13話「その案いただきますわ!」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
王国祭をふっ飛ばしてエルゼマリンに帰ってきた私達は現在、当初の目的である奴隷市の為に動いていますのよ。
気分は上々でしてよ!なんといっても、お兄様がいらっしゃいますもの!
ああ!毎日楽しくって仕方ありませんわ!
「いい部屋に住んでいるのだな、ヴァイオリアよ」
「でしょう?自慢のお部屋ですの!」
お兄様は現在、私のお家に泊まっておいでですの。チェスタが酔い潰れた時の為に作っておいた客間ですけれど、何だかんだチェスタ以外で役に立っていますわね……。
「エルゼマリン中の貴族の屋敷から集めた選りすぐりの家具を配置していますのよ」
「成程……王城を潰した暁には大豪邸を建てよう」
「名案ですわ!私、王城の応接室のランプ、好きなんですの。ミルク色のガラスと金細工の!あれが欲しいですわ!」
「良いではないか!そうだな、私は貴賓室のライティングビューローだな。あれは良いものだった」
「それからワインセラーも充実させましょうね、お兄様!」
「うむ!王城には良いものが揃っているだろうからな!」
楽しみですわ!王城を潰すのはまだ少し先になるのでしょうけれど、このワクワクした気持ちを糧に、今日もお仕事頑張りますわよー!
今日のお仕事第一弾は奴隷共の管理ですわ。
とりあえず今は全部まとめて同じ鞄に入ってるだけですものね。分別しておかなければなりませんわ。
「ほう。空間鞄を改造したのか。生命も中に入れられるようになるとは、実に面白い」
「ええ。キーブがやってくれましたのよ」
お兄様は違法改造版空間鞄に興味を示しておいでね。
……それもそのはず。最初に空間鞄を違法改造したのってお兄様でしたのよ。小さい頃に少しね。
「私が初めて改造した時は、内部で時が止まらない空間鞄を作ったのだったか」
「……それって何の意味があるの?」
「内部で発酵が進む。……つまり、密造酒を作る為に私は空間鞄を改造したのだ。まあ、幼い頃の好奇心だな」
お兄様は小さい頃からこういうお方でしたもの。飲酒に憧れるあまり、自分でお酒を造ることを思いついたのですわ。そして幼いお兄様には隠れて密造する場所が手に入らず、仕方なしに空間鞄を違法改造し始めた、というわけですわね。ええ。
「時間を止めずに物を入れられるようになるのだから生命もいつかは入れられるだろうと思ったが……これは一体、どのようにして改造した?是非教えてくれたまえ!」
「は?……まあいいけど……」
……あらら。お兄様はキーブ相手に目を輝かせ始めておいでですわね。
なら、奴隷の管理は残った面子でやった方がよろしいかしら。
「分別、ねえ。とりあえず、分けとくと便利、っていうのと、分けとかなきゃヤバい、っていう分け方があるわな。例えば、スコーラ王女とフォーン・ターク・ホーンボーンは一緒じゃない方がいいんじゃない?」
「ですわねえ。他にも、敵対関係の貴族なんかは一緒に入れておかない方が大人しくしているかしら?……とりあえず1匹ずつ出して確認しましょうか」
「そーね。おいドラン、チェスタ。出番だぜ」
「暴れたら適当に脅しますわ。適当にとっ捕まえて下さいな」
「俺は在庫リスト作るからそっちはヨロシク」
荒事に慣れてる男2人が居ますから、奴隷も1匹ずつ出すようにすれば管理しきれますでしょ。よーし!いきますわよー!
「はい、あなた、お名前は?」
「ど、どうしてあなたなんかに教えてやる必要がありまして!?」
「あらイキがよろしいこと。ではやっておしまいなさい」
鞄から取り出した貴族の令嬢が早速反抗的ですから、ドランとチェスタに指示を出して、早速とっ捕まえますわ。
「お放しなさい!触らないで!下賤なことをするつもり!?」
とっ捕まっただけでこの騒ぎようですから先が思いやられますわぁ……。
「いいえ?ただ、あんまりお転婆なお嬢様には顔面によーく熱した油をぶっかけてやることにしておりますの。下女としては相応しい見目になるんじゃなくって?」
けれど、ドランが令嬢の腕を後ろ手に捻り上げつつ跪かせて、チェスタが令嬢の目の前に熱い鍋とその中に入った油を出して見せつけてやれば……令嬢は一気に大人しくなりましたわね!
「まあ、賢いあなたなら、ここでどう振る舞うべきかもうお分かりですわね?顔面焼け爛れた醜い姿にされたくなかったら、こちらの質問にはとっとと答えるように。よろしいかしら?」
「よ、よくってよ……」
よろしい。女はある程度扱いやすいですわね。流石、自分の価値がどこにあるのかよく理解してらっしゃいますわ。
……下級貴族の娘の価値は、その顔面ですわ。
美しければ『上級貴族の嫁に』なんてことも十分あり得ますもの。そしてブサイクな下級貴族の娘はもう、なんというか……生きている価値がありませんわね。精々下級貴族同士での婚姻に使えるか、くらいですわ。
勿論、特殊な能力を持った人なら顔面なんて関係ありませんわね。魔法に長けていたり、とても頭が切れたり。そういう方も私、何人かは知っていてよ。
けれど、まあ……大抵の場合、下級貴族風情でしたらそういうこともありませんし、彼女達自身もそんなつもりはありませんの。ということで、彼女達としては顔面が焼け爛れたらお家の大損害。顔面に熱い油をぶっかけられるなんて、最も避けたいことなのですわね。
……ということで、大人しくなった貴族令嬢にいくつか質問をして、何所の家の誰なのか、その家の資産はどの程度か、また、王家や名家の面白い噂は無いか、等々、色々聞いてから分類して鞄に入れますわ。
分類方法ですけれど、ごく簡単ですわ。
まず、男女で分ける。次に、それぞれを3つに分けて、『一緒にしておかない方がいい』ものを適当に分けていく。それだけでしてよ。下級も中級も上級も関係ありませんわ。とっ捕まって売られるなら全員等しく奴隷ですものね。
「お疲れさん。あと2人?」
「そうだな。……案外、暴れる奴は少なかったな」
「腕っぷしに自信のある貴族なんざそうそう居やしませんものね」
筋肉狼と片腕義手の薬中に両脇挟まれたら抵抗する気も失せるというものでしてよ。
「総勢……ええと、ここまででもう30名?結構拾ってきましたわねえ……」
「最後にお嬢さんがバルコニーで拾いまくってきたのが効いてるね」
ええ。おかげ様で面白いこともできましたわ。カップルが沢山捕まりましたから、互いのパートナーを引き合いに出して取引したり脅したり。そうやって口を割らせて情報を得ることもできましたの。
「残すはホーンボーンの分家の2人と、スコーラ王女とフォーン・タート・ホーンボーンね。ま、ここが本命だわな」
貴族界の情報が得られたのも、どうでもいい下級中級の貴族を拾ってきたのも、所詮はオマケみたいなものですわ。やっぱりメインはここですわ!
「とりあえずホーンボーン家は全員貞操観念が希薄ということがよく分かりましたわね」
「……そーね」
ええ。今回得られた情報の中で一番直接何かの役に立てられそうだったのが『ホーンボーン家は悉く愛人だの複数の恋人だのを持っている』ということでしたわ。
現当主もそうですし、フォーン・タート・ホーンボーンも似たようなものね。スコーラ王女との婚約発表があってからは大人しくなったように見えるようですけれど、少なくともそれ以前は浮名が流れまくりでしたのよ。
……フォーンの方はともかく、ホーンボーン現当主の方は少し面白い事ができるかしら?愛人関係のネタを盾に脅せば多少はお金になるんじゃないかしら?
それに確か、現当主の妻はユーニウム家の出でしたわね。あそこもそこそこの名家ですし、ホーンボーンとユーニウムの関係が悪化したらホーンボーンの没落に向けて1歩前進ですわね!
ということで本日のメインディッシュ、フォーン・タート・ホーンボーンとのご対面ですわ!
「ごきげんよう」
空間鞄から出されて突然、筋肉狼だの義手薬中だのに囲まれ、更にフルフェイス甲冑の私が眼前にいるこの状況。さぞかし驚くことだろうと思いましたけれど案の定、フォーンはぎょっとしたまま身を固くしていますわねえ。まるでこれから屠殺される羊のようですわ。
「確認しますけれど、フォーン・タート・ホーンボーン様でよろしいかしら?」
「あ、ああ。間違いないけれど……?君は一体?声を聞く限り女性のようだが」
「私より先に周りの連中を見た方がよくってよ」
聞きしに勝る女好きですわね。どう見てもヤバい男2人に囲まれていますのに、先にフルフェイス甲冑の女の方に反応するとは、なんというか……その努力、絶対に別の方面で使った方がよくってよ……。
「これは一体どういう状況かな?説明してもらっても?」
フォーンはそう言いつつ、抜け目なく脱出の隙を探していますわ。中々肝っ玉が据わってますのねえ。
「その度胸に免じて説明できる範囲で説明して差し上げますわ。……まず、あなたは私達によって捕らえられましたわ。今後一切の自由は無いものとお思いになって頂戴ね」
まあ、一応こいつも上級貴族ですわ。ホーンボーン家は世渡り上手の一家ですもの。それなりに能力は高いものと見て掛かった方がいいでしょうね。
……と思ったのですけれど!
「それは困ったな……。狙いは何だ?スコーラ姫との恋路を邪魔するつもりかな?ということは君はもしかして、僕の恋人だった人かい?」
こいつふざけてますわ!
ふざけた野郎ですわ!何なら今すぐ2人纏めてあの世で幸せにしてやってもよくってよ!
「答えてやる義理はありませんけれど、とりあえず今後の予定を申し上げますと、あなたには奴隷落ちして頂くことになりますわね」
「成程。恋の奴隷、ということかい?」
今すぐこいつに焼き印を入れてやりたい気分ですわ。
「楽天家でらっしゃいますのね。勘違いもほどほどになさって?現実を見て頂かないと困りますのよ」
うんざりしつつ、私は例の煮えた油の鍋をフォーンに見せつけましたわ。
「これを顔面とちんたまにぶっかけられたくなかったらその軽口は慎むことですわね」
こいつも顔面は大切にしている性質なのでしょうね。流石にちょっとは大人しくなりましてよ。
「……いや、しかし、奴隷落ち、というのは……不可能なはずだ。僕の身分を証明する方法なんていくらでもある。ホーンボーンの者を奴隷にするなんて、手続きの途中でどうせ」
「それが可能なんですの。ねえ?ホーンボーン家のお坊ちゃま?あなたが思っているよりもこの世界っていうのは後ろ暗い事でいっぱいですの。あなたやスコーラ姫を家畜同然の身分にしてやることだって、不可能じゃあなくってよ」
そう言ってやればいよいよフォーンの表情に少しばかり、焦りの色が見られるようになってきましたわ。ここまで長かったですわ!ふざけた野郎を相手にするのは疲れますわ!
「僕はともかく、スコーラ姫には手を出すんじゃない」
「あら。それは私が決めることですわ」
「彼女に何かしてみろ。君が女性だったとしても容赦しないぞ」
「ええ。容赦なんて必要ありませんわ。あなたが今更何かできるなんて思えませんもの」
何と言っても両脇に控えますは筋肉狼と義手薬中ですのよ!ついでに私もおりますわ!貴族の坊ちゃん1人程度、何かあっても余裕でぶっ殺せましてよ!おほほほほ!
まあ、そこら辺はフォーン自身も分かっているようですわ。
彼が何を言おうが、所詮は虚勢。取るに足らない空しい言葉ですわね。
それが分かっているからか、フォーンはただ私を睨み上げながら、言いましたのよ。
「……僕らを奴隷オークションにでも出して、王家から金をとろうという魂胆かな?」
……え?
奴隷オークション、ですって……?
こいつ、中々いい案を出しますわね!
「その案、イタダキですわ」




