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第五十話 和製南蛮船『尾張』乗船

プライベートでゴタゴタが発生し時間を取られてしまい更新が遅くなりました。

すいません。

清兵衛砲(木砲)二十門の作製を与左衛門と正左衛門に依頼した俺はその事を熱田の港に居る九鬼孫次郎嘉隆に伝えるとともに、南蛮船の操船習熟に俺も立ち合いたいと伝えると、喜んでお迎えするとの返事があり俺はいつもの寛太と五右衛門に加え蜂須賀小六郎と共に港へと向かった。

 いつもならば傅役(お目付け役?)として付いて来る竹中半兵衛は、南蛮船の操船習熟となれば船に乗ることになるから自分は遠慮したいとの申し出(駄々を捏ねた)があり、柴田権六と木下小一郎も南近江に居た時に淡海(琵琶湖)で船に乗ったことがあり、その際に船酔いをして酷い目に遭ったと言って今回は同行を辞退した。

小六郎は元々美濃から尾張を流れる木曽川に勢力を持つ川並衆の頭領だけあって、船に慣れていて船酔いの心配はないという事で共に向かう事となった。


 港に着くと町の入り口に九鬼孫次郎嘉隆と同じように海の潮に焼かれて縮れた髪の毛に日光を浴びて褐色に日焼けをした肌の、如何にも荒くれ者といった風貌の者たちが待ち構えていた。

男たちは俺たちが街に近づいて行くと大急ぎで駆け寄って来たのだが、その風貌に小六郎と寛太に五右衛門は腰に差すそれぞれの得物の柄に手を添えて駆け寄ってくる男たちに怒声を浴びせた。


「止まれ!貴様たちは何者かぁ!?」


周囲に響き渡る小六郎の誰何の声に、男たちは慌てて足を止めるとその場で片膝をついて首を垂れた。


「お待ち下され!決して怪しき者ではございませぬ。そちらの御方は織田茶筅丸様ではござりませぬか?儂は九鬼孫次郎様配下、豊田五郎右衛門隆景にござります。九鬼水軍が頭・九鬼孫次郎様の命にて茶筅丸様の御到着をお待ち申しておりました!!」


孫次郎(嘉隆)からの使いの者と聞いた小六郎はホッと息をつき腰の太刀から手を離すと五郎右衛門に歩み寄ろうとしたが、寛太と五右衛門が小六郎の動きを制し声を上げた。


「九鬼孫次郎様配下の方でございましたか、お出迎えご苦労にござります。では早速ですが孫次郎様の元へ案内をお願いします。」


一定の距離を保ったまま孫次郎の元へ案内するように告げる寛太と五右衛門に五郎右衛門は満足気な表情でニヤリと笑うと、


「はっ!こちらでございます。」


と言い他の水軍衆と共に俺たちとの距離を保ったまま、先導するように歩きだした。


「寛太殿。五右衛門殿。如何されたのだ?あの者たちに何か不審を持たれたか。」


五郎右衛門たちの先導で港町の中へと進む中、小六郎は未だ腰に差した刀に手を添えたまま俺の両脇を固めるように歩く二人に声を掛けると、寛太と五右衛門は周囲を警戒しながら小さな声で小六郎の問いに答えた。


「いえ、九鬼様が茶筅丸様を害する事など無いとは思いまする。されど水軍衆は気性の荒い者たちが多いと聞いております。九鬼様の統制を外れて茶筅丸様に対し不埒な事を考えないとも限りませぬので、どの様な不測の事態が起きようとも茶筅丸様だけはお守りせぬばと…杞憂であればそれに越したことは無いのですが。」


それを聞いて、小六郎もなるほどと頷いた。

小六郎も荒くれ者揃いの川並衆を束ねる身。気性の荒い者というのは、戯れに身分の上の者に平気で喧嘩を吹っ掛けることがある。そんな川並衆よりも海を生活の場としている水軍衆の気性は荒いと聞く。

茶筅丸を唯一無二の主君と仰ぐ寛太や五右衛門からしてみれば、何を仕出かすか分からない水軍衆を警戒するのは当たり前だし、寛太は同輩である将右衛門とその手下との間に因縁があるだけにこの反応も致し方ないと得心がいったようだった。


五郎右衛門に案内されて港の奥へ向かうと、港から離れた位置に一隻の大きな船が錨を降ろし停泊していた。

よく見ると数隻の小舟がその船と港の間を行き来しているようだった。


「茶筅丸様、こちらで暫しお待ちくださいませ、頭領を呼びますので。」


大船と港の間を行き来する小舟の発着場となっている桟橋に着くと、五郎右衛門は俺に一言断りを入れるとその場から大船に向かって大声を張り上げた。


「お頭~ぁ!茶筅丸様がお着きになられました~ぁ!!」


まるで戦場で将が兵たちを鼓舞する時の様な周囲に響き渡る大声を発した五郎右衛門。そんな五郎右衛門の呼び掛けに応じる様に、大船からこれまた大きな声が返って来た。


「なに~ぃ!すぐに参る故、茶筅丸様に暫しお待ちいただけるようにお願い申し上げよ~!!」


「心得ておりまする~ぅ!」


大船からの声に即座に返した五郎右衛門は返事をすると俺の方へと向き直り、


「孫次郎様は直ぐに参られまする。此方にてお待ちくださいませ。」


そう言って頭を下げる五郎右衛門。しかし、俺は海に浮かぶ大船に目を奪われていた。


熱田の港には川を使って美濃や尾張から運び込まれる多くの荷が集められ商人たちが仕立てた幾つもの和舟が集まっていたが、その和舟が波間を漂う木の葉かと思うほどの巨大な大船だった。

俺が令和の頃の事を思い出して市松や虎之助、寛太に五右衛門と共に試行錯誤を繰り返した末に生駒屋敷の池に浮かべた南蛮船の模型をそのまま大きくした物が、圧倒的な存在感と共に目の前の海に“在った”。

その全長は小学校のプールよりも少し大きく、三本の帆柱マストがそそり立ち船尾には戦国の日ノ本ではお目に掛かる事の無い西洋式の船尾楼を備えた“夢の南蛮船”だった。

 

「茶筅丸様…これが貴方様が殿(信長)に建造を進言されたという南蛮船でござりますか。川並衆の頭として今まで多くの舟を目にしてまいりましたが、この様な船を見るのは初めてにござりまする。」


呻く様な声で俺に語り掛けてくる小六郎に俺は南蛮船から目を放すことなく、


「いや、某も書物などから形などは知っておりましたが、『見ると聞くとは大違い』とは正にこの事にござりますな。これほどのモノを九鬼殿が作り上げているとは思いもしませんでした。」


そう感嘆の言葉を口にすると、


「これは嬉しきお言葉を頂いた!のぉ五郎右衛門。」


「はっ!まことに苦労をした甲斐があったというものにござりまする。」


と、いつの間に桟橋に到着していたのか、俺と小六郎の言葉に嬉しそうに笑みを浮かべる孫次郎とそんな孫次郎に苦笑いを浮かべる五郎右衛門が立っていた。


「随分と熱心に『尾張』を見ておられたようにござりまするなぁ。某としては自らが差配して造り上げた船が茶筅丸様のお眼鏡に適う事は嬉しき事なれど、近づき声を掛けるまでお気づきになられないと言うのは些か不用心にござりますぞ。もし、某が弐心を抱く不心得者であったなら好機到来と茶筅丸様を害し奉ったやもしれませぬぞ。」


そう苦言を口にする孫次郎に対し俺は率直にその言葉を認めるしかなかった。


「孫次郎殿の申される通りにござりまする。市松や虎之助らと書物を片手に作り上げた模型を基に斯様に勇壮な船が造り上げられたのかと思うと目を奪われてしまい、お恥ずかしき限りにござります。」


そう返した俺の言葉に、孫次郎は驚きの表情を浮かべたが再び笑みを浮かべ、


「いやはや、その御年頃の御方は某の様な物言いをすれば真っ向から否定されるか、怒りを露にし己が体面を保とうとされる御方が多うござりまするが、茶筅丸様のように何のてらいも無くお認めになられる御方は初めてにござります。流石は世に聞こえし織田の“たわけ”様にござりまするなぁ。」


と、当て擦りとも取れる言葉を投げ掛けて来た。そんな孫次郎に俺は苦笑するしかなかった。


「まさか伊勢の水軍の将の耳にまで某の事が伝わっておりましたか。しかし、織田家の嫡子ならばいざ知らず所詮は織田家の三男にすぎぬ某の体面など保とうとした所で如何ほどの事がござりましょう。そんな無駄なことをするよりも、某の身を案じて発せられた諫言に耳を傾ける事こそ肝要にござりましょう。」


「…。聞きしに勝るとはこの事にござりまするな、そうは思いませぬか?小六郎殿。」


「確かに孫次郎殿の申される通りにござる。が、当の本人にはその自覚は無いと言うのもまた面白き事にござる。」


俺の返答に対し、孫次郎は再び苦笑しながら今度は俺の隣に控えていた小六郎に話を振ると、小六郎は孫次郎の言葉に同意しつつ俺の方を見て面白い物を見つけたと言うように笑みを浮かべたためなんとも居心地が悪くなったため、俺は話題を変えようと海に浮かぶ南蛮船に視線を向けながら孫次郎に話し掛けた。


「先ほども申しましたが、見事な南蛮船にござりまする。それで、操船技術の習得は進んでおられまするか?」


俺が問い掛けた途端それまで笑みを浮かべていた孫次郎は眉間に皺を寄せた。


「真に申し訳なき事にござりまするが、未だ手足の様に船を操ること敵わず鋭意習得に励んでいる所にござりまする。そもそも、これまであのような帆を備えた船を扱ったことがなく、あまりの違いに苦慮致しております。とは申せ波の穏やかな内海ならば多少は動かせます。お乗りになられますか?」


「是非!」


孫次郎の問い掛けに俺は即座に反応し和製南蛮船『尾張』に乗船する事となった。

 俺たちは孫次郎の案内で桟橋に止めてあった小早船に乗り『尾張』へと向かった。

小早船でゆっくりと『尾張』に近づくと改めてその大きさに圧倒された。

史実では父・信長の命を受けて孫次郎は鉄張りの安宅船を建造し大阪湾で毛利の村上水軍と戦い、退けることに成功したことでそれまで頑強に抵抗を続けていた本願寺を屈服させる事が出来たのだが、村上水軍に勝利した鉄張り安宅船と今目の前に在る『尾張』は同じくらいの大きさがあるのではないだろうか。

いくら質に出た息子からお願いされたとはいえ、これほどの巨船を作るように命じる父も父だが、それを実際に造り上げてしまった九鬼孫次郎もとんでもない奴なのではないだろうか。

もっとも、そう仕向けた俺が一番の“たわけ”なのかもしれないが…

 そんな事を考えている間に小早船は『尾張』の船腹に接舷し、小早船に向かって『尾張』の甲板から縄梯子が降ろされ、孫次郎を先頭に俺たちは縄梯子を使い『尾張』に乗船した。


「如何でござりますか茶筅丸様。」


『尾張』に乗船し舳先へと移動した俺たちの眼下には見渡す限りの大海原が広がっていた。その光景に目を奪われていた俺に孫次郎が話し掛けて来た。俺は視線を大海原へと向けたままで、


「大海原など熱田の港からよく見ている光景の筈なのに、『尾張』の甲板から見る景色は全く違うように見えるから不思議だ…」


「某も長らく水軍の将として海を見てきておりましたが、『尾張』から眺める海はこれまでのモノとは一味違う様に感じまする。上総介様も、初めて『尾張』に乗船された時、船から見える光景に茶筅丸様と同じように感嘆の声を上げておられました。」


舳先から見える光景に感嘆の声を上げると、その俺の言葉を孫次郎は嬉しそうに声を弾ませ、父も『尾張』に乗船し俺と同じように感嘆の声を上げていたと知って嬉しく思いつつも少し照れ臭くなり、


「で、あるか。」


と父の口癖を真似ていた。



仕事の為に来週から大型特殊と牽引の免許取得のために時間を取られるので

更新が遅くなるかもしれません。

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― 新着の感想 ―
[一言] >その全長は小学校のプールよりも少し大きく プール長さが25メートルだから、コロンブスがアメリカ行きに乗ったサンタ・マリア号(23.5メートル)より一回り大きいのか
[一言] なぜか一瞬、船舶免許を取ると考えてしまった。
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