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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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17話「生け捕りですわ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 現在、キーブが黒金貨の贋金を持ってギルドを訪問中ですわ。

 そして明日、ギルドから王家の使いの兵士達へ、贋金が受け渡されますの。

 ……その兵士達を半殺しにして黒金貨を奪うのが、私のお仕事ですわ!




「……お嬢さん、全身鎧着て動けんのね……」

「当然ですわ。フォルテシアの娘ですもの!」

 私、兵士達を急襲する部隊に加わるのですけれど、処刑台の上に立ったばかりの私が居ることがバレると何かと厄介ですもの。私はフルフェイス全身鎧での参戦ですわ。

「とは言っても、まあ、所々ちゃんと軽量化された物ですから。それほど重くはありませんわね。馬上で弓を使うくらいなら全く問題無いですわね」

「それでも体形が分からなくなる程度の鎧って、相当じゃないの?」

「鍛えてますもの!」

 護衛が必要無い程度の武力は身に着けておけ、というのがフォルテシアの家訓でしてよ!このくらい当然ですわ!


 衣装も揃った事ですし、私はさっさと移動しますわ。

 兵士の所在はもう分かってましてよ。ジョヴァンがある程度情報を仕入れてきてくれましたわ。

 エルゼマリンにはギルド運営の警備隊も居ますけれど、それとは別に王都から兵士が派遣されてくることもよくありますの。まあ、王都に近い町ですし、大きな町ですし、貴族が多い……いえ、多『かった』町ですしね。

 なので、エルゼマリンには兵士の駐屯所がありますわ。今、兵士は全員そこか、或いは居たとしても町の中。地下道を通ってがらんどうの貴族街の近くへ出て、貴族街の方から町を出れば、ほぼほぼ確実に兵士に出くわさずに町を出られましてよ!


 今回、黒金貨輸送部隊を急襲するのは私と15人の山賊。それに5人の冒険者と、ドランとチェスタですわ。

 私は全身鎧で騎士風に化けていますし、チェスタも同じような恰好ですわ。チェスタの場合、顔を隠す意味もありますけれど、それ以上に左腕の義手を誤魔化しているのですわね。彼の義手、結構特徴的ですもの。

 そしてドランは……まあ、タッパありますもの。鎧を着ようが着まいが、正直ほとんど変装にならなくてよ!こんな筋肉野郎、他にそうそういませんものね。

 それから、5人の冒険者については、ドランと顔なじみらしいですわ。私はギルドで数回目にした程度ですけれど。ま、要は悪党に片足かそれ以上突っ込んでいる後ろ暗い冒険者、ということですわね。

 彼らも新生エルゼマリンの為に協力してくれますの。……ということで、彼らも全身鎧ですわ。私のものとチェスタのものと、同じデザインの鎧兜を身に着けてもらうことで、私達の正体をより分かりにくくする目的ですわね。

 ちなみに私とドランとチェスタ、そして5人の冒険者達の計8人は馬に乗っていきますわ。逆に、山賊達は馬が無かったので徒歩ですわ。武装もそれなりに用意してやりましたけれど、元々が戦闘訓練の碌に無い山賊共ですから、戦力としてはあまり期待できませんわね。

 まあ問題ありませんわ。何といってもこれは奇襲なのですもの。利はこちらにありましてよ?




 さて。私達が移動した先は、エルゼマリンから王都へ向かう街道を望む山の斜面ですわ。

 ここ、街道を移動する連中を襲うにはぴったりの場所ですの。……要は、山賊御用達の襲撃場所なのですわ。

 ここなら山賊達の地の利もそれなりにありますし、そこそこいい戦いができると思いますの。

 ……私達はここで息を潜めて、兵士達の輸送隊が通るのをじっと待つことになったのですわ。


 そうして昼を過ぎた頃かしら。

「お頭!エルゼマリンの方から兵士達の列が来てますぜ!」

「来たようですわね」

 偵察に出していた山賊の1人が兵士達の列を発見したようですわ。

 さて……いよいよ暴れる時間ですわね。

 私は弓に矢をつがえて、構えましたわ。鏃には血を滲ませて、一撃必殺の構えですわよ。

 そして、狙うのは当然……先頭の馬、ですわ!




 矢が届く範囲になった瞬間、矢を射かけましたわ。

 私の矢が最初に届いて、先頭を進んでいた兵士の馬に直撃。馬は矢が刺さった瞬間大暴れして兵士を振り落とし、そのまま数度痙攣して死にましたわね。

 そして、先頭がこのように止まってしまったものですから、列はそこで渋滞しますわ。たたらを踏んで止まる兵士達の列。格好の餌食ですわね。

「総員、掛かりなさい!」

 私がそう命令を出すのと同時、7頭の馬が走り出て、一気に兵士達の列に突っ込んでいきましたわ!


 兵士達も当然、ただ襲われるのを待つような馬鹿ではありませんわ。流石に。

 襲われた、と思った瞬間から彼らはそれぞれに武器を構えて応戦し始めました。

 ……けれど、まあ、うちの戦力を舐めないで頂きたいですわね。


 最初に動いたのはドランですわね。やっぱり彼、バケモンですわ。

 なんといっても、馬の勢いに任せて突っ込んでいったと思ったら馬から飛び降りて、そのまま敵のど真ん中で戦い始めましたのよ。

 馬車を盾にしたり武器にしたりしながら、兵士達数人と同時に戦っていますわ。馬鹿力は相変わらずですわねえ。素手で鎧越しにぶん殴った兵士のアバラへし折るとか、どういうことですのほんと。

 その一方、チェスタはもう少しまともな戦い方かしら。薬中がまともというのも不思議な話ですけれど、少なくともドランよりは人間らしい戦い方ですわね。

 馬に乗ったまま、細身の槍で適当に兵士を突き殺したり、馬を狙ったり。

 チェスタの乗っていた馬がやられたらさっさと馬から飛び降りて、そこからは適度に距離を取りつつ、兵士の武器を奪いながら武器を使い捨てるように戦い始めましたわ。

 ……そして冒険者達5人もそれぞれ応戦していますわね。まあ、特筆すべきことは特にありませんわね。馬に乗ったままの奴とさっさと降りた奴との差はありますけれど、その程度ですわ。

 ちなみに私も弓で加勢しますわよ。遠距離からの攻撃には自信がございますの。獲物は絶対に一撃死!狙うは頭か心臓、或いは喉笛ですわね!


 ……という風に散々戦っていれば、兵士達は散り散りに逃げていきますわ。

 そう。兵士は逃げていったのですわ。

「やっぱりこの部隊は陽動ですわね」

 馬車の中を漁ってみても、そこに黒金貨の小箱はありませんでしたわ。




 ま、分かりきった事でしてよ。こんな風に隊列を組んで如何にも分かりやすく輸送するなんて、如何にも標的にしてくれと言っているようなものですもの。

 王家がエルゼマリンのギルドに罰金を命じたことは、エルゼマリンの人間なら誰でも知っていましてよ。

 当然、知られていることは王家側だって把握しているでしょう。つまり、こんな風にあからさまな輸送隊があったら、それは『黒金貨を運んでいます!』と言っているようなものなのですわ。

 ……ですから、相手も警戒してきたのです。このように、囮を使ってまで、ね。

「でも無駄でしてよ」

 私が山賊稼業をしていた時間を舐めてもらっては困りますわ。

 エルゼマリンから王都へ至るまでの抜け道横道、そして山賊と出くわす地点……それらは大体、お見通しですのよ?




「では私、目的地の方へ向かいますわね!討ち漏らしは適当に山賊達がやってくれているはずですけれど、一応適当に確認なさって!」

「分かった」

 ドランに一声かけてから、私は颯爽と馬を駆り、進み始めますわ。山道は慣れていますの。馬を幻覚魔法で誤魔化し誤魔化し、適当に崖を飛び越えたり大ジャンプしたりしながら、他の誰にも真似できない走りを実現しましてよ。

 あ、それから道中で、さっきの輸送隊から逃げた兵士が山の中に潜んでいた山賊に襲われているのを確認できて満足しましてよ。

 やっぱり山賊は馬に乗せて急襲を仕掛けさせるよりは、こうやって山に潜ませておいて、散り散りに逃げ出した残党を狩る方が向いていますわね。適材適所、ですわ!


 私が幾つか予想していた道を確認しながら行くと……案の定、一般の冒険者に化けた兵士達数名が、山賊達に足止めを食らっているところに出くわしましたわ。

「ここを通りたきゃ、有り金全部置いてきな!」

 様式美とも言える台詞を言いながら、こちらに張らせておいた山賊達15名と冒険者15名、合計30名のゴロツキ集団が、『本命の黒金貨輸送隊』に立ち向かっていましてよ!

 ……そこへ私、馬に乗ったまま弓を構えて……蹄の音に振り向いた輸送隊の奴に向けて、矢を放ちましたわ!




「呆気ないものですわねえ」

 とりあえず、私の矢で1人殺してみたら、そこからボロボロと相手の連携が崩れましたわね。そう。それこそ、ゴロツキ30名で囲んで叩けばなんとかなる程度には。

 私ももう1人殺しましたし、元々が目立たないように気を遣った少人数の隊でしたから、制圧するのは簡単でしてよ。

「あ、ありましたわね」

 如何にもリーダーのような風格だった男と、如何にも新人で重要ではなさそうな小柄な女との死体を漁ってみたところ、案の定、小柄な女兵士の方が黒金貨の箱を持っていましたわ。そして、リーダー風の男の方が鍵を持っていましたわね。

 ふふふ、どうせこんな風に『鍵を守る』役目と、『金貨の箱を気づかれずに運ぶ』役目を振り分けていると思っていましたわ!バレバレでしてよ!

「では撤退ですわよ」

「お頭!こいつら、とどめは刺さなくていいんですかい?」

「女が居ますぜ!まだ生きてる!」

「捨ておきなさい!今は急いで撤退する方が先決ですわ!目的のものは手に入りましたもの。こいつらにはもう用は無くってよ!」

 さて。こうなったら後は簡単ですわ。

 ……適当に馬の蹄の跡を残しながら、山賊のアジト(そこに居た山賊を全員収穫してしまいましたから、今はもぬけの殻ですけれど)へ向かいますわ。

 生き残った兵士が追いかけてくれば、そこで黒金貨の箱を奪い返してくれることでしょう。鍵は諦めてくれると思いますわ。

 ……ということで!




「鍵なんて元々ありませんでしたのよ」

 黒金貨の箱の鍵は無事、野生のスライムの餌になりましたわ!




 のんびり山を進んで、山賊のアジトに辿り着きましたわ。

 痕跡が結構しっかり残っていますから、兵士達がここへ来るのも時間の問題ですわね。

 ……さて。

「そっちが先だったか」

「あら。あなた達、結構時間が掛かりましたのね」

 ドラン達がやって来たのを見て私はにっこりですわ。

「適当なのを2人ほど捕まえてきた」

 ドランが両脇に抱えているのは兵士ですわね。生きていますわ。生け捕りですわ。

「上出来ですわね。……さあ、この方達からお話を聞いておきましょうか」

 さあ、彼らはこれからどういう風に動いてくれるのかしら?ここの2人の兵士が教えてくれると助かりますわねえ。おほほほほほほ。


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― 新着の感想 ―
[一言] どうせなら、新人ちゃんも収穫して山賊に与えればよかったのに…(酷) ここら一帯の山賊を配下に収めてるから裏ルートとか把握済み、兵士達に勝ち目なんぞなかったんや…(-人-)
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