6話「王家への殺意が高まりますわね」
ごきげんよう。私はまるでご機嫌じゃないですけれど。
何と言っても王家が開拓地を潰しに来ましたのよ。
しかもその名目が『この開拓地に大罪人を匿っている嫌疑が掛かっているから』ですのよ。
……大正解!ですわーッ!確かに私もお兄様もドランもここに居ましてよーッ!?
あああああ!ムカつきますわーッ!どうせあいつら、キャロルに濡れ衣着せて邪魔するつもりですのよ!この名目で開拓地を潰せば、キャロルを直接『大罪人を匿った罪』でしょっぴけなくても悪印象を与えることはできますし、開拓者達への攻撃になりますからキャロルへ投票する人達が投票どころではなくなりますし!
……でも!なんで『大罪人』ですのーッ!濡れ衣着せたつもりが大正解!私達はここに居ましてよ!捜査も何にもしてない癖に大正解引いておまけにこっちの邪魔までしてくるなんて!
めっちゃ!腹立ちますわーッ!ムキーッ!
めっちゃ腹立ちますけれど!ここは私、引き下がるしかありませんわねえ!
ここで私がノコノコ出て行ったら本当にこの開拓地は『大罪人を匿っていた開拓地』になってしまいますわ!
ということで私やお兄様、ドランといった王家に狙われている者達はさっさと隠れましたわよ!
王家の兵士達の前に立つキャロルは、1人矢面に立つ形になりますけれど……その横にキーブや他の乙女達も寄ってきて、キャロルを守ろうとしますわ。うう、ここまでキーブを温存してきた甲斐がありましたわ!こうして表に出しても文句言われませんもの!
「ではこの開拓地は取り壊させてもらうぞ」
「お待ちください」
そして早速訳の分からないことをぬかしやがる兵士をキャロルが止めましたわ。
「どうして取り壊す必要があるのですか?ここに居る者達は何の罪もなく、ただ必死に開拓を進めているだけの者達です。この開拓地を荒らすようなことはおやめください。それとも、ここに居る全員が大罪人だと仰るおつもりですか?」
真っ当な正論ですけれど、兵士はここで引き下がるわけにはいかないので開拓地を破壊しようと頑張り始めますわね。けれどこっちには一応、エルゼマリンの冒険者ギルドからきている冒険者達も居ますの。ただ暴れ回って一方的に破壊活動できると思ったら大間違いですわ。
それに何より。
「大罪人というのがどなたのことかは分かりませんが、王家の方がそう仰るならご協力します。好きなようにお探しください。でも、開拓地を破壊して開拓者達の努力を踏み躙るような真似は、正義でもなんでもない。ただの暴力です。違いますか?」
シスターからのド正論に、兵士達は動けませんわね。
貴族もそうですけれど、王家はより一層、面子と名目が大切な者達でしてよ。ですから、偽物でもなんでも名目無しには開拓地の破壊なんてしませんし、そこに正義を名乗れないなら動けないのですわ。
私が王家の連中ならここで開拓者達を一人残らず殺すという選択を取りますけれど、今ここに来ている兵士達にそんなことができるとは思えませんわね。
……ええ。ですから、兵士達は残念なことに、冒険者達が開拓地を守るようにぞろぞろとやってきて控え、そしてキャロルに睨まれているこの状況では動けませんのよ。
「大罪人の特徴をお教えください。探すのをお手伝いできると思います」
「と、特徴、といっても……」
答えられる訳がありませんわよね。そもそもが濡れ衣なのですから、標的が誰か、なんて決めても居ないはずですわ!
「……どうして誰も何も仰って下さらないのですか?」
「それは……機密だからだ。この情報は知らせてはならないのだ」
「それはおかしな話です。でしたら、最初から私に何も仰らないでしょう?私にわざわざお申し出くださったのですから、『大罪人』の存在は公表してもいいということですよね?」
兵士は頭が悪いから咄嗟に何も反応できませんわね。
「存在していると仰るのに、実態については何も仰らない。『大罪人』がこの開拓地に居るから開拓地を取り壊す。そういうお話なのに、まるで『大罪人』が存在していないかのように思えます」
「な、何だと!?」
図星ですわね。図星を突かれて動揺していますわね。
「神は見ておいでです。今、あなた方の心に正しさはありますか?」
動揺した兵士達は、今、もしかしたら『ここでこいつを殺すしかないのでは』なんてことを考えているのかもしれませんわね。
でも、気色ばんだ兵士達を前にしてもキャロルは退きませんわ。
「大丈夫です。分かっています。あなた方もお辛いでしょう」
全てを見透かしたような目と微笑みでキャロルはそう言って、兵士の1人の手を取りましたの。
「しかし、どうかここは見逃しては頂けませんか。ねじ曲がった正義の為に、罪の無い民が犠牲になるような事があってはなりません。正義を守るために働いていらっしゃるあなた方になら、分かって頂けますね?」
結局、ド正論で諭された兵士達は帰っていきましたわ。
このままここで暴れはじめたら王家への反発が凄まじいことになると分かったのでしょうね。
……というか、開拓地の規模が予想より大きかった、のだと思いますわ。
これをそのまんま敵に回したらヤバいということが分かったら、そりゃあ退きますわよ。
一旦王城に持ち帰る、という意味なのでしょうけれど、とりあえずここで兵士達を退かせることができたのは大きいですわね。
向こうとしては、弱者救済の意味合いもある開拓地づくりを邪魔したら、当然ですけれど民衆からの反発が大きくなるでしょうし。ですから大っぴらに開拓地潰しはできないはずですわ。というか、大っぴらに開拓地潰しできなくなるように、こっちから先手を打って『王家が開拓地潰しに来ましたのよ』っていう情報を流しておきますわ。こうすれば王家は民衆の反感を買うことを恐れてこれ以上は攻めてこないでしょう。
正義はこっちにありますわ。『大罪人を匿っている』なんて濡れ衣ですもの。ここは堂々としているしかありませんわね。幸いにも、開拓地潰しは王家からの意味の無い攻撃であって、キャロルへの悪評でも無ければこちらの非を取り沙汰されるものでもありませんわ。貴族票は既に切り捨てている以上、元々民衆に擦り寄るだけですから方針はぶれませんわね。
……ということで私達は最大限、努力しましたのよ。
こちらに非はありませんでしたし、民衆の同情も大いに寄せられて、何なら開拓地にはより一層人と資源とお金が集まるようになっていきましたの。
……でも、駄目でしたわ。
確かに開拓地は守られましたの。けれどそれ以上に、悪い噂が立ってしまったのですわ。
キャロルへの悪評ではなく、ある意味では王家への悪評なのですけれど……。
『キャロルへ投票したら王家から制裁される』。
そんな噂がまことしやかに流れてしまったのですわ。
開拓地潰しを回避したキャロルの腕前は見事。
噂の元となったのが『投票用紙に血を垂らす』という仕組み。
あれって単純に、同じ血の持ち主が複数回投票しないようにやってることなのですけれど、魔法に疎い馬鹿な民衆が『投票権に垂らした血で個人の判別ができる。誰が投票したか分かる仕組みになっているからキャロルに投票したらそれがバレて制裁されるのでは』なんてデマを『善意』で流してやがるのですわ。
これだから頭の悪い平民は性質が悪いですわ。有能な怠け者より無能な働き者の方が厄介とはよく言ったものですわね。
投票用紙に血を垂らすのは、あくまでも多重投票できないようにするため。
血同士が同一のものかは確かめられても、その血がどこの誰のものなのかまで確かめるなんて、そんな割に合わないことするわけなくってよ!
……なんてことを、愚民1人1人に言って回る訳にもいきませんもの。これは……どうしたものかしら。
大ピンチ、でしてよ。




