22話「屋敷の代わりに焼くものを見つけましたわ!」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は今、ホーンボーン家の長男、ホーンボーン家の跡取り、そして私をあの日玉座の間で糾弾してくれた1人であるフォーン・タート・ホーンボーンを王都の貴族街の大通りで糾弾しておりますのよ!
最高に!気分が!よくってよォーッ!おほほほほほほ!
「彼が悪魔を……!?」
「あの方、ホーンボーン家のご子息なんじゃなくって!?」
「ホーンボーンと言えば、最近良からぬ噂が多いですが……」
「ああ!どこぞのご婦人が屋敷の前で赤子を抱いて叫んでいましたな!」
観衆はそれぞれに囁きながら、私とフォーンとをじっと見ていますわ。ちなみにドランは悪魔の死体の片付けの為にてきぱき動いてさっさと消えましてよ。そういう処理の為の退場だという名目がありますから、彼の退場には特に誰も何も言わなくってよ!
「さあ、フォーン・タート・ホーンボーン様!あなたの犯した罪……悪魔召喚について、何か申し開きはありまして!?」
「ご、誤解だ!僕はそんなことしていない!」
そして私はフォーンへの糾弾を続けていきますわ。
『フォーン・タート・ホーンボーンが悪魔召喚の犯人』。その証拠は何一つありませんわ。私が悪魔と会話してカマ掛けてちょっとそれっぽい反応貰ったのと、その後フォーンが悪魔を『悪魔が話していた通りに』倒そうとしていたことが証拠ですわ。
要はそれって私が悪魔と会話していた証拠にもなってしまいますから、ちょっぴり都合が悪いですわね。
……ですから、今回はそれらの証拠は使いませんわ。そもそも私が悪魔と会話していた記録なんて残っていませんもの。私の証言だけしか証拠が無いなら……それが真実だろうと捏造だろうと、変わりませんわ!
「いいえ!私はしかと確認しましたわ!あなたが犯行に及ぶ、その瞬間!ホーンボーン家の周辺で、魔力の動きが明らかにおかしくなりましたのよ!」
私の『証言』に場がざわめきましたわ。
ちなみに私、魔力の動きを完璧に読み取れる程魔法が上手じゃなくってよ。でもハッタリかますだけなら一切魔法なんか使えなくっても問題ありませんわね。おほほほほ。
「そ、そんな」
「それに、あなたが悪魔とどういった契約をしていたのかは分かりませんけれど……あなたにも悪魔にも、明らかにおかしな点がありましたわね?」
……そして私は、自分の『証言』よりもずっと確かな『証拠』を叩きつけてやるのですわ!
「あなたの先程の攻撃。明らかに私の矢2発分より弱い、ただ掠っただけのものでしたけれど……たったそれだけで、悪魔は逃げ出そうとしましたわね?これっておかしいんじゃなくって?」
……実際のところを言いますとね?
あの時の悪魔って、『逃げようとした』んでしょうけれど、それ以上にドランがガッツリ押さえてましたから、欠片も逃げ出せてませんでしたのよ。そのまま私がサックリ剣でヤッてしまいましたし。
ですが、こういうのは言ったもん勝ちでしてよ。
「確かに!あの時の悪魔はおかしかったぞ!」
「そうだ!ただ剣が掠っただけなのに……まるで示し合わせていたようだった!」
案外、緊迫した状況、興奮した状況での記憶なんてあやふやなものですわ。そこを『こうでしたわね?』と確認してしまえば、観衆の記憶なんて『確かにそうだった』とすぐに動かされてしまうものですのよ。おもしろいですわね。
「それにフォーン・タート・ホーンボーン様?あなた、どうしてわざわざ出ていらっしゃったんですの?路地に隠れて様子を窺って、まるで機を見計らうようにして潜んで……挙句、私が悪魔を討ち取ろうとしたその時になって出てきましたわね。その意図は何なんですの?」
更に私は誘導を重ねていきますわ。
観衆の意識をより、『犯人はホーンボーンのバカ息子だ』という方へ持っていくために。真実と虚構を織り交ぜつつ、フォーンを糾弾していきますわ!
「武術で名を上げてらっしゃるお方ならともかく、浮名ばかり流しているホーンボーン家のお方がとった行動としては、あまりに不可解でしてよ?」
そう。フォーンが踏んだヘマは確かなものでしたわね。
私の弓と剣が鮮やかに見栄えよく観衆の目に映ったのと同じように、フォーンのヘロヘロ攻撃も当然、観衆は見ていましたのよ。
それは誘導するまでも無く、観衆の意識に残っている事ですわ。ですから……これで十分、ですわね。
「ま、待ってくれ!そんな、言いがかりだ!」
「果たして本当にそうかしら?……今の戦いをご覧になっていた皆様!どう思われますこと!?」
私が観衆へ呼びかければ、観衆からは声が上がりますわ。
『悪魔召喚の大罪人を許すな』と。
……まあ、貴族ですから。貴族ですからね。上手くやれば事件のもみ消しくらい、なんとでもなったと思いますわ。
けれど、夜間の事件でしたから、城の兵士達の動きは遅くて間に合いませんでしたし、それより先に野次馬が煽られてフォーンを糾弾していましたし……要は、もみ消せないくらいに火種は大きくなってしまいましたの。
貴族街で起きた事件とはいえ、大きな火事がいくつもでしたから、近所の平民達だって当然、駆けつけていましたわね。平民の口に戸は立てられなくってよ。
それに貴族だって……ホーンボーン家に厭な思いを持っている家はそれなりに多いですもの。全員が味方してくれることなんてあるはず無くってよ。
借金に女関係のいざこざに。ここ最近で立て続いたホーンボーン家の醜聞も相まって、ホーンボーン家を庇おうとする者はおらず、居たとしてもこの大きな民意に対して、即時に抗える者はおらず……。
フォーン・タート・ホーンボーンは無事、王城の地下牢へと投獄されましたわ!
「おほほほほほほ!気分がよくってよ!」
「流石、我が妹だ!よくやったぞ!ふははははは!」
翌朝、ボロ倉庫へ戻った私は早速事の次第を報告して、存分に喝采を浴びていますわ!
特にお兄様からのお褒めの言葉を頂けてとっても嬉しくってよ!ああ、この達成感!何物にも代えがたいですわね!
「で、結局そっちはどうなったの?ドランが行ったから僕ら行かなかったけど」
「悪魔の死体はドランが下っ端衛兵に預けましたわ。私はその場で事情聴取を少しだけ受けましたけれど、その間にドランが路地裏に馬を運んでおいてくれましたから、適当なところで切り上げて馬に乗って颯爽と退場しましたわ」
「あらそ。じゃあお嬢さん、エルゼマリンの時と同じように英雄やっちゃったってことね」
そういうことですわね。
……エルゼマリンの暴動を沈めた英雄のことは、一部の兵士達も知っていたようですわ。ですから、事情聴取の時も私の正体に関する質問が幾つか飛んできましたけれど、それは全て適当に濁したり躱したりしてやり過ごしてしまいましたわ。
『謎多き女傑』なんて素敵だと思いませんこと?それにやっぱり、謎が目の前にあったらその後ろに更に隠れている『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア』には目が行かないものですわ!英雄の名声は隠れ蓑にぴったりでしてよ!
「フォーン・タート・ホーンボーンは地下牢へと収監されるようだ。当主も庇い切れないだろうな。まあ、庇おうが庇わなかろうが、一族郎党没落は間違いないが」
そうですわね。これだけ短期間に大量の悪評が立ちましたもの。流石に王家だってホーンボーンを切らない選択肢はもう無いでしょうし、そうなればその先にあるのはホーンボーン家の没落ですわ!
「これでフルーティエ家にホーンボーン家、2つの名家を落とすことに成功しましたわ!」
「残すところはクラリノ家と王家だけか」
ふふふ、順番からすれば次はクラリノ家ですわねえ。どうしてやりましょう?楽しみですわぁ……。
「ヴァイオリアよ。クラリノ家については私に1つ、よい考えがあるのだ。なので実行はもう少し待つがいい」
あら。お兄様が素敵な笑顔を浮かべてらっしゃいますわね?
「素敵!勿論それには私も一枚噛ませてくださいますのよね?」
「ああ、当然だ。……お前もまだ小さいと思っていたが、いつの間にやら立派な淑女に成長していたようだな。今のお前になら、諸々を任せてもよいだろう」
嬉しいお言葉ですわね!俄然、やる気が湧いてまいりましてよ!
「その機が訪れるまで、暫し待つがいい。こちらにも準備が必要なのでな!」
「ええ。いい子で待っていますわ。ですからお兄様、なるべく早くしてくださいましね?」
「楽しみに待つがいい!ふははははは!」
お兄様が何を企んでらっしゃるのかは分かりませんけれど、今から楽しみで仕方ありませんわね。
クラリノ家はどうやって没落することになるのかしら……。
そうして私達は帰路に就くことになりましたわ。
だってホーンボーン家は実質、もう没落したようなものですもの。続報はエルゼマリンのギルドからでも聞けるでしょうし。まあ、フォーンの公開処刑なんかがあれば見物に行ってもよくってよ。おほほほほ。
「結局スコーラ姫ってどうなったのかね」
「そこは分からずじまいでしたわねえ……まあ、この後の続報を待つしかありませんわ」
そこらへんもイマイチ分からずじまいでしたけれど、スコーラ姫の奴隷落ちのおかげで王家にも打撃が加わっているはずですわね。そこら辺がどう処理されたのかは続報が待たれるところですわねえ……。
まあよくってよ!エルゼマリンに戻ったらすぐ、勝利の祝杯ですわーっ!
そうしてエルゼマリンへ帰った私達は、数日間のんびりと過ごし……そうしてギルドからやっと、知らせを受け取ることができましたわ。
まず、ホーンボーン家について。
これは予想通り、貴族位の剥奪となりましたわ。罪状は『悪魔召喚』と『数々の不貞』、そして『王家の冒涜』だそうですわ。
どうやら、ホーンボーン家は『スコーラ姫によく似た奴隷を連れて歩いた』ということで王家を冒涜した、という事になっているらしいですわね。
ホーンボーン家当主としては奴隷オークションで見つけてしまったスコーラ姫を救出するつもりで買い取ったはずですから、これは可哀相ですわねえ。
それと同時に、王家からは『スコーラ姫とフォーン・タート・ホーンボーンの婚約を破棄する』という声明が出されましたわ。
婚約破棄ですってよ!愉快ですわね!順調にフォルテシアと同じ目に遭っているというのは気分がよくってよ!自分達がしたことの重さ、身をもって味わえばいいのですわ!
……ちなみに、これによって『王家は本物のスコーラ姫を取り戻した』ということにもなりましたわね。
元々、スコーラ姫がダンスホールの火災に巻き込まれて行方不明、なんて発表はされていませんでしたの。王家が仮面舞踏会に参加、なんて外聞が悪いと思ったのでしょうね。
そしてここでスコーラ姫の生存を仄めかしつつ、『王家に落ち度は無かった』という締めくくりにするつもりらしいですわ。まあいけしゃあしゃあと抜かしてくださるものですわね。
……そして気になるフォーン・タート・ホーンボーンの処遇ですけれど。
「成程な。悪魔召喚はやはり、大聖堂の管轄になるのか」
ええ。どうやらフォーンは大聖堂が処遇を決定することになったようですの。
大聖堂、というと、エルゼマリンにある大聖堂ですわ。海の上に浮かぶ白亜の大聖堂の姿はエルゼマリンの観光名所でもありますわね。
……エルゼマリンを手中に収めた私ですけれど、エルゼマリンにある学院と大聖堂には流石に手を伸ばしていなくってよ。あそこは別の機関だと思った方がいいですわ。
大聖堂の仕事はまあ、当然祈る事、なのですけれど……悪魔や闇の魔術、禁呪などが絡んだ犯罪者などの処遇を決定する、ということも時々やっていますわ。
ただ、大聖堂がエンターテイメント性に富んだ判決を言い渡すことってまずありませんから、どうせフォーンはつまらない最期を迎えるだけなのでしょうけれど。
「大聖堂が派手なことはしないでしょうから、フォーンはこのまま王城の地下牢で獄中死、かしら。公開処刑されれば良かったですのに……」
それは少し残念ですけれど、まあ、仕方ありませんわね。ええ。
「ま、いいじゃない。屋敷は焼き損ねたけど勝手に焼けたし。これにてホーンボーン家へのお嬢さんの復讐も終わったってことで、良かったんじゃない?」
ええ、そうですわね!
屋敷を焼き損ねた時は少しスッキリしない気持ちになりましたけれど、代わりにフォーンは投獄されて婚約破棄になりましたし……。
……あっ。
「私、良い事思いつきましたわ!屋敷を焼き損ねた分、焼くものを見つけましたの!」
「やっぱり悪魔召喚なんてする異端者は焼くべきですわ!火刑ですわ!ホーンボーンの一族を火刑に処して屋敷の代わりに焼きますわー!」




