23話「人狼って何なんですの……?」
ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!
私はたった今!フォルテシアから『銃』を盗んだフルーティエ家の連中を徹底的にやる覚悟をいたしましてよ!
もうなりふり構いませんわ!徹底的に潰しますわ!そしてその上で!銃は必ずや私の手元に取り戻しますわよーッ!
ということでもうさっさとフルーティエ家を潰しにかかりますわよ。
『銃』の開発のために莫大な投資をしているということならば、彼らは資金に困っていること間違いないのですわ。
……つまり、奴らの弱みは相も変わらずに『金』なのですわ。
そこを狙って連中を一本釣りしますわよ!
「資金提供を申し出てみましょう」
金に困っている奴は金に飛びつく。当然のことですわね。
フルーティエを釣りたければ、フルーティエの喜びそうな餌をぶら下げてやる。これに限りますわ。
「資金提供って……銃の?不審じゃん、そんなの」
「いいえ。ワイナリーの復興資金に、という名目でいきますわ」
『銃』のことはきっと、フルーティエ家と私、フォルテシア家しか知らないと思いますの。
他に知っている者が居ないとは限りませんけれど……フルーティエとしては、これを一家専売にしてしまいたいはずですわ。だって他に彼らが生き残る手段ってないんですもの。他の貴族に知られたら、フルーティエはきっともうお役御免にされるはずですわ。だからフルーティエも必死に隠しているはず。
……ですから、ワイナリーへの資金提供。これでいきますわ!
どうせこれからフルーティエのワイナリーは壊滅的な大打撃(つまりスライムの食害ですわ)を受けますから丁度良くってよ!
「……それにしても不審だね、それは」
「そうかしら?連中、金が手に入るとなれば飛びつくと思いますけれど」
どうせホイホイ釣られて出てきて殺されてくれると思いますけれど。
「それにね、お嬢さん。折角『資金提供』なんて美味しい話ぶら下げてやるんだから、もうちょっと毟りに行ってもいいでしょ」
……と言いますと?
「ま、うちのドランに2発もぶち込んでくれやがったんだ。折角だから……『貴族界入り』ぐらいはおねだりしてみてもいいんじゃない?」
「相手だって、いくら金に困ってたって流石に見ず知らずの相手から資金提供なんてされたら不審に思う。『何か裏があるんじゃないか』ってね。だからその『裏』を作っておいてやるのよ」
成程。そこでの『貴族界入り』ですのね。
当然ですけれど、貴族の世界に入るにはお金が大量に必要ですし……それ以上にコネが必要ですわ。
フルーティエには、資金提供の代わりにコネになれ、と要求するわけですね。
フルーティエとしては、『相手の要求を満たしてやるのだからまさか殺されるようなことは無いだろう』と思うでしょうね。というか、そもそも『殺される』なんて発想に至らないかもしれませんわねえ。
私達の目的を誤認させてやることで、裏を掻かれにくくする。
偽の目的を見せてやることで、それを達成させた時点で相手は油断する。
成程、理に適った方策ですわねえ。悪くなくってよ。
「ならそれでよくってよ。貴族界入りを見返りに資金提供、という名目でフルーティエ家を呼び出して、あとは銃の情報を吐かせて殺せばいいわけですわね?」
「フルーティエ家を皆殺しにするならある程度深入りしてからの方がいいと思うけど」
「めんどくさいですわ!殺しますわ!」
「まあ、銃を全部回収できればそれでいいんじゃない?お嬢さんの没落にはほとんど関係してないような女子供も居るんだろうし、そこまで念入りに殺さなくても」
「フルーティエの屋敷は燃やしますわ」
「あーっ生き残っても焼け出されちゃうのね、はいはい……」
考えるだけでワクワクして参りますわね!フルーティエ家がフォルテシアの屋敷を燃やした可能性が高いですけれど、今度はそいつらの屋敷が燃えるのですわ!愉快でしてよ!
……さて。
ある程度話がまとまったので、ジョヴァンはまた贋金職人のところにいきましたわ。
雄の子供ドラゴンの角はまだ余っていましたから、もう1枚、黒金貨の贋金を作ってもらいますの。フルーティエ家への資金提供なんて贋金で十分でしてよ。だってどうせ潰れる家ですもの。おほほほほ。
ジョヴァンが『資金』の調達に出ている間にキーブとチェスタが動いて、溢れかえったスライムを処分しに行きましたわ。
要は、フルーティエのワイナリーは死にましたわ。
……少し前まではブドウの花が終わるくらいの季節でしたけれど、あれから時間が経って、今はもう、若い実が熟するのを待っている時期、ですわね。きっとスライムも喜んで食べますわ。
さて、キーブとチェスタは少し遠くのワイナリーを潰しに行きましたし、ジョヴァンはジョヴァンで贋金職人の所に行った後は銃について情報収集でもしに行ったのかもしれませんわね。当分帰ってきませんわ。
……ええ、ジョヴァン、結構頭に来てるみたいですもの。
彼、ドランがやられて一番動揺していましたものね。その反動で今、ものすごく動きたい気分なんだと思いますの。
動いている間って、不安も焦りも忘れられますものね。
そして、私もそれは同じでしてよ。
「暇潰しの相手が居るのはいいことですわね」
……外に出る訳にもいきませんもの。ドランの看病でもしておきますわ。とりあえずやることがあってよかったですわね。さもなくば町に出て手当たり次第に放火でもしていたかもしれませんわ。おほほほほ。
「できればさっさと起きて、話し相手くらいにはなってくれると嬉しいのですけれど」
まあ、期待してませんわ。
あれだけ血を失った後ですもの。丸一日ぐらいは寝ているかもしれませんし……もっと長く、寝ているかもしれませんわね。
「ん……」
しばらくドランを眺めて過ごしていたら、ドランが微かに呻き声を上げて目を開けましたわ。
「あら、ドラン。起きましたの?」
声をかけてみると、ドランはちら、と周りを見て、自分の現状を知ったようですわね。
「俺は……どうしていた?」
「寝てましたわね。お腹に銃弾二発もぶち込まれて、ジョヴァンに拾われて帰ってきてましたわよ、あなた」
説明すると、ドランは腹部の包帯に触って、それから顔を顰めて、そうか、とだけ言って黙り込みましたわね。しくじったことについて、色々思うところがあるんだとは思いますわ。
「ま、生きて戻ってきただけ上出来でしてよ。銃を前にしてよく逃げ切りましたわね」
「銃?……そうか、あれは、銃、というのか……」
「ええ。フォルテシアで開発していたはずの最新兵器ですわ。それが何故か、フルーティエの手に渡っているようですけれど。……ドラン。あなたが調べていたのは、フルーティエ家、でしたわね?」
一応確認すると、ドランは案の定、頷いてくれましたわ。
「ああ。そういうことになる。……俺が港に行っていたのは、フルーティエ家の取引がある、と聞いたからだ。何か掴めるかもしれないと思って潜り込んだが……大当たりだった、ようだな」
ああー……成程。港、ということは、船、ですわね。銃の輸送をしていたのかしら?なら、今日の昼間に停泊していたフルーティエの船がどこから来ていたかを調べれば、銃の製造元か、或いはフルーティエの取引先か、そんなようなところが判明しそうですわ。これは幸先が良くってよ!
「世話をかけたようだな」
「私よりはジョヴァンに言ってあげてくださいまし。彼、随分動揺していましたわよ」
「動揺?あいつが?……それは見てみたかったな」
「んなこと言ってるとはっ倒されますわよ」
ドランはくつくつ笑って、それから腹のあたりを押さえて顔を顰めましたわ。多分、傷に障ったんですのね。
「あんまり無理はしないで頂戴ね。あなた、本当に死ぬかと思いましたのよこちとら」
「まあ、あいつが動揺するくらい、ならそうだったんだろうな」
ドランはそう言って苦笑して、それからじっと私を見て……言いましたわ。
「次の作戦は?」
「あなたは入れませんわよ」
私が答えると、少し不服そうな顔をしましたけれど、自分の状態は彼自身、よく分かっているはずでしてよ。
これからフルーティエを資金援助の名目でおびき出して情報吐かせてぶち殺しますけれど、そこに腹に風穴開いたばっかりの野郎を参加させるわけにはいかなくってよ。
「何日後だ」
それでもドランは妙に粘りますわねえ。
「さあ。チェスタとキーブがスライムぶちまけて帰ってきてから2日、ぐらいで考えていますけれど」
あんまり間を空けるわけにはいきませんわ。ワイナリーを潰してからすぐ、が理想ですの。そうでなければ、フルーティエ家が他の資金源を見つけてしまうかもしれませんし、金に困ったあまりに銃を売り捌き始めるかもしれませんもの。
「……そうか。なら本腰を入れて治さないと間に合わないな」
「2日じゃあ治りませんわよ」
もしかして怪我の影響でドランは馬鹿になっているのかしら?
人間に開いた穴が2日ぽっきりで塞がるなら、この世界に医者も薬も必要ありませんわよ。
「いや、治す」
「駄々捏ねるんじゃありませんわよ、子供じゃあるまいし」
「子供じゃあないが、人狼だ」
ドランは傷を庇いながら起き上がりましたわ。馬鹿ですの?人狼だからってまさか、穴が塞がるなんてことは流石に……。
「ヴァイオリア。悪いが少し付き合ってくれ。月光が当たるところに行きたい」
……え、もしかしてもしかするのかしら……?




