27話「生きてましたの!?」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私は遂にフルーティエ家を没落の底に叩き落してやって、更に、奴らがフォルテシアから盗んでいった銃を製造工場ごと取り返したところでしてよ!
そしてこれからのエルゼマリンは武装の町になりますの。きっと愉快なことになりますわ。ああ、楽しみですわね!
「へぇー。面白いもんだ。こうなってんのね、銃って」
早速、鞄工場で完成した銃を手に、ジョヴァンが感嘆の声を上げましたわ。こいつ、こういうの好きですのねえ。
「これなら俺でも使えるかしら」
「どうかしら。一発試しに撃ってみましたけれど、結構反動があってよ。いざという時の前に試し撃ちしておきなさいな」
「そうかい。ま、一応、護身用に1個貰っとくかね。ありがと」
ジョヴァンは唯一、戦闘に不安がありますから、銃で自分の身は守れるようになると便利ですわ。存分に期待しておきましょう。
「あのさ。火薬に火を付ける仕組みの所は、古代の魔法みたいな改造禁止かつ読み取り禁止の封印を施すようにするけど、いいよね?」
「ええ。よくってよ」
ちなみにこの銃、火薬に火をつける必要があるのですけれど、フルーティエの連中はそれを火打石という馬鹿みたいに古典的な方法でやっていましたわ。
けれど火打石で火薬に着火する仕組みなんて、不発が怖くて使えなくってよ!
……ということで、火魔法を組み込んだ魔法式にしましたの。これで不発暴発は相当防げる、と思いますわ。技術を盗まれて他所で生産されることも少なくなると思いますわ。
「僕も1つ貰う。魔法が使えないフリするのにこれ便利そうだから」
そうですわね。キーブは魔法という携帯性抜群の武器を持っていますけれど、だからこそ、魔法が使えないふりができればもっと最高なのですわ。銃を持つことで魔法が使えないふりができれば、隙を生じぬ二段構えができましてよ。
「俺の腕にこれ、着けてもらおうかな」
「あなたの義手って武器庫か何かですの?」
「うん。間違っちゃいねえな、それ」
チェスタはチェスタで銃を自分の義手に内蔵しようとかしてますわね。面白くていいですわ。採用。それ採用ですわ。
「……で、ドランは?これ、使うのかよ」
「いや。俺の手には余りそうだ」
そしてドランは、銃は使わない方針のようですわね。
「それでいいと思いますわ。あなたの力に見合う銃って、無いですもの。多分」
……ドランの場合、銃を使うよりもそこら辺の石を投げた方が強いですわね。多分。或いは普通に近づいて殴ることになりますわ。
「私は脅しの材料として使わせて頂きますわ。中身のない偽物の銃でもフルーティエには有効でしたもの。銃がエルゼマリン中に普及したら、銃を突きつけるだけで脅しが成立しますわね」
私は私で、銃を1つ持つことにしましたわ。小道具としても使えますもの。
……そして何より、なんかかっこいいですわ……。
「ということで、こちらが銃ですわ。ギルドで是非、お使いになって?」
私は出来上がった銃をギルドに持っていって、ギルド所長に渡しましたわ。
「これで一気にエルゼマリンの武力が上がりますわよ」
「それは心強い!エルゼマリンが独立した権力を持つようになるための二歩目、ということですな!」
そうですわ!こうしてエルゼマリンは王家に尻尾を振りながらも着々と裏を掻いて着々と武装して、いずれ、王家を裏切ることになりますのよ!
「ちなみに、もし王家から銃について聞かれたらこちらを出して頂戴ね」
一応、王家に供出するための銃も用意してありますわ。
ええ。火打石で着火する形の銃でしてよ。ついでに不発と暴発が増えるように細工してありますわ。おほほほほほ。王家の手の連中なんて手の中で銃がぶっ飛んで困ればいいのですわ!
「しかし、まさか本当にエルゼマリンのギルドが存続できるなんて……ありがとうございます、ヴァイオリア嬢」
「よくってよ。これからもしっかりよろしくね。私とあなたの地位と自由のために!」
ギルド所長の感謝を受け止めながら、私はこれからのエルゼマリンに思いを馳せますわ。
……もぬけの殻になったままのエルゼマリン貴族街は、私の手で買い取って自由に使わせてもらうことにしましょうか。
そう。これからは集まった者達のための場所が必要ですわ。それも、秩序ある場所が。
悪人ではなく、悪党を集めるための場所が!
「とりあえず貴族街は暗黒街として悪党のための街にしましょうね」
ギルド所長が動き出したことによって、貴族街は次第に姿を変えていくことになりましたわ。
半分程度は私の土地になりました。ええ、一応、お金は払っていますのよ?ただし、大量殺人があった縁起の悪い土地であることもあって、ギルド友情価格になっていましたけれど。おほほほほ。
……私は買い取った土地と屋敷を使って、これからどんどん楽しいことをしていく予定ですわ。まだまだ予定段階ではありますけれど、ね。
予定を実行できるように色々と準備をしていた、そんなある日のことですわ。
「ところでドラン。あなた、傷はもういいんですの?」
「とっくに完治している」
ドランは特に躊躇も無くシャツを捲り上げて脇腹を見せてくれましたわ。別に見せなくって結構ですわ。なんでわざわざ見せたんですのこいつ。
「傷は残ったがもう治ってる」
……鍛えられた腹筋の脇、穴が開いていたはずの箇所は、まあ当然、多少、傷になっていますわね。肉の盛り上がったような箇所や皮膚が引き攣れている個所がありますわ。でも、それも僅かなものでしてよ。腹筋の方が目立ちますわ。人狼の生命力は凄まじいものがありますわね……。
「それは良かったですわ。お腹が冷えるといけませんからさっさと仕舞って頂戴ね」
とりあえずお腹は仕舞わせましたわ。見せつけられても困りますわ。
ドランは言われた通りに大人しくシャツを戻しながら……そこでふと、言いましたのよ。
「そういえば、俺が撃たれた時。お前によく似た奴が居た」
私みたいな奴。……そういえば確かに、そんなようなことを言ってましたわね。
ただ、それの意味がまるで分かりませんでしたのよ。
『私みたいな奴』ってどういう奴ですの?屋敷を燃やされた貴族みたいな奴、ってことですの?
……と、思っていたら。
「お前によく似た、赤い瞳に色の濃い栗毛の奴だ。今思えば多分、男だった」
ドランがそんなことを言いましてよ。
……私によく似た、赤い瞳に濃い色の栗毛の、男性?
そ、それは……え、ええ?ちょっと理解が追い付きませんわ。でも……もし、本当にそんな人が居たとしたら……。
「ちょ、ちょっと状況を詳しく説明してくださる?」
「そう詳しいことも言えないが。俺が銃とやらに2発目を食らった後、動けなくなってとどめを刺されそうになった時に……そいつが現れて、俺を殺そうとしていた奴を殴り倒していった。それだけだな。おかげで俺は今も生きてる」
「あなたは見逃されましたの?」
「そういうことになるな。俺をちらとは見ていたが。脅威にはならないと思われたのかもしれない」
「殴り倒していた、というのは……ええと、素手、でしたかしら?」
「いや。鉄の棒だったな。廃材置き場にあるような」
「ええと、じゃあ、その彼は何か言ってましたかしら?」
「いや、よく聞こえなかったが……ああ、高笑いしながらそこら一帯に居た奴らを皆殺しにしていたな。俺もあそこにずっと留まっていたら殺されていたかもしれない」
「……身長はどれぐらいでした?」
「キーブ以上チェスタ以下、ぐらいだった」
……成程。
鉄パイプ持って高笑いしながらフルーティエの連中をボコボコに殴り倒していく、赤い瞳に濃い栗毛の、男性。
それは……それは!
「それは間違いなくお兄様ですわあああああああ!」




