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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第四章:ドラゴン・ラグ
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3話「安い奇跡ですわね」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、チェスタと戦ってますの。




「覚悟なさい、人攫い!」

「神の名においてあなたを成敗します!」

「さっさと退散しなさい!」

 チェスタが空間鞄から檻付き馬車へと攫ってきた人を入れ直したところで、私と他数名の乙女達がチェスタに立ち向かっていきますわ。

 勿論乙女達の中でまともに戦えるのは狩人役をした子くらいですわ。けれどこういうのって恰好をつければ案外なんとかなるもんでしてよ。

「おもしれえ!俺を倒せるもんならやってみな!」

 チェスタの方もノリノリですわね。今回は義手は使わず、両手にナイフを構えて突っ込んできてくれましたわ。

 それを私が盾で防いで、キーブが練習して習得したてほやほやの水の魔法を使うもチェスタに避けられますの。(勿論キーブはわざと外しましたけれど、わざと外さなくてもチェスタなら避けられたかもしれませんわね。)

 そこで乙女達が矢を射かけたり、その隙に馬車の鍵をこじ開けようと頑張ったりして……そこでいよいよ、次期聖女となるキャロルが進み出ますのよ!

「神よ、慈悲深きその御腕にて悪しき者を払いたまえ!」


 キャロルが杖を構えてそう一声紡げば、チェスタが乗り回していたドラゴンが怯みますの。何故かというと、私がキャロルの後ろで睨みを利かせているからですわ。

 ……ええ。ドランは人狼ですからドラゴンにビビられていますの。

 その一方、私は……上下関係を厳しく仕込みすぎて、ビビられておりますのよ。

 私が睨むとドラゴンは全員、かわいそうなくらいに怯むのですわ……。




 ドラゴンが私に怯えて怯む中、キャロルがもう一歩、足を進めますわ。そこで私はドラゴンをもう一睨みしますわ。

「くそ、なんだよこれ!おい、ドラゴン!しっかりしろ!」

 それを見たチェスタは慌ててドラゴンに声をかけますけれど、ドラゴンの中ではチェスタと自分は仲良し……つまり、自分より上の私は、チェスタよりも当然上。

 ドラゴンはチェスタの言葉より私の一睨みに反応しますから、きゅーきゅー言いながらじりじり後退していきますわ。

「……よく分からねえけど、これは分が悪そうだな」

 チェスタは舌打ちを1つすると、ドラゴンに飛び乗ってすぐさま撤退し始めましたわ。

 これで形だけ見ると、キャロルに押し負けてドラゴンが逃げた、という構図になりますわね。




「皆さんもう大丈夫ですよ」

 やがて、檻付き馬車の鍵開けも成功して、中に閉じ込められていた人々は無事、救助される運びとなりましたわ。

 なにせ、自分達を助けたのは全員(フルフェイス甲冑の私も含めて)美少女と美少年ですもの。自分達を助けてくれたということも含めて、一気に信用度が上がりますわね!

「これは一体……私達は村に居たのですが、さっきのドラゴンに乗った奴に村が襲われて……気づいたら、この檻の中に居て……」

 私達は違法改造された空間鞄のことなんざ知りませんから、適当に顔を見合わせて首を傾げておきますわ。『新手の魔法かしら』『分かりません。今後も注意が必要ですね』なんて会話をしつつ、とりあえずは去っていった悪人よりも、救い出した村人達のことを優先させることにしますわ。


「ここはどこだい?私達の村は見えないけれど……」

「ここはエルゼマリン近郊です」

「エルゼマリン!?どうしてそんな遠くに……」

 そこで私達、困惑する村人達の出身地を聞いてみますと、それぞれ、辺境も辺境、ド田舎から連れてこられた人達だということが分かりますわ。チェスタはうまくやったようですわね。

「それでは帰るのも一苦労ですね……」

「ああ。俺達、金なんて持ってないし、もし村に帰ったとしても……金になるようなものなんて無いからな」

「今日の宿もない。どうしよう……」

 急に着のみ着のまま連れてこられた村人達は金も無ければ力も無い、といった具合ですわ。帰ることも、何なら今日の宿を手に入れることも不可能。これは絶望的ですわね!


「……でしたら皆さん、私達の村にいらっしゃいませんか?」

 そこでキャロルが提案しますのよ!

「あなたの村?それは」

「まだ開拓地ですが。でも、アイル財団が出資してくださっていますから、食事と住居の支援はできます。その代わり、少し皆さんには開拓のお手伝いをして頂ければ……」


 それからキーブが細かい条件を提示して、村人達は二つ返事で開拓地に行くことを承諾しましたわ。

 条件としては最高ですものね。攫われてきて帰るためのお金も宿のあても無いド田舎者達が、冬の間でも給金がちゃんと出て住居の保証もあって美少女がうようよいるような開拓地で働けるのですから、それは当然二つ返事ですわよね。おほほほほほ!




「開拓地の人口はどうなっていまして?」

「400超えたとこ。3日でコレだから、ボチボチいいかんじじゃない?」

 そうですわね、この速度で2か月後の聖女投票を迎えれば、ざっと8000票は入りますものね。エルゼマリンの票もある程度入ることを考えると、9000は固いですわ!

 ……でも、できれば10000ほしいところですのよ。

 王都や主要都市の人口を合わせていけば、10000やそこらじゃ太刀打ちできませんわ。勿論、その王都や主要都市の票が複数の聖女候補に割れていくわけですけれど、それでも10000票は入らないと少し厳しくてよ。

 特に、この戦い方ですと、相手の妨害工作をする暇があまりありませんのよ。ド田舎戦法は競合相手が居ない代わりに、競合相手を潰すこともできませんのよね……。

「まあ、まだ相手はこちらを警戒していませんわ。キャロルはまだ立候補しておりませんもの。キャロルの立候補はギリギリまで粘って、極力、妨害工作を躱していきたいところですわね」

 後は、適当な頃合いを見計らって王都やメアリランスで票を稼げばいいかしら。キャロルの票を稼ぐためには、キャロル自身が動く必要がありますものね。そこはしっかり考えていきませんと……。




 とりあえず、2週間経ちましたわ。

 開拓地には2000人もの村人が集まって働いていますわ。

 ……もうこれ、それなりの規模の町と同じくらいの人口ですわね。だだっ広い土地にそれだけの人間が集まって働いているのを見ると、なんというか、自分がしていることの規模の大きさがよく分かりましてよ。


 開拓地はとりあえず住居の建設から始まっていますわね。

 寝泊りは基本的にエルゼマリンで行うことにして、そこから馬車で数時間行ったところの開拓地に町を作っているところですわ。

 2週間経った今はなんとなく家っぽいものが複数立ち並ぶ光景になっていますわ。中々面白くってよ。

 開拓者達の中には土の魔法を使える者もちらほら居ましたのよ。そういった者達は当然、畑を作ったり、家の土台を作ったりするときに重宝されますわ。

 そして何より……。

「ふはははは!これで土台と柱は万全だな!」

「どうもありがとうございます、仮面の騎士様!」

「何、構わないさ。私の力が必要ならいつでも言いたまえ」

 お兄様が。

 お兄様が、ものすごく働いてらっしゃいますのよ!


「流石ですわね、お兄様」

「何、大したことではないさ。それに、久々に思いきり魔法を使えて気分がいい」

 お兄様は土の魔法で家の土台を作ったり、木の魔法で柱を生やしたりしておいでですの。

 ……お兄様は私なんかと比べ物にならない程、魔法が達者でらっしゃいますのよ。

 まあ、私は血の方に魔力が全部行ってしまった、ということなのでしょうね……。そのおかげで特に労も無く1人でドラゴン狩りできるのですから文句は言えませんけれど。

「お兄様のおかげで開発が凄まじい速度で進みますわね」

「器用貧乏も役に立つものだな。はっはっは」

 ……ちなみにお兄様の魔法は戦闘にはすこぶる不向きですわ。火の魔法は薪に着火する程度。風の魔法は凧を上げる程度。土の魔法は地盤を固める程度。雷の魔法はちょっとパチッとする程度。そして木の魔法は10日かけて家の柱程度の高さまで木が伸びる程度。そんなかんじですわ。要は器用貧乏ですの。実にフォルテシア家らしい魔法の使え方ですわね。

 つまりお兄様の戦闘力は何故かこれだけ特化している身体強化の魔法と純粋な腕力や精神の暴力性、そして立ち回りの巧さなどの戦闘技術だけで成り立っていますのよ。

「これだけ順調に発展しているとなると、ただの農民達にとっては奇跡でも見ているかのような気持ちなのだろうな」

 そうでしょうね。開拓地へ来ることに対して消極的だった農民達は、自分達の予想を遥かに超えるサクサク開拓ぶりに度肝を抜かれていますもの。

 開拓していてもすぐに作物が採れるわけでもありませんから、食料は全て私達が準備していますわ。

 農民達の食料はこの国がスライムのせいで全体的に不作ですので、隣国から輸入していますの。ウィンドリィ王国で星空のケーキを再販して稼ぎつつ、ウィンドリィ王国で食料を買い占めては輸入するという形で食料の調達を行っていますわ。おかげでオーケスタ王国の食糧事情に関わらず、安定して食料を調達できていますわ。

 要は、ここって農民達にとって天国ですのよね。

 開拓はサクサク進みますし、食料は十分ですし、住居も2週間で粗方できてしまいましたし。

 ……そしてそんな彼らを取りまとめている者こそが、キャロルなのですわ。




 見目麗しいシスターキャロルは開拓地の農民達に混じってよく働いていますし、彼らの取りまとめ役をやっていることによって信頼を得ていますわ。

 お陰で彼女の評判は開拓地内でメキメキと上がっていますのよ。

 どんなに頭数を増やしても、彼彼女らがキャロルに投票しなかったら意味がありませんわ。彼らがキャロルに間違いなく投票するように、しっかり印象操作を行っていきますわよ。




 ということで、キャロルには『聖水』を持たせましたわ。

 これでこの開拓地を襲う魔物を祓う奇跡を起こしてもらって、キャロルの評価を確固たるものにしますわよ。


 ちなみに聖水の中身は私の血液1000倍希釈ですわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公が外道!超ド外道!!赤い血の流れた同じ人間とは思えない!あ。血が猛毒でしたわwww ここまで読んできましたが、いやはや楽しい! 人道外れた展開に胸がすく思いですね。まったく関係のない…
[一言] いともたやすく行われる自作自演行為である…あとついでに誤字報告を「魔法の使え方」じゃな「魔法の使い方」ですよね多分…
[良い点] 更新お疲れ様です&ありがとうございます! 100万倍でおくすり、1000倍で聖水になるドラゴンコロリのヴァイオリアの血って一体……。 思わず笑ってしまいました。
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