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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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10話「えっ処刑ですの?」

 ごきげんよう!ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、ムショの中に居ましてよ。人生3度目のムショですわね。もう慣れましたわ。

 まあ、今回はドラン達が助けに来ることが分かっていますから、そんなに慌てる必要もありませんわね。

 私、悠々とこのムショ生活を楽しんでやりますわよ。




 鉄格子に遮られる視界も、狭い石造りの室内も、粗末なベッドも、何なら厳重に掛けられた手枷足枷だって、懐かしさを味わわせてくれますわ。何と言っても3度目のムショ入りですもの。余裕が違いますわね。

「ここで大人しくしていろ!」

「言われなくてもそうしますわ。あ、お紅茶頂けますかしら?喉が渇きましたの。頂けないなら暴れますわよ」

「大人しくしていろと言っただろうが!」

「ですからお茶をお寄越しなさいと言っているのよ。それだけでこの『極悪人』が大人しくするんですのよ?安いものとは思わなくって?」

 3度目のムショ入りともなると、兵士のビビり方も違いますわね。もう私、ムショの大御所でしてよ。

「ついでにお茶菓子も何か頂けるかしら?」

 牢の中から兵士を顎で使える程度には私、成長しましたのね。自分で自分の成長ぶりが誇らしくってよ。




 そうして私、エルゼマリンの牢の中で悠々と暮らしましたわ。まあ、2日ほど。

 ……アレですわね。この時間って要は、王都からの兵団を待つ時間ですわね。今回はもう前回の二の轍を踏まない、という王家側の強い覚悟を感じますわ。

 その間私はどうしていたかというと、暇を持て余しながらのんびりダラダラとムショ生活を楽しみましたわ。

 それほど美味しくない食事しか出ませんけれど、それでも寝て待っているだけで食事が出てくるんですものね。楽な生活ですわ。

 それに、私を大人しくさせておかないと自分達の首が飛ぶ、ということがよーく分かっている兵士達が差し入れをしてくれましたので、それほど不自由なく過ごせましてよ。

「これで本当に大人しくしていてくれるんだろうな?」

「ええ。あなた達にはとてもお世話になっていますもの。あなた達に責任のある場所では暴れませんわよ」

 そして私はそう約束してやりつつ、王都へ護送される日を待ったのですわ。




 そして、いよいよ私の護送当日。

「……王族の葬列並みに盛大にやりますのね?」

「2度も脱獄している大罪人を警戒しない理由が無い」

 私の護送に、兵士が1個師団丸ごと使われるみたいですわね。

「皆さん、お暇でらっしゃるのね。こんなに人が集まるなんて……王都の兵士というのは楽な仕事ですのねえ」

 色々とびっくりしましたけれど、まあいいですわ。どうせ王都に到着する頃まではこちらも動きませんもの。

 私、大人しく護送されることにしてやりましてよ!


 ということで、ガッチガチに見張られながら馬車に揺られることになりましたわ。驚くべきことに、兵士達は休憩なしで護送を続けていましてよ。

 常時、気を張りっぱなしで居なければならない、というのは、見ていてなんとも気の毒ですわね……。

 ……まあ、その緊張の原因が私なのですけれども。おほほほほほ。


 馬車の中から外は見えませんけれど、素晴らしい数の兵士が揃って行進していくことは分かりますわ。本当に、王家の人間の葬列か婚礼の列か、といった様子ですわね。

 ……護送中だからこそのこの待遇なのかしら。王都の地下牢にぶち込まれた後もこの対応ですと、結構厄介なのですけれど……。




 はい。こうして一抹の不安を感じさせつつ、護送の列は無事に王都に到着してしまいましたわ。あまりにも立派な列ですから、王都の住民、全員滅茶苦茶に驚いていましたわね。そんな様子が馬車の幌の外から伝わってきましてよ。

 ……規模だけ見れば本当に、王家の葬列か、はたまたどこぞの姫君の嫁入り、といったところですわね……。実態は私のムショ入りですけど。


 王都の街門を潜って、それから城門を潜って。……春先の出来事が思い出されますわね。あの時は訳も分からず王の御前まで引き立てられていくことになりましたけれど、今は色々と事情が分かった上で、更に自分で選んでのムショ入りですもの。前回みたいな戸惑いは無くってよ。ただそれとは別の戸惑いはありますけれども。主に兵士達の規模とか。設備の厳重さとか。

 ……そうですの。設備も規模が、大きくってよ……?


「さあ、ここで大人しくしていろ」

 私の記憶が正しければ、王城の地下にあった牢って、石造りの部屋に木の扉があって、小窓には鉄格子がある、というだけの簡素な造りだったはずなのですけれど……。

「王都の地下牢ってこんなにガッチガチだったかしら……?」

「常時お前を監視しておかねばならぬのでな」

 扉側の壁が、全部鉄格子になってますわ。監視し放題ですわね。

「頑丈そうですわねえ……」

「人間の力では勿論、ドラゴンの牙でも折れない特殊な鋼材を用いた特注の牢だ」

 鉄格子はどう見ても破れなさそうですわね。

「ちなみにこの鍵は?」

「精密かつ複雑なものだ。針金程度で開けられるような代物ではないぞ」

 鍵もどうやらガッチガチのようですわね……。

 ……この牢、脱出するの、結構難しくありませんこと?




 私専用、ガッチガチになった牢の中、鉄格子越しに兵士達にガッチリ監視されつつ、私、大人しくしておくことになりましてよ。

 ……これだけガッチガチだと、心配になってきますわね。私、本当に脱出できるのかしら。

 いえ、不安だろうが何だろうが、今は待つしか無くってよ。




 ……見張りの兵士が交代しましたわ。ということは、3時間は経過したようですわね。

 ここ、地下牢なので小窓の外も地下ですの。時刻を知る方法がほとんど無くってよ。兵士の交代と、後は、食事が運ばれてくるタイミングをみるくらいでしか時間が分かりませんのよね……。

 ま、まあ、時間を知るのも暇潰しの意味でしかありませんものね。それほど重要ではありませんわ。

 それよりも重要なのは……この牢を脱出する方法を、予め探っておくことですわ。


 この牢、破るのがものすごく難しそうですの。ドラゴンが噛んでも折れない鉄格子、ですものね。下手すれば石壁を掘って地中を進んだ方が楽かもしれないという勢いでしてよ。

 ですから、正規の手段でこの牢を出るより他には無さそうですわね。つまり、私を牢から出そうとした瞬間に逃げる、という正規の方法ですわ。

 ただ……それも難しいですわね。何せこの数の兵士ですもの。本当になんだってこんなに見張りをつけていますの?連中、暇なんですの?

 私の牢の前だけでこれだけの見張りなのですから、私を処刑台へ連れていく時にはもっと多くの兵士が現れるのでしょうねえ……。

 ……これ、本当に私、出られるのかしら……?




 考えれば考える程不安になってくるのですけれど、そうも言っていられなくなりましたわ。それは……。

 コツ、コツ、と、靴音。同時に幾つもの靴音と、鎧の擦れ合う音。

 誰が来たかは、すぐに分かりましたわ。

「あら、お久しぶりですわね、国王陛下。わざわざ囚われの私を見に地下牢くんだりまでご苦労様なことですわね」

 国王陛下。この国一番のアホンダラが私の目の前に居ましてよ。




「4か月も、よく逃げ回ったものだな。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ」

「逃げ回った?私は思うがままに動いただけですわ。私を見つけられなかったというのならば、それはあなた達の怠慢ね」

 早速一発キメてやりましたわ。国王の眉間に青筋が浮かびましたわ。なんならこのまま血管ブチ切れておくたばりになればよくってよ。

「相変わらずのようだな。何の反省も無く、随分とふざけたことを言う」

「反省はしていますわよ。どうせなら囚われの身になる前に王城に火矢でも射掛けておけばよかった、と」

 また国王は怒りをあらわにしましたけれど、鉄格子ごしに剣を振るおうとして流石に兵士に止められましたわ。全く、一国の主ともあろうものが一介の兵士より冷静さを欠くなんて笑いものもいいところですわねえ。

「……わざわざここに来てやったのは、戯言を聞くためではない」

「あらそうでしたの?私てっきり、暇な私を憐れんで芸を披露してくださっているものだとばかり思っていましたわ」

「おのれフォルテシアの娘!」

「陛下!お気を確かに!」

 ほんとお気を確かにしてほしいですわ。こいつ、知恵だけに留まらず、怒りの沸点までもが浅すぎるんじゃなくって?


「……エルゼマリンのギルドについて話せ。何故、お前はギルドに庇われていた?」

 あ、やっとまともな話になりましたわね。

 エルゼマリンのギルドについて、ということは……まあ、今、ギルドの処遇を審議中、ということなのかしら。なら、私の出方は一択、ですわね。

「あら陛下。私が庇われたんじゃなくってよ。私を庇ったのは彼らの選択ですわ」

 敵対しているふりをする。

 それが私の選択でしてよ。


「……ギルドが自ら、貴様の保護を申し出た、と?貴様はそう言うのだな?」

 保護?うーん?なんだか話が随分と飛んでいますわねえ。

 ギルドの罪があったとするならば、それは『アイル・カノーネ』という明らかに不審な冒険者の存在を詳しく調べなかった、というだけのことなのですけれど。

 ……まさか、こいつら何か勘違いしているのかしら。

 だとすると……迂闊なことを言うと、そのまま馬鹿なこいつらは勘違い一直線でギルドも処分してしまいかねませんわね。慎重にいきますわ。

「言葉にされたことはありませんけれど、私はそのつもりで居ましたわよ?……まあ、どうせ調べは付いているのでしょうから、ちょいとばかり脅かさせて頂いたことは認めておきますけれど、ね?」

「脅し、だと?」

 国王はそう言って不審げな顔をした後……すぐ『知ってたけど何か?』みたいな顔しやがりましたわ。つまり、『そんな事実は知らない』どころか、『思ってもみなかった』ってことですわね!

 ほーら案の定こいつらなんも知りませんわよーッ!この馬鹿!相手があんまりにも馬鹿だとこっちも出方が分からなくってよ!どうしてこいつらの情報、こんなに錯綜してるんですのーッ!?

「……一応、脅しの内容も聞いておこうか」

「なら調べてみればよろしいんじゃなくって?私がギルドに冒険者として登録する前、数名の冒険者が行方不明になっているはずですわ」

 主に、山賊狩りに行って逆に狩られて山に埋まってますわね。ええ。これは真実ですもの。疑いたければ疑えばよくってよ。掘っても掘っても真実と死体しか出ませんわ。好きに調べて無駄骨折ってりゃよくってよ。


「……証言とは異なるが……いや、しかし……」

 国王はぶつぶつ言いながら首を傾げてますけれど、私も当然これには首を傾げさせて頂きますわ。

『証言』ってどういうことですの?誰かが『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアはギルドに保護されていた』なんて証言をしたってことですの?

 ……あ。

 も、もしかしてそれ……ピンハネ嬢、かしら?

 だとしたら……なんだか雲行きが怪しくなってきましたわねえ……。




「次の質問だ」

「どうぞ?」

「エルゼマリンの貴族を大量殺害したのは、貴様だな?」

 あ、次はそれですのね。

 ただ……あれについては、私がやった、という証拠はないはずですわ。精々、私の名前を使って『上水道に毒が撒かれた』という嘘を流したくらいですわ。それなら、誰かが勝手に私の名前を使った可能性だって否定できませんわね。

「いいえ?そんなことはしていませんけれど。私が関わったという証拠でもありまして?」

「貴様が上水道に毒を流した、という情報が出ているのだぞ」

「あら。それ、あくまでも『噂』でしょう?私しか私の名前を言えない、なんてことはないはずですわ。陛下だって言うだけならできますでしょう?『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアがダクター王子の殺害を試みた』なんて言えたくらいですものね。証拠も無しに、なんでもかんでも罪を被せようとしないでくださる?」

 これは国王の分が悪いですわね。だってこいつが私に濡れ衣着せてるのは本当なんですもの。おほほほほ。


「……次の質問だ。貴様はこの4か月余り、ギルドに保護されていたのだな?」

「いいえ?エルゼマリンのギルドで捕まった後、またエルゼマリンに戻るなんてそんな馬鹿なことありえますこと?護送隊を潰して脱出した後は各地を転々としていましたわよ?大体、私がずっとギルドにいたなら、流石に見回りに来た兵士達が見つけているんじゃなくって?」

 嘘と本当を混ぜてやれば、国王は深々とため息を吐きましたわ。

 私から話を聞いたところで真偽が分からないことくらい、分かっていたでしょうに。

「……そうか。もうよい」

 国王はそう言って……強がるように、続けましたわ。

「貴様が何を言おうが、もう決定は覆らん! 貴様の処刑は明日の朝だ!それまで精々、己の人生を悔いるがよい!」




 ……えっ?処刑?明日の朝?

 ちょっと……えっ?あの、早すぎやしませんこと?


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