表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第三章:アングリ―舞曲
74/178

17話「醜聞は作るものでしてよ」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 私は今!ホーンボーン家を!燃やすことを決意しましたわ!




 決めましたわ。燃やしますわ。決めたらなんだかスッキリしましてよ。

 私、エルゼマリンで初めて盗みに入った屋敷を燃やした時、憎い貴族の屋敷を燃やすことがあんなに楽しいことだと知りましたの。やっぱり楽しい事を積極的にしていくべきですわ。だって私達、人間なんですもの。

 そう。人間なのですわ。私達は人間。

 火に親しみと安らぎを覚える私達が家を焼くのは自然なことですわね。

 それに、人間の文明の始まりって火だといいますもの。文明の腐り果てた結果であるド腐れ貴族の屋敷を火で塵に還すってとても自然な形なんじゃなくって?

 ……要は、燃やすべき!なのですわ!

 憎きあんちくしょうの家は!燃やすべき!なのですわーッ!


「いや、言っておいて何だけど、他にも色々あるでしょうが。まずは王女誘拐だの不敬罪だのの疑いを擦り付けて……」

「いいえ!燃やしますわ!燃やすのは全部終わった後でもよくってよ!」

「燃えたら不審でしょ」

「私!貴族共の屋敷を燃やすことについてはちょっとこだわりがありますの!燃やしますわ!あなたが何と言おうと燃やしますわ!ぜーったいに燃やしますわ!」

「……こんなに輝いてるお嬢さん、ちょっぴり久しぶりに見たわ」

 失礼ね!私はいつだって太陽の如き輝きでしてよ!

 元々酔ってませんでしたけれど、酔いが吹っ飛ぶくらい興奮していましてよ!元々酔ってませんでしたけれど!酔えませんけれど!

「……ま、いいや。うん。お嬢さんが楽しそうで何より」

「ええ。とっても楽しみですわ!ですからあなたも思う存分楽しんでくださいな!」

 諦めたように、それでいて嬉しそうにジョヴァンが「はいはい」と返事をするのを聞きつつ、私の気持ちも存分に燃え上がって参りましたわよ!




「……あらっ、いつの間に2本目空いちゃったのよ」

「あらごめんあそばせ。大半私が飲みましたわ」

 美味しいワインだものですから、つい。おつまみも美味しくて、ついつい。屋敷を燃やす意欲に燃えるあまり、ついついつい、ですわ!

「まだ飲み足りませんわねえ……」

「俺はもうほろ酔いなんですがねえ……」

 私はいくら飲んでも酔いませんもの。飲みたくなくなるまでがお酒の許容量でしてよ!

「まだおつまみもありますし、折角ですからもう1本頂いてきますわ」

「ええー……いや、だったら俺が行ってくるって。お嬢さんはお部屋に居なさいよ」

「そう?でもあなたも酔っているのでしょう?」

 酔っ払いを廊下に出すのはちょっとどうかという気もしますわねえ……。

 ……と、いうところで。

「ヴァイオリア。起きているか?」

 お兄様の声と共に、ドアがノックされましたわ!


「……ワインでも、と……思った、のだが……これは一体……どういう状況だ?」

 お兄様の手にあるのはワインとおつまみのバスケットですわ!最高ですわ!流石お兄様ですわ!

 あ、ジョヴァンが居るのが不思議ですわよね。お兄様の顔がそう物語っていますわ。

「あ、誤解。それ誤解だからねお兄さん……いやちょっと俺が酒飲んで管巻いてただけっていうか」

「……邪魔だったかな?」

「いいえ?全く!それに丁度いいところでしたわ!飲み足りませんでしたの!」

 ということでお兄様も合流して飲み会再開ですわ!ジョヴァンは途中でそそくさと帰りましたけれど、その後はお兄様とのお話もできて、お腹いっぱい胸いっぱい、大満足でしてよ!




 朝になってからベッドに入って、昼過ぎまでお寝坊して、幸せな心地で目が覚めましたわ。

 昼過ぎの光の溢れる海は今日も美しいですわね。甲板に出たらきっと心地良い潮風が吹いていることでしょう。……でも。

「ヒマですわぁ……」

 部屋から出るのは愚策ですわ!そして部屋から出ないと暇なので二度寝しますわ!おやすみなさいまし!


 ということで起きたらもう夜でしたわ。

 寝ていただけなのにお腹が空きましたわね。人体の不思議ですわ。

 流石に何か食べに行こうかしら、と思ったら……ドアの下から滑り込ませたらしいメモ書きに、お兄様の字で『食事をドアの外に用意してある。気が向いたら食べたまえ』とありましたわ。

 早速、ドアの外の気配を警戒しながらドアを開けて、そこに置いてあったバスケットをサッと取ってすぐドアを閉めましたわ。

 ……バスケットの中に入っていたのはサンドイッチとローストチキン、野菜のピクルスやキノコのマリネといったものですわね。飲み物の瓶も一緒でしたわ。柑橘類のジュースのようですわね。早速頂きますわ!


 食事を摂りつつ窓の外を眺めてみると、陸の灯りが見えてきましたわ。着岸までもう少し、ですわね。

 陸に着いたらすぐにでもホーンボーンの悪評を垂れ流し始めたり何だり、動かなくてはなりませんもの。張り切って参りましょうね。




 メアリランスの外れに着岸した船から、貴族の皆様方が降りていきますわ。そして次々に、メアリランスの町の方へと去っていったり、はたまた岸で待たせてあった馬車に乗りこんだり、とバラけていきますわね。

 その中には勿論、ホーンボーン家の馬車が走り去っていく様子も含まれていますわ。馬車の中には買った奴隷達……つまり、フォーンやスコーラ姫、そしてその前に当主がうきうきしながら買い込んだ貴族の美少女達も居ることでしょう。

 ……このまま王都の屋敷へ帰っていくのでしょうね。

 そして帰った先で検問に遭うはずですわ。

 だって既に王城には私の密告が届いているはずですもの。ホーンボーン家の旗印の馬車は見逃して貰えないはずでしてよ!


 そして私達はいい加減船の周りに人が居なくなってから下船しましてよ。

 そこでドランとキーブが出迎えてくれましたわ。

「上手く行ったみたいだな」

「ええ。そちらもお手紙は届いたかしら?」

「ああ。鳥が海から飛んできたのを捕まえて正式に王城へ提出する手続きをとった。もう今頃は王都に告発文が届いているはずだ」

 ……まさか、飛んでいる鳥をそのまま捕まえたんじゃあないでしょうね……?い、いえ、ドランならやりかねませんわ……。

「ってことはまずはそこで一手。相手の出方もわかりゃしないが、ま、一撃食らわせられる可能性は高い」

「少なくとも『舞踏会爆破事件』の悲劇の被害者であったはずのフォーン・タート・ホーンボーンが生きていると知れたら、もう奴らは悲劇の被害者では居られなくなる」

 そうなんですのよね。ダンスホールの爆発炎上は中々面白かったのですけれど、アレに巻き込まれて死んだ貴族の連中への同情票が集まる結果にもなってしまいましたのよ。……生前で多少あくどい事をしていても、死んだら全員善人扱いなんですのよね。嫌なことに。


「でもそれだけ?なら王家とホーンボーン家が結託して隠蔽すればフォーンとスコーラ姫の事は内々で処理されちゃうんじゃないの?」

「あら、キーブ。当然、そうはなりませんわよ。奴らには莫大な借金が生まれる予定ですもの」

 船に乗っていなかったから、キーブはホーンボーン家当主の借金の事は知りませんのよね。ですからそこでもう一撃、ホーンボーンの横っ面を引っ叩いてやれるということは知らないのですわ。

 ……でもまあ、それを説明しても、『それだけ』なんですのよねえ……。


『借金』も、『奴隷騒動』も、ホーンボーン家と王家が被害者ヅラして騒ぐ可能性も無いわけではありませんの。

 王家の面子としてはそれはやりたくないのでしょうけれど、それでも、『何も悪い事をしていないのに違法に奴隷身分にされてしまった悲劇の王女』なんてやり口で攻めてきたら体面は整えられますし、どこかに潜む『犯人』へ矛先を逸らすこともできますわ。

 その場合、怒りを逸らす先は……私、ヴァイオリア・ニコ・フォルテシア、かしら……?

 流石に今更、私を都合よく利用できるとは思わないでしょうし、私は海外に居ることになっていますけれど……。

 ……あっ!?そうですわ!?私、海外に居ることになっているんですわ!?

 ということは、『奴隷制度の緩い海外へ王女を攫って連れて行って、そこで王女を奴隷にして逆輸入して売り捌いた』なんて筋書きにされかねませんわね!?

 実際、そこまで奴隷制度の緩い国って他所でもそうそうありませんから私、その案は諦めてエルゼマリンに奴隷申請所を誘致して、サキ様をお招きして、そこでようやく憎き連中を奴隷の身分に叩き落としてやれたわけですけれど……でっちあげる分には何だっていいですものね!?

 嫌ですわ!そんな濡れ衣がまた私に着せられるなんてまっぴらゴメンでいてよ!

 確かに私が犯人ですわよ!?でも、『当てずっぽうに罪を擦り付けようとしたら本当だった』なんて経緯で罪を着せられたくはないですわーッ!




「いけませんわね!何としても、ホーンボーン家と王家を悲劇の被害者なんかにはさせないよう、邪魔をしなくてはなりませんわ!」

「だから僕その話してたんだけど?」

 そうですわね!キーブは賢いですわ!可愛い上に賢いですわね!ええ、帰ったら可愛いドレスを着せてあげますわ!


「屋敷を燃やすにしても、しっかりホーンボーンの名を貶めてからにしなければなりませんわね……」

「……燃やすのか」

 そういえば言ってませんでしたわね。まあ、燃やしますわ。止められても燃やしますわよ。

 ……ドランはちょっと複雑そうな顔でジョヴァンをちら、と見ましたわね。そういえばドランはジョヴァンの事情、知っているのでしたわ。

 でもジョヴァンはそれに肩を竦めてにやりと笑って返すだけですの。だってホーンボーンの屋敷を燃やすのは彼の意思でもあるのですからね。……ドランはそれを見て安心したようですわね。美しい友情クサレエンですこと。

「妹よ!屋敷を燃やすというのならば私の力をかしてやろう!火薬や油は手配してやるぞ!」

「ありがとうお兄様!素敵ですわ!」

「ふはははは!可愛い妹が憎き相手の屋敷を燃やしたいというのならば協力するのが兄というものさ!」

 そしてお兄様は相変わらず素敵ですわ!これでホーンボーンの屋敷を燃やすのに何の心配もありませんわね!


 ……ありますわ!心配ありますわ!

 ですから!燃やす前に!ホーンボーンの名を貶めなければなりませんのよーッ!

 だって、ホーンボーン家が燃えたことについても『名家の1つと王家を巻き込んだ悲劇』という風に片づけられてしまっては面白くなくってよ!

 奴らに美しい物語なんて紡がせてやりませんわ。あの品の無い連中には下賤な因果応報の物語こそが相応しいのですわ!

 ……何と言ってもあのフォーン・タート・ホーンボーン!あのスカした野郎が気に食わないのですわ!

 何ですのアイツ!女たらしは結構ですけれど、貴族のボンボンが婚約中にもかかわらずアレっていうのはちょっとどうかと思いましてよ!王家と婚約しているというのに、陰謀に巻き込まれた訳でもなく、自らの意思で浮気するなんて、そんな馬鹿な事がありまして!?

 私なんて!私なんて、ダクター様との婚約を維持する努力をしていたにもかかわらず!王家と名家の屑共の陰謀に巻き込まれて屋敷は燃えて没落してこのザマですのよ!?納得いきませんわーッ!

 それに、どうせやるなら徹底した方がまだマシでしてよ!

 女たらしなら全ての女をたらしていくぐらいの気概を見せて頂きたい物ですわね!ええ、そうですわ!女だからって優しくするなら私が玉座の間で王子暗殺未遂の濡れ衣着せられて糾弾されてる時に手を差し伸べるべきでしたのよッ!中途半端な女たらしは身を滅ぼしますわよ!いいえ!滅ぼすべきですわ!


 ……そうですわね。身を滅ぼすべき、ですわね?

 女性関係で、身を滅ぼすべき。……ですわね?




「美しい悲劇の対極にあるのは破廉恥な醜聞スキャンダルですわ」

「あー、うん。確かにホーンボーン家はそーね。そっちの話題には事欠かないわな」

 ええ。ホーンボーン家はフォーンもそうですし、当主もそうですけれど、大の女好き。当然、そこには醜聞があって然るべきですわね!

「そこを利用してホーンボーン家の名を貶めますわ」

 王女との婚約があるにもかかわらず浮気ばかりのフォーンも、正妻が居ようが子供が居ようが浮気三昧、美女美少女の奴隷を買い漁っているホーンボーン当主も、その汚名を存分に着ればよくってよ!

「じゃ、これから俺達はホーンボーン家の醜聞を拾って歩いてばら撒く、ってこと?」

「いえ。それじゃああんまりにもみみっちいですわ。どうせやるならパーッとやりますわよ」

 醜聞探しなんて面倒ですわ。私の性に合いませんの。

 大体、ホーンボーン家程の貴族であれば、その程度はもみ消したり上手く味付けしたりして始末していますものね。探すだけ無駄ですわ。

 ……ですから、ホーンボーン家が一切隠蔽していない、とっておきの女性関係の醜聞をお見舞いしてやりますのよ!


「こちらで用意した令嬢に!ホーンボーン家を襲わせますわ!」

 醜聞は!これから!作ればいいのですわーッ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 私達が家を焼くのは自然な……しぜ……ん? あ、自然でしたね。 [気になる点] 続きが気になり過ぎて夜しか寝れません。 [一言] キーブちゃんと最初の方に出てきたリタル君が好きです。可愛い女…
[一言] 『当てずっぽうに罪を擦り付けようとしたら本当だった』なんて経緯で罪を着せられたくはないですわーッ いつものこと?
[一言] つまり、数十人の令嬢たちが『認知しろ!』と群がってくるんですね(爆) 骨と角の両面焼きよりも、奴隷王女に〈ノクターン案件〉仕込みたい(爆)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ