が真っ先に駆け出すとは思っていなかったのか、虚を突かれて一瞬動きを止めたが、


「はっ!御大将が敵城に一騎駆けとは何とも傾かれたものよ。この慶次、御大将に惚れ申した!!騎馬隊!御大将に後れを取るなぁ、掛れぇ~!!」


と慶次郎が騎馬隊一千と共に俺に追従。そして、父の母衣衆たちも、


「御大将自ら先陣を切られるか…まるで桶狭間の折の殿(信長様)を見ている様じゃ。」


「藤八ぃ!何を呆けておる、慶次郎殿に先を越されるぞ!」


「殿から直々に命を受けた我らが後塵を拝するわけには行かぬぞ!」


などと口にし配下の歩兵に突撃の号令をかけてた。その声を背後に聞きながら俺は城門を駆け抜ける。

もちろん、俺の行動を察した半兵衛によって鉄砲と弓による援護射撃が行われており、清兵衛砲の砲撃から逃れた北畠兵たちの攻撃を未然に防いでいた。

 城門を駆け抜けた俺はそのまま山道を駆け登りまだ迎撃態勢の整っていない二の門を抜けると、北畠の兵が騎馬で山道を駆け登って来た俺たちに驚き右往左往している間に門を閉じる閂を長巻で叩き斬り、門を閉められない様に細工をしている間に慶次郎率いる騎馬隊が追い着いた。

大挙押し掛けて来た騎馬隊にようやく『このままでは不味い』と感じ取り迎撃に動く北畠兵だったが、場当たり的は迎撃行動しかとる事が出来ず、お世辞にも指揮統一が成されているとは言えない様相を呈していた。

二の門に詰めていた北畠兵は騎馬隊によりある者は槍で突かれ、またある者は騎乗する馬に蹴られて命を散らしていった。

そうこうしている内に後続の母衣衆率いる歩兵が雪崩れ込み、瞬く間に北畠兵を駆逐。二の門の制圧を確信した俺は更に先へと駆け出そうとした時、俺が手にしていた手綱を横から手を伸ばして握る者が…


「何者か?慶次郎、何故止める!?」


驚いたことに俺の動きを止めたのは慶次郎だった。鈴鹿川に安濃津での戦いと常に騎馬隊一千の先頭に立ち敵陣に斬り込んでいた慶次郎が、騎馬の手綱を握り止めるとは思いもせず、思わず声を荒げてる俺に対し慶次郎は合戦の最中にもかかわらず酷く落ち着いた表情を浮かべて首を横に振った。


「御大将。一騎駆けは戦の華ではござりまする、が敵も咲かせては成らじと御大将の首を狙ってまいります。これ以上の一騎駆けはお控えいただき、我らを同道していただきとうござります。」


いつもは傾いた姿と言動で皆を煙に巻く慶次郎が戦場で見せた真面目な表情と言葉に知らず知らずの内に滾っていた心に冷水を浴びせられた気がした。そんな俺に対し慶次郎は、


「御大将がこの戦に対し心に秘した物をお持ちであることは、半兵衛殿はもとより俺だけでなく養父上(利久)や助右ヱ門も感づいておりまする。ですから、木砲によって打ち崩した第一の門から体勢が整わぬ第二の門までの一騎駆けには目をつぶりましょう。ですが、これより先は北畠の者共も御大将が上がってくるのを手ぐすね引いて待ち構えているはず。その様な死地で御大将に一騎駆けをさせる訳には参りませぬ。

我ら“前田蔵人家”は上総介様の禄を離れ、御大将に一族郎党の行く末をお預けしたのござる。その御大将にこの程度《‥》の戦で何かあっては養父上や助右ヱ門に合わせる顔がござりませぬ。」


慶次郎の言葉に同意するように、傍らに控える前田蔵人家の郎党と思われる騎馬武者も大きく頷き真摯に俺の顔を見つめて来ていた。そんな慶次郎たちの姿に俺はようやく“御大将”や“殿”と呼ばれる者が背負わねばならぬモノを感じた気がした。

 これまでは、所詮は父・信長の三男として見る者ばかりだったが、元服し南伊勢攻略のため織田軍の大将となってから徐々に皆の見る目が変わってきているのには気づいていた。それをまさかあの慶次郎から突き付けられるとは…

そんな俺の心を見透かしたように優し気な眼差しで俺の事を一心に見つめる寛太郎と五右衛門。

元服前はこの二人とあとは母上(吉乃)と徳姫くらいだったのだがな…と苦笑してしまった。


「相分かった。慶次郎をはじめ皆の者、共に参ろうぞ。求むるは北畠権中納言殿の御身柄!他の者に遅れを取るまいぞ!!」


「「「「「「おぉ~!!」」」」」


慶次郎の進言を受け、騎馬隊の者たちと共に行くことを決め、標的は大河内城の奥に居る北畠権中納言具教の身柄と告げる俺の言葉に、騎馬隊の者たちは一斉に気勢を上げ怒涛の勢いで三の門を突き破り大河内城へと踊り込んだ。

 城内には多くの兵たちがいたが、怒涛の勢いで突き進む俺たちの前に雑兵は逃げ出し、当世具足を纏った北畠家の直臣と思われる者たちも、及び腰となり織田勢の進軍を阻むことは出来なかった。そして…


「伊勢国司、北畠家のさきの御当主・権中納言様に相違ござりませぬな!」


城の奥、他の部屋とは違い広く奥には一段高い上座が設えてある広間と思われる所に胴に北畠家の家紋・笹竜胆をあしらい頭には兜ではなく烏帽子を被った初老の将が太刀を手に床几に腰を下ろし待ち構えていた。


「如何にも、儂が北畠権中納言具教じゃ。その赤き鎧に波を模した前立て、左少将が申しておった“津田戯之介”とはその方であろう。昨日は一騎打ち。そして、今日は一騎駆けと見事なる武者振りよ。しかも、総攻めを予告しその言葉通りに城を攻め儂の前まで来るとは。織田の武力がこれほどとは、もはや天晴れと言う他ないわ。

で、儂の首が所望か?だが、儂も卜伝様より剣を習いし者。そう易々と首を取らせるわけには行かぬ、覚悟して掛かって参れ!!」


吼える権中納言に対し、槍を構え前に出ようとする慶次郎を俺は手を上げるようにして制し、手にしていた長巻を寛太郎に預けて一歩踏み出した時、


「御隠居様ぁ~~!!」


声を張り上げて俺の前に躍り出て来たのは、土埃に汚れ肩を守る大袖を数本の矢が貫き、頬から血を流しながら鬼の形相を浮かべる大河内左少将だった。


「御隠居様お下がり下さい。戯之介!昨日は不覚を取ったが此度はそうは行かぬぞ!!」


そう叫ぶと持っていた槍を捨て、腰の太刀を抜き腰を落として足を八の字に開き、肘を前に突き出すようにして太刀の鍔が額の位置にくるように高く構えた。

確か、新当流の引の構えと呼ばれる“後の先”を取って敵を斬り伏せる基本の構えだったはず。その構えをとった左少将の狙いは、一騎打ちの折に俺が長巻で見せた蜻蛉の構えからの斬撃に対するものだという事は容易に想像できた。そんな左少将に対し、俺も腰の太刀を抜くと蜻蛉に構え、


「キェェェェェ~!!」


裂帛の気合いと共に猿叫を上げ素早い飛び込みと共に太刀を上段から振り下ろした。

太刀は左少将が突き出すように構えた左肘を籠手ごと断ち切り、左足の太腿を佩楯とともに斬り裂いた。

その刹那の斬撃に斬られた当の左少将も、それを見守っていた権中納言や慶次郎も目がついていかなかったのか、何が起こったのか分からないと言った表情を浮かべていたが、肘を斬り落とされて持っていた太刀が広間の床に転がり落ち、次いで足を斬られて立っていられなくなった左少将がその場に崩れ落ちた事で、気合いと共に俺が太刀を一閃していた事を理解し、


「左少将!!」


と声を上げ広間に伏す左少将の許へ駆け寄る権中納言と、対照的に満足そうな笑みを湛え、


「御大将、流石にござります。刹那の斬撃に不覚にも御大将の太刀筋を見失ってし舞い申した。」


と俺を褒め称える慶次郎。そんな慶次郎の言葉に気が緩みそうになるのをグッと堪えて左少将の元に駆けよる権中納言に声を掛けた。


「権中納言様。先ほど首が所望かと問われましたが、某が求めるは権中納言様の首に非ず。大河内城は既に、織田の兵により落城したも同然。これ以上の流血は某の望むところではござりませぬ。早々に降伏なされて未だ武器を手に抗おうとする北畠の兵に武器を捨て降るよう告げていただきたい。」


そう諭すように告げる俺の言葉に、一瞬驚きの表情を見せた権中納言だったが直ぐに表情を引き締め、


「…降伏いたそう。城の奥にある広間まで踏み入れられては負けを認めぬ訳にも行くまい。されど、お主は甘いのぉ。此処で儂の首を取っておかねば後悔する事になるやもしれぬぞ。」


そう挑発する様な言葉に面具から見える口元を嘲笑しているように見せるため歪ませて、


「後悔するかどうかは全て某が決める事。それが某の信念の元に決めた事なれば、甘んじて受け入れる覚悟。もっとも、一度の後悔もないような生など詰まらぬものになると某は思っておりまする。」


そう言い切った俺に、権中納言は目を大きく見開き呆れたように、


「儂の前でそこまで言い放つ者など初めてじゃ。何とも呆れた“たわけ者”よのぉ。良かろう、その方の言葉が愚かな大言壮語か否か閻魔の傍らで見届けてくれるわ!」


そう告げると、腰に差していた脇差を抜き自らの首を突こうとした。むろんそのような事を許す訳もなく、握る太刀を横に振り抜き権中納言が握る脇差を柄元で叩き折り刀身を斬り飛ばした。


「見届けるつもりであれば閻魔の傍らではなく、この世においてご自身のまなこでしかと見届けるが宜しかろう。そもそも、降伏をした上は権中納言様の生殺与奪は某が握る事となり申す。この期に及んで自刃など某は許しませぬ。」


自死を覚悟したもののその寸前で脇差を斬り飛ばされた呆然とする権中納言に対し、俺は敢えて厳しい言葉をぶつけると、眉間に皺を寄せ怒りの表情で俺を睨みつける権中納言。


「…この儂に生き恥を晒せと申すのか。」


「左少将殿もそうでござりましたが北畠家の者は死に急ぐきらいがござりますな。公卿家というのはそういった所が有るのでござりましょうか?ですが、この戦乱の世にその様な考えでは家を後の世まで遺すことは難しくなりますぞ。

例え、生き恥を晒そうと石に噛り付いてでも生き延び、汚名を雪ごうとする者だけがこの乱世を勝ち抜く事が出来るのだと某は考えておりまする。権中納言様はその様な考えを持つ者に敗れたのだと腹を括っていただきとうござりまする。」


俺の言葉に権中納言は雷に打たれたかの様にビクリと体を震わせると、体の力を抜いた。


「孫の様な年の離れた者に諭されるとはのぉ。承知した、そこもとの云われる通りに致すとしよう…」


この後、直ぐに権中納言の名において抵抗を続ける城兵に対し武装解除と降伏の命が下り大河内城は陥落。

此処に南伊勢の攻略戦は六角・織田の勝利で幕を閉じたのだった。



前話に続き、主人公が武具を手に活躍する話にしました。

描きたかった場面が書けて嬉しいです。

書いている時、映画『カムイの剣』のラストバトルで流れるBGMが頭の中に流れていました。

三十年以上まえのアニメ映画ですが、胸熱になれる作品だと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 攻城戦なのに総大将が一騎駆けとかめちゃくちゃ浮いてそうですね。
[一言] 慶次さえ見失う踏み込みと剛剣! 強い大将を持って、慶次も楽しいだろうなー
[一言] ヒャア!カッコいいですな!自刃しようとした瞬間に刀が切り落とされるとかびっくりしたでしょうね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ