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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第四章:ドラゴン・ラグ
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8話「手足がそこらに転がってますわ……」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 キャロルに投票してくれる人間が居ない?なら簡単な事ですわ。

 人間が居ないなら、人間を作ればいいのですわ。


 ということで、人間を作りますわ。人間を作りますわよ。




「……人間を作るには10か月程度かかると思うが」

「そんな馬鹿正直に人間なんて作りませんわよ!」

 大体10か月経って生まれてくる人間はまだ自力で投票できないような赤ん坊ですわッ!

「よろしくて!?今、私達に必要なものは『魔物の血』と『人間のガワ』ですのよ!」


「魔物の血があれば、いくらでも投票数を生み出せますわ!でも、その票を投じるには『奴隷ではない人間』が投票所に行く必要がありますの!」

「つまり、それが『人間のガワ』ということか」

「そうですわ!」

 要は、魔物も人間の姿をしていれば投票できるということなんですのよ!

 私達に必要なものは、人間のフリができる魔物!そういう事になりますわね!

「それなら……幻覚の魔法を使う魔物、ということか?ゴーストの類は人間に化けることがあると聞くが」

「ゴーストじゃあ駄目ですわ。透けますもの。答えは……これですわ!」

 私はチェスタの左腕を示して、言いますの。

「ゴーレムを量産しますわよ!」




「ええー……ゴーレム?大丈夫なの?それ。後でバレたら大変なことにならない?」

「その場でバレさえしなければ、後から『あの時投票に来たのは誰だったのか』なんてもう調べようがなくってよ」

「あー……そーね。確かにそうだわ……」

「でもゴーレムなんて作れる人、居るの?」

「心当たりはありましてよ」

 ということで、残り1週間半!

 私達は人間……型のゴーレムを作ることにしましたわ!




 ことが決まったら早速動きますわよ!

 ドランとキーブ、それからジョヴァンには魔物狩りに行ってもらいますわ。血が通っている魔物を狩って、それも特に生け捕りにする必要も無くとりあえず血だけ集まればいい、という雑な仕事ですから精一杯頑張ってもらいますわよ。

 ……ジョヴァンは戦えないなりに瓶に血を詰めるですとか、なんかそういう働きを期待しますわ。いえ、でも彼、銃を一丁持っていきましたからもしかしたら多少は戦力になるかもしれませんわね。ええ。


 お兄様には早速ですけれど、ゴーレムを作り始めて頂きますわ。

 ……けれど、完全に人間の形をしたゴーレムなんて、お兄様でも作れるかどうか……。

 でもここはお兄様に期待、ですわ。ええ。ゴーレムは最終的に量産が求められますから、とりあえず服や仮面で誤魔化せる程度の人間型ゴーレム素体ができればなんとか……。

「ヴァイオリア!見てくれ!これを!」

「あら、もうできましたの?……これは」

 そしてお兄様が早速出来上がったそれを見せてくださいましたわ。

 泥でできたスライムみたいな何かがウゴウゴ蠢いていましたわ。

「失敗した」

「……そういうこともありますわよね」

 これは……お兄様には期待しない方がいいかもしれませんわね……。


 ……そして。

 私とチェスタは、2人で別行動ですわ。

 ええ。お兄様にも一応ゴーレム作りを試して頂いていますけれど、本命はこっちですのよ。

 本職の、人形職人さんを訪ねますの。




「リューゲルー、生きてるかー?」

 チェスタが無遠慮に開けた扉は、エルゼマリンの裏通りの一角にある古ぼけたお店のもの。そのお店の外には『ルネット人形屋』とだけ看板が掛かっていますわ。

 そう。ここは表向きこそ人形屋さんですけれど、その裏ではゴーレムや、ゴーレム技術を用いた義肢の販売を行っているそうですの。

「あー、内装、こんなんだっけ?全然記憶にねえな」

「あなた、ここの馴染みだってお話しでしたわよね?」

「いや、ここに来る時は大抵ラリってるかここでラリるかするから記憶が曖昧で……」

 ……この店大丈夫なんですの?

 一応。一応は、チェスタの左腕の義手を見て、この義手を作る店ならゴーレムづくりの腕も確かなものだろうと思って、それでこの店に来たのですけれど……。

 チェスタの顔なじみ、という点を踏まえて、やめておくべきだったかしら……?


「どうしたの、チェスタ君。珍しいね」

 やがて店の奥から出てきたのは、初老の男性でしたわ。小柄で穏やかそうで、ここがエルゼマリンの裏通りだということを忘れてしまいそうな風貌の方ですわ。

 けれど眼光は鋭くて、確かにエルゼマリンの裏通りに店を出している人なのだと分かりますわね。まあ、ただ穏やかなだけの人間はここで生きてはいけませんものね。

「……あれ?こちらのお嬢さんは?」

「ヴァイオリア。俺のダチ」

 勝手にダチにされましたわ。遺憾ですわ。

「ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアです。初めまして、リューゲル・ルネット様」

 チェスタのダチ扱いは遺憾ですけれど、ここでうだうだ言う程馬鹿じゃなくってよ。私はご挨拶しながら一礼して見せましたわ。

 すると、リューゲル様は何か思い出すような顔をして……それから、ピンときたらしいですわね。

「ああ、ヴァイオリア、って、フォルテシア家のお嬢さんか。うん、お噂はかねがね」

 この方、如何にも穏やかそうに見えるのにもかかわらず、私の『お噂』を聞いていながらそれでもニコニコして手を差し出してくるあたり、流石、エルゼマリンの裏通りで店を出しているだけのことはありますわぁ……。


「……それで、今日はどうしたのかな?チェスタ君の腕の具合、悪くなっちゃった?」

「いや、腕は調子いいぜ。今日、用事があるのはヴァイオリアの方。俺は案内だけ」

「ええ。突然のお願いで申し訳ないのですけれど、ゴーレムを作って頂きたくて」

 早速、私は用件を伝えますわ。

 期限は1週間。それまでの間にできるだけ多くのゴーレムを作ってほしい。戦闘はできなくても構わない。日持ちしなくてもいい。ただし、パッと見では人間と間違うくらいのゴーレムを。

 ……そんな条件を聞いていたリューゲル様は、少し難しい顔をして一唸りされましたわ。

「それは中々難しいね。1週間で可能な限り、って……希望としては、何体ぐらい?」

「2000くらい、ですわ」

「2000!?それは……うーん、それじゃあ申し訳ないけど、僕には引き受けられないな。1日5体作っても35体だ。2000なんて、到底作れないよ」

 ……まあ、予想できた答えだけに、それ程落胆もしませんわね。

「では20体で結構ですわ。後は着せ替えでなんとかしますから」

 こちらで用意される20体とお兄様が作れる限りのゴーレムとを駆使して、あとは着せ替えでなんとか……。

「ん?着せ替え?」

 と、私が考えていたら、リューゲル様が怪訝そうな顔をされましてよ。

 ただ、その顔は……不審がる顔、ではなく、興味を持った顔、のように見えますわね。

「もしよかったら、ゴーレムを何に使うのか、僕にも教えてくれないかな。もしかしたら、何かいい案が浮かぶかもしれない」




 ……ということで話しましたわ。私じゃなくて、チェスタが。

 私は少しばかり話すことを迷ったのですけれど、チェスタは何も迷わずさっさと話し始めましたわ!こいつ!もし私に話す気が無かったらどうするつもりだったんですの!?

 ……でもまあ、結果としては良かった、ということになるのでしょうね。

「うん。そうか。つまり、一度に2000体のゴーレムが必要なんじゃなくて、のべ2000体のゴーレムが必要、ということなんだね」

「ええ。兵士の目を誤魔化せればそれで事足りますの。1体のゴーレムを着せ替えして別人のように仕立て上げながら使い回すつもりでしたのよ」

「成程。それに加えて、戦闘用でもなく、何なら細かい動きや判断は特に必要ない、と。うん。それなら僕にもできそうだ」

 あら。できますの?ちょっと意外ですわね。

「ゴーレムの素体は20体くらいにして、代わりにパーツをいくつも作ろう」




「パーツ?」

 私が首を傾げていると、リューゲル様は店の奥に入っていって……そこから、腕を3本ほど持ってきましたわ。

 ……腕、ですわぁ……。めっちゃ腕ですわぁ……。

「これがゴーレムの部品。うちにある在庫を適当に2つ持ってきたけれどね。いい出来だろう?」

「ええ。作り物とは到底思えなくってよ」

 人間から切り取ってきたようにさえ見える腕3本が机の上に置かれると、何とも言えない気持ちになりますわね……。

「それに、脚のパーツも2つ追加ね」

 更にそこに脚も加わりましたわ。腕と脚が並ぶ、猟奇的な机の出来上がりでしてよ。

「……これで手足の組み合わせは4通りだね。更に目が2つあったらパーツの組み合わせは8通りになる。更に鼻が2つあったら16通り。髪のパーツが2つあったら32通り」


「付け替えられるパーツが多ければ、色々なゴーレムができる。手足に頭部、目と髪、っていう5種類だけでも、それぞれ10個ずつパーツがあれば100000通りのゴーレムが作れる。見た目だけ考えるなら頭と髪、あとは目鼻なんかを増やした方がよさそうだけれどね。まあそこはバランスを考えてやるとして……」

 ……そうですわね。服やカツラの組み合わせばかり考えていましたけれど、ゴーレムの体自体を組み替えできるなら、その方がよくってよ。

「どうかな、ヴァイオリアさん。そんなかんじでよければ、僕でも引き受けられるけれど」

「ええ。是非それでお願いします」

 組み替える手間は掛かりますけれど、どうせゴーレムばかり立て続けに何百体も流すわけにはいきませんでしたもの。丁度いいかもしれませんわね。


「ところでお代はお幾らですの?」

 本当だったら先に聞いておかないといけなかったのですけれど、うっかりでしたわ。

 でもまあ、こちらの目的をすっかり話してしまっている以上、足元を見られるのも今更ですし。金に糸目はつけませんわよ。

「こいつ、結構持ってくから気を付けた方がいいぜ、ヴァイオリア。俺だってこの腕の代金、払うの苦労したし。……まあ俺の場合は薬買ってるから金がなくなるだけなんだけど」

 ……やっぱり薬中は言うことが違いますわねえ。

「うん、まあ、貰うものは貰うけどね。……じゃあこれくらいで」

 提示された金額は赤金貨7枚。チェスタが「うっわ」とか言いながら目ン玉剥いてますけれど、まあ十分許容範囲内ですわ。何ならもっと足元見られるかと思ったのですけれど。良心的ですわね。

「ええ。構いませんわ。では前金として3枚。残りはゴーレムの納品と同時にお渡しします。よろしいかしら?」

 赤金貨7枚ならお財布に入っていますからすぐ出せますわ。とりあえず3枚、硬貨を取り出して机の上に出しましてよ。

「そんなに前金で頂いてしまっていいのかい?ありがたいけれど少し心配になってしまうね」

「私としては今すぐ赤金貨7枚払ってしまってもよいのですけれど」

 私がそう言うと、リューゲル様は苦笑いしつつ、赤金貨3枚を受け取りましたわ。

 これで無事、商談成立、ですわね!




「それじゃあ早速、僕は作業に入ろうかな」

 よいしょ、と声を上げながらリューゲル様は立ち上がって、店の奥へと向かっていきますわ。

 ……ゴーレム工房って、どんなものなのかしら。少し気になりますわね。

「リューゲル様。もしご迷惑でなければ、見学させて頂いてもよろしいかしら?私、人形の魔法に興味がありますの」

 ダメ元で申し出てみると、リューゲル様は少し驚いたような顔をなさいましたけれど、私をじっと見て納得されたようですわ。

「そうか。ヴァイオリアさんも魔法を使えるんだよね。分かった。自由に見学してくれて構わないよ。……あんまり面白くないかもしれないけれどそれはごめんね」

 あら。案外すぐに許可が出ましたわ。運が良くってよ。

 ……ということで私、ゴーレム職人の工房にお邪魔することができましてよ。




 工房の中は何と言うか……猟奇的でしたわ。

「片付いていないパーツも多くてね。ごめんね、散らかってて」

「いえ……」

 人間のものと遜色ない手足や目玉や髪や……あらゆる人体のパーツが棚や作業台の上にありましてよ。ぱっと見、バラバラ殺人事件の現場ですわね。

 人形のものですから血が一滴も出ていませんけれど、それがまた却って不気味というか……。何とも言えませんわぁ。

「今回作るのは、パーツを幾らでも継ぎ接ぎできるようなゴーレムにするよ。その分強度は出ないけれど、投票させるくらいなら問題ないだろう」

 リューゲル様は人間の胴体にあたる部分のパーツを持ってきて、その手足の断面にあたる部分を見せてくださいましたわ。

 そこには魔石が嵌め込んでありますの。ここに人形の魔法を込めておいて、後はパーツの側につけた『印』に反応して魔法が完成される、ということなのでしょうね。

「それから、このゴーレムの作り方だとどうしても複雑な命令はできないと思う。ずっと操作し続ける必要があるかもしれないね。まあ、多少なりとも魔法を使える人なら操作できると思うけれど、心配だったらヴァイオリアさんも一回やってみるといい」

「是非、一度やらせていただきますわ」

 じゃあ、当日のゴーレムの操作は、私とお兄様とキーブ、それからもしかしたらジョヴァンもいけるかもしれませんものね。試させてみることにしましょう。

 ドランは身体強化の魔法はアホみたいに上手いですけれど、人形の魔法も使えるかは分かりませんわね。

 チェスタは魔法は使えなさそうですから……。

 ……。


 ……あら。

 そういえば……私としたことが、うっかり今まで気づきませんでしたけれど。

 チェスタって、魔法は使えません、わよね?

 でも……ゴーレムの腕を動かしている、というのは……一体どういうことなのかしら?


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― 新着の感想 ―
[一言] うわあ…素敵なゴーレム工房ですわ! 人間そっくりのパーツがそこいらにごろごろ…よ、夜に一人で留守番は無理ですわね!
[一言] ゴーレム合体、ランドクロス(違) ワタクシ『パーツ換装で複数種類のロボになる』で思い出すのはトランスフォーマーのランドクロスな古い人間でござる(笑) 流石に上半身下半身の入れ替わり合体はしま…
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