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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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6話「通報しましたわ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ!

 ついにやりましたわ!

 通報!しましたわーッ!




 ……ただし、残念なことに通報したのは私じゃなくてキーブですわね。ええ。

 そりゃあ当然ですわ。私が通報しに行ったらその場で私がお縄頂戴でしてよ。


「ただいま」

「お帰りなさい!どうでしたの!?」

 アジトに帰ってきたキーブを捕まえて、早速どうなったのか聞きますわ!

 だって私を苦しめてくれやがりました憎きあん畜生であるフルーティエ家に打撃を与えられるこの通報!楽しみじゃない訳がなくってよ!

「さあさあさっさと通報してからの流れとフルーティエ家が受けた打撃を説明して頂戴な!」

 キーブをソファに座らせつつ、私はその向かいの席でワクワク満面の笑みの待機ですわ!

「予定通り、通報先はギルドにした。麻薬っぽいものの畑を見つけた、ってことで。小屋にはフルーティエの家名が入った書類とか置いてきたから、それを偽造だと疑ったとしてもどうせエルゼマリンの屋敷と王都の本家に調査が入ると思うよ」

 あら、そういうことになりましたのね。

 ……いえ、少し気にはなっていたのですわ。麻薬農園だけポンと置いてあっても、それがどこの家のものか証明する手段ってありませんものね……。

 でもこれなら大丈夫ですわ。本家に疑いの目が掛かるだけでも万歳ですし、エルゼマリンの屋敷の方を漁ればどうせ麻薬くらい出てきますものね。というか絶対出てきますわ。火事場泥棒の時に葉っぱを置いてきましたもの。絶対出てきますわ!


「となると、王都の様子が気になりますわねえ……」

 私、思わず蕩けるようなため息を吐いてしまいましてよ。

 私を苦しめてくれたあの野郎共が今頃、エルゼマリンのギルド伝いに王都のギルドにでもガサを入れられているかと思うと、もう愉快で愉快でたまりませんわね!

 ……あ、ちなみに何故わざわざ通報先をギルドにしたかというと、ギルドが王家と関係の無い機関だからですわ。王家の息のかかった組織に通報したってどうせ握りつぶされるだけですわ!全く腹立たしい限りですわね!

 でも、もうよくってよ!連中ももうおしまいですわ!

 だって……フルーティエ家は今、『破産』の危機に直面しているのですもの。




 私がフルーティエ家の分家が麻薬栽培していることを通報したのは、単にそれについてガサ入れをさせて嫌がらせする、というだけのものではありませんわ。

 これは、『フルーティエ本家も麻薬売買している』と踏んでのものですの。


 フルーティエを初めとして、名家と呼ばれるアホンダラ共はどの家でも日々財産を切り崩しては溶かしている有様ですわ。それはひとえに時代の流れですわね。貴族が悠々と胡坐かいて贅沢三昧できる時代はもう終わってましてよ。これからは貴族でも頭を使って金を稼ぎに動かないと、贅沢三昧なんてしていられませんの。

 ……ですので、フルーティエ家もまあ、一応、金稼ぎをしてはいますわ。

 貴族としてはよくある手段ですけれど、ワイナリーを持っていたはずですわね。そしてフォルテシア家所有のワイナリーに味でも値段でも負けてフルーティエワインが値崩れしてましてよ。おほほほほ。

 ただ、当然ですけれど、そんなガバガバワイナリー経営だけで生きていけるほどあいつら質素な生活していませんの。……となると当然、どこか別の場所に収入源がある、ということになりますわね?

 いえ、実は本当に只々ひたすら莫大な財産が元々あって、それを只々ひたすら溶かし続けている、という可能性もありますけど……いくらあのアホンダラ共でも、そこまでアホではないと信じたいですわね。


 さて。では、フルーティエ家は一体何を財源にしていたのか、という疑問に行きあたりますわね。

 ……その答えはもう、エルゼマリンの分家が出してくれていましてよ。

 そう。『麻薬売買』ですわ。


 麻薬……特に葉っぱなんて、原価はほとんど無いようなものですわね。ただし、末端価格はその100倍にも200倍にもなりえましてよ。

 仲介料なり手数料なり、『頭も労力も使わずにとれる金』で稼ぎたい阿漕なド腐れ貴族にとっては、利益の大半を自分達のポケットに入れられる麻薬売買は悪くない手ですわね。違法だというところについても、表に出ない分には王家がもみ消してくれるのでしょうし。

 ……ということで。私、フルーティエ家が一族郎党で麻薬売買していると踏んでいますわ!分家だけやっていると考えるよりは、本家もまとまってやっていると思った方が分かりやすくってよ!

 まあそこは、王都のギルドの職員や冒険者達が探りを入れてくれるはずですわ。そして私達としては、売人さん達という心強い味方ができましたもの。彼らに聞けば、その辺の話も聞かせてくれるのではないかしら。


 そして……もし。

 もし、フルーティエ家が麻薬売買をしていて、それがバレてしばらく売買を自粛しなくてはならなくなって。さらに麻薬の売買ルートも売り上げも全て私に奪われた、となったら。

 ……フルーティエ家の奴ら、破産待ったなし、ですのよ。




 あ、そうですわ。それから、フルーティエ家とは特段関係無いのですけれど、ちょっぴり気になりますので聞きますわ。

「あ、ところでキーブ。1つお聞きしたいのだけれど」

「何?」

「ギルドの受付って3つくらいありますわよね?その受付中に、滅茶苦茶腹立たしい喋り方をする女、いませんでした?具体的にはこう、人のギルド報酬をピンハネするような……」

 私を通報してくれやがったあのド腐れピンハネ嬢がどうなったかは少し気になりますのよね。


「ピンハネ……?いや、見なかったけど」

「あら、そうですの。なら仕方ありませんわね」

 まあ、ギルドの受付嬢のことなんて一々見ていないでしょうし仕方ありませんわね。

 ……と思ったら。

「そもそも受付に女、居なかったし」

 ……あらっ?

「受付嬢が全員男……?」

 一応、男も受付に居ましたのよ?女3人、男2人くらいでギルドの受付は回していたはずですわ。でもまあ、受付3つに対して男は2人ですから、受付が3人とも男って、ちょっと不思議ですわね?

「僕の担当になった奴、通報の処理の仕方とか知らなかったみたいだったから新人だったかも」

「新人……ですか。ということは、新しく1人受付を増やした、ということですわねえ……?」

 うーん、それってつまり……もしかしてピンハネ嬢、クビになりましたの……?


 ピンハネ嬢が、クビ疑惑。

 ……愉快ですわ!




 もしかしたらピンハネ嬢がクビになったかもしれないと思うとすこぶる上機嫌になれますわね!

 ということで、今日も元気に復讐復讐!頑張って参りますわよ!


「ということで今日はフルーティエ家の所有するワイナリーを襲いますわ」

「悪魔」

 もうそれ褒め言葉だと思う事にしましたわ。

「折角、空間鞄に生物を入れられるようになったんですもの。また有効利用しますわ。空間鞄に害獣か害虫をたっぷり詰め込んでブドウ畑にばら撒きますわよ!」




 昨夜は雨が降って、今朝は快晴。こういう日は……草原に、多いんですのよ。

 スライムが。

「またスライム?」

「ええ。スライムですわ」

 ……色々考えたのですけれど。

 ブドウの木に手っ取り早く被害を与えてくれる害獣害虫の類って何かしら、と考えてみたところ、やっぱり扱いやすさでいけばスライムが一番ですのよね。

 木をなぎ倒していくような害獣、というのもいいですけれど、ある程度の獣や魔物だと駆除がそこまで難しくないんですの。それに、思った通りに動いてくれない可能性が高いですわね。

 逆に、駆除が滅茶苦茶に面倒くさい害虫の類、というのも考えましたけれど、こちらは扱いにくくて困りますわ。私、虫の増やし方なんて知らなくってよ!

 ……ということでスライムですわ。スライムなら増やしやすいですし、扱いやすいですわ。

 それに何より……ポアリスでミドリスライムが大量発生した後ですもの。『なんだか今年は各所でスライムが大量発生しているなあ』とでも思わせておけば妙な関連付けがされなくて丁度良くってよ。


 今回使うのは、スライムの中でも、草原に住んでいる普通のアオスライムですわ。

 アオスライムは水と草だけで生きている、とても大人しい種類のスライムですの。人間が触れても威嚇に粘液を飛ばしてくるくらいですわね。つまり、ほぼほぼ全くの無害ですわ。

 あまりに弱っちいので駆け出し冒険者ですら見向きしませんわ。ただ、草原に隠れていることが多いので、うっかり踏んで滑って転ぶ、という事故の原因にはなりますわね。そういう意味で迷惑な魔物でしてよ。


 アオスライムは草食ですから、ブドウ畑に放したら、ブドウの木だけを食べてくれるはずですわね。それもきっと、柔らかくて食べやすい、若芽や花を優先して食べてくれると思いますの。

 今丁度、ブドウは開花の時期かしら。不要な花を落として、良い実をつけそうな花だけを残している時期ですわね。

 ……ということは、その残った花が食い荒らされた場合、その年のブドウの収穫はゼロ、ということになりますわね。

 これは狙い処でしてよ!


「こんなにスライムを集める奴は研究者ぐらいだろうな」

 ドランはスライムをひょい、とつまみ上げると、空間鞄の中に投げ込みましたわ。哀れスライムは宙を舞い、すぽん、と空間鞄の中に入っていきました。アオスライムは体が小さい個体が多いですから、つまんで投げるのが楽ですわねえ。

「生き物が入る空間鞄があれば、スライムほど大量に扱うに適した魔物は居なくってよ」

「普通に焼くんじゃダメなの?」

「焼き畑でもいいですけれど、そうすると明らかに人為的な事件、と見られてしまいますもの。スライムが大量発生しただけなら、誰かがスライムを集めて持って来たと考えるよりは、近くでスライムが大量発生して雪崩れ込んできた、と考える方が妥当ですわ」

 何せスライムは喋りませんもの。いくら問い詰めたところで、スライムの裏でスライムを操った者が居たかどうかなんて分かりっこないのですわ!

 スライムって最高の攻撃手段ですわね!




 ……ということで、鞄にある程度のスライムが入ったところで、他に適当に餌になる草と水を入れて、あとは増えるのを待ちつつ、フルーティエ家のワイナリーに突撃していくだけですわね。

 一番大きなワイナリーは王都郊外のものかしら。王都からポアリス側に少し行ったところですから、そこでスライムが大量発生しても不思議じゃあありませんわね。ああ楽しみですわ!


 帰り道、鞄に入れずに出しておいたスライムを手慰みにむにむに触っていじめてやりつつ歩いていたら、ふと、ドランが聞いてきましたわ。

「ワイナリーを潰されたら、いよいよフルーティエ家は傾くんじゃないのか」

「そうですわね。そうなると次はいよいよ破産、ですわ」

 そこは事前に話しておいた気がしますけれど。

 改めての確認に私が不思議に思っていると……ドランは、言いましたわ。

「……破産する前に、より危ないものに手を出す可能性は?」

 より危ないもの……と、いうと……?


「そろそろ金のために戦争が起きてもおかしくないと思うが」


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― 新着の感想 ―
[一言] この世界でもスライムは大活躍のようでよきこと
[一言] 戦争かぁ… 無辜の民が犠牲になりますが、このお嬢様にはあまり関係無いような…?(酷) ピンハネ受付嬢の不在… 王宮に呼び出し喰らってお休みなのか、マジでクビになったのか…
[一言] ああ、金のなくなった権力者は戦争始めますわね! 当然、村を焼くどころじゃすまない犠牲者が出ますわね…… そしてその犠牲者数をさらに増やそうとする大悪党どもがここにいますわ
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