15話「密告ですわ」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
これから遂にフォーン・タート・ホーンボーンの競りが始まりますの。彼の父、ホーンボーン家現当主も会場に居ますから、値が吊り上がることは間違いないですわね!ここはしっかり大枚叩いていただかなくてはなりませんわ!
「赤金貨1枚」
早速ぶっ飛ばしていきますわよ。チマチマ青金貨や黄金貨を積み重ねていくなんてことはしませんわ。一気に金貨1000枚分のお値段にしてやりましてよ!
「赤金貨1枚と黄5枚!」
さて、ホーンボーン家当主がみみっちく値を上げていきますけれど……音を上げるのはどこかしらね?このままいくと私と当主の一騎打ちになるかしら。でもギリギリまで行きますわよ!
「赤1枚青1枚!」
なんて思っていたら、全く予想していなかった方から声が上がりましたわ。
どうやらどこぞのご婦人のようですわね。さしずめ、フォーンとどこかで恋愛関係にあったお方なのでしょうけれど……目が爛々としていて怖いですわ!
「赤1枚青1枚黄1枚!」
さてさて、次に来たのは奴隷商人めいた風貌の男。
彼の狙いは恐らく転売ですわね。ここにホーンボーン家当主が居るということを知ってか知らずか、『フォーン・タート・ホーンボーンによく似た奴隷』を高値で売りつけようとしているに違いありませんわ。
……当主としては、今、ステージの上に居る奴隷が自分の息子だろうと、息子に限りなくよく似たそっくりさんだろうと、とりあえず影武者には使えると考えているかもしれませんわね。
スコーラ王女も行方不明ではありますけれど、一度決まった縁談ですもの。もしかしたら第5王女や第7王女あたりとの婚約にすり替えられるかもしれない、なんて考えているならば、絶対にフォーンを手放したくはないはずでしてよ。だって王家との縁談ですもの。逃す手はありませんわね。
「赤金貨1枚!青金貨3枚!」
当主はみみっちいなりにも少し頑張って値段を上げていきますけれど……どんなに財力があったって、執着は他の方々も負けていませんもの。
当主が入札した直後、また方々からご婦人やご令嬢、はたまた商人や、もしかするとフォーンに復讐したいのかもしれない若い男性達までもがこぞって入札していきますわ。
……これは、私が手を出すまでもないかしら?
あ、でも何もしないのもアレですからここで一気に吊り上げますわ。
「黒金貨1枚」
……。
「く、黒金貨1枚に青2枚!」
「黒1枚青5枚!」
「黒2枚!」
あ、よかったですわ。なんかあり得ない勢いでどんどん進んでいきますわ。ここまで来たら大儲けですから、あとはほっときましょう。おほほほほ。
そうして入札は長引きに長引き……遂に終了しましたわ。
「では落札は34番の方!落札額は黒金貨6枚と赤金貨4枚!」
……落札したのはホーンボーン家当主、ですわ。よかったですわね、無事に息子を競り落とせて。
黒金貨6枚は流石にホーンボーンとしても痛い出費だとは思いますけれど、まあ、息子には代えられませんわよねえ。
ホーンボーン家当主はこれから一生懸命お金をかき集めてくることになりますわね。だって黒金貨6枚なんて、持ち歩いている訳が無くってよ。
ですからここはまあ……後で少し吹っ掛けてやることにしましょうか。
「ではお手続きは後ということにしまして……この勢いのまま、本日最後の競りに移りたいと思います!」
さてさて。では遂に、最後の奴が来ましたわ。
まさか……この国の王女様が奴隷としてステージに上がるなんて、誰も思わなかったでしょうねえ。ええ。
「最後の奴隷は、『スコーラ・シャフ・オーケスタ王女』にそっくりな奴隷!この美貌は他にはないでしょう!是非お近くでご覧ください!」
ステージの近くまで客席を解放してみたら、まあ押しかけるわ押しかけるわ、すごい数の連中が一気にスコーラ姫に近づいていきましてよ。
ちなみにスコーラ姫にはちゃんと『ニセモノの王女様』らしい恰好をして頂いていますわ。安っぽいティアラを頭に載せてハレンチなドレスを着せた上で立派な椅子に縛り付けてありますから、ステージ間近からの見ごたえはバッチリですわね。
スコーラ姫は何かあうあう言ってますけど人間の言葉じゃあありませんから単にちょっと面白いだけですわね。ええ。
「ではこちらは黒金貨1枚からの開始でございます」
早速競りが始まると、みるみる値が吊り上がっていきますわ。それに真っ青なのはホーンボーン家当主ですわねえ。
息子の婚約者、それも王家の者がこんなところで奴隷やってるんですもの。
……仮にそっくりさんだとしても、ここで金を出さない理由はありませんわね。結局また、ここで散財する羽目になるのですわ。
結局、スコーラ姫はホーンボーン家に落札されましたわ。落札額は黒金貨9枚。
……黒金貨6枚に9枚を足して、15枚。
これって上級貴族でもお家がちょいと傾くこと間違いなしですけれど、大丈夫かしらねえ……?
オークションが終わって解散、となると、客達はそれぞれの客室へ戻っていったり、はたまた買ったばかりの奴隷の品評会を始めたりと思い思いに過ごし始めましたわ。
……そしてその裏では。
「困りますよお客さん。持ってもいない金額を提示されちゃあ」
「必ずすぐに用意する!屋敷に戻ればすぐ出せる!」
「そのまま逃げる可能性もあるわけでしょう?それじゃあこちらとしては商売になりませんから」
やってますわねえ。
ホーンボーンの当主が困ってますわ。いい気味ですこと。
「そもそも黒金貨15枚なんて持ち歩いているわけが無いだろう!」
まあそうですわね。その理屈は正しいですわ。
「申し訳ありませんが、ここではそういうルールですので」
でもここでは正しさなんて知ったこっちゃーありませんわ!ここでは私がルール!即ち!ホーンボーン家の連中に優しくしてやることなんて万に一つもなくってよ!
さて。金を持っているの取りに戻るだの散々言っていたホーンボーンの当主様ですけれど、こういう時のためにちゃんと、この船には強い味方が居ますのよ。
「お金が必要ならお助けしましょうか?」
はい、行きましたわよ!こういう時の絶妙な信憑性と胡散臭さを適度に醸し出すことにおいてはそうそう右に出る者の居ないジョヴァンが行きましたわよ!
「黒金貨15枚分ならここでお貸しできますが」
「なんと!それは本当か!」
「その代わりと言っちゃあ何ですが、担保は出して頂きますし、利子もしっかり頂きますよ」
ジョヴァンは黒革のケースから黒金貨を出して見せつつ、しっかりはっきり言うのですわ。
「担保としてそちらの指輪をお預かりします。利子は1日で赤金貨1枚で結構。如何でしょう?」
「是非それで頼む!」
まあ良しとしますわよね。ええ。ホーンボーン家当主としてはそうしないとここを脱出できませんものね。ええ。
というか、この状況でこの条件って相当に好待遇ですわよ。
「よろしい。ならばこちらにサインを」
ジョヴァンが出した書類にしっかりサインして、ホーンボーン家当主は黒金貨を手にすると、無事、落札した息子と一緒に客室へと戻っていきましたわ。
「サインする時はちゃんと読みなさいっての。ねえ、お嬢さん?」
「全く以てその通りですわねえ」
ちなみに今サインさせた書類。
『利子は1日で赤金貨1枚とし、1日ごとに10倍にする』って書いてありますのよ。
そしてこの船、明日まで着岸しませんのよ。
ついでにメアリランスから王都までって飛ばしても1日かかりますの。
……着岸して行って戻ってきて3日。その時には利子が1000倍になってますのよねえ……。
まあ、どうせ踏み倒されるでしょうけど。でも良くってよ。書類の上だけでも莫大な借金抱えればそれで十分ですわ!
さて。
私は客室の並びを抜けて、私の客室に戻りますわ。そして早速、レターセットを取り出しましたの。
宛先は王城ですわね。内容は……『とある貴族がスコーラ王女によく似た女性を奴隷として連れているのを見た』。
なんとも不敬な内容ですけれど、この告発文はとっても重要ですのよ。
なんといっても、ホーンボーン家の悪事の決定的な証拠となりますものね!




