2話「戦争ですわ」
ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。
私は今、人間を売ったらお金になるという事に気付いてしまいましたの。
ついでに、お金云々のお話を抜きにしても、奴隷の身分に落としてやるのに丁度いい人間に心当たりがありましてよ!
そう!
……フルーティエの残党ですわ!
「さあ、教えて下さる?フルーティエ家にはあなた以外にも子供が居ましたわね?彼らの行き先に心当たりはありませんこと?」
ということで早速、アジトに戻った私は尋問を始めますわ。
尋問対象は勿論、フルーティエの長男!空間鞄に入りっぱなしだった彼を鞄から出してふん縛って、ドランとチェスタと一緒に囲んでいますのよ。
「だ、誰がそんなことを喋ると思って……!」
ただ、こいつもこいつで中々の強気ですわね。
なんといってもこいつ、フルーティエ家が没落したということは知りませんの。フルーティエ家当主が馬車ごと燃えたことも知らなければ、結局フルーティエ家が没落して、残されたフルーティエ婦人やその子供達がどこかへ消えてしまったということも知りませんのよ。
……ですから、消えたフルーティエの残党の居場所について聞いているのですけれど……。
「下賤なフォルテシアの娘め!貴様など呪われて地獄に落ちろ!」
この強情ぶりですわ!中々厄介ですわね。これだから気位だけ高い腐れ貴族連中というものは……。
「地獄に落ちろ?……あなた、何か勘違いなさってるようですけれど」
ですからここで1つ、分からせてやることにしますわ。
「あなたにとってはここが地獄ですわよ」
そこらへんにあったナイフを容赦なく振りかぶって振り下ろして……フルーティエの長男の髪の一房、耳のすぐ横をざっくりやってやりましたわ。
「次は耳、行きますわよ」
宣言してやれば、流石に縮み上がってビビりましたわね。ま、その素直さは嫌いじゃなくってよ!
そうしてフルーティエの長男からは、他のフルーティエ共の居場所の心当たりを幾つか聞き出すことに成功しましたわ。
まずはワイナリーの近くの村。そこに別荘があったそうですの。他にも、ポアリスにも親戚筋が居るとか、クラリッサンの町の方にも分家があるとか。
……そこら辺を適当に吐かせたら、そっちにはキーブとチェスタに行ってもらいますわ。
一応、エルゼマリンの中は自由に歩けるようになった私ですけれど、流石に他の町で同じような振る舞いはできなくってよ。
「空間鞄ってびっくりするほど高性能ですわねえ……」
「僕の改造の腕がいいからこんなことできてるんだからな!」
「分かってますわよ、キーブ。あなたのお陰で随分色々無茶できるようになりましたものね」
やっぱり生物を空間鞄に入れられる、というのは大きいですわね。
数日で戻ってきたチェスタとキーブは、その空間鞄の中にフルーティエの残党を数人ずつ入れて持って帰ってきましたのよ。
「フルーティエ家の婦人と次男と長女。合計3人、こっちは捕まえてきたぜ」
「僕の方は分家の連中5人。まあいいでしょ?」
「ええ。上々ですわね」
最初の長男と合わせて9人ですわね。これなら中々いい商売が出来そうですわ。
「……さて、問題は販売方法ですわねえ」
商品が揃ったところで早速商売を始めたいのですけれど、残念ながらこの商売を始めるにあたって、1つ大きな問題があるのですわ。
それは、『奴隷の首輪』を取りつけられていない人間を売買することはできない、ということですの。
『奴隷の首輪』はキーブが以前つけられていましたわね。主人とする人間を定めておいて、その主人が取り決めたことを守らなかった場合、首輪が絞まって奴隷は死ぬ、という奴ですわ。
当然ですけれど、この首輪、悪用厳禁ですのよ。誰彼構わず取り付けられるようなものだったら、この国中奴隷だらけになってますわね。路地裏に入ったが最後、背後から襲われて首輪掛けられて一瞬で奴隷落ち、なんて笑えませんわ。
……ということで、この国では奴隷の首輪を取り付けられる機関がちゃんと決まっていますの。
どんな奴隷商でも、そこを通さないことには『人間』を『奴隷』にはできませんわ。逆に言えば、普通に奴隷市で奴隷として売られているものって、全員特定の機関で首輪を掛けられたものだけ、ということですの。
奴隷商の仕事は商品の流通。つまり、既に奴隷になっているものを売る仕事ですわ。
そして、商品の製造……つまり、ただの人間を奴隷にする作業は、その特定の機関が行っている、ということですわね。
……ええ。そこが問題ですのよ。
フルーティエの連中に奴隷の首輪掛けてやりたいのは山々ですの。けれど、それを合法的にやるのは結構難しくってよ。
合法的に、となると、まず、敵国の生き残りを奴隷にする方法が一般的ですわね。
この国、他所に戦争吹っ掛けては金巻き上げて生活してる国ですもの。当然、他所の国は食いものにするために存在している、という認識ですわ。
亡国の人間は捕まえて奴隷にしてよし。それがこの国の法律でしてよ。
……つまり、この国の貴族だったフルーティエの残党を奴隷にするのってちょっと面倒なんですの。
借金のカタに奴隷にする、ということはできますわね。一応。
ただ……フルーティエの借金を買い集めて、それを持ってフルーティエの連中を奴隷にしようと公的機関を訪ねたら、そこで色々権力が錯綜してもみ消されそうですわねえ……。
大体、今後も奴隷商人をやるつもりで居るのなら、そもそも『自分達以外の人間しか奴隷の首輪は装着させられない』なんて状況、あまりにも非効率的ですわ!
……となると、『奴隷の首輪』を扱える機関をこのエルゼマリンに誘致するのが一番手っ取り早くってよ!
「ということで私、貴族になりますわ」
はい。貴族になりますわ。
「……どうしてそうなった?」
「このエルゼマリンに名前だけでも『貴族』を増やさなければならないから、ですわ。貴族が多ければ奴隷の需要も増える。奴隷の需要が多い町なら、奴隷の首輪を装着させる機関を誘致することも可能だと考えましたの」
現状では、エルゼマリンは単なる『平民の町』ですわ。貴族街が潰れましたもの。
となると、奴隷を買える財力を持った人間がエルゼマリンには居ない、ということになりますわね。『表向きは』。
……それだと首輪機関を誘致するのに何かと不都合ですから、結局はこの町に貴族が必要、という事になりますのよ。
それ以外にも『貴族』の位を持っていると良い事がありましてよ。
まず、この国の上層部が何を考えているのか、読みやすくなりますわ。金で身分だけ買った名ばかり貴族だったとしても、ある程度は情報が入りやすくなりますもの。
それに、ある程度『貴族』が今の貴族街(つまりゴーストタウン、ですわね!)に住み着けば、それ以上エルゼマリンに外部から貴族が引っ越してくる、という事を防げますわね。
……こちらの手の者を金の力で貴族にして、その者達だけでエルゼマリンの貴族街を埋め尽くす。
そうすることにより、このエルゼマリンはより強固な、『悪党の町』になりますのよ……!
「貴族の位なんて偽名でいくらでも買えますわ。私も貴族。あなた達も全員貴族になってもらいますわよ!」
「……そりゃあ随分突拍子もないこと考えたじゃない。お嬢さん」
早速『私達全員貴族になる』案を出してみたら、案の定、渋られましたわ!ジョヴァンは大体いつでも渋りますわね!
「俺はちょいと遠慮させて頂きたいですね!俺は悪目立ちすんのは御免だ」
「あら。人数が足りませんもの。駄目ですわ。ついでに私達だけでも足りませんから山賊共も何人か貴族にしますわ」
もういっそのこと割り切って、山賊達ばかり全員貴族にしてもいいのですけれど、やっぱり私達もある程度は関わった方がよくってよ。どうせ貴族位を買ったって名ばかり貴族なのですから、気にすることは無いと思いますけれど。
「大体、金はどうするのよ、金は。奴隷を売って金にするって話だったのに、奴隷を売るのに金が要るってんじゃあ後先が違うでしょうが」
……ただ、そこはどうしようもなく正論ですわね。
貴族位を買うのには金が要りますわ。
1人分ならまだしも、複数人分の貴族位を買おうとするなら、それこそ、本当に大金が必要ですわね。黒金貨1枚くらいじゃ足りなくてよ。
「贋金で買う、というのは危険かしら……」
「危険だろうな。エルゼマリンのギルドから提出された黒金貨が贋金だった、という話は既にあちこちで聞こえている」
あ、やっぱり流石に見抜かれましたのね?……まあ、ギルドの方はそこ、上手く誤魔化してるようですから構いませんけれど。
「うーん、ということは、本当にお金が無いといけないんですのよねえ……どうやって稼ごうかしら」
なんか私、いつも金策に困っている気がしますわね……。まあ、必要な額がどんどん増えていくのですから、仕方ないのですけれど。
「……まあ、現実的なこと言っちゃうとね。このまま麻薬売り続けて2年ぐらいすれば稼げるぜ。目標額まで」
あ、そうですの?
……意外と麻薬販売の方、順調ですわね……。
「販路が拡大してるからね。ま、時間はかかるけど、金は実際、何とかなっちまいそうなのが怖いのよ、ほんと」
「でも2年でしょう?時間が掛かりすぎですわよ」
確実にお金が手に入りそう、というのはいいですけれど、2年は長すぎてよ。
「もっと手っ取り早く……大金を……うーん……」
悩みますわ。ええと、こういう時、他の人達ってどうするのかしら……?
……あ。
「あ、戦争吹っ掛ければいいんじゃありませんこと?」




