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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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8話「この町は私のものにしますわ!」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私はつい先程、エルゼマリンのギルドが何故か王都の兵士によって『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアを庇っていた罪』を糾弾されているところを目撃してしまいましたの。

 王都側がエルゼマリンのギルドを潰したい理由なんて全く分かりませんわ。どう考えても民衆を敵に回す行為ですもの。

 でも……そこで要求していた黒金貨は、莫大な額ですわ。罰金として取るにしては、あまりにも莫大な額、となると……もしかするとギルドから金を毟ることにしたのかしら?


 と、まあ、推測は尽きないのですけれど。

 ひとまず私達にとって朗報であることは間違いないですわね。

 ええ。動乱の陰にはお金が動きますの。何か大きな動きがあればその分私達が動くための隠れ蓑にもなりますし、そうでなくとも儲けるチャンスでしてよ。




 ということで、今一番張り切っているのは間違いなくジョヴァンですわね。

「いやあ、助かった!武器が中々思うように買い集められなくて弱ってたところだったのよ。でもギルドを使えるなら一気に動く!こんなにありがたい話ってある?」

「ギルドにとっては迷惑な話だろうがな」

「ドランだってあるでしょ、そういうこと。例えば好きな女の子が他の奴らに虐められてたら嬉しいじゃない?」

「……分からんな、それは」

「ま、お前はそうだろうね。情緒の機微には疎いし、そもそも好きなコがいたら小細工無しに突っ込んでくだろうし……」

 私はちょっぴり分かりますわ。分かるのがなんか悔しいですわ。

「まあいいや。ここで颯爽とギルドを救うナイトにでもなって、エルゼマリンのギルドとの蜜月を始めましょ、ってことよ。ああ、勿論実働はそっちね。俺は頭脳労働専門。取引の交渉の段階になるまでは外に出ないからヨロシク」

「勝手な奴だな」

「俺無しじゃやってけないくせによく言うぜ」

「お前こそな」

 結局また、ドランを主軸に私やチェスタやキーブが働くことになりそうですわねえ。まあ、それは分かっていましたわ。別によくってよ。私も暴れまわるのは嫌いじゃありませんの。


「颯爽と助ける、とはいえ、手段はどうしますの?怪物からお姫様を助け出すよりも難しいんじゃなくって?」

「そりゃあね。そんな単純に済む話なら誰も苦労しやしないでしょうよ。……ってことでお嬢さん。あんたの出番だ」

「私の?」

 ドランじゃなくって私、ですの?

 ギルドを助けるために私が、というのは一体……?

「ギルドは今、『ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアを庇った罪』に問われてるんだろ?なら、お嬢さんが出ていってやればいい!」


「ギルドに花を持たせてやるんですよ、お嬢さん。あんたの首は今、黒金貨1枚分より遥かにお高い!」




 ええー……。

「つまり、私にもう一度ムショに入れって仰るの?」

「勿論脱獄のお手伝いはする。ドランがね」

「俺か」

 ドランも複雑そうな顔ですわねえ。ええ、ええ。存分に反対して頂戴な。

「俺が動くのは構わないが」

 構ってくださいな!

「ヴァイオリアにとって、あまりにも危険だろう、これは」

 そうですわ!危険でしてよ!私が!

「金だけ工面してやるというわけにはいかないのか」

「確かに、ギルドは黒金貨なんて払う余地はない。代わりに金だけ払ってやるって手はある。けれど、折角なら安く上げたいじゃない?お嬢さんなら、まあ……なんとかなるだろ」

「確かにな」

「さっきから黙って聞いてりゃなんですのあなた達ーッ!安く上げるために私の命を粗末に扱うなんて許しませんわよーッ!」

 失礼ですわ!失礼ですわ!ぶん殴ってやりますわよこの骸骨男!

「まあまあまあ、落ち着いて、お嬢さん。これはお嬢さんのためでもあるんだぜ?」


 一度落ち着いてやりましたわ。また失礼なことを言ってくるようならこの骨叩き折ってやりますわ!

「貴族が居ない今、このエルゼマリンは誰のものだと思う?」

 ……と思っていたら、随分と突拍子もない言葉が来ましたわね。

「誰の、って……それでも貴族のもの、ですわね?名目上は」

 エルゼマリンは貴族街を有する町でしたから、そこに住む貴族達の総意(とは言ってもそこには当然、貴族間の力関係が如実に反映されるわけですけれど)でエルゼマリンを運営していましたの。

 国は王のもの。町は貴族のもの。そういうことですわ。ある程度大きな町ならば、貴族達が集まって町の実権を握っている、ということですわね。

 ただ……それも今となっては形ばかりのものになっているはずですわ。引継ぎも何もなしにいきなり町の権利を渡されたとしてもまともに治められるわけがありませんもの。大体、治める貴族が今、どこにも居なくってよ。

 ……となると。

「……実質、ギルドのものだ、と仰りたいの?」

「ご名答!」

 そういうこと、ですわね。




 諸々の決定権は貴族にありますけれど、実務は町のギルドが請け負っている場合が多くってよ。

 例えば、王都から派遣されてくる以外にこの町を守っている警備隊はギルドの組織ですわ。税を集めるのも、それをやりくりするのも、実際はギルドのその部門がやっている場合が多いですわね。

 ……元々ギルドって、公共事業のようなものですもの。魔物が出れば倒しにいき、足りない資材があれば取りに行く。時には町の清掃ですとか、橋を架ける工事ですとか、そういう内容も依頼になりますの。要は、貴族からの依頼……という形でギルドが出している依頼ですわね。

 ということは。

 この町のてっぺんが消えた今。

 この町の実権を握っているのは……ギルド。そうとも言えますわね。


「もしかして国がギルドを潰そうとしている理由ってそれなのかしら?これは国が主要な町の実権を直接握るようにするつもりかもしれませんわね」

「かもね。ギルド潰して、代わりに王家直属の組織に運営させようとしてるとか?貴族が一気に死んだ分、新しい貴族や王家が介入する隙が生まれてるってことだもの。十分美味しい話じゃない?民衆を敵に回す『だけ』で、より都合のいい町が作れる」

 つ、つまり、ここでギルドが潰れると、エルゼマリンは大きく形を変えることになりますわね……!これは、国が圧政をものすごく強めていく、ということなのですわ!

「それに、ギルドを1つ潰しておけば、見せしめにできますわね」

「見せしめ。そうね。そういう面も狙ってると思うぜ」

 他の町のギルドにも王の手が介入する、という脅しが掛けられますもの。ギルドは皆、王の言うことをよく聞くようになるでしょうね。そうなればそもそも、各所のギルドを潰しては王家直属の組織に挿げ替えていく必要なんてありませんわ。王家の言うことを聞くなら誰でも一緒ですもの。


 つまりこのギルド潰し。これは……この国全体を、全て王と一部の貴族が管理する、というクソッタレな物語の序章なのですわ!




 でも、まあ。逆もまた、あり得るのですわ。

「ギルドが私の手によって生かされ、ギルドが私と手を取り合ったなら……」

「そう。この町はお嬢さんのものだぜ」

 ……それ、最高なんじゃなくって?





「いいですわね!それでいきますわ!」

「でしょう?お嬢さん、こういうの好きそうだと思った」

 ジョヴァンはそう言ってケラケラと笑って……そして改めて、言うのですわ。

「ということでお嬢さん。こちらのゴツい騎士ナイトが必ずあなたをお迎えに参りますので、それまでムショにぶち込まれては頂けませんかね?」

「そういうことなら仕方ありませんわ。私の町の為ですもの」

 私、1年以内に3回もムショ入りすることになりますのね……。なんだか複雑な気持ちですわ……。

 でも仕方ありませんわね!ここはスッパリ諦めて、ギルドのために私の身柄を差し出す覚悟ですわ!


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