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第四十九話 木砲(清兵衛砲)と携行砲(与左衛門筒)

登場人物を誤認させる様な箇所があったので修正しました。



与左衛門の言葉に鍛冶場を飛び出すと、其処には足軽と思しき鎧姿で槍を持つ兵が数台の荷車を囲むようにして警護していた。

そんな足軽の前に突然鍛冶場から飛び出した俺に驚き、足軽たちは殺気と共に槍を向けようとしたようだが、直ぐに鍛冶場から飛び出して来た者が何者なのか判別出来たようで一瞬安堵の表情を浮かべた俺に一礼した後再び周囲に目を向け荷車の警護を再開した。


「そんなに慌てずとも大丈夫ですぜ、茶筅様。」


足軽たちから向けられた殺気に動きを止めていた俺を困ったものだと言うように笑いながら声を掛ける与左衛門に俺は苦笑し誤魔化すしかなかった。



「さて、茶筅様へは初のお披露目となるこれが儂と清兵衛苦心の作だ!」


警護の足軽に囲まれながら俺たちは荷車の元によると、与左衛門が荷車の上に掛けていたムシロを取り払った。

莚の下から姿を現したのは、一つは一間以上ある様な丸太をくり貫き、その周りを荒縄でグルグル巻きにした物を頑丈に作られた土台に固定されている“砲”と三尺ほどの長さの竹の節を抜き、これまた荒縄でグルグル巻きにしてある“筒”だった。


「こちらは丸太を二つに割り芯に三寸ほどの鉄球が通る溝を掘り抜いて砲身とし、丸太の底に清兵衛が火縄銃を参考に工夫した砲の尾栓を嵌め込んである。

丸太をくり貫いただけの物は数発も砲弾を撃つと尾栓が抜けてしまったが、清兵衛の工夫によって十発砲弾を撃っても尾栓が抜けることはなくなった。もっとも、十も二十も撃てば丸太の砲身がもたぬから一合戦のみの使い捨てとなるがな。それ以上砲弾を何十発も撃ちたければ鉄で砲身を作らねば無理であろうな。丸太の砲身は竹で作った箍で締めその上から荒縄で補強してある。初めは鉄で作った箍を嵌めてみたのだが、鉄の箍では砲弾を撃ちだす火薬の力に耐えられず、竹の箍の方が火薬の力に耐えてくれたのには儂も驚いたわ。」


与左衛門は苦笑を浮かべながらも木砲について話してくれたが、木砲などは攻城戦で閉じられた城門に対して数発打ち込み、抉じ開けることが出来ればそれだけで味方の士気は上がり敵を降伏させる事が出来ると考えていたから、清兵衛の工夫によって十発も撃てるのなら十分に目的は果たせるだけでなく、工夫次第では攻城戦だけでない使い方も出来るのではと感服した。そんな俺の様子を見て与左衛門は続けて竹で作られた筒の説明を始めた。


「そして、こちらが儂と清兵衛が戯れに作った物で火縄銃と木砲の中間的な扱いの火器になる。儂らは兵が携行出来る火砲、“携行砲”と呼んでおった。

扱いは火縄銃よりも簡便で、筒先から火薬と砲弾を入れて筒底に設けてある点火孔から着火することで砲弾を発射する事が出来る。が、足軽が一人で持ち運ぶことが出来るが、携行砲を持ち上げ火縄銃の様に敵方に向けて撃つことはニ・三人掛かりでも困難。土の上に立てて敵方の上に向けて砲弾を撃ち上げるようにして頭上から砲弾を降らせるようにして使うのが望ましき扱い方だ。」


与左衛門の説明を俺なりに解釈すると、与左衛門と清兵衛が作り出した火砲は現代の打ち上げ花火に近い使い方をするもので、砲弾を打ち上げて敵の頭上に落とす事で殺傷させる物のようだ。兵器としては迫撃砲に分類されるものかもしれないが、迫撃砲の様に頭上に落ちて来た砲弾が爆発する訳ではないから効率良く敵に損害を与えることは出来ないかもしれない。もっとも、毛利水軍は焙烙玉という手投げ爆弾を使っているからそれらを参考にすれば迫撃砲などに使われる炸裂弾を作る事が出来るかもしれない。ただ、焙烙玉は陶器に火薬を詰め導火線に火を点けた状態で投げていたが、携行砲から打ち出す際の火薬の爆発に陶器が耐えられない恐れがある為、炸裂させる為の火薬を納める器をどうするかがカギとなるだろう。

まぁ、打ち上げ花火は紙の器を使い天空に打ち上げて中の火薬を爆発させ夜空に大輪の花を咲かせているのだから、携行砲の炸裂弾も同じような構造で作る事が出来るだろう。

 そんな事を考えていたが、ふと気づくと携行砲の説明を終えた与左衛門が少し不安そうな顔で俺を見つめていた。


「如何なされた与左衛門殿。その様な不安そうな顔をして?」


「いや、その儂の話を聞いて茶筅様が何も言わず考え込まれている様なので如何したのかと…」


と、逆に問い質されてしまった。確かに、与左衛門の話を聞き押し黙っていれば如何したのかと不安になるのは当然のこと。俺の配慮が足らなかったのだと慌てて弁明する事となった。


「失礼仕った。与左衛門殿の話を聞き“携行砲”について如何にすれば良いのかと考えを巡らせておりました。この携行砲、なかなかに恐ろしき火器になりそうにござりまする。これからの織田家にとって大きな力となりましょう!」


そう褒め称えると、与左衛門は安堵しつつ自分たちの仕事が評価されたことに笑みを浮かべたがその後に続く俺の言葉に頬を引き攣らせることとなった。


「こちらの試射を確認した後の事になりまするが、木砲は早急に二十門ほどを納品下さいませ。携行砲は手始めに五百門をお作りいただきたいと思っておりまする。先ほどの与左衛門殿の御説明をお聞きし考えますに、数を揃えてからの運用が良いかと思われますので…如何されました?」


携行砲を手始めに五百門という俺の言葉に目を見開き頬を引き攣らせた与左衛門に何を驚いているのかと訊ねると、与左衛門は慌てて首を左右に振り、


「いや、いきなり五百門も作れと申されたので…ですが本当に良いのか?儂が言うのも何だが、まだ海の物とも山の物とも分らぬ火器をいきなり五百門も作れなどと申して。」


と俺の事を心配する様な顔で逆に訊ねて来た。そんな与左衛門に俺はニヤりと笑うと、


「御心配には及びませぬ。与左衛門殿の話をお聞きした上での判断にござります。もし、思う様な成果が上げられないのであればそれは某の目が曇っていたというだけの事、大したことではございませぬ。」


俺がそう告げると、与左衛門は一層不安そうな顔をした。その顔がいつもの与左衛門からは想像もしない表情だったため少し困ったが、


「ですが、他の事ならば某の思い違いという事もござりましょうが、与左衛門殿と清兵衛殿が作り上げたこの“携行砲”に関してはその恐れはござりませぬ。この“携行砲”、数が揃った暁には大きな成果を発揮する事は疑う余地はござりませぬ。そして、今戦場で力を揮う長槍に取って代わり、戦を大きく変えることになると考えておりまする。

与左衛門殿もご存じの事と思われますが、我が父は兵を農民を徴し戦場に駆り立てるのではなく、兵は兵として雇い農民には耕作に精を出し国《織田家》を支えるもといとされておられまする。与左衛門殿と清兵衛殿が作られた携行砲を扱うにはそれなりの練度が必要になろうかと思われまするが、織田の兵ならば携行砲の扱いに習熟する時がございます。扱いに習熟した織田兵が放つ携行砲五百門の前に、敵は頭上から襲い掛かる砲弾によってなすすべもなく打ち砕かれることにござりましょう!」


そう強く言い切る俺の言葉にその様子を幻視し高揚したのか与左衛門の頬を赤く染め、


「はっ!茶筅様がそこまで仰られるのならば最早とやかくは申しませぬ。福島与左衛門、携行砲五百門を作り上げ茶筅様の元にお届けいたします!!」


と力強く約束してくれた。


この後、木砲と携行砲の試射を行い与左衛門が説明した通りの性能を確認し、木砲二十門と携行砲五百門を正式に発注した。

 試射の中で、清兵衛が死んだのは木砲と携行砲の尾栓を作製し木砲として組み上げ試射を行った際の事だったようだ。

この時、砲身を繋ぎ止めるたがは清兵衛が用意した鉄の箍を用いたのだが、試射を行う最中に箍が壊れて砲身が破裂しその破片が運悪く清兵衛の体を貫いた。

破片は清兵衛の腹を貫き、即死は逃れられたものの腹部の血管を切り裂いていたようで血が止まらず、共に試射を見守っていた与左衛門たちが試射場の母屋に運び込み、息子の虎之助と凶報を聞いて駆け付けた正左衛門に看取られながら息を引き取ったそうだ。

 息を引き取る際、清兵衛は自分を見守る虎之助と正左衛門にそれぞれ遺言を残した。

虎之助には自分が死んだ後も鍛冶師として精進をし、自分を超える腕を身につけるようにと言い、正左衛門には虎之助の後見を頼みつつ俺が依頼をした木砲と与左衛門とで工夫を重ねた携行砲を完成させるために力を貸してもらいたいと告げて息を引き取ったそうだ。

 その話を聞いた俺は、息を引き取るその時まで俺の依頼をやり遂げようとしていた清兵衛にあたらめて感謝し、木砲の織田家家中での正式名称を清兵衛の名をつけて“清兵衛砲”とした。

 その事を知った与左衛門から携行砲には自分の名を付けて欲しいと求められ携行砲の正式名称は“与左衛門筒”と名称を定めた。


 この後、木砲と携行砲は織田家による天下統一のため多くの戦場で使われ、特に与左衛門筒は発射する砲弾の改良(散弾や炸裂弾などの開発)によって戦国の世を平定した兵器として歴史に名を残した。

しかし、その事は同時に天下統一戦の中で最も人を殺傷した兵器としても名を残すこととなり、与左衛門はその事を誇りにしながらも苦しむことになるが、この時点では彼もそして俺もそんな事になるとは思いもしなかった。






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― 新着の感想 ―
[一言] ノーベルとダイナマイトみたい。 結果としてダイナマイトが大勢の人を殺した事に対する後悔の念からノーベル賞を始めたとか。
[一言] 与左衛門砲の行く末って、まるでダイナマイトとノーベルのような関係ですね。 後に与左衛門賞が出来るか……
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