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第三十九話 家康の帰還


永禄十一年の暮れを押し迫った師走に父・信長と共に上洛を果たした家康が三河に帰参した。

その知らせは十日ほど前に早馬によってもたらされていたため、城代の小五郎をはじめ岡崎城に留守居役として残されていた三河の家臣たちは家康の帰参に向けて出迎えの準備を進めた。

 そして、先触れとして母衣衆(使番。伝令役のこと)が、家康が指揮する軍勢が三河の国境を越えた事を伝えると、小五郎たち家臣をはじめ竹千代に築山殿も一同うち揃って上洛を果たし三河に凱旋した家康を出迎えたのだが、何故かその中に俺も含まれていた。

否、俺の両脇を竹千代と築山殿が固め、その背後に小五郎や平八郎、半蔵などの三河の家臣を従えるといった形で家康を迎えることとなった。

 徐々に近づいてくる徳川軍の姿に俺は背後に控える小五郎に、


「小五郎殿‥御城代!某は皆様方の末席にお加えいただければそれで良いのです。質である某がこの様な位置で三河守様をお迎えしては後々問題になりましょう。今からでも遅くはございませぬ、某は皆さまの後ろに下がります。」


と半泣き状態で訴えて後列に下がろうとしたのだが、背後から小五郎にガシッと両肩を掴まれ、


「それは成りませぬ。これは城に詰める三河衆の総意にございます!」


と動きを封じられてしまった。更に、


「茶筅様。どうか某と共に父上をお出迎え下さいませ。お願いいたします。」


「竹千代の申す通り、わたくしからもお願いをいたします。どうか三河守様に労いのお言葉をお掛け下さいませ。」


と、両脇を固める竹千代と築山殿からこの立ち位置のままで家康の帰参を出迎えるようにと懇願されてしまい、何も言う事が出来なくなってしまった。

そんなやり取りをしている間に、徳川の軍は岡崎城に到着したようで城内は兵たちを労う声とその声に応えるかのように大きな笑い声があちらこちらから上がり、城内は騒然となっていった。そして…


「小五郎!竹千代!今戻ったぞぉ!!」


一際大きな声を上げて近づいてくる家康とそんな家康に付き従う石川数正の姿が見えた。

俺は即座に片膝をつき首を垂れた姿勢を取り、家康が近づいて来るのを待とうとすると、横に並ぶ竹千代と築山殿をはじめ俺の背後に並ぶ小五郎以下留守居役の三河家臣が一斉に俺と同じように片膝をつき頭を下げるのが分かった。

そんな出迎えの者たちの動きに驚いたのか、家康たちの歩みが止まり戸惑っている気配が伝わって来た。それでも直ぐに歩み寄ってきたのか人の気配が近づき俺の数歩手前で止まった。それを合図に背後に居た小五郎が後ろから俺の背中に合図を送ってきたため、俺は仕方なく…


「三河守様。謹んで上洛の御成就、お祝い申し上げます。

岡崎の城にて留守を守る竹千代様、築山様をはじめ小五郎殿、平八郎殿以下ご家来衆は三河守様の御帰りを一日千秋の思いでお待ち申し上げておりました。某も三河守様に大変なご苦労を押し付けることとなり心苦しく思っておりましたが、ご健勝のご様子に安堵いたしました。」


「父上!無事の御戻り祝着至極にございます!!」


「殿。殿の御無事な姿を見て瀬名は安堵いたしました。」


出迎えの口上を述べた俺に続き、竹千代と築山殿がそれぞれ家康の帰参を喜ぶ言葉を口にした。その様子に再び驚く家康たち。

それも当然の事で、嫡子である竹千代や城代を勤める小五郎を差し置いて、人質として岡崎に留め置かれている俺が皆を代表して口上をあげ、それに文句を言うどころか当たり前の様に続けて帰参に喜びの言葉を口にする竹千代と築山殿に、家康も数正も『一体何が起きた??』というように周囲に視線を彷徨わせていたが、俺の後ろに並ぶ小五郎たちが何事も無い様に身じろぎ一つしなかったため、この場では敢えてその事には触れず、


「出迎え大儀!」


と一言だけ返して来た。俺はその言葉を受け即座に、


「積もる話もございましょうが皆様お疲れの事と推察いたします。先ずはお疲れを取る為にもお休み下さいませ。小五郎殿!」


「はっ!万事抜かりはございませぬ。

殿。与七郎、先ずは汗と汚れを流し、疲れをお取り下さりませ。」


そう言うと家康たちを先導し本丸御殿へと消えていった。

その姿を見送り俺は大きな溜息を吐くと、そんな俺を可笑しそうに竹千代と築山殿が見ていたため、厄介な事を押し付けられた腹いせにジロリと睨みつけると、二人はそんな俺の反応が可笑しかったのか、


「茶筅丸様でもその様なお顔をされるのでございますね。」


と築山殿に笑われてしまった。

その後、竹千代と築山殿は家康の後を追って本丸御殿の中へと入って行き、俺は己の部屋へと戻ったのだが何故かその日の内に本丸御殿に呼び出されることとなった。


 平八郎の案内で向かった先には家康と竹千代に築山殿がにこやかな顔で談笑し、その様子を小五郎と与七郎が見守っていた。そんな家族団欒の場に入る事を躊躇していると、


「御歓談の所失礼を致します。茶筅丸様と半兵衛殿をお連れ致しました。」


俺を案内してきた平八郎が部屋の中にいる家康に対し大きな声で呼びかけた。


「おぉ、待っておったぞ!茶筅丸殿、遠慮は無用じゃ、中にお入り下され。」


平八郎の呼び掛けに対して上機嫌な家康の声が返って来た。そうなれば下手に遠慮するのは逆に失礼になると俺は覚悟を決めて、


「失礼を致します!」


そう断りを入れて、部屋の中へと入り戸口近くに腰を下ろして、


「三河守様。お呼びと聞き罷り越しました。」


とその場で平伏すると即座に家康が、


「茶筅丸殿。その様な所で畏まっておらずに、もそっと中に入られよ。」


と近くに来るように告げて来た。その言葉に俺はにじり寄ればいいのかとも思ったが、家康をはじめ竹千代や築山殿はもちろん直談判以来俺に対して余り良い顔をしない与七郎まで恵比須顔をしているのを見て、ここは下手に畏まるよりも思い切って近づいた方が良いだろうと判断し、家康から三・四歩という位置まで近づき腰を下ろした。

そんな俺に家康は満足そうに笑顔で何回か頷き、


「茶筅丸殿。儂が留守の間ご厄介をお掛けした様ですなぁ、真に忝く存じまする。竹千代の父として御礼申し上げる。」


そう言うといきなり俺に頭を下げて来た。その家康の行動に俺は驚き、


「三河守様、頭を上げ下さいませ。某こそ、三河守様の留守の間に城中を騒がしてしまったこと、真に申し訳なく思っております。どうかご容赦のほどを!」


慌てて許しを請うように平伏した。そんな俺と家康に笑い声が上がり、顔を上げて声の主へと視線を動かすと小五郎と与七郎が俺と家康が互いに頭を下げ合う姿を見て笑っていた。

いつもは仏頂面の小五郎と真面目くさった顔をしている与七郎が笑っている様子に、竹千代と築山殿だけでなく平八郎までも笑い出しそんな周りの笑顔に俺と家康は顔を見合わせて何方からともなく笑い出し、本丸御殿中に聞こえるように笑い声が広がっていった。



「都に上洛し御座所とされた本圀寺で、某と新九郎殿は集まった諸将の前で義昭様からお褒めの言葉をいただき面目を施す事が出来申した。それもこれも上総介様のお口添えがあったればこそ!更に申せば三郎五郎殿と共に岡崎に参られた茶筅丸殿に、質に入る代わりに上洛に参加するように勧められたお陰にございます。更に更に、上洛で岡崎を開けた三月の間に当家に持ち上がっていた難問を解決していただき申した。重ね重ね感謝を申し上げます。」


笑い声が治まった部屋で、改めて徳川家の面々に囲まれながら俺と半兵衛は家康と対面に座ると、家康は都に上った折に義昭から言葉を賜り面目を施した事を嬉しそうに語り、その上洛に参加するように仕向けた事。更に上洛の間に徳川家で持ち上がっていた問題を俺が解決したと感謝されたのだが、俺にはその意味が分からず半兵衛に視線を向けるも半兵衛も首を傾げていた。

そんな俺たちの顔を見て徳川家の者たちは苦笑し与七郎が口を開いた。


「本来ならば口にするのは憚られる事ではございますが、実は当家では竹千代様と御方様の扱いについて少々ございました。

竹千代様は先に茶筅丸様が三郎五郎殿と共に岡崎に参られた際、茶筅丸様の一喝にて露呈された小心にござります。これまでは勇ましき事を口にされておられて力に頼る所がお有りでございましたが、それが心の内に隠された小心からのものであったと露呈したため上洛より戻ったら御心を強くなってもらわねばと思っておりましたが、上洛から戻ると顔つきが一変しておられて上洛の間にあった事、竹千代様にとってご都合の悪い過ちまで全てお話になられたのです。これまで、ご自分の都合の悪いことは御隠しになられ、露見すると知らぬ存ぜぬを決め込んでおられた竹千代様が自ら過ちを三河守様にお話になられる様になるとは…」


そう言うと感極まったのか言葉を詰まらせた。そんな与七郎の言葉に竹千代は恥ずかしそうに顔を赤らめたが、怒っている様子はなかった。

言葉に詰まった与七郎に代わり口を開いたのは小五郎で、


「御方様はこれまで“築山殿”とお呼びしておりました。これには理由わけがござります。

御方様の御母上はお亡くなりになられました治部大輔様の妹君にござりまして、治部大輔様とは伯父・姪の関係にござります。

その近しき関係もあり殿の元に嫁がれたのでございますが、治部大輔様が上総介様に討ち取られ、尾張の抑えにと岡崎に入った三河守様の心をお疑いになられた刑部大輔様により御父君・関口刑部少輔親永殿が御成敗され、世間では治部大輔様を『二万の大群を擁しておきながら三千余りの上総介様に討たれた惰弱者』と蔑まれたことに御心を痛められて、岡崎に参られても殿や竹千代様と共に本丸御殿に住もうとはされておられませんでした。

そんな御方様に茶筅丸様が、桶狭間の戦の後に上総介様が「今川治部大輔の様な決して諦めぬ男になるのだぞ」と語られたと教えていただき、世評はどうあれ討ち取りし上総介様がその様に評して下されている事に胸の痞えが取れた様で、あの騒動の後は竹千代様と共に本丸御殿に…」


とバラバラだった家族が一つ所で生活を共にするようになったと話してくれた。

その赤裸々な内情の暴露に俺と半兵衛は呆気に取られてしまった。

当主一家の内情のゴタゴタは最も調略のきっかけになり易い。ちょっとした綻びを手掛かりにして人の心の隙を突き、調略を仕掛け自分の有利な状況に人を誘導する。そんな内情を赤裸々に語るなど戦国の世に生きる者として考えられない事だった。


「三河守様。いくら某が質だからと言ってこの様な事を語られるなど、一体何をお考えになられておられるのでございますか!」


思わず語気を荒げる俺に家康は笑みを一層深め、小五郎と与七郎も俺の反応を嬉しそうにニコニコと恵比須顔になっていた。


「如何でございますか?拙者の申した通りにござりましょう!」


と平八郎が吼えるように誇るように声を上げ続けて竹千代も、


「平八郎の申す通り。茶筅様ならばこう仰せになるから“試す”必要はないと言ったのに…父上!与七郎!!」


声を上げた。そんな二人の言葉に家康は苦笑し、与七郎は笑いながら竹千代に対し「申し訳ござりませぬ」と頭を下げていた。そんな様子をしり目にこれまで口を閉ざしていた築山殿が口を開いた。


「申し訳ございませぬ。わたくしと竹千代。それに小五郎と平八郎から岡崎に参られてからの茶筅丸様のご様子をお聞きになった殿と与七郎が、茶筅丸様の御心根をはかりたいと申されまして…」


築山殿の言葉に半兵衛は得心がいったのか大きく頷いた。


「それで、御当家の内情を語り茶筅丸様が如何申されるのか“試した”と。お気持ちは分からなくもありませぬが、些か度が過ぎたのではござりませぬか?

“たわけ”様であったから良かったものの、常の御方ならば先ほどのような事を耳にされれば国元に知らせようとされたはず。そうなれば秘密を漏らさぬために御命を奪わなければならぬ事態になったやもしれませぬ。そうなれば、織田と徳川の間で再び争いが起きる…」


そう告げて家康と与七郎を睨みつける半兵衛の顔にはいつも浮かべている笑みはなかった。

笑みの消えた半兵衛に対して家康も与七郎も表情を強張らせ、竹千代は顔色を青くした。


「半兵衛殿。その辺で収めてはいただけませぬか。殿も与七郎も肝が冷えたことにござりましょう。殿。与七郎。悪戯が過ぎましたな、これに懲りて以後は慎まれますように!」


一触即発の緊張状態を演出した半兵衛に対し矛を収めるように願い出るとともに、家康と与七郎に反省を促す小五郎の言葉に半兵衛が再び笑みを浮かべることでその場を支配していた緊張が解け、竹千代は大きな溜息を洩らし与七郎は己が策したことが裏目に出た事を恥じてか体が幾分か縮んだように見えた。そして家康は、


「小五郎の言う通りじゃな。どうやら儂らは要らぬ小細工をし過ぎた様じゃ。茶筅丸殿。半兵衛殿。済まぬことをしたご容赦下され。」


そう言って頭を下げた。まさか家康自身が非を認め、頭を下げるとは思わなかったのか半兵衛は少し困ったような顔をし、俺に対応を任せると言うように黙して答礼を返すだけ。仕方なく、


「いえ。三河に戻られて、お気持ちが緩まれたのでござりましょう。ですがこの様な事は是切りとしてくださいますようお願いいたします。」


と返し、深々と頭を下げて見せた。

その後は、先日実相寺近くの庄屋から譲ってもらった茶の茎などを焙じた棒茶を淹れて家康たちに振舞い、実相寺の和尚から教えてもらった天竹の綿などの話に興じて半時ほどを過ごした。

家康は俺が淹れた棒茶に舌鼓を打ち、淹れ方を教えて欲しいと言うほど興味を示し、与七郎は天竹にある綿に興味を示しどんな使い道があるのかを頻りに聞いて来た。その後、家康の前を辞する段になって、


「茶筅丸殿。徳川はこの後、東三河から遠江へと進出するつもりにござる。武田も動き出してはおりますが、都での事が既に伝わっていたのか東三河の抑えに置いた大久保七郎右衛門から、遠江から東は武田が遠江と三河は徳川が治める事を約すと武田から申し出て来たそうにござる。もちろん、信玄入道相手に気を緩めるつもりはござらぬが、駿河平定が終わるまでは武田も我らと矛を交えようとは致しますまい。その間に我らは東三河と遠江を治め、力を蓄えたいと思っております。

そこで、儂は東三河に居城を移し、岡崎は竹千代と小五郎に任せるつもりにござる。もちろん暫しの間は岡崎に留まりまするが、儂が東三河に移った後。茶筅丸殿が質として岡崎に居られる間、竹千代や小五郎と共に岡崎をお願いできませぬか?」


と申し出て来た。その申し出に俺も半兵衛も驚き呆れたが、家康の顔は真剣そのもので、とても冗談や酔狂からの申し出とは思えなかった。その為、簡単に拒否する訳にも行かず。仕方なく、


「某はあくまでも質にございます。出来ることなどたいしてあるとは思えませぬが、某の出来る事なれば、微力ではございますが竹千代殿のお力になる事をお約束いたします。」


と返すしかなかった。


◇岡崎城 徳川家康


上洛から三河へと戻った儂を出迎えたのは、茶筅丸殿を先頭に整然と並んだ小五郎をはじめとした家臣と、それを当たり前の様に受け入れている瀬名と竹千代だった。

その光景を目にして、儂も上洛で儂の片腕として働いた与七郎も驚きの余り言葉が出なかった。

しかも、城に戻った儂に家臣を代表して言葉を掛けて来たのも茶筅丸殿であった。その茶筅丸殿に続き、まるで別人のような言葉遣いで竹千代が挨拶をし、瀬名まで儂に労いの言葉を掛けて来た。

瀬名は桶狭間の戦で治部大輔様が討たれて今川勢が総崩れとなった時、余勢を駆って織田方が三河から遠江へと進行して来ぬように岡崎城に入り守りを固めた儂に疑いを抱いた刑部大輔氏真殿に瀬名の父・関口刑部少輔親永殿が仲を取り持とうと動いてくれたのだが、それが仇となり刑部少輔殿は殺されてしまった。

仕方なく儂は策を用いて竹千代と瀬名を刑部大輔殿の下から救い出したものの、儂の行動がきっかけとなり父を殺された瀬名は酷く落ち込み、儂を避けるようになり住まいも儂や竹千代が住む本丸御殿ではなく城の近くの築山のある館で過ごしていた為に、“築山殿”などと呼ばれておった。

そんな瀬名が笑顔で儂を迎えてくれるとは…


 思いも掛けぬ出迎えを受けた儂たちは小五郎の勧めで汗と汚れを落として、茶筅丸殿が手に入れて来たという“棒茶”なる芳しき茶で喉を潤した後、先ほどの出迎えについて問い質した。

小五郎が言うには儂が上総介様と共に上洛を果たす間に、岡崎城に参られた茶筅丸殿によって既に竹千代は性根を叩き直され、瀬名は桶狭間の戦の後に上総介様が伯父である治部大輔様を高く評し、茶筅丸殿に治部大輔様の様な武将に成れと話された事を聞かされて、それまで抱えていた胸の痞えが取れたのか以後は本丸御殿に移り竹千代と共に暮らすようになったという。

小五郎の言葉に儂が瀬名に目を向けると、瀬名は恥じ入るように顔を赤らめて、茶筅丸殿の言葉を聞き、今川から離れ上総介様と盟約を結んだ儂の判断は間違いではなかったのだと理解したのだと告げた。

そして、父を殺され駿河を追われたことで己ばかりが不幸を背負わされた様に感じていたが、それは浅はかな考えであり、駿河に居た時の様に儂を支え共に歩みたいと申してくれた。

 まさか竹千代だけでなく、瀬名と儂の仲まで取り持ってくれるとは考えもせず儂は茶筅丸殿の御器量にただただ感服するしかなかった。

共に話を聞いていた与七郎も儂と同じ思いを抱いたようで、ぐうの音も出ないといった顔をしていたのだが、


「殿。茶筅丸様の御器量を見誤っていた己を恥じ入るばかりにございまする。その様な某がこの様な事を口にするのは可笑しなことにございまするが、質の御役目の為に岡崎に居られる間、茶筅丸様に竹千代様の後見として小五郎殿と共に、西三河をお任せしては如何でござりましょうか。殿はこれより東三河と遠江に目を向けねばなりませぬ。竹千代様と小五郎殿と共に茶筅丸様に西三河を担っていただければ、後顧の憂いなく東三河と遠江に注力出来るというものではありませぬか!」


と、言い出したのだ。

与七郎の申し出にその場にいた者たちは一様に驚きはしたものの、小五郎や平八郎などは直ぐに賛同するように大きく頷いた。

儂も、与七郎の言葉を吟味し、良き案であると認めざるを得なかった。

 この後、徳川家は織田家と共に歩むこととなるが、それは儂と上総介様だけの間だけでなく、竹千代に家督を譲った後も疎かには出来ぬ事。

なれば、織田家の次代を担う茶筅丸殿との誼を深くすることが肝要。その機会が目の前にぶら下がっている今、活用しない手はなかった。


ついにストックが切れてしまいました。

今後、更新は不定期になると思います。

なるべく早く更新できるように頑張りますのでお許し下さいm(~‗~)ⅿ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しい作品ですので今後も楽しみにしてます。執筆頑張ってください、応援してます。
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