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没落令嬢の悪党賛歌  作者: もちもち物質
第二章:幻覚死銃奏曲「死と乙女」
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2話「スライム風呂はお肌に良くってよ」

 ごきげんよう。ヴァイオリア・ニコ・フォルテシアよ。

 私は今、スライム風呂に入っていますの。

 スライムは人体を溶かす作用がありますのよ。エルゼマリンの傍の森に居るミドリスライムは特にその傾向が強めですわ。

 けれど毒が効かない私にとってはそれ、老廃物を綺麗にしてくれる効果でしかありませんの。スライム風呂に入るとお肌がすべすべになって美容効果抜群ですわ!




「はあ、サッパリしましたわ。温かいお湯にたっぷりと生きたままのスライムを入れて入るお風呂は最高ですわね」

「楽しかったなら何よりだけど、スライムはちゃんと鞄の中に入れておいてよね」

「分かってますわよ。もう戻しましたわ」

 はい。このスライム、キーブが持ってきてくれたものですの。

 彼、早速森へ行って、バスタブいっぱいくらいのミドリスライムを捕まえてきたのですわ。

「ちなみに餌は?」

「適当な野菜と生肉の塊入れておきましたわ。以前狩った奴が空間鞄に入りっぱなしでしたの」

「ふーん。これで増えたら儲けものだけど、どうだろうね」

 何のためにスライムを集めてきてもらったかというと、『一番簡単に大量に手に入りそうで、一番大量に街中に現れたら面倒くさそうで、一番兵士の手を割きそう』だったから、ですわ。


 スライムの類は大抵、ものすごーく増えやすいですわ。何故かというと、ものすごーく弱いからですわ。

 動きはトロいし攻撃は『くっついた相手を少しずつ溶かして吸収する』という捕食行為とセットですし、その捕食ですらトロいですし。……なので大抵の場合、他の魔物の餌になってますわ。そしてその分、草だのなんだの食べてるだけで簡単に増えますの。……まあ、多産多死の魔物なのですわね。

 スライムはぷるんとした粘液の塊に核が入っているような生き物ですわ。つまり、単純な構造なのですわね。核に栄養が行き渡れば、後は水さえあれば簡単に増えますわ。

 天敵さえ居ない環境で育ててやれば、びっくりするほどよく増えますの。食用スライムや薬用スライムなど、品種改良された上で養殖されているスライムも多いですわね。そしてスライム牧場がスライムの脱走を許して、そこらへんでスライム大量発生騒動が起こることも、まあ、度々ありますわ。


 ……で。

 今回はスライムの中では強い方であるミドリスライムを大量に捕まえて、増やして、それをどこかの町にぶちまけてやることで兵士の手を割かせる、というのが目的ですの。

 ついでに『空間鞄の中でも生き物が育つのか』という実験ですわね。




「増えてますわねえ」

「増えてるね」

 さて。私がスライム風呂に入ってから半日後。

 スライムを餌である生肉と葉っぱ、そして水と一緒に空間鞄の中に入れておいたのですけれど、どうやら目論見通り、鞄の中でスライムは繁殖してくれたようですわね。

 鞄に入れた時はバスタブ一杯だったスライムが、シャワールームの床にまで広がってむにむに動いていますわ。可愛らしいですわね。

「この調子なら、数日間空間鞄をほっとくだけで、中でスライムが大量発生し続けますわねえ」

「……うっかり鞄の容量限界超えたらどうなんの?これ」

「スライムが鞄から溢れてきますわねえ、きっと」

 ……一応。今のところ、スライムが鞄の外に脱走してきたことはありませんわ。空間鞄の内部がどうなっているのかはよく分かりませんけれども。

 けれど、流石に鞄の容量限界を超えたら、中で増え続けるものが溢れてくるでしょうね。

「そこらへんに気を付けて運搬しないといけませんわね。残り容量の表示を見ながら餌を調整するしかありませんわ」

「或いは、現地で増やして即使う、とか?その方が調整はしやすいかもね」

「一回増えると調整が難しいんですのよね……」

 まあそのあたりはおいおいやっていけばよくってよ。

 とりあえず今回の目的は『適当な町に大量のスライムをぶちまける』というだけですもの。綿密な管理も何も必要なくってよ。精々、鞄から溢れさせない、程度のものですわ。




 さて。

 そうしてスライムが鞄の中で適当に増えた頃、キーブとジョヴァンが2人で町の外へ出ていきましたわ。

「目的地ってどこだったっけ?」

「あ、あなたはラリってて聞いてませんでしたのね。東のポアリスですわ」

 ポアリスは人口もそこそこの町ですわね。王都からの距離は、王都からエルゼマリンまでの距離と大体同じくらいですわ。ただし、エルゼマリンとはほぼ逆方向になりますけど。

「そこで大量のスライムが町中這いまわる、って?うっわ、俺、想像しただけで気持ち悪くなってきた」

「案外スライムって触り心地がいいものですけれど。スライム風呂はお肌すべすべになりましてよ?」

「……確か、生きたままのスライムの風呂に人間を入れる拷問が存在していたな。最終的には骨だけになる奴だ」

「それもある意味ではお肌すべすべですわね……」

 と、まあ、私達は無駄口を叩きつつ留守番ですわ。

 ここ3人は実働部隊でしたから、あまり地上には出たくありませんの。

 ……スライム大放出作戦が上手くいけば、もしかしたら、エルゼマリンへの注意が薄れるかもしれませんから、そうしたらもう少し動きやすくなるのですけれど……。




 キーブとジョヴァンが帰ってくるまで暇なので、私、改造空間鞄でまた実験することにしましたわ。

 今度は植木鉢に種を蒔いて、それを空間鞄の中に入れておくことにしましてよ。

 ……ちなみに植物って、今までもほとんどの種類は鞄の中に入れることはできましたの。弾かれるのは動物だけ、という意見が主流でしたわね。

 けれど、空間鞄の中に入れた植物は枯れることも育つこともありませんでしたのよ。……ということで、改造された『生物用空間鞄』に鉢植えを入れてみる、という実験ですわ。

 ちなみに蒔いたものはカイワレですの。発芽が早いものだから、実験結果もすぐに出るはずですわ!


 ……ということでキーブとジョヴァンの帰りを待ちつつ、カイワレの発芽を待ちつつ、本当にやること無くなってワインを適当なつまみと共に呑み続けるだけの退廃的な集団が生まれましたわ。私は酔いませんし、ドランもザルですからほとんど酔わないのですけれど、チェスタだけさっさと潰れましたわ。こいついっつも酒か薬かでラリってますわね!

「ところで、ヴァイオリア」

「なんですの?」

「今後の予定だが、何か案はあるか」

 今後の、というと……そうですわねえ。

「ユニコーンの生け捕りは必須ですわね。今後も私の血を使うなら、耐毒薬は何かと使うことがある気がしますの。ですからユニコーンを鞄に入れますわ」

「そうか」

 ユニコーンを鞄に入れる。何とも不思議な感じですけれど、実際それができそうですものね。やりますわよ。


「それから、空間鞄を大量に仕入れておきたいですわ。キーブが来てくれたおかげで空間鞄の活躍の幅が広がりそうですもの。空間鞄の買い占めは必須ですわね」

「分かった。いいだろう。ジョヴァンに言っておく。……言わなくてももう進めていそうな気もするが」

 何かと彼、有能ですのよね。先読みができる、というか。伊達に頭脳派を名乗ってない、ということかしら。


「他にも、もう少し余裕が出てきたらフォルテシアの家で開発していた武器の開発も再開したいですし……ああ、フルーティエ家の脱税の証拠も見つけたいところですわね。分家が死んでも納税義務は本家の方にいくでしょうから見ものですわ」

 フルーティエ家は財政がヤバいことこの上ないお家ですわ。脱税の証拠が上がれば納税を要求されるでしょうし、信用も失いますわ。名家と呼ばれた家がアホみたいな理由で潰れていく様子を見てみたくってよ。

「そうね。脱税の証拠を挙げられなかったとしても、フルーティエを潰すのは案外簡単そうですわね。分家が麻薬栽培で稼いでいたということは、そこが全員死んだことで本家にも打撃が行っているでしょうし……」

「分家が麻薬栽培していたことを通報してみたらどうだ」

 あ。そういえばそれもありましたわね。

 キーブの話だと、フルーティエの分家が麻薬農園を密かに作っていたとか。ま、その麻薬も私達のミスティックルビーのせいで売り上げ激減、財政は悪化していたのでしょうけれどね。

 ……でも、儲かろうが儲からなかろうが、麻薬栽培は麻薬栽培ですわ。当然、違法です。通報してやったら中々面白いことになりそうですわねえ……。


「ただ、麻薬農園を通報してしまうのは少し勿体ない気もしますのよね」

 けれど私の第六感が告げていますわ。『ただ通報したら勿体ない』と。

 だって麻薬ですわよ?貴族がやってた麻薬農園ですわよ?当然、収穫できる葉っぱの量は素晴らしいものだったのでしょうし、流通ルートも確立されているのでしょうし、農園の労働者だって居るはずですの。

 それをみすみす、国のムショに全部くれてやる、というのは……勿体ないですわね。




「通報はしたいですわ。分家が麻薬栽培だなんて、フルーティエ家の大スキャンダルですもの。でも、麻薬と麻薬販売ルートと麻薬栽培の労働者は欲しいですわ……!」

「強欲だな」

 ドランは機嫌が良さそうに笑って肩を震わせましたわ。まあ、悪党なんて強欲でなんぼでしてよ。

「上手く麻薬栽培の証拠だけ残しつつ、必要なものは全部頂く、ということはできないかしら……?でも麻薬農園って土地ですから、動かせないのよね……」

 葉っぱは地面から生えているはずですわ。証拠となる麻薬畑を頂いてしまったら、通報できませんし……。

 土地をすっぽりと運べればいいのですけれど……麻薬を鉢植えにして移動させましょうかしら。幸いにも空間鞄に入れれば多少は運べるでしょうし……。

 ……。




「……カイワレの実験次第ですけれど、もし鞄の中でも植物が育つというのなら、葉っぱだって育つはずですわね」

 私、閃きましてよ。

「なら、鞄の中で麻薬農園ができますわね?密栽培に最適ですわ!」

「……畑を空間鞄の中に入れてしまう、ということか」

 そうですわ!土地を動かす方法、ありましたわ!畑の土ごと、麻薬畑をそのまま空間鞄に入れてしまえばいいんですわ!

 一部だけ残しておけば、それで十分、フルーティエ家を通報する証拠にできますもの。残りは全部頂けますわね。

 ……それから。

「麻薬栽培の労働者も捕まえて、葉っぱ畑と一緒に鞄の中に放り込みますわ」

 人間も鞄にしまえたら、栽培員も確保できますわね?


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― 新着の感想 ―
毒が効かないこととスライムに溶かされないかどうかは別な気がする(酸って物理ダメージあるでしょうし) あと、逆にスライムは主人公の老廃物を吸収しても平気なの? 血液が毒なら皮膚も老廃物も毒では・・・老廃…
[一言] 更新お疲れ様です&ありがとうございます! 最高に倫理観がぶっとんでて面白いですね!!ついにリアル人間畑が生まれそうでワクワクしています!
[一言] これまたぶっ飛んだ発想w でもカバンの中って光(太陽光)どうするんですかね?
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