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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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24話「火薬なんて持ってる方が悪くてよ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、ドランを連れて、崩落した地下道に来ていますわ。


「ここなら月明かり、差し込みますわよ」

「……この地下道は?何故崩落している?」

「掘りましたわ。そしてローパーが居たので空間鞄で引っこ抜いたら崩落しましたわ」

「無茶したもんだな」

 ドラン程じゃあなくってよ!

「だがお陰で月が見える」

 崩落した地下道は、僅かに空への穴が開いていて、そこから夜空とそこに浮かぶ月が見えますの。

 天気もいいものですから、よく月が見えますわ。崩落した天井から差し込む月光が綺麗ですわね。

「……月光を浴びると傷が治るんですの?」

「結果としてはそうなるな。……単に、化け物としての面が強く出るだけだ。化け物の傷はさっさと治る。人間じゃあないからな」

 人間じゃあない。

 そう言うドランはどこか自嘲的ですわね。まるで自分で自分に言い聞かせるような、そんな調子で……少し、不安にさせられましてよ。

「そう。人狼の体って便利ですのね」

 少し捻くれていると、自分でも思いますけれど。でも、私からのコメントは以上ですわ。下手な同情なんてしたくなくってよ。

「便利……か。そうだな。違いない」

 ドランは私のコメントがお気に召したらしいですわね。そう言ってくつくつ笑うと、一番よく月光が当たる位置に移動して、そこで楽な姿勢になりましたわ。

 ……すると。

「あらっ!耳と尻尾ですわ!」

 ドランから耳と尻尾生えましたわ!生えましたわ!これはちょっとびっくりでしてよ!




「すごい!生えてますわ!生えてますわね!?これ!本物ですの!?」

「いつもは抑えているんだが……今はそれどころじゃあないからな。出した」

 出した!?いつもはしまってるんですの!?しまおうと思えばしまえるんですの!?よく分かりませんわね!

「人間らしい恰好で居るために、常時魔法を使っている感覚、に近いかもしれない。それで、魔法を解いたらこういう格好になる」

 人狼って不思議な生き物ですわねえ。まあ、確かに、月光を浴びる度に耳だの尻尾だの生えていたら、とっくに彼、捕まって殺されていましてよ。

 ああ、それにしても耳と尻尾……ふかふかですわぁ……。見ていて幸せになってきてよ!

「触ってもよろしくって!?」

「構わないが今の俺は正真正銘の化け物に近づいている状態だ。攻撃性も増しているが」

「あらそう!知ったこっちゃーなくってよ!触りますわ!」

 許可が出たので触りますわ!まあ、許可が出ていなくても触りましたけれど!

「……いい毛並みですわねえ」

 案の定、ふかふかでしたわ。狼特有の、少々硬い毛でしたけれど。それでも十分ふかふかでしてよ!

 これは触り心地がいいですわね。しばらく一心不乱に触りますわ。私、犬も猫もそれなりに好きな性質ですの。勿論スライムのぷるぷるした手触りやドラゴンのお腹のぷにぷにした手触りも好きですけれど、獣の毛並みのふわふわふかふかも好きですわ!


「そろそろやめておけ」

 けれど適当なところでドランに引きはがされましてよ。

「……そろそろ抑えが利かない」

「物騒ですわねえ」

 ま、いいですわ。ドランから数歩分の距離をとりましてよ。本人が『危ない』って言ってるんですからきっと危ないんでしょう。多分。……私の目にはただのふかふかに見えますけれど。


 少し離れた位置でお喋りしますわ。人狼の人狼らしいところを初めて見ましたもの。折角ですから聞きたいことは聞いておきますわよ。

「そういえばあなた、満月の時は尻尾が出るんでしたわね?」

「ああ……満月の時は、どうにも抑えが利かない。だからできるだけ外出したくない」

 成程。……うっかり尻尾生えた時はどうしているのかしら?無理矢理ズボンの中に入れておくのかしら?謎ですわね。聞くと藪蛇になりそうですから聞きませんけど。

「でも今日は満月じゃあありませんけれど……」

「こうなろうと思わなければ、ここまでにはならない。今は多少無理して狼に傾こうとしているから、こうなっているだけだ」

 へー。そうですの。

 ……よくよく見ると、ドランの目、瞳孔の鋭い獣のそれになってますわね。金色の目が只々鋭くて、『ああ人狼ですわね』ってかんじですわ。


「……こんなところに付き合わせて悪かったな。お前はもう戻っていい」

「あなたは?」

「月が沈むまでここに居る。この方が治りが早い」

「いえ、私、あなたの監視監督も兼ねてアジトにいましたのよ?あなたを放っておくわけにはいきませんわ」

 色々無茶言いますわねこの筋肉狼。ほっとけるわけが無くってよ!つい数時間前まで死にかけてたっていう自覚がありませんのかしら?

「じゃあ、毛布持ってきますわ。ついでにアジトに書き置きも残してきます。じゃなきゃ、またジョヴァンが慌てますわよ」

「……そうか。すまない」

「そう思ってるならさっさと治してくださいな。明後日の今頃はもうフルーティエをおびき出すために動いてますのよ。さあ、あなたは寝ていなさいな」

 私がそう言うと、ドランは頷いて、その場に丸くなりましたわ。

 ……。

 恰好が狼ですわ!




 私が書置きして毛布を持って帰ってきたら、ドランの姿が変わっていましたわ。

 爪と牙が長く鋭く伸びて、ついでに……こう、毛深くなっていてよ。ええ。いい毛並みですわ。

 撫でたら起こしてしまいそうですから、そっと毛布を掛けておくだけにして、私はドランを監視しつつ夜明けを待つことにしますわ。




 ……夜が明けて、昼になって、夕方まで仮眠していたらキーブとチェスタが帰ってきましたわ。

「無事、スライム畑の完成だ!」

「スライムが余ったから畑だけじゃなくて醸造設備の方にも撒いてきた。熟成中のワインがあっても全部スライム漬けになってるよ」

 樽を開けたらスライムがみっちり。想像するだけで恐ろしいですわね。

 まあ、被害に遭うのはフルーティエ家ですから、只々愉快なだけですけれど。おほほほほ。


「ああ、お帰り。お前ら、上手くやったのね。もう耳の早い奴は知ってたぜ。フルーティエのワイナリーが死んだ、ってな」

 それから少しして、ジョヴァンも戻ってきましたわね。チェスタとキーブの作戦成功を聞きつけて戻ってきたのでしょうね。

「さて。早速だがこっちも情報が拾えたんでね。早速、話すぜ」





「こっちは2点。まず、昨日の停泊記録調べてきたけど、記録なし。つまり完全にクロ。ちなみに記録にはなくてもどこの船だったかは分かってるぜ。フルーティエの商船だ。鉱山地帯の方から来たらしい。だから後からそっちの方押さえておけば、銃を作ってる奴らにも接触できるだろうね」

 あら。情報担当の本領発揮ですわね。流石ですわ。これで銃の製造は私の物ですわね。

「ちなみに、運んでいたものは何所へ行きましたの?」

「それね。多分、王都の郊外にあるフルーティエ家の倉庫だろうってさ」

 成程。ならそこへ行けば銃がある、ということかしら……。これは耳寄りな情報でしてよ。


「それからもう1つ。どうやらフルーティエ家は商品在庫の整理、始めるらしいぜ。『武器』の買い手を密かに探してるらしい」

 あら……気が早いこと。

 案の定、銃を売りに出そうとしていますわ。勿論、それを許すわけにはいかなくってよ。

「どうする?早速、資金提供の話、出してみる?」

「ええ。すぐに鳥文を出しましょう。急がないと、銃を売り捌かれますわ」

 そうですわ。私としては、大事なフォルテシアの研究成果を勝手に売り捌かれたくはなくってよ!

 ですからすぐにでもフルーティエの首根っことっ捕まえて、銃を売れないように……。




 ……いえ。少し考えてみたら、そんな必要もありませんわね。

「資金提供の話をしながら、同時にもう1つ。奴らの在庫整理をお手伝いして差し上げますわ」

「在庫整理……あっまさかお嬢さん、また碌でもないこと考えてるね?」

 碌でもない?とんでもない!

 銃を売り捌かれたくない私としては最高の方法ですわ!


 銃って、火薬を使って弾を飛ばしてますの。

 つまり、火薬が無いと使い物にならないのですわ。

 そして火薬というものは、火を点けると一気に燃え上がりますのよ。

 ……銃の製造場所はフルーティエの屋敷や倉庫からは遠い位置。そして、フルーティエが今回、港で仕入れていたものは恐らく銃。

 ということは、フルーティエは今、屋敷か屋敷の近くの倉庫かどこかに、銃と……銃を使うための火薬を保管している、ということなりますわ。

 ならば私がすべきことはただ1つですわね!


「火薬庫を燃やしますわ!」

 火薬の在庫なんて抱えてる方が悪くってよ!精々爆発四散すればいいのですわ!おほほほほほほ!


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― 新着の感想 ―
[一言] 『スライム畑でつかまえて』そんなフレーズが浮かぶ今日この頃… ワイナリーが潰れ、今度は倉庫まで吹っ飛ぶことが確定したフルーティエ家(-人-) もちろん、着火前には完成品の銃を回収しておくんで…
[一言] 火薬庫は慎重に着火しないと巻き込まれるのだよなぁ
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